月刊カノープス通信
2006年6月号

 目次 

・今月の勘違い
・近況報告『鋸山ハイキング』
・読書録
(『まだ見ぬ冬の悲しみも』『キーリ8』『闇の守り手3』)




 今月の勘違い

 またまた我が家のとんちんかん会話集です。
☆夫「けっこうみんな、ブログを見てるらしくてね」
 私「えっ? ドロボー見てる?」

☆交通情報「○○道路は強風で4kmの渋滞です」
 夫「えっ、調布で4km? ○○道路は調布なんて通るっけ?」

☆夫「さっき、猫に餌やってたら、猫の頭に『マグロとアジ』(=レトルトタイプのキャットフードの種類)が垂れちゃってさあ」
 私「えっ、マグマたわし?」


☆夫「『のりたま』だと、ご飯をいっぱい食べちゃうよね」
 私「えっ、俺様?」

☆私「そういえば健太郎(=息子1号)がね……」
 夫「えっ、フォーエバー健太郎?」

☆息子「俺、このあいだの社会のテストで、『太閤検地をやった人は?』って問題に『マルコ・ポーロ』って答えちゃったよ……」
 私「えっ、『だいこん店長』って何?」





 近況報告

 先日、鋸山というところにハイキングに行きました。
 ゴールデンウィークの伊豆旅行で石切り場跡の魅力に目覚めて、そういえば、石切り場跡なら別に遠くまで行かなくてもすぐ近場に鋸山という名所があるじゃないか、この春に新しいハイキングコースも整備されたらしい、なにやら洞窟もあるらしい……ということで、このあいだから、機会があったら行こうと計画してたんです。

 鋸山は、山全体が石切り場史跡みたいになっている名所で、石を切り取られて山全体が鋸みたいな形になっているので『鋸山』。まるで人工の要塞のような異形の山容です。

←下から見上げるとこんな感じ。

 この奇景と、『地獄覗き』と呼ばれる断崖絶壁からの眺望、山頂のお寺の巨大な摩崖仏と五百羅漢像で有名な景勝地で、古びた(笑)ロープウェイもあります。
 そのロープーウェイに乗ってお寺や『地獄覗き』に行ったことは以前にも何度かあるのですが(潰れて放置されたレストラン跡の廃墟が良かった!(笑))、今回は、山頂ではなく、その下にある石切り場跡が目的地なので、ロープウェイには乗らず、歩いて登ります。

 天気が悪く、午後からは雨の予報だったので、早めに出かけて昼には山を下りられるよう、2〜3時間で回れる短い『車力道』コースにしました。
 『車力道』というのは、昔、切り出した石を荷車に積んで降ろした道だそうです。『車力』と呼ばれる女性たちが、その道を、行きはカラの荷車を担いで、帰りは荷車に石を積んで、一日三往復したんだそうです。

 駅から民家や商店の間の道を通って、ハイキングコースに入るとすぐ、右側の崖沿いに小さな洞窟が二つありました。
 洞窟といっても中に入れるようなところではなくて、道から奥を覗き込む感じです。
 両方、水が溜まっていて、二つ目のほうはひかり藻の繁殖地だそうで、季節外れだから光っていなかったけど、看板が出ていました。カニがいっぱいいて、ちょっと不気味でした。

 車力道は磨り減って苔むした石畳の細道で、途中に、荷車がブレーキをかけた跡があったりします。
 ずっと木が覆いかぶさっていて、蚊や羽虫がすごく多いので、うっかり口を開けていると羽虫が入りそうなくらいです。これは、夏でも長袖長ズボン必須ですね。さらに、出来れば、虫さされの薬か塩(かゆみ止めに使う。薬より効く)を持っていったほうがよさそう(しまった、忘れてきた!(笑))

 山頂のちょっと下になる石切り場跡まで、二キロ弱。3〜40分。
 鋸山はさほど高い山ではありませんが、海辺からいきなりそそり立っているので、ほぼ、海抜=高低差に近く、勾配はかなり急です。こんな険阻な道を荷車背負って一日三往復していたなんて、すごい重労働ですね。昔の女性はすごいなあ。

 けっこう息を切らしながら、石切り場跡の立て札までたどり着きました。ベンチが置いてあります。正面には、垂直に切り立った、見上げるような岩壁。ビルの側面を見上げているようです。

←こんな感じ。

 で、岩壁に、小鳥の声が、すごく反響します。この音響効果は、まるで小鳥のコンサート・ホール!
 ウグイスの歌も、心なしか、なにやら得意げに、気分良さそうに聞こえる気がします。『どうだ、俺、歌上手いだろ! 俺って天才じゃん!?』みたいな……(笑)。

 左手に登って行くと展望台があるらしいですが、どうせ天気が悪いし、雨が降る前に山を降りたいので、今回はパス。展望台に行く道の途中の石切り場跡の洞窟入口だけ見にいきました。
 おお、すごい。いい雰囲気!

←こんな感じ。超カッコイイ!

 でも、ここは残念ながら立ち入り禁止です。落石の危険があるらしいです。
 しかも、落石の危険は洞穴だけでなく、ハイキングコース自体にも及んでいるようで、『落石注意。ここで立ち止まらないでください』という看板が……。
 ……立ち止まるなといったって、立ち止まっていると石が落ちてくる危険があるなら、歩いていたって、落石に遭う時は遭うのでは? 5分間立ち止まっていた時に落石に遭う危険を『a』とすれば、1分間で通り過ぎた場合でも『0.2a』の危険性があるのでは? おお、怖。そんなデンジャラスな場所がハイキングコースになっていていいのでしょうか……(笑)。
 もちろん、立ち止まってたむろったり大声で騒いだりせず、さっさと通り過ぎました。

 その後、右側の道を下って、石壁の根元に降りました。壁の下は溜池(丸池)になっていて、赤や黄色の金魚(鯉?)がいました。誰か放したのかな。結構大きな魚がいるってことは、晴天が続いても水が干上がることはないってことだろうから、雨水が溜まってるだけじゃなくて地下水も涌いてるんでしょうか?

 それから、順路に従って切り通しを抜けると、また別の小さな溜池(三角池)があって、その先が、また、石切り場跡の洞窟になってしました。
 絶壁の上のほうに、石工が安全を祈願して彫ったという小さな観音様があり、その岩壁の下方に洞窟があります。洞窟といっても、天然の洞穴ではなく、垂直な岩壁の根元のほうが長方形にくり抜かれた、その、底のほうが、道路より低く、半地下スペースみたいな感じになっているのです。
 その、長方形の底辺は、ハイキング道から数メートル下。そこまでは、切り出した石材の破片がごろごろ積みあがった急勾配の斜面になっています。
 みんなで、斜面を降りて行って見ました。足元の石材はただ積み重なっているだけで、あちこちでグラグラして怖いので、慎重に、慎重に……。

←こういうところ。先に降りた夫が、私たちが降りてくるところを下から撮影

←もっと降りてきたとこ。前は息子たち。息子の左肩の後ろに小さく見えている人影が私。夫曰く、『宇宙人に攫われて頭に何かを埋め込まれてUFOから返される人たちの図、または、天国から降りてくる魂たちの列』(←息子のTシャツに『SOUL』って書いてあるから?)。BGMは、『ツァラツストラはかく語りき』(@『未知との遭遇』)か?

 穴の奥は、少し曲がった先で行き止まりになっているだけでした。(死体とか見つけなくて良かった! いえ、数年前にこの山でハイカーが白骨死体を発見しているので……(@_@;))
 見上げる地上が眩しい。
 そして、すごく涼しいです。ほんの数メートルしか離れていない地上の道と、ぜんぜん温度が違います。夫は眼鏡をかけているのですが、帰りに、崖をよじ登って上まで戻って来たら、温度差で眼鏡が完全に曇っていました!

←斜面を登る息子と私。

 それから、さらに順路を進むと、名所『地獄覗き』が下から眺められる眺望スポットに出ました。
 『地獄覗き』の崖の先端に向かってへっぴり腰でこわごわ進んでいく人々が小さく見えます。眺めていると、向こうからもこちらが見えたようで、息子たちが手を振ってみたら振り返してくれました! ついつい私も思いっきり手を振ってしまいました(^^ゞ

←下から見た『地獄覗き』。左側に突き出した岩の先端が展望台。高所恐怖症でなくても腰が引けること請け合い!

 さらに進むと、たぶんさっき下から見上げた岩壁の上と思われる場所に出ました。そこは広場になっていて、広場の奥には石の舞台のような段があり、その背後はまた垂直に切り立った岩壁になっています。まるでコンサート会場のよう! なるほど、ここが『石舞台』ですね。
 しかも、広場には、その石舞台に向き合う形で、長い板を横に渡して作ったベンチが数列置かれています。本当にステージだ……。
 そういえば、昔、石切り場跡でコンサートが開かれたことがあるはずです。ここが会場だったのかな?
 だとしたら、お客も出演者も、ここまで登ってくるのがさぞ大変だったことでしょう。下から登ってきたのではなくロープウェイで山頂まで来たとしても、そこからここまで降りてくるのが大変だったはず。しかも重い機材を持ってたらなおさら。
 でも、音響効果と気分は良かったでしょうねえ。

 広場の付近には、石を運び降ろすリフトの残骸と思われるものや石を切断する機械らしきものなど、錆びた機械や設備が放置されていて、廃墟スキーにとっては、なかなかいい雰囲気。山まるごと、石切博物館という感じ。ここでは昭和57年まで採石が行われていたそうなので、最後の頃にはああいう近代的な機械も使われていたのですね。
 岩壁には、採石会社の人が刻んだらしい会社名と『安王第一』という文字が見えます(なぜか『安全』が『安王』になってるのです)。下にあった観音様を刻んだのは江戸時代の職人さんで、会社名や標語を刻んだのは昭和の職人さんなのでしょうか。

 広場の奥には、最近整備されたらしく真新しい木の階段のついた展望台があって、そこからの景色は絶景です。曇り空だったけど、東京湾と、対岸の三浦半島が一望。対岸の煙突まで、はっきり見えました。天気がよければ、きっと、富士山がきれいでしょう。

 広場から降りてくる途中に、傾きかけたトタンの小屋というか物置のようなものがあります。一見、ただの壊れた汚い物置が放置されているようですが、石切職人が急な悪天候の際に避難した小屋だそうです。トタン壁ということは、比較的最近の建物なのでしょう。
 扉は開けっ放し(というか、無かった?)で、立ち入り禁止のロープなども張ってないので、もちろん、中に入ってみました。中には、猫車や古びたラーメンどんぶりや湯飲み、いろいろな錆びた機材と一緒に、ごく最近のものと思われる標識の破片や掃除用具なども置いてありました。今でも物置代わりに使われてるのね(笑)。
 こんなもの、下界にあったら単なる汚い廃屋で、不審火・不審者・非行を誘発する恐れがあるから撤去しろと、地主にクレームが来かねないと思うのですが、こうして看板を立ててしまえば立派に『史跡』なんですね(笑)。

 帰りは、『あじさい広場』〜『観月台』経由で下山。観月台から下の、最後のしばらくは、ものすごく急な階段が延々と続きます。しかも、階段の幅が狭いので歩き難い!
 この階段は、登りだったらかなりきつかったと思います。こっちを下りコースにしてよかった。逆コースだったら、きっと、しょっぱなからうんざりしてましたよ。しかも、行きに登った車力道は、磨り減ってコケむした石畳なので、下りだったら、すべって怖かったでしょうし。車力道〜石切り場〜観月台のコースを辿るなら、この順番が正解だったようです。逆コースはたぶん大変です。

 ところで、『観月台』で『京急グラウンド』という石碑を見かけました。昭和二十何年だかに、そういう観光施設が出来た記念碑らしいんですが、今はそんな施設は影も形もなく、いつ頃まであったのか、どんな施設だったのか、ぜんぜん聞いたこともありません。『グラウンド』といっても、まさか運動場ではないでしょう。
 山を降りてきたところ(階段の登り口)にも、ちょっといい感じにレトロな、立派な看板がありました。
 帰ってきてから、あれはなんだったんだろうかとネットで検索してみましたが、何も情報がありませんでした。出てきたのは、同じく鋸山にハイキングに行った人のページの、『そういう碑を見たが、ネットで調べても何も分からなかった』という記載だけ(笑)。きっと、地元のお年寄りに聞けばみんな知ってるんでしょうし、鋸南町の町史でも見れば載ってるんでしょうけど、ネットにならどんなことについても情報があるというわけじゃないんですね。
 なんにしても、どんな施設だったとしても、あの石段の上にあったんじゃ、そりゃあ、潰れるでしょう……(笑)。



 読書録


『まだ見ぬ冬の悲しみも』 山本弘 早川書房

 SF短編集。SFらしい奇想を盛りだくさんに楽しみました。ビバ、センス・オブ・ワンダー\(^o^)/
 一作目の『奥歯のスイッチを入れろ』は、なんと、あの、某サイボーグ戦士で有名な『加速装置』について非常にもっともらしく事細かな科学的説明を加えてみせるお話で、面白かったんですが(以下、ネタバレ?に付き反転)敵方のサイボーグ戦士が加速状態をいいことに嬉々として女性の服を脱がし始めた時には、その、まるで小中学生バカ男子が考える『もしもボクが透明人間になったら一度はやってみたいイタズラ☆』みたいなシチュエーションとあくまで大真面目にリリカルな文章のギャップに「こ、これは、ギャグ……? このお話、ここまではシリアスにやってきてて、泣ける系の話かとばかり思ってたら、実はギャグだったのか? それとも、これ、真面目に書いてるのか?」……と、どう受け止めていいものか分からなくてちょっと当惑してしまいました(^_^;)


『キーリ 8 死者たちは荒野に永眠る(上)』 壁井ユカ子 電撃文庫

 最終巻まであと一巻! いろいろと盛り上がってます。蒸気を動力源にしてる首都の雰囲気がいい。あと、兵長さん、好きだ〜!
 しかし、この話、全体の雰囲気が淡々として、もの哀しかったりほのぼのしてたり心優しかったりするエピソードが多いわりに、グロいシーンはほんとにグロいです。わりと淡々と書いてるんだけど、描写が的確で、妙にリアルなんですよね。食事(特に肉料理)中に読むには適さない本です(^_^;) しんみり、しみじみしたり、ほのぼの、ほんわか和んでる時に、突然血塗れの肉片が降ってきたりするから、グロがダメな人は、可愛いイラストやほのぼのムードに騙されないよう、注意して読みましょう(笑)。


『闇の守り手 3』 リン・フルエリン 中央公論新社(C☆Novels)

 今回は、王家の派閥争いに絡んだ密偵たちの冒険物という感じで、手に汗握るスリリングな展開で面白くはありましたが、ファンタジー色が薄かったので、個人的にはちょっと残念でした。冒険の要所要所で魔法が重要な役割を果たしてはいるんですが、ただ『そういう便利なワザが使える』というだけだったので。
 ところで、サージルってば、必要に迫られて人の身体を借りておいて、後で下着や生理現象のことで本人を冷やかしたり、そういう極プライベートなことを他人に口外するのは、嫌々ながら貸してくれた命の恩人に対してすごく失礼だと思うよ……。



☆その他メモ:『空ノ鐘の響く惑星で10』読了。面白かった。『アブホーセン』読了、感想は来月。次は『キーリ9』、『魔法物語(上)』予定。


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