近況報告『入水鍾乳洞体験記』
日記を方を見てくださっている方はすでにご存知と思いますが、八月下旬に家族で『入水鍾乳洞』という鍾乳洞に行ってきました。
ここは、有名なあぶくま洞の隣の鍾乳洞で、私たちはあぶくま洞のほうには時間が無くて行けなかったのですが(当初の予定では両方行くつもりだったのですが……)、何キロも離れていないらしいです。
あぶくま洞ほど有名ではありませんが、普通の、楽に見学できるように設備の整えられた鍾乳洞ではなく、ほとんど手が加えられていない洞窟を探検気分で見学できるという素晴らしいところなのです(HPはこちら)。
ここは、入口から途中までがAコース、その先がBコース、さらに奥がCコースと分かれています。
Aコースは足元が整備されていて普通の服装で入ることが出来る普通の観光鍾乳洞コース、Bコースは、ほとんど整備されていなくて、濡れていい服装でないと入れない探検コースで、Cコースは案内人付きでないと入れない、さらにハードで(らしい)入場料もお高い本格コース。
私たちが行ったのは『Bコース』です。
というわけで、日記で数回にわたって連載(笑)した体験記に若干の加筆修正を加えてアップしてみます。日記ではまだ途中までしか書けてなかったので、最後の方は書き下ろしです。とっても長いので、日記を読んでくださってた人は『3』までは飛ばして『4』からどうぞ(^^)
1・意外とスゴいぞAコース
早朝から車で半日走ってたどり着いた入水鍾乳洞。
車を駐車場に止めて、靴と靴下を脱ぎ、持参したゴムぞうりに履き替え、入口に向かいます。
入口は急な階段の上。階段の上り口のところに『ようこそ』みたいなアーチ看板と案内板があって、その脇に、『貸衣装あります』と看板が出ています。
えっ、『貸衣装』……?(・0・;)
まさか白無垢とかタキシードとか七五三の衣裳というわけはないし、これは、スカートなどで来た人のための、洞窟探検用の衣服ということでしょう。そういうのがあるということは、HPにも書いてあったし。
でも、『貸衣装』っていうと、結婚式の衣裳を想像しちゃうんですけど……(^_^;)
階段は神社の参道のような雰囲気で、門前の茶屋みたいな店が何軒か出ており、流しそうめんやダンゴなどを売っていて、思わず心惹かれます。階段の脇には趣のある清流が流れていて、きっと、この水が鍾乳洞の中を流れているんだろうなあと思って眺めます。とっても冷たそうです。
そして、なんといっても、見学を済ませて階段を下りてくる人たちに注目。
みんな、ゴムゾウリ姿だったり、ズボンを膝までまくっていたり、そして、人によっては、かなりずぶ濡れです! なんだか胸の辺りまで濡れている人も……?(・_・;)
でも、みんな、すごく楽しそう。笑顔がハッチャケています。これはよっぽど楽しいところに違いない……と、期待が膨らみます。
途中に売店があって、そこが、例の『貸衣装』をやっているところです。わらじと短パン、雨合羽などを貸し出しているようです。
私たちは最初から濡れることはある程度覚悟して、子供は最初から半ズボン、パンツとTシャツの換えも持参、大人は膝までまくれることを確認済みのジーパンなので、このままでいいだろうとスルーします。
ロウソクも売っていましたが、うちは、ヘッドランプを一個だけ持参しており、みんなで固まって歩けば一個でも大丈夫だろうと思ったので、それもスルーします。だって、まさか本当に全く照明が無いとは思ってなかったし……。
ところが、洞窟入口の入場券売り場までたどり着いたところで、希望コースを告げると、
「明りは必ず一人づつに必要です」と言われ、引き返してロウソク(200円)を3本買う羽目に。
長さ15センチくらいある大きなロウソクですが、本当にこれで1時間(Bコースの標準所要時間は約1時間)、絶対に持つんでしょうか……? コースを間違えたり、途中で休んだりしてのろのろしているうちにロウソクが燃え尽ちゃったりしたら、怖くない……?
絶対に一人づつ明りを持たなきゃ入れないということは、中は本当に暗いと言うことで、その明りがロウソクというのが、なんとも頼りなく、ちょっとドキドキです。
また、肩に500ml入りペットボトルのホルダーを掛け、背中にミニリュックを背負っていたところ、荷物は持って入れないのでロッカーに預けていくようにとのこと。
えっ、こんな小さなリュックもダメなの? なんで? そりゃもちろん、手がふさがるようなバッグや大きなリュックはダメだろうと思ってたけど……。
なんかちょっと、色々心配になってきます。
で、服装のこともちょっと心配になって、わりとつっけんどんな受付の女性に、
「かなり濡れるんですか? 膝までのズボンで大丈夫でしょうかね? どのくらいまで水があるんですか?」と聞いてみると、
「水の中で四つんばいになりますから、人によってはパンツまで濡れますよ」とのこと……。
券売所に更衣室も付いてるし、もしかして、売店で短パンをレンタルするか、少なくとも持参の着替えを車から取ってきてロッカーにあずけておいたほうがいいかも?
でも、長い階段を上がり降りして車から荷物を持ってくるのは大変。何を着て行ってもどうせ濡れるらしいし、着替えは持っているから、最初から濡れる覚悟でこの格好で行って、どうしても必要なら車まで戻ってから近場のトイレででも着替えればいいやと開き直り、コインロッカーに荷物を預けて、入場券を買います。
入場券を買うと、グループの代表者が付けるようにと、番号入りの腕輪が渡されます。
これは、入る人全部に渡すのか、それともBコース以上の人だけなのか不明です。
人数を控えて、番号と照らし合わせて、出てこないグループがいないか確認するんでしょうね。
今まで、出てこなかった人とか、いるんでしょうか……。ドキドキ……。
というわけで、夫が、プールのロッカーの鍵をつけるやつみたいなビニールの腕輪を付けました。
準備が整うと、まずは鍾乳洞入口で、係の人に希望コースを告げ、コースの説明を受けます。
Bコースに入ってからは水の中を歩くことになり、水温10度なので、「最初はすごく冷たいですが、我慢していれば慣れます」とのこと……。
水温10度の水の中を歩くと言うのはHPを見て事前に知っていましたが、まさかその水に30分もずっと入っていられるとは思えなかったので、
(きっと、ずっと水の中ではなく、ところどころだけなんだろう)と思っていたのですが、そうじゃないらしいです。そうか、我慢か……。ひたすら我慢なのか……。
本当に大丈夫なのかなあ。ちょっとガクブル……。
そして、いよいよ入洞。いきなり冷気が押し寄せます。
夏休み中の日曜日なので、薄暗い洞内は人でいっぱいで、狭い通路は行列状態です。
入口からしばらくの『Aコース』の間は照明もあり、足元にはちゃんと滑り止めの模様付きの鉄板が敷かれていて、階段には手すりもありますが、階段の段差はかなり急で、天井が低いところも多く、人がすれ違うのがやっとの細い通路のすぐ横に轟音を立てて滝が流れ落ちていたりして、水しぶきはかかるし、天井からも水が滴ってくるし、通路も水で濡れていて、滑りやすいです。
しかも、ところによっては、浅く水が流れる上を石伝いに渡って歩くような場所もあります。
これから入る人と中から出てくる人が狭い通路ですれ違うので、濡れた壁に張り付いたり狭い岩棚の下に身をかがめて道を譲り合わなければならないときもあります。
すでに、かなりスリルがあります。
『Aコースは普通の服装で大丈夫』という話や、以前に行ったことがある他の観光鍾乳洞の様子から想像していたより、かなりハードで、『普通の服装』といっても、スカートにミュールみたいな格好で気軽に入れる感じではありません(実際にはそういう服装の人たちもいましたが……)。Aコースでも、それなりの覚悟をして服装を整えて行くべきっぽいです。そして、高齢だったり幼児連れの方には、明らかに無理がありそうな感じです。
う〜ん、Aコースといえども、入水鍾乳洞、侮りがたし!
私はBコースで水の中を歩くのに備えて最初からビーチサンダルだったのですが、後ろを歩いていた子供に踵を踏まれてサンダルが脱げてしまい、階段の下を流れる川に落ちて、流れてしまいました!
慌てて手を伸ばしたらギリギリセーフで拾えましたが、ちょっとヒヤッとしました。
そんなふうに、すでにかなりハードなAコース。雰囲気は満点。
Aコースだけでも、かなり洞窟探検気分が味わえます。
2・ついに突入、Bコース
やがて、Aコースの終点にやってきました。
ぞろぞろと行列作って一緒に歩いて来た人たちの大半は、ここまでで引き返すようです。
Bコースの入口には、小さな鉄の戸口があり、そこを、ちょっとかがんで入っていきます。
そこから先へ行こうとして、はたと困りました。
ロウソクに火をつけてないんですけど……? マッチもライターも持ってないんですけど……。
実は、洞窟に入る前から、その点はどうするのだろうと気になっていたのですが、ロウソクが必要だと教えてくれた受付の人も、ろうそくを買った売店の人も、入口でコースの説明してくれた人も、火のついてないロウソクを手にした私たちに何も言わないので、火はどうするのかなあと思いつつも質問しそびれてしまい、(まあいいや、きっとBコースの入口付近にロウソクに火をつける場所が用意してあるんだろう)ということにしてそのまま入ってしまったのですが、やっぱり自分たちでライターなりを持っていかなきゃいけなかったらしいです(^_^;)
でも、立ち止まって困っているまもなく、後から火のついたロウソクを持った人が入ってきたので、その人に声をかけて火を移させてもらいました。
さて、ここからがいよいよ本番のBコース!
ひとつだけ持ってきたヘッドランプを下の息子につけさせ、後の3人はおのおのロウソクを手に、暗闇の世界に出発です。
といっても、かなり込んでいて、行列状態なので、みんなのロウソクの灯りで、意外と明るいです。
私たちの前後に居た人たちの中では、他に懐中電灯やヘッドライトを持ってきている人は居なくて、ほとんどみんながロウソクを持っていたようです。普段、ロウソクなんてそんなに明るくないような気がしていましたが、そこまですでに薄暗い洞窟の中を通ってきて暗さに慣れた目には、けっこう明るいものなんですね。
入ってすぐのところは、ちょっと広く、小さなホール状になっていて、足元には小川が流れています。
なるほど、これが問題の川か……。
今のところは、まだ、さほど足を濡らさなくても石づたいに渡れる感じですが、ところどころ、どうしても水に入らないと通れない場所があって、うっかり水に浸かってしまった足は、たしかにすごく冷たいです。
これが水温10度か……。本当にこの水に慣れるものなんだろうか……?
しばらくは、天井もそんなに低くなく、時々ちょっと背をかがめながらも、普通の山歩きのように歩いていきましたが、それは、ほんとうにしばらくの間だけでした。
せっかくさっきの川をなるべく足を濡らさないように渡ったのに、渡った先は、もう、足首まで、ところによっては膝近くまで水に浸かって、完全に川床を歩くかたちになります。手を切るような冷たい水で、足がじんじん痛みますが、ひたすら我慢します。
本当に、あと往復30分、この水に浸かりっぱなしで歩けるんだろうか……。そんなことが普通一般の家族連れに可能なんだろうか……?
とても信じられないけど、説明の人が我慢すれば慣れるっていってたし、中には長靴の人もいるけど、ほとんどの人は普通の運動靴やビーサンやレンタルのわらじで入ってるんだから、普通は我慢できるものなのでしょう。
だったら私たちだって我慢できるはず。耐えられるはず! 我慢だ、根性だ!
あ、ちなみに、この鍾乳洞のBコースまでの往復所要時間は約60分なのですが、そのうち、Aコース往復の所要時間が約30分なので、その奥のBコース部分だけだと約30分という計算です。
Aコースの間は足はあまり濡れなくて、Bコース部分だけが水中歩行なのです。
冷たい水に足をしびれさせつつ、ちょっと行くと、まもなく壁の横腹に狭い横穴があって、その入口に『胎内くぐり』の案内板が。
でも、その横穴は、まさかと思うほど狭くて、今歩いている通路がそれなりに広いだけに、とてもそちらが順路とは思えません。
まさかここに入るの……? こんなとこ、子供はともかく大人が通れるの……?
「まさか、いくらなんでもこっちが順路じゃないよねえ?」と言いながら、とりあえずそこを通り過ぎて、今居る通路を先に進んでみたら、そっちもすぐに狭くなって、ちょっと上り坂になった奥は行き止まりっぽい……。
下の息子が、小さな身体と身軽さを生かしてひょいひょいと岩を登って、上り坂の先を偵察してみたら、そこはやっぱり行き止まり。やっぱり、あっちの信じられないほど狭いところが順路なんだ……。
後で、帰ってきてから掲示板で知り合いからこの鍾乳洞の体験記が載っているサイト(http://www1.plala.or.jp/CUE/cave_00.html)を教えてもらったのですが、そこでの話によると、この鍾乳洞では、自分たちが道を間違えていると勘違いして途中で引き返してしまう人も多いらしいです。さもありなん、です……。
もし、ああいう込んでいる時ではなく、もっと空いていて、前後にあまり人がいない時に入っていたら、私たちも、まず間違いなく途中で不安になって引き返してしまったに違いありません。
だって、とても人間が通れるとは思えない狭い穴が順路で、順路といってもほどんと手が加えられておらず、案内板もところどころにしかないんですもん。
そんなわけで、しかたなく分かれ道まで引き返して、やはり『胎内くぐり』の入口で逡巡していた後続のよその父子(ロウソクの火も借りたし、もはや『冒険の仲間』状態(^_^;))にも先が行き止まりであることを告げ、覚悟を決めて順番に『胎内くぐり』にトライ。
まさに『胎内くぐり』です!
よく公園やデパートの子供広場にあるチューブ式のアスレチック遊具のよう。
しかも、遊具のチューブのように太さが一定しているわけじゃなく、壁はごつごつと出っ張ったり引っ込んだりしているし、天井から鍾乳石が下がっていたり、下から大きな岩が生えていたり。
狭いところは身体を横にしたり身をかがめたりしてなんとか擦り抜けます。
しかも、足元は、ずっと川の中!
そして、片手には火のついたロウソク……。
これを水につけないように気をつけて、片手は常に上にあげていなければなりません。
天井や壁も濡れているので、うっかり壁にロウソクをつけてしまったら、火が消えてしまいます。
実際、道中でそれぞれ何度づつか火が消えましたが、その都度、前後の家族や知らない人に火を移させてもらいます。
ここへ来て、切符売り場の人に『照明は一人にひとつづつ必要です』と言われた意味が、よ〜く分かりました。人一人通るのがやっとの狭い穴の中を一列になって歩くから、ひとつの灯りを頼りにみんなで固まって歩くなんてことは出来なかったんですね……(^_^;)
通路には、手すりだの縄だのは全くありませんが、要所要所には、壁に沿って点々と、クリスマスツリーの豆電球くらいの照明が並んでいる箇所もあります。
案内板はほとんど無いので、道が二手に分かれるところで、どっちが順路が判らなかったことも幾度か。
結局、どっちに行ってもその先で合流するのでしたが(だからわざと雰囲気作りのために案内板を付けてないのか?)、選んだ道によって、進みやすい方と進み難い方があったり。
また、ただでさえ狭い通路なのに、頻繁に、洞窟奥から引き返してくる人たちの列とすれ違います。
たまたま広い場所ですれ違える時は問題ないのですが、人一人通るのがやっと通れるような場所では、その都度、どちらかが壁に張り付いたり岩だなの陰にしゃがんだりして、やりすごします。
向こうから来る人に、いろいろ、先のコースについての情報を教えてもらうことが出来ますが、不自然な中腰で、膝まで水に浸かって待つので、向こうの列が長いと、やりすごすのも大変(T-T)
いや〜、まさかここまですごいところだったなんて……。
頭は鍾乳石にぶつけまくり。ところどころ、鍾乳洞が折れているのは、ヘルメットをかぶった人がぶつかったからでしょうか?
足はあいかわらずじんじんしびれる冷たさだけど、他のところがあまりに大変すぎて、もう、足が冷たいことなんて気にしている余裕はありません。ひたすらどんどん進むのみ。
ロウソクのロウが手に垂れてきて熱くても、やっぱり、そんなこといちいち気にしてられません!
息子は、ロウソクの火で髪の毛を少し焦がしたらしいですが(焦げ臭かった!)、それも、もう、気にしていられません!
冷たかろうと熱かろうと頭をぶつけようと、なにが起こっても構っている余裕なんかなく、死んだ気で、ずんずん先に進むしかない!
3・巨大夫の受難
そんなふうに、細長い通路を、ロウソクの火を消さないよう(&ロウソクの火で服などを焦がさないよう)気をつけながら、膝下まで水に浸かり、時々鍾乳石に頭をぶつけたりしながら中腰で進むことしばらく。そのうち、最大の難所が出現!
いえ、普通一般には、一番の難所はもっと先のほうらしいのですが、我が家にとってはあの場所が一番の難所だったのです。しかも、『我が家にとっては』といっても、主に、夫にとってだけ……。
そこは、天井から大きな鍾乳石が下がり、下にも大きな岩の出っ張りがある、岩に挟まれた狭い隙間でした。
あんまり狭い隙間なので、普通なら、とても人が通れる場所とは思えません。もし、前に居た人たちみんながそこを越えて先に進んでいるという事実をしらなければ、『ここは行き止まりだ』と思って、引き返してしまったかもしれないくらい。
天井が低いのは、かがむなり這うなりすればなんとでもなるのですが、そこは、かがんだ時にちょうど頭から肩、胸に当たるあたりが狭く、しかも空間が斜めになっていて(足元は足元で這って通れるほどは広くない)、その狭い隙間に、斜めにした身体を滑り込ませないといけない感じなのです。頭の先から足の先まで、全部狭いところを通らないといけないのです。
身体が小さい子供たちは、平気で岩と岩の間をすり抜けて、どんどん先に行ってしまいました。しかし、ここ、大人はちょっときついぞ……。
覚悟を決めて、岩の隙間に身体を押し込んだら、あれ? 肩がつっかえた!
肩が通るように姿勢を変えたら、今度は頭が通りません!
あれ? あれ? ここはいったい、どうやってすり抜けたらいいの? 途中でひっかかってしまって、前にも後ろにも行けないんですけど……?
思わず、
「あれっ? ここ、どうやって通るの? 通れないよ?」と弱音を吐いたものの、でも、実際に、みんな、ここを通って先に言ってるんですよね。みんな通ってるんだから、私だって通れるはず……。
ちなみに私は身長157センチ、体重44キロと、わりと小柄です。
他のみんなが、男の人たちも通った場所が、私に通れないはずはない……。
なんとか気を取り直して、前を歩いている息子を呼び止めてロウソクを預かってもらい、濡れた岩壁にべたっと顔も身体を押し付け、少しづつ身体の向きを変えたり場所をずらしたりしてみているうちに、何とかすり抜けました……。
たぶん、私が最初、そこを通り抜けられないと思ったのは、ロウソクが邪魔だったのの他に、小柄でも身体が硬いのと、その時点ではまだ服を濡らすまいという自制が働いていたため、岩に身体をべたっと押し付けることを無意識に避けてしまったからだと思います。
で、普段なら、それで通れなければ『ここは通れない場所だ』と諦めてしまうところを、みんなが通っているからということで、覚悟を決めて開き直ったら通れたらしいです。
ここへきて、切符売り場で『リュックは小さくてもダメ』と言われた理由も、よ〜く分かりました。たしかに、あそこは、どんなに小さくてもリュックしょってたら通れませんね。ちゃんと言うこと聞いて預けといてよかった……。
でも、問題は、後に続く夫です!
夫は、すごくデカいんです! 身長は172センチと、そう人並みはずれて高くはありませんが、体重は90キロ近く!(これでも前よりずいぶん痩せて、数年前は100キロ近かった!)
しかも、ただ肥っているだけでなく、元々の骨格が、胸郭の直径が大きい(しかも左右の幅だけでなく前後の奥行きが大きい)鳩胸体型で、胸囲1メートル!(←この『鍾乳洞つっかえ事件』の後、好奇心で計らせてもらった) ウェストも、90センチ超!(←ちなみに夫にとっては、胸囲より胴囲のほうが僅かでも小さいということは大変重要なことらしい……)
おまけに肩幅も広く、肩の厚みも非常に厚いです。
しかも、体格が良いだけでなく、なんといっても、頭がデカい! 人並みはずれてデカい!
脂肪なら、多少はスペースにあわせて変形・移動したりもしそうだけど、肋骨や頭蓋骨は、都合にあわせて潰れたり変形したりは出来ません。
そして、この隙間は、お腹周りより、頭・肩・胸が狭いところを通らなければならないのです……。
頭が大きい&肩厚い&胸囲大きいの、三拍子揃ったこの巨大夫は、私でさえ通れないかと思ったこの隙間を、果たして通れるのでしょうか……。どう見ても、通れそうも無いんですけど……。
本人も大変不安そう。
でも、ここまで来たら、行くしかない!
すぐ後ろには次の人が並んで待ってるし。夫が先に進まないと、ここは片道一方通行、追い越しも迂回もできなくて、後続の行列がどんどん溜まってしまうのです。
とりあえず、私が、こちら側から手を伸ばして、夫のロウソクを預かります。
夫、覚悟を決めて、隙間に突入!
が、やっぱり、思ったとおり、すぐにつっかえた!
濡れた岩と岩の間に思いっきり顔を押し付けて、なんとかずりずりと脱出しようとする!
あ、危ない! メガネが取れた!
水に落ちる直前のメガネを、夫、なんとか自力でキャッチ!
ああ、危なかった……。ここでメガネを水に落としたら、下は川で、かなりの速さで流れているから、へたすると流されてしまうだろうし、そうしたら、何しろ薄暗いので、探すことは困難だったでしょう。
というわけで、邪魔になるメガネは私が預かることにします。
メガネを外して、再度トライ。
ところが、前にも後ろにも動けません!
後で本人が言うには、(ああ、俺はここでつっかえたまま死ぬのか……)と、ちょっと本気で思ったとのこと(笑)。
とりあえず、いつのまにかどんどん先に行こうとしていた子供たちを、
「ちょっと待って! お父さんがつっかえた!」と呼び止めておいて、引き続き、夫の奮闘を見守ります。
あちこち身体の向きを変え、ずりずりと岩をこすって奮闘することしばらく。
夫は、なんとか無事、隙間を抜けることが出来ました。
ああ、よかった……。でも、帰りにまたここを通るのが心配……。
夫、病気&ダイエットで多少は痩せた後でよかったですよ。
数年前の、体重100キロ時代だったら、本当にここは通れなかったに違いない……。
夫は、解放の喜びに浸りながら、
「ここ、ボブ・サップとか、絶対通れないよね! ボブ・サップ立ち入り禁止!」と冗談を言っていましたが、後で、上で紹介した鍾乳洞体験談サイトで見たところ、体重80キロの女性や身長185センチの男性がこの鍾乳洞をクリアしたという体験談とともに、『この鍾乳洞はコニシキでも通れると言われている』と書いてありました……。
でも、80キロ女性はともかく、コニシキのほうは嘘だと思う!
ていうか、本当にコニシキがあそこに来たことがあるわけじゃなく、誰かが、「たぶんコニシキでも通れるだろうと思う」と言っただけだろうし。
身長が高いのは、まあ、しゃがめばなんとかなるだろうし、お腹周りの贅肉も、まあ、なんとかなるかもしれないと思うけど、胸囲が大きい人はダメだと思うんです。
コニシキやボブ・サップじゃなくたって、曙だって貴乃花だって朝青龍だって高見盛だって、寺尾関でさえ、あそこは通れないと思います!(←お相撲には興味ないのでお相撲さんの名前はこれしか知らない)
女の人でも、超巨乳の人とかは通れないかも……。
4・ぼんやり息子の受難
さて、夫は無事、彼(だけ)にとっての最大の関門を通過しましたが、コースはまだまだ、ここからが本番。夫がつっかえたあの場所は、その一ヵ所だけすごく細くなっていただけでしたが、その先、通路がますます全体的に狭くなってきたのです。本当に、アスレチック遊具のチューブの中のよう。 しかも、床には川が流れています。
ここまで来るまでに、奥から戻ってきた人たちに、すれ違うついでに先の様子を聞いたら、「この先はもっとスゴいですよ、もう、匍匐前進ですから」と言われたのですが、そうか、ここがウワサの『匍匐前進』か! 確かに……。
そして、ここでも、一番ひどい目にあったのは、体が大きい夫。
私や子供たちは、まだいいんですよ。ほとんどの場所が、しゃがみ歩きで大丈夫です。片手を地面につき、片手を上げてろうそくをかかげ、お尻が濡れないよう、のそのそとしゃがんで進みます。時々、しょうがないときだけ四つんばい(あ、片手はロウソクを掲げてるから『三つんばい』?)になりますが、それでも、濡れるのは片手と膝から下だけです。
ところが、夫は、本当の本当に匍匐前進なのです! お腹まで水に浸かってしまいます。もう、胸までびしょびしょ。
そういえば、『この先は匍匐前進ですよ』と教えてくれた人も、体の大きい男性でしたっけ……。あと、入口まで上ってくる途中ですれ違った人たちの中にも、同じ一行の中ですごく濡れている人とそうでもない人が居て、胸まで濡れてた人は、そういえば、胸も胴回りも豊かな女性でした……。そうか、身体が大きい人が、ああいう目に遭うんだったのか……。
狭い通路を一列で進むので、夫が匍匐前進の時にロウソクをどうしていたか見えなかったのですが、後で聞いたところ、口に横咥えにしていたとのこと。
なるほど〜! 私もそうすればよかった。思いつかなかったですよ。私も、四つん這いの時には、ロウソク、かなり邪魔だったんですけど……。
そうそう、ここへ行く時は、髪の長い女性は絶対に髪の毛を結んでいった方がいいです。
しかも、左右に二つ結びではなく、背中に一つ結びでないと、四つん這いの時に、髪の毛の先が水に浸るかも。あと、もしロウソクを横咥えにしたら、二つ結びだと、絶対、髪の毛焦がしますね。別に口に咥えなくても、長い髪にロウソクは危険ですし。ちょっと伸びかけた坊主頭だった息子でさえ、前髪焦がしましたもん。
でも、それでも照明はやっぱりロウソクがいいですよ〜! なんたってムードがありますから。天井からの水滴で、うっかりすると消えてしまう、あのスリルがたまりません。うっかり消えてしまった時には、家族で、あるいは見知らぬ同士で火を移しあう、そのささやかな連帯感も、こういう特殊な状況ならでは。
でも、平日などで空いていて、他にあまり人が居ない時に一人で入って本当にロウソクが消えてしまったら、本気でどうにもならなくなる可能性があるので(怖ッ……!)、予備にペンライトくらい持っていたほうがいいかも。
そうして、這ったりよじのぼったりして、ついに到着、Bコース終点『かぼちゃ岩』!
ちょっと水が深くなって淵のようになった奥に、かぼちゃの形をした岩が鎮座しています。
みんな、もうヨレヨレで、私は一応、かぼちゃ岩の前までばしゃばしゃと水の中を進んでいって、その先を覗き込んできましたが(全く先が見えない真っ暗な洞窟がぽっかりと口をあけていた……)、後で聞いたところによると、夫は、もう顔を上げる気力もなく、せっかくのかぼちゃ岩を見なかったとのこと……(^_^;)
そして、帰り道。来た道を帰るだけだから、こんどは道も分かっているし、一度通ったところだから、もう一度通れるのは当たり前……とはいえ、本当に大変だったのは、むしろ帰り道かも。
なにしろ、みんな、疲れ果てています。ヘロヘロです。足はじんじんしびれて感覚が無くなっているので、すべります。
行きには流れに逆らって遡る状態だった川が、帰りは流れに沿って下るようになる分、歩くのは楽です。道も、全体がやや下りになってします。
そこがまた、かえって、よけい滑りやすい理由だったかも。スピードが出てしまうので。
しかも、疲れているので注意が散漫になっているので、よけい危ないです。
濡れてもいいように履いていったゴムゾーリは、ちょっと失敗でした……。
履物は、ゴムゾーリやビーサンよりは、たぶん、売店でレンタルしてるワラジのほうがいいのではないかと。ゴムゾーリは、脱げやすいだけでなく滑るのです。かといって、普通の靴では水の中を歩くと中に水が入って歩き難だろうし、長靴は長靴で歩き難いだろうし(そもそも水中歩行の醍醐味が味わえないし)。
夫が言うには、一番いいのはたぶん地下足袋だろうということで、なるほどとは思いますが、普通、地下足袋は持ってないですよね(^_^;)
行きには、まだ服を濡らさないように気をつけてしゃがみ歩きした所も、どうせもうずぶ濡れになってる帰り道では、もう面倒になって、開き直って完全に四つん這いです。
私はジーパンを膝まで捲り上げましたが、四つん這いになるとどうしても膝上まで濡れるので、その水が上のほうまで沁みてきて、直接水には浸からなかったお尻のほうまで、なんとなく湿っぽくなりました。
その点、短パンのかなり短めのにしておけば、裾の方から全体に水が沁みてしまう心配は少ないと思いますが、それだと、四つん這いになった時に膝が痛そうですね。短パンに膝サポーターが一番いいかも。もし、もう一度行くことがあったら、そうしようっと。
あと、長袖も失敗でした。私はデニムの長袖を肘まで腕まくりしていたのですが、ちょうど四つん這いの最中に、袖が落ちてきてしまい、袖口が濡れてしまいました。
Tシャツの上にデニムシャツをもう一枚という選択は成功だったと思うのですが(直接肌に付くTシャツが天井からの水滴で濡れるのが防げた)、上に着るシャツは半袖か七部袖がよかったかも。
そして、今度は、私たちが、奥に向かう人たちに色々質問される番です。
向こうからやってきた、やけにでっかい男の人が、すれ違う時に、私たちの後ろの人に、
「この先、狭いんですか? 自分、身長190近いんですが通れますかねえ」と尋ねていました。
後ろの人がなんと答えていたかは聴こえませんでしたが、あの人は、その後、どうなったんでしょうか……。気になります。
とりあえず、引き返さずに奥に進んで行ったようなんですが……。
う〜ん、身長190氏の運命や如何に!?
そのうち、後ろの親子連れから、
「あっ、ワラジが流れた! 誰か、そのワラジ、拾ってくださ〜い!」という声が。
でも、川の流れが速いので、私が拾おうとしたときには、もう、川下に流れてしまいました。
慌てて、先を行く夫に声をかけ、夫がキャッチ。ワラジは無事、後ろの親子に戻りました。
でも、途中で別のワラジが水浮いているのを見たから、流れてしまったワラジを拾えなくて裸足で戻った人も居るに違いないです(^_^;)
行きにもあちこち頭をぶつけていた上の息子は、ますます、さんざんあちこちに頭をぶつけまくり。脛も強打。
だいたい、この息子は、別に鍾乳洞でなくても、普段からしょっちゅう、あちこちに頭をぶつけているのです。頭に限らず、足も手も、どこでも。
とにかくぼんやりしているので、普通に町を歩いてるだけでも、歩道に張り出した喫茶店のメニュー看板に正面衝突して同行のみんなに笑いのネタを提供し、家でおとなしくしてれば大丈夫かといえば、家でもあちこちぶつかりまくり。
なにしろ、小さい頃は、毎晩、二階の寝室に行くために階段を昇るたびに、階段の角に脛をぶつけて泣いてましたっけ。ごく稀に、今日は珍しく階段で痛い目にを合わなかったなというときは、ベッドに登るときに、ベッドの縁に脛をぶつけて、やっぱり痛い目にあうはめに……。もう、毎日が傷だらけ痣だらけです。
そんな彼が、鍾乳洞で、いつも以上にあちこちにぶつからないわけがない!
ここへ行く時は、帽子も必要ですね。でも、ヘルメットはやめたほうがいいかも。鍾乳石を壊すから。
いっぽう、下の息子は、背が小さいから頭はぶつけなかったけど、もうすぐBコース出口というところになって、気が緩んだのか、足を滑らせて転んでしまい、しかもそこはちょうど水が深くなっているところで、見事に川にはまって全身ズブ濡れ!
でも、ぶつけた頭を抱えて痛がっていようが、転んでズブ濡れだろうが、もう、ここで立ち止まっているわけにはいきません。こんなところでズブ濡れで立ち止まっていたら、身体が冷え込んでしまいます。
可哀想ではありますが、「泣くのも立ち止まるのも後にしろ、今は痛くても何でもなんとか堪えて、とにかく先に進め! ここを出ないことにはどうにもならないんだから!」と叱咤して、後ろから追い立てます。
私はといえば、途中で何度も消えていたロウソクが、ついに、つかなくなってしまいました。天井から落ちてきた水滴が、ちょうど芯にかかってしまったらしく、いくら他のロウソクの火を移そうとしても、燃えつかないのです。
もし、一人で来ていて、もっと奥のほうで火が消えてしまっていたら……と、思うと、なんとも怖いです。 もう出口近くなってからでよかった。
やがて、Bコース出口の門にたどり着きました。
ここから先はちゃんと階段が整備されたAコース。これでもう一安心……と、思ったとたん。存在そのものがネタのような上の息子が、ここでもまた、お約束どおりのネタをかましてくれました(^_^;)
ちょっとかがんで通る高さの門の鉄枠に、思いっきり、おでこをごつんと……。
どうして目の前に見えてるものに頭をぶつけるんでしょうか……。
5・そして『喜びの窓』……!
さて、息子もなんとか気を取り直し、暗闇の世界を後にして、電気や階段がある文明世界(笑)、Aコースを戻ります。
……が、楽に歩けるように整備されているはずのAコースも、疲れ切ってフラフラ、ヨロヨロの上に冷たさのために感覚が無くなった足には、かえって危なかったのは予想外。
今までもっと大変なところを注意して歩いてきて、もう楽に歩けるところまで戻ってきたという油断もあって、けっこう、ここで転んでしまいました。
入ってきたときには込んでいたAコースも、私たちが一時間以上かけてかぼちゃ岩まで往復しているあいだに、人が引いて、がらがらになってしました。
やがて、薄闇の向こうに外界の明かりが……。
ああ、生きて帰ってきたんだ……生きて再びお日さまを見ることが出来るんだ……(T-T)
じ〜んと生還(笑)の喜びを噛み締めながら出口にたどり着くと、出口の内側の壁に、入ったときには気づかなかった案内板が。
洞内の名所ごとに『○○岩』『○○洞』などと書かれていたものとおなじ標識なのですが、そこに書かれていた文字は、『喜びの窓』!
『喜びの窓』。それは、この場所の愛称なのですね!? なるほど! 言い得て妙! 夫と私、大ウケ。この看板をつけた人、お茶目だ……。いや、ほんと、すごい実感しましたもん、『喜びの窓』……。
お天道様の下に出てきた瞬間、駐車場から上がってくる時にすれ違った、洞窟から出てきた人たちのはっちゃけ笑顔のわけが分かりました。
人間、極度の負荷が急に取り除かれると、反動で、こういうふうにハイになるものなのですね。
私たちも、今、さっきのあの人たちのような、ちょっと壊れかけてるんじゃないかというほどのはちゃけ笑顔になっているに違いない……。
全身ズブ濡れで壊れたようにヘラヘラと笑いながら階段を下る私たちを見て、駐車場から上ってきた家族連れの目が点になっています。
特に、お父さんの目が、胸までズブ濡れの夫の服に釘付け。
「あの〜、何コースに行ったんですか?」と、恐る恐る聞かれて、
「Bコースです」と答えたら、むこうのお父さん、
「そ、そんなに濡れるんですか……?(@0@;)」と、かなりびびった様子……。
あの人たち、Bコースに行こうと思っていたらしいですが、もしかして、私たちの姿を見て思いとどまったかも?(笑)
いや〜入水鍾乳洞、最高でした! オススメ! 超オススメ!
本気で『生還の喜び』を味わえますよ!!
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