月刊カノープス通信
2006年4月号

 目次 

・今月の勘違い
・映画『ライオンと魔女』を見にいきました
・読書録
(『闇の守り手 2』『夜明けを告げる森の調べ 下』『風の王国 月神の爪』)




 今月の勘違い

 またまた我が家のとんちんかん会話集です。
☆映画『ライオンと魔女』を見た後の会話です。声優の池田秀一さんが出ているのは事前に知っていたけど何の役か知らなかったら、映画を見て、狐の役だと分かって……。
 夫「池田秀一さんはキツネだったね」
 私「えっ、失礼だった?」

☆息子(欲しいDVDが高いと嘆いている夫に)「インターネットでなら安く買えるんじゃない?」
 夫「えっ、インドネシアで?」

☆息子(ゲームをしながら)「やったー、魔方陣レベルが上がった!」
 夫「えっ、盲人レベル?」
 私「えっ、ご婦人レベル?」
 夫「何? 老人レベル?」

☆息子「今頃なんだよ
 夫「えっ、くまごろうさんだよ?」

☆私「探してたメモ、新聞の折った間に挟まってたよ」
 夫「えっ、新聞の『お』と『あ』の間ってどこ?」

☆息子(おすし屋さんの看板を見て)「へえ、あのお店、パパイヤ鈴木が来たんだって!」
 夫「えっ、タイやヒラメが来た?」

☆私「道明寺って、お米のつぶつぶのやつだよ
 息子「えっ、まどろみ・おミチ?」 (もはや、どの部分がそう聴こえたのかも不明(^_^;)。時代劇の女忍者とかのキャラっぽい?)



 映画『ライオンと魔女』を見にいきました 

 『ナルニア国物語第一章 ライオンと魔女』を見てきました。
 この通信でも触れたことがあると思いますが、ナルニアは私にとって、とても特別な、思い入れのある物語。小学校高学年で読んで以来、ファン歴三十年なのです。今までの一生で一番ハマったお話かもしれません。
 そんなわけで、『指輪物語』の時同様、映画化に多少の屈託を感じないことも無かったのですが、まあ、これも『指輪物語』の時同様、私はわりと、原作は原作、映画は映画と割り切れるので、純粋に映画として楽しむことが出来ました。

 多少はいろいろと言いたいこともあるけど、最終的な感想としては、大人も子供も一緒に理屈ぬきでわくわくと楽しめ、見終わって「ああ、面白かった!」と素直に満足できる映画だったと思います。
 映像は色調も上品で色鮮やかで美しかったし、ルーシー役の子は程よくブサイクで可愛かったし、ラストの余韻も良かった。
 特撮もすごくて、今だから実写で映画化できるんだな〜と、納得です。
 雪の『街灯あと野』のシーンなんて、あのイメージをよくぞ映像に再現してくれたと、ちょっとじ〜んとしました。ジュラシック・パークの最初の映画で恐竜を再現してくれた時と同じくらい?

 ただ、『アダムの骨〜』の予言詩は、三十年間親しんだ瀬田貞二訳を使って欲しかったです(T-T)。
 私、あの詩(?)は暗記してるので、予想した言葉と耳で聞いた言葉が違っていて、ちょっと寂しかったです。版権の問題とか、何かあるんでしょうか?

 あと、いろいろ思ったことを、とりとめもなくつらつらと書いて見ます。
 もう映画も公開からずいぶんたってるからネタバレを書いてもいいですよね。
 ネタバレも何も、そもそも原作は何十年も前から有名なものなんだし。
 それでもネタバレが嫌な人は、以下、読まないでくださいね。




 いきなり冒頭が空襲のシーンだったので、(あれ? 本編始まったと思ったけど、まだ別の映画の予告編だったの?)と思ってしまいましたよ。
 でも、あのシーンのおかげで、初めて、エドマンドがお菓子に釣られる背景に思い至りました。映画のエドマンドは、物語の中のイメージより年上に見えて(撮影中に十数センチも背が伸びちゃったそうです)、こんな大きくなってる子が小さい子みたいにお菓子なんかに釣られるなんて……と不自然に思うところですが、『戦争中の疎開先』という背景を考えれば、そういえば子供たちはお菓子に飢えてたんだろうなと、三十年目にして初めて思い至ったです。ロンドンにいた時はきっと食料が乏しかったんだろうし、疎開先でも、子供に慣れない謹厳な大人所帯では、もし飢えることは無くても、甘いお菓子なんかは出てこなかったのかも、と。
 そういえばルーシーもタムナスさんに誘われて「いわしの缶詰があるなら……v」と、ついて行ってたし。そうかぁ、お腹すいてたのね……。そうだったら、さぞかし、タムナスさんのお茶会やビーバーさんのお食事が魅惑的に思えて、そんな食べ物があるナルニアがひときわ素敵な夢の世界に思えたことでしょう。
 タムナスさんやビーバーさんのおうちや食卓のディテールはたいへん楽しかったです。

 お菓子といえば、ターキッシュ・デライトなるあのお菓子、瀬田貞二版では『プリン』だったわけですが、本当はああいうお菓子だったんですね。瀬田貞二版も、後書きに『プリンは本当は違うお菓子なんだけど、日本の子供になじみが無いからプリンということにした』というようなことが書いてあったので、本当はプリンじゃないということは、知っていたんです。でも、具体的にどういうお菓子なのかは知らなかったんですが、なるほど〜、ああいうお菓子だったのか。
 しばらく前にテレビの紀行番組でナルニアゆかりのあれこれを取り上げていた時、あのお菓子が出てましたが、なんでも、水あめを固めたような味だそうで。見たところ、硬いタイプのゼリー菓子みたいな感じですね。まわりにオブラートや白い粉がついてるやつ。
 瀬田貞二訳の信奉者である私も、あのお菓子に関しては、もともと、なんで『プリン』なんだろうと、ずっと疑問に思ってたんですよ。だって、プリンなんて、普通、外出先で手づかみで食べたりしないじゃないですか。ちゃんと、椅子とテーブルのあるところで、お皿に載せてスプーンで食べるものでしょう。いや、カップ入りのプリンもありますが、いずれにしても、ちゃんとテーブルのあるところでスプーンで食べるものというイメージだったので、橇の上でつまむお菓子としては、ちょっと不自然じゃないかと思ってたんです。橇の上で手づかみで二口、三口でつまめるようなお菓子ということなら、チョコレートとかビスケットとかマシュマロとかで良かったのでは?
 というわけで、今回の映画化のおかげで、あの『プリン』の実像という、昔からの謎が一つ解けました。

 注目キャラは、タムナスさん。というか、タムナスさんの『裸にマフラー』というファッション(笑)。
 最初に映画のタムナスさんの画像を見たとき、リアルでまだ寒い時期だったこともあって、(わあ、寒そう……)と思ったんですよ。だって、雪の中で上半身裸ですよ!
 タムナスさん、原作の挿絵でも裸にマフラーなんだけど、今までは別になんとも思ってなかったんですけど。何しろ人間じゃなくてフォーンと言う半獣の生き物なんだから、動物が服を着なくても寒くないように、フォーンも寒くないんだろうと。いちいちそんなことを考えたわけじゃないけど、なんとなく、そう思ってたんだと思います。
 でも、実写映像で見ると、寒そう! 思わず、鳥肌たってないかどうか確認したくなっちゃいますよ!
 しかも、ただ裸なだけならまだしも、マフラーしてるから、余計寒そうなんですよ。ホントにぜんぜん寒くないわけじゃなくて、一応は寒いからマフラーしてるわけでしょ? あのマフラーがあることで、かえってよけいに、『本当は寒いのに我慢して裸でいる』という雰囲気が醸し出されてしまうんですけど……。
 寒がりな私は、もう、気になって気になって、マ○ドナルドのハ○ピーセットを買った時も、タムナスさんフィギュアを選ぶ気になれませんでしたよ(笑)。(しかも、その時、隣でセットを買ってた女子高生たちも、見本のタムナスさんを指差しながら、『この子、寒そうだから嫌!』と言って、他のキャラを選んでましたよ(笑))

 しかも、タムナスさん、その後、戦場でも裸にマフラー! そりゃ、あの状況だから、着替える暇、なかったんでしょうけど。
 そして、笑ってしまったのは、戴冠式でも相変わらず『裸にマフラー』……ただし『立派なマフラー』だったこと! 何か、カーテンみたいな、高級そうな生地の、マフラーというか肩布というか。でも、裸(笑)。ウケた〜(^O^) 何が何でも裸なのね。例え戴冠式でも服は着ないのね。裸がフォーン族の正装なのね(笑)。

 そして、一番期待だった、同時に心配だった、アスラン。
 なんというか、まあ……ライオンでした(笑)。確かにライオンでした。
 確かにカッコいい、魅力的な、ぜひ撫ぜさせて欲しいような、優美で力強い素敵なライオンさんでしたけど、文章で読むときのようなトキメキはなかったかな。
 やっぱり、私の中つ国やナルニア国が私の心の中にしかないように、私のアスランも私の心の中にしかいないんだと、改めて確認しました。
 でも、イメージが崩れて嫌だというほどヘンでもなかったし、まあ、良かったです。いや、もっとヘンなことになるんじゃないかと、ちょっと心配だったので。

 そんなわけで、映像的には特に幻滅というほどのこともなかったんだけど、キャラとしては、ちょっと弱かったような。
 アスランがいかに偉大な、すごい存在かということ、みんなにとっていかに特別な存在かということ、誰もがアスランさえいてくれればなんとかなると思えるようなカリスマ性を持っていることが、いまひとつ伝わってこなくて、映画全体の中での存在感が不足して影が薄かった気がするのです。
 映画全体が、前半がゆったりしているわりに後半はわりと詰め込みだったのか、アスランの登場シーンが少なく、子供たちとアスランの交流もあまり描かれなかったために子供たちのアスランへの信頼や思い入れの強さに説得力が足りず、アスランの死に際してのルーシーたちの絶望の深さもいまひとつぴんとこなかったような。
 もとから原作が好きで、特にアスランへの思い入れが強い私でもそう思ったんだから、原作を全く知らない人が何の予備知識も無く見たら、『突然出てきて突然殺されたり生き返ったりして、またふらっといなくなってしまうあのライオンは何?』みたいな状態じゃないかと。
 いや、もしかして、逆に、私はアスランへの思い入れが強すぎるために、映画でのアスランの扱いに、もの足りなさを感じてしまったのかもしれませんが……。

 あと、吹き替え版を見にいったので、アスランの声、吹き替えじゃないオリジナルのほうも聴いてみたかった……。そのうち字幕版もレンタルDVDで見ようと思います。
 吹き替え版の声も良かったですが、私の心の中のアスラン(笑)の声には及ばなかったです。これはもう、仕方ないです、誰がやっても同じでしょう。私の心の中のアスランがドリームすぎるので。
 声としては、どっちかというとモーグリムの声のほうがカッコよかったかも? (といっても、アスランがあの声だったら合わなかったでしょうが。)

 モーグリムといえば、モーグリムとその配下の狼たち、小説の中では怖い存在ですが、映像でみてしまうと、どう見ても、可愛くてカッコいいワンちゃんたちで(笑)。
 モーグリムの張り紙の肉球のサインなんか、可愛さに胸がキュンとしちゃいましたよ(笑)。
 子供たちを追跡するシーンなんか、どう見ても、健気にお仕事頑張ってる可愛くてお利口さんな警察犬にしか見えなくて、悪役のはずなのにぜんぜん憎めない。
 だから、ピーターが狼を殺すシーンは、辛かったです。
 狼殺しに限らず、本で読んだ時は別に気にならなかったのですが、映像で見ると、子供が斬り合いをするシーンは抵抗がありました。わりと、あまり直接的でないようにうまく処理されていたと思いますが、それはそれで奇麗事っぽくて。やっぱりその辺は映像と文章の違いかも。文章なら、書きようによってどんな印象にも書けるけど、映像で人(や動物)を斬るところを見せたら、それはどうしたってそのように見えてしまうんですよね。

 以上、本当にとりとめのない感想でした。



 読書録


『闇の守り手 2』 リン・フルエリン 中央公論社

 面白かった! 中央公論社さん、グッジョブ!
 いや、もちろん、一番グッジョブなのは作者さんなんだけど、こういう上質の正統派ファンタジーを、質の良い翻訳で、とっつきやすい装丁(少女漫画イラストという選択には賛否あると思いますが……)で、比較的手を出しやすい価格の新書という形態で出してくれる中央公論社C☆Novelsの路線が嬉しいです(*^^*)
 特に、なんといっても、翻訳が良い!  と、思っていたら、後書きによると、訳した方、井辻朱美さんのお弟子さん(?)だったのですね。どうりで……。

 魔法使いたちの館の不思議な庭園や博物館にわくわく。異国の街にうきうき。闇と魔法の気配にドキドキ。不思議な存在感のあるケンタウルスも素敵。
 前巻は男ばかり(女装シーンはあったけど(笑))で少々華やぎにかけたけど、今度は妖艶な美女や可愛い女の子たちや颯爽たる女騎士なんかもいろいろ大勢出てきて、彩りもぐっと華やかに。
 ただ、男同士の恋愛に普通に言及している(具体的な描写は無いけど)のがダメな人はダメだろうけど、好きな人は好きでしょう(笑)。(私はダメでも好きでもどっちでもないです。単にそういう文化のある、そういうのがわりと普通な世界なんだなと思うだけ。書かれている以上に妄想を逞しくして楽しむ気もなければ、過激な具体的描写さえなければ同性愛要素が取り扱われているというだけで拒絶反応を起こすこともないです)
 そして、なんといっても、ナイサンダー、萌え〜! 『これはおしゃべり用のワインでな』(←だったっかな?)に、やられました。じじい好きにはたまらんわい!(笑)


『シャーリアの魔女 夜明けを告げる森の調べ 下』 ダイアナ・マーセラス ハヤカワ文庫

 上巻ではなかなか話が動き出さなかったのが、下巻でやっと、ぐぐっと動き出しました。
 が、相変わらず、訳が……(T-T) ……なんですが、だんだん、この翻訳の文章のクセにも慣れてきまして、独特のぎこちない言い回しの数々にもあまり抵抗を感じなくなりました(^_^;) これって、元の文章にもクセがあるのかなあ。それとも、ひたすら翻訳のせい?
 でも、話自体は面白いんです。世界観も魅力的なんです。
 あとはメルファランにときめけて、ブライアリーとの恋の行方に感情移入が出来れば、このお話、きっと、もっと楽しく読めると思うのに、私はメルファランには一向に魅力を感じられないのが残念です。


『風の王国 月神の爪』 毛利志生子 集英社コバルト文庫

 前二作は他国の国内事情中心で、ヒロインがわりと傍観者的な立場だったのが、今回はけっこうハードに渦中に巻き込まれて、ハラハラどきどき、面白かったです。特に(ネタバレ?につき反転→)リジムが囚われて翠蘭だけ城を脱出するあたり、けっこう手に汗握る展開でした。こういうの、大好き。
 が、相変わらず、翠蘭は天然さんで感情が淡白だし、人物の感情の描写に距離感があって、やっぱりこれは少女小説ではなく歴史小説の書き方なのかなあ……と、思いました(『やっぱり』というのは、知り合いの方がやはりこの本の感想で同じことを書いていたから)。


☆その他メモ:『グインサーガ』は、その後、後回し中。『パラケルススの娘 3』『サソリの神2 アルコン』読み途中。


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