月刊カノープス通信
2005年4月号

 目次 

・季節の便り『山桜の季節』
・今月の勘違い
・近況報告『今年も野草を食べました』
・読書録
(『王狼たちの戦旗』『キーリ2・3』『ICO』『我が家のお稲荷さま。』『ヴィシュバ・ノール変異譚』他)




 季節の便り『山桜の季節』

 桜前線は今、どのあたりを北上中でしょうか。
 これを書いている4月16日現在、この辺では、もう、ソメイヨシノはほとんど散ってしまいましたが、八重桜や山桜が、色とりどりの花と若葉の競演を見せてくれています。

 公園などにまとめて植えられていっせいに咲き誇るソメイヨシノもいいけれど、雑木林の縁や低山の斜面に雑木や杉に混じって咲く山桜もいいものです。
 山桜とひとくちにいっても、品種は色々、純白の花に黄緑の葉っぱ、薄紅の花に海老茶の葉っぱなどなど、花の色も葉の色もそれぞれに違うし、花期も違えば花時にどの程度葉が出ているかという花と葉の出方のタイミングも違って、それら多種多様な山桜が同じ山に混在しているので、山桜の季節の山は、雑木の芽吹きも合せてほんとに色とりどりで、しかも、その霞むような微妙ないろどりが、日々、移り変わるのです。

 これをアップする20日頃には、もう山桜もほぼ終わっているでしょうけれど、そうしたら、すぐに藤やエゴノキなど、初夏の花々が咲き始めるはず。
 この季節、仕事の行き帰りに道路沿いの山を眺めては、日本に生まれてよかったなあ、田舎に住んでてよかったなあと幸せを噛み締めるのです。
 というわけで、今月は八重桜(たぶん)の壁紙です。(山桜を探したけどなかったので……)




 今月の勘違い

またまた我が家のとんちんかん会話集です。
☆テレビアニメ&ゲーム勘違いシリーズ。

・テレビの中のヒーロー「装着!」」
 私「えっ、横着?」
 夫「えっ、太田君?」

・テレビの中のヒーロー「ワイド・ソード!」
 夫「えっ、まいど・ソード?」

・ゲームをしていた息子「ねえ、ゼネラル・マッピーって何?」
 私「えっ、銭洗い弁天?」(ところで『ゼネラル・マッピー』って本当は何なんでしょう……?)

☆夫「今度の旅行、俺は一週間行ってくる」
  私「えっ、オヤジ集会行ってくる?」

☆梅の咲く季節、車の窓から外を見ての会話。
 息子「あ、梅だ!」
 私「えっ、梅田?」(←誰かそういう名前の友達が道を歩いてたのかと……)
 夫「えっ、踏み絵だ?(踏み絵って、あの、キリシタンの……?)」
 私「フミエって誰よ!」(←我が家には、誰かが女性の名前に聞こえる言葉を言ったら必ずこう突っ込むというお約束があります)




 近況報告『今年も野草を食べました』

 毎年恒例の野草料理の話です。(この通信には書かなかった年も、毎年、この季節には、日記でこのネタを書いてる気がするので……)

 去年も食べたフキノトウ、ヨモギのてんぷらは、もちろん今年も食べました!
 そして、今年の新挑戦は、カラスノエンドウ。
 炒め物もけっこう美味しかったけど、やっぱり、てんぷらが最高です。
 あと、ユキノシタのてんぷらも初挑戦。
 そして、タラノメ。数年前から庭にタラの木が勝手に生えてきてて、毎年、芽が出たらてんぷらにしようと楽しみにしていたのに、毎年、その時期に、うっかり見過ごして、ふと気が付くと伸びすぎていたり、虫が付いてしまっていたり……。
 で、今年初めて、芽を収穫することが出来ました! さすが定番の高級食材だけあって、やっぱり美味しかったです。

 そんなこんなで、大量のてんぷらが出来、特にヨモギとカラスノエンドウの量が多すぎて、タンポポ、スミレまでは、手が回りませんでした。
 春先は、てんぷらをするのに、材料を買う必要がないですね。そこらで採ったものだけで食べきれないくらい。
 去年大好評だった柿の葉は、まだこれからです。そろそろ伸びてきたかな?

 うちの庭は、ほとんど草取りをしないので、これらの雑草は、ほとんどが庭で採れます(^_^;)
 ノビルとツクシとフキノトウは、子供たちがどこからか採ってきてくれますが(ノビルの穴場は親にも秘密!)、カラスノエンドウもヨモギもタンポポもタラノメも、みんな庭からの自給自足。自分ちの庭なら、農薬がかかってる心配もありません。そんな雑草がやたらと庭に茂ってること自体に、そもそも問題ありなんですが、それは言わない約束でお願いします(^^ゞ

 参考までに、カラスノエンドウの炒め物の作り方をご紹介。
 ネットで検索したけど、てんぷら以外にはめぼしいレシピがなかったので、これは私のオリジナル開発レシピ(というほどのものでもありませんが……)です。

1 カラスノエンドウは、先のほうの柔らかいところ5〜6センチだけ摘みます。(てんぷらなら多少堅くても食べられるけど、炒め物やおひたし、汁の実にするには、花が咲く前の柔らかい時期でないと辛そうです)

2 よくよく洗います。カラスノエンドウにはアリが付きやすいのでご注意。やっぱり、人間が食べて柔らかくて甘くて美味しいと思うような植物は、虫も好きなんですよね〜。

3 サラダ油で軽く炒めて、かつお節をかけ、鍋肌から醤油を回しいれて出来上がり。
 マメ科の植物だけあって、『豆苗』みたいな味かな? なんとなく栄養もありそうな気がします……。

 ちなみに、カラスノエンドウに限らず、野草料理は、付いていても気が付かないくらいの極小のアリンコやアブラムシなら、もしかしたら実は付いていたかもしれなくても『自分が見なかったものは存在しなかったもの』と割り切って開き直れるだけの図太さを持った人にしかお勧めできません(^_^;)
 お味噌汁やおひたしなどの調理法だと、もし虫が付いてると、浮くから目立っちゃって食べる気がしなくなるけど、てんぷらや、こういう醤油味の炒め物だと、知らず知らずのうちに食べれてしまう(^_^;)可能性大です!




 読書録

『王狼たちの戦旗 上・下』  ジョージ・R.R.マーティン 早川書房

 お腹いっぱい堪能しました〜! 特に下巻の後半の戦争のシーンは、ここまでのクライマックスですね。海の向こうのデーナリスだけはまだ遠くにいて雌伏中ですが、今まであちこちでいろいろやってたいろんな人たちが続々と一つの戦いに巻き込まれてきて。圧巻です。
 いろんな立場の、いろんな人たちの、それぞれの視点にそれぞれ説得力があって、善いだけの人も悪いだけの人もいない、それぞれの想いがある。……すごいです。

 それぞれの登場人物の視点から見た複数のパートが入れ替わり立ち替わり描かれるという構成も心憎いです。一つのパートがいいところで切られて、次の場面では別のパートに切り替わってるから、さっきの話の続きが気になって、どんどん先が読みたくて、そういう状態が次々連鎖状に繰り返されて、読者をぐいぐい引っ張っていく。止められない止らない……。

 今回は、今まで、背景にいたけど意味ありげで気になる存在だったハウンドが、目立ちましたね。いい味出してました。

 あと、ティリオン。いろいろと切ない人です。自分を疎外し続けてきた世界に、肉親に、それでも受け入れられたいと夢見てがんばり続けながら裏切られ続ける彼の胸の内を想うと泣ける……。だから、下巻の最後の少年従者の件では、ちょっと救われた気がしました。あとはせめてあの娼婦に男の純情を裏切られませんように……って、こっちは怪しいなあ……(^_^;)
 がんばれ、ティリオン、しぶとく生き残れ!
 皮肉屋の策士の面と心優しいロマンチストの面を併せ持つ人間味が魅力的です。

 そういえば、この話では、美形な人たちより、容姿の醜い人たちのほうが魅力的な気がします。
 馬面のアリアちゃんとか、『美人の』ブリエンヌとか、みんながんばってるし、ハウンドも、火傷の跡のある怖い顔がセクシーだと思う……。あれで綺麗な顔してたら、てんで面白く無いです。
 ティリオンも、あの容姿だから切ないんですよね。心のうちに屈託を抱えているから魅力的なのです。

 その点、美形陣はあまり優遇されてなくて、ジェイムなんか凄くハンサムらしいんだけど、そのことがストーリー上何か重要かと言うと別にたいした意味はなさそうだし、花の騎士なんて呼ばれている超美青年の騎士がいるらしいけど美貌以外の特徴が見えなくて影薄いし、美少女のサンサちゃんはオツムの軽いおバカさんだし(でもそろそろ彼女も化けるかも?)、薔薇の唇の美少年ジョフリー王子は甘やかされたお子ちゃまな上にサドだし(サンサは化けるかもしれないけど彼のバカ息子ぶりは改善の見込みがないっぽい)。

 あ、でも、美熟女サーセイ女王は、なかなか強烈だし、ある意味、あっぱれですね。あと、デーナリスも美少女だけど大活躍だ。
 要するに、特に醜い人だけが魅力的に描かれているわけではなく、世の中に容姿の美しい人とそうでない人がいるのと同じように作品の中でも美しい人もいればそうでない人もいて、そのどちらもいきいきと描かれている、そして容姿の美醜が単にその人に備わった特徴、個性の一部として普通の比重で描かれているということでしょうか。で、普段、顔がよい人がキャラとして優遇されてるような本を多く読んでるから、この本での、容姿が醜い人たちの活躍ぶりが際立って見えるのでしょうか。

 ところで、ジェイムといえば、どうしてティリオンは彼をあんなに信じて慕っているんでしょう……。子供の頃、唯一、自分を気にかけて愛してくれたお兄さんだっていうんだけど、彼の回想を読む限り、どうも、そんなに本気で愛情をかけてくれてたようには思えないんですが……。
 子供時代のティリオンがあまりにも孤独で不遇だったので、ほんの気まぐれに分け与えられた切れっぱしの愛情でさえ、彼にとっては凄く大きかったということでしょうか。それとも、私に読み取れなかっただけで本当に強い兄弟愛の絆があるんでしょうか……。

 ただ、この話、実はファンタジー(と見せかけてもしかすると実はSFなのかもしれないけど)らしい超常現象もちゃんと起こる世界なんですが、基調が『架空歴史もの』っぽくて、リアルな部分が非常にリアルなので、時々、ここが非現実的なことも起こりうる世界であることを忘れてしまっていて、急に魔法(?)を使われたり、非現実的なことが起こると、(あれっ?)と思ってしまうこともあります。翻訳のせいか、それとも元々の作風なのか、幻想的なシーンや神秘的な現象を描く時にも、描く手つきがリアルな事柄を描く時とあまり変わらず、同じような調子で淡々と描写されるので、『物語の中で、今現在、その世界の科学では解明されない不可思議な出来事が起こっているのだ』ということにすぐには気が付かなかったということが、一度ならずありました。ただの比喩とか言葉のアヤだと思ってうっかり読み流しそうになってから、途中でやっと、これはどうやら本当に不思議なことが起こっていたらしいと気づいたり。それって、私だけでしょうか……?


『キーリ2』 壁井ユカ子 電撃文庫

 冒頭の機械人形のエピソードあたりでは、なんか、もう、こういう一話完結型『ちょっとじんと来る話』路線でマンネリ安定化してしまうんだろうかと、ちょっと不安になりましたが、ちいさなエピソードを重ねつつ、ちゃんと全体で大きなうねりのある物語になってて、独特の雰囲気も健在で、ほっとしました。
 ユーリ君、可愛い。この人、子供を描くのが上手いなあ。
 砂の海、砂船という設定は魅力的だけど、途中で、時々、海が実は砂だということを忘れかけました(^_^;)
 あと、ハーヴェイの新しい右手さんに、ちょっと萌えv


『キーリ3』 壁井ユカ子 電撃文庫

 ふと気づいたら、『2』と、ほぼ同じ構成ですね。最初に、アパートの上階の女の子の霊という単発っぽい小さなエピソードをひとつ解決して(『2』では機械人形のエピソード)、一応、そのエピソードにも最後の方まで後を引かせつつ(『2』では右手が仲間に加わり、『3』では「この街が好きか」という問いかけが通奏低音のように後を引く)、二つ目に呪いのタイプライターのエピソード(『2』ではユーリ君のエピソード)、その後、一冊かけて大きなエピソード(『2』では人身売買絡みのトラブルに端を発する一連の事件、『3』では宇宙船遺跡での出来事)を描くという……。

 で、今回も、最初の単発エピソードにあまりにも新味がないのでシリーズの先行きが不安になって、そういうエピソードの繰り返しじゃないことにほっとする……というふうに、私の反応も同じパターンでした(^_^;)

 ただ、今回は、舞台となる街の雰囲気が、私にはいまいち伝わってきませんでした。ちょっと傾いた街並みや、荒野に放置された宇宙船の廃墟というイメージはとても魅力的なんですが、その魅力がいまひとつ伝わってこないような……。
 描きたかった雰囲気は分かる気がするんだけど(宮崎アニメに出てきそうな街のような気がする……)、描写が少ないのか、時々自分で思い出さないと、そこがそういう街だということを忘れてしまう感じ。私の読み方が悪かったんでしょうか……(^_^;)


『ICO 霧の城』 宮部みゆき 新潮社

 今更ですが、話題のゲームの、話題のノベライズ。
 元になったゲームはプレイしたことがなく、弟がプレイしてるところをちょっと覗いただけですが、確かに独特の、心惹かれる雰囲気のあるゲームのようですね。

 本の方では、ほぼオリジナル設定らしい冒頭の一章は大変面白く、ぐっと引き込まれて、普通にファンタジーとしての期待感が高かったのですが、たぶんゲームの内容に沿っているのだろう途中の章は、正直言ってちょっと退屈でした(^_^;)

 というのは、元のゲームを知らないせいかもしれませんが、ゲームの中ではメインの要素であるのだろう跳躍や逃走、戦闘シーンが、文章で読むと分かりにくく退屈なのです。建物の構造がどうだとか、どこの壁までどのくらいの距離があって、そこまでどうやって跳んだか跳べなかったかとか、文章で説明されてもぼーっと読み流してしまっては分かりにくく、かといって、そんなところはなんとか理解しようと一生懸命注意して読み取らなければいけないような部分とも思われず……、小説としては、ちょっと中だるみ?
 ジャンプのシーンなどは適当に読み流せばよかったんでしょうが、どうも私は読み流すのが苦手で、ついつい全部、さほど重要で無い部分も真面目に読もうとしてしまうので、ちょっと辛かったです。

 でも、これもほぼオリジナルらしいヨルダの過去のシーンなどは、また、面白かったです。
 全体としては、独立したファンタジーとしても面白く、随所に泣かせ節も入ってて楽しめたのですが、あらためて、ゲームのノベライズって難しいんだなあと思いました。


 『我が家のお稲荷さま。』 柴村仁 電撃文庫

 実は、表紙の狐耳の巫女さんや、口絵とそこ添えられた文章などを見て(なんだ、萌え系か……)と、半分くらいはすでに食傷気分になりかけたんですが。いえ、絵柄そのものは可愛くて好みだったんですが、最近の萌え系の席巻ぶりにはちょっとついていけないものを感じていたので……。
 でも、『お稲荷さま』という題材にはちょっと興味を引かれたので、念のために読んでみたら……『当たり』でした。とっても楽しかったです。なにしろ笑える!

 ほのぼのお笑いで、ほのかに青春で、最後にはちょっとしんみりも。
 キャラも立ってるし、民俗学的な方面も、ライトだけどけっこう興味深い扱いがされてます。
 それに、文章もうまいです。ライトノベルによくある自己顕示的な文章ではなく、ごく普通に読みやすい、落ち着いた、特に文章がどうこうと思わずにすらすら読める文章です。

 ストーリー的には、ほぼ、児童文学に近いです。特に冒頭のほうは、「田舎の親戚の家で不思議な冒険をする」という児童文学の黄金パターンなので、(これは、17歳のお兄ちゃんの年齢をもう少し下げて、『萌え』をあからさまに前面に出さずに、感じ取るアンテナを持ってる人だけが見出してくれるように奥ゆかしく香らせる程度にすれば、児童文学としても通用するのでは?)と思いました。

 でも、読み進めて行くと、間違いなくライトノベルですよね。お笑い部分のパロディ的なノリと、演出などがアニメっぽいところなど(あと、タイトルに『。』がついてるところもライトノベルだ!(笑))。
 もしアニメ風のキャラ絵がついてなかったとしても、例えば最初の方の、おばあちゃんが誰も居ない庭先で「○○は居るか」というと即座にどこからともなく人影が現れる、みたいなシーンなど、アニメでとてもよくある類型的なシーンで、アニメをよく見る人には、そのシーンがちゃんと脳内でアニメ風に展開されるのです(……と、思います。アニメをぜんぜん見ない人は、そこがアニメっぽいということにも気づかないかもしれませんが)。

 ……そうか、私の『ライトノベルであるか否かの判断基準』というのは、『自分の脳内で展開する映像がアニメまたは漫画であるか、実写又は油絵等であるか』なのかもしれません。非常に主観的、感覚的な基準ですね(^^ゞ

 あと、先月感想を書いた『ライトノベルめった斬り!』で、『大きな物語』がないことが『ライトノベル度』を上げる要件になっていたを思い出して、「なるほど、たしかに……」と納得しました。これに『環境問題』という『大きな物語』を絡めると『ぼくの稲荷山戦記』(たつみや章)で、たしかに、あっちは児童文学で、これはライトノベルだなあ、と。

 確かに、そうなんです。これには、『環境保護』とか『世界の平和』とか、大きな物語は出てこないんです(『ご町内の平和』なら出てきてるかもしれませんが(^_^;))。
 で、『大きな物語』がないからもの足りないかと言うと、そうでもない。別に、そんなものなくても成立してる。これでシリーズ化されると(てゆうか、もう既に四巻まで出てるはずなんですけど)、ヘタすると、日常ギャグだけじゃ何巻も間が持たないからと、そのうち世界を滅ぼそうとする勢力とか出してきて、世界を守るために戦うみたいな方向に持っていくこともできてしまうと思うんですが(そうすると『帝都夢幻道』(高瀬美恵)みたいな話になりそうかな?)、そうならずに、このまま、こぢんまりと、ほのぼの・おバカで十分かなと。

 最後は主人公の一人がささやかな心の痛みから解放されてちょっぴり成長する(たぶん)ところできれいに締めてるので、『成長しない』のほうは当てはまっていないと思いますが。

 というわけで、楽しかったです。
 一番笑ったのは『本屋に入るとトイレに行きたくなる』のくだり。そうかあ、それにはちゃんと、わけがあったのか……(笑)。
 あと、恵比寿様の可笑しいことといったら……。狛犬も可愛いし、橋姫もいいし、おイナリさんも作れる主婦歴12年の男子高校生もナイスです!(笑) そんなお兄ちゃんのガールフレンドも、典型的な少年漫画の同級生ヒロイン風で、ほのかに爽やかに青春してていい感じだし、説明ベタなコウの身振り手振りも楽しくて可愛い。
 そして何よりクーがフローリングの床をあるくと爪が当たってカチャカチャいうところにニマニマ〜v 


『ヴィシュバ・ノール変異譚』 水杜明珠 コバルト文庫

 あっと驚くほど少女趣味なメルヘンの世界。谷山浩子の一番少女趣味な部分から毒を抜いた感じかも(谷山浩子は少女趣味なものにほど毒があることが多いので……)。
 こんな、なんとも可愛らしい作品が、つい10年前にコバルトで出てたんですねえ。

 ヒロイン、マールの私の脳内イメージは、ちび猫@綿の国星の猫耳を取って少し成長させた感じ?
 すなおで純粋無垢、あどけなく、なんの打算も邪心も持たない、古風な少女漫画や少女小説の中にしか存在しないような真っ白ふわふわの綿菓子みたいな女の子ですが、厭味はないです。
 こういう女の子像って、男の子向けの理想の美少女像とはまた違うんですよね。あくまで永遠の『少女』であって、『女』の部分や『母親』的な要素が無いのが違いでしょうか。

 この作品、同じ内容でも、もっと重厚だったり硬質だったり妖艶耽美だったりな文体で書かれたら、ぜんぜん違うものになったかもしれない気もするんですが、文体まで、あくまで少女趣味。軽やかな少女小説の文体で、だから、もしイラストがついてなくても脳内でちゃんと少女漫画の絵柄に変換されたことでしょう。写実的な絵柄や実写の映像は、絶対に思い浮かばないです。
 たまにはこういう、心地よい少女趣味の世界に浸るのも悪くないですね。


 『空の鐘の響く星で5』 渡瀬草一郎 電撃文庫

 やっとビジターたちが本格的に動き出しましたね。面白くなってきました。続きが楽しみです(そういえば、もう出てるはず……)。

 ところで、この話、ふと気が付いたら、美少女だらけなんですねえ……。主役級から敵側、端役まで、女性キャラのほとんど全員が、うら若い美女・美少女ばかり!
 おばあさんキャラは印象的なのがいるけど、おばあさんじゃないけど特に若くも無い女性とか、若いけど特に容姿が優れない女性とか、全く、一人もいないじゃないですか! あ、女騎士ディアメルは、特に美人とは書いて無かったかな? それくらいで、後は、女性と言えばみんな、一人残らず、若くて美人ですよ!

 まあ、年頃の娘さんというものは、よほどのことが無い限り(笑)ほとんど誰でも、みんなそれなりに綺麗だったり可愛かったりするものなので、若い女性がいっぱい出てくればそれだけで美女・美少女だらけに見えるのは不自然ではないのかもしれませんが、若くない女性の姿がぜんぜん見えないというのは、やっぱり妙だよね……(^_^;)
 おばあさんでも美少女でもない女性と言えば王妃様たちくらい? いや、でも、王妃様たち、すでに成人した息子がいる世代だから、ほぼ『おばあさん』ですよね……。
 やっぱり、この世界には、女性は美少女かおばあさんのどっちかしかいないらしいです(^_^;)

 で、もう一つ不思議なのは、そんなに美少女ばかり出てくる割に、いまいち華やぎがないということ。文章が落ち着いているからでしょうか。リセリナなんか、『時々猫化して暴走しちゃう、そしてその時は超大胆に主人公に迫っちゃう女のコ』という、描きようによってはすご〜く『萌え〜!』になりうるはずの設定で、明らかにそれを狙ったサービスシーンもちゃんとあるのに、そのわりに、やっぱり地味だ……(^_^;)
 なんでこんなに美少女だらけなのに、いまいち地味なのか……。謎です。ていうか、きっとそういう枯れた作風なんですね。文体が理性的なんですよね……。


 『グインサーガ99』 栗本薫 ハヤカワ文庫

 毎度のことながら、以下、ネタバレありです。どうせ、読んで無い人には何のことだか分からない書き方しかしていないので大丈夫とは思いますが……。
 文字反転はしてませんので、以下、ネタバレ注意です↓



 ああ、もう、グインとイシュトヴァーンのああいうやりとりを読むたびに、毎回、もどかしくなるんですけど……。

 グインに限らずカメロンでもマルコでも、そういう相手にイシュトが甘えながら八つ当たりしたりいきがったりしてるのを読むたびに、ああ、もどかしい、じれったい、しちめんどくさい、隔靴掻痒……みたいな気分になるんです。誰もイシュトヴァーンの心に直に触れられないのが『隔靴掻痒』感を醸し出すんですよね。

 そのたびに、別に変な意味ではなく(ああ、もう、誰でもいいから、そこでイシュトをぎゅっと抱きしめてあげさえすれば何もかもそれで済むのに、彼に必要なのはそれだけなのに……)、(ほら、いまだ、それいけ、そこでぐだぐだ言ってないでとにかく心から受け止めて抱きしめてあげさえすればそれですべて解決するんだ!)みたいな気がしてしまうのですが、いや、でも、本当は、そう簡単に行くものじゃないのも分かってるんですが……。

 本当に彼に必要なのは、自分でも気づかずに求めているのは、誰かにそうやって抱きしめてもらうこと(別に物理的な動作に限らず、精神的に受け入れられること、愛されること)だけなんだけど、だからといって、本当にそこでグインがいきなり大きく動いて抱きしめようとしたりしたら、当然、攻撃されると思って反撃してくるか、実はやっぱりヘンな趣味でもあるのかと(笑)誤解されてやっぱり反撃されるかのどっちかに決まってますよね。
 だから、ほんとに物理的に抱きしめるわけにはいかないけど、言葉で温もりを伝えて、象徴的な意味で抱きしめてあげようと努力してみたっていいのに、グインにはぜんぜんそうする気がないのがいらだたしいったら(^_^;)

 このあいだ、『トリビアの泉』で、「野生の一匹狼の吠え声をバウリンガルで翻訳したら『ぼくはどうしたらいい?』と言っていた」というのをやっていましたが、イシュトヴァーンにバウリンガルを付けたら、すべての言葉が『構ってくれ〜愛してくれ〜抱きしめてくれ〜』と聞こえると思うんですよ。グインを打つ鞭の音でさえ。
 これまでだって、イシュトヴァーンは、グインと向かい合うたびに、嘴の黄色い雛鳥よろしく、常に『他のやつなんか構わないで俺だけ見ててくれ、褒めてくれ、認めてくれ、受け入れてくれ、甘えさせてくれ』みたいな『クレクレ・オーラ』出しまくりだったのに、グインはその大きく開いて餌を求める黄色い嘴をおそらく見てとっていながら、自分でそこに餌を放り込んであげよう、堕ちてゆこうとするイシュトに自ら手を差し伸べて引き止めてあげようという発想がぜんぜんなかったですよね。

 カメロンとかはイシュトヴァーンのそういうところにハマっちゃったわけなんでしょうけど。で、他にも、『黄色い嘴』の魔力に囚われてしまった人はみんなイシュトを救えるどころか自分もロクな目にあわないことに決まってるんですけど。『黄色い嘴』というものは往々にして非常に貪欲で、永遠に満たされることが無かったりするものなので、時に、他人の人生まで食い荒らすのです。
 そして、どのみち、既にあまりにも心が硬化してしまっているイシュトヴァーンは、乾きすぎた地面がもう水を吸収出来ないように、誰かに愛されていても、既に受け入れることが出来ないのは分かってるんですけど。

 だから、あえて黄色い嘴を見てみぬふり(なのか、実は本当に気づいていないのか……)で一線を引いてるグインは賢いし、正しいとは思うんだけど……でも、正しいとは思うけど、優しさの出し惜しみっぽくて、読んでてもどかしいです。
 今は記憶を失ってて、自分とイシュトヴァーンとのいきさつもすっかり分からなくなって状況を探ってる状態だから、しかたないんですが、そうなる前に、もっと早くに、グインがもっと深く親身にイシュトヴァーンと向き合っていれば、途中で修復の機会はいくらでもあったはずなのに。そうすればイシュトも、あそこまで荒んでしまわなくてすんだかもしれないのに。(まあ、二人の関係が修復されてしまったら、先々のストーリー展開上、まずいんでしょうが(^_^;))

 ハタで見ている読者にはイシュトに必要なのが何かは分かっているんだけれど、グインにはそれが分かっていない、あるいは分かっていても自分でそれを与えてあげる気はない……そういうもどかしさは、シルヴィアとグインを見ている時にも同じだったんですけど、その辺りが、グインのダメなところなんですかねえ。人の心がとてもよくわかっていそうで、とても包容力がありそうで、意外と、ダメ(^_^;)
 やっぱりそのへん、グインの大きな欠陥なんだなあ……。正しく立派なばかりが能じゃないのに。時には相手と同じところまで降りてきて、ただ傍らに寄り添ってあげるしかない時もあるのに。
 あと十年も、記憶を失わずに人間界で生きていたら、グインも、大所高所から公平に冷静に人物を見極め判断することではなく、相手のいいところも悪いところもひっくるめて無条件で人を愛し受け入れ包み込むという大いなる『えこひいき』の能力を身につけることが出来るのでしょうか。
 そう、グインに足りないのは『大いなるえこひいき』の能力だよなあ……。
 イシュトヴァーンはともかく、シルヴィアは、グインにそれがあれば救われることが出来たかもしれないのに。
 (いや、まあ、シルヴィアとも、ほんとにうまくいっちゃったら、ストーリー展開上、まずいわけですが(^_^;)) 

 というわけで、シルヴィアの時も、さんざん、(ほら、このバカ、そこですかさず押し倒せ!)(笑)みたいなことを思ってイライラしたんですが、イシュトヴァーンと話している時も、毎回毎回、(ほら、今、誘ってるじゃん! 黄色い嘴がねだってるじゃん! なんでそこで何かもうちょっと優しいことを言ってあげられないのよ! もう一歩踏み出して歩み寄ってあげないのよ! 全力でまっすぐに向かい合ってあげないのよ!)みたいな感じで、ああ、じれったいったら。

 まあ、シルヴィアはともかく、イシュトヴァーンは、同じ場所まで降りていって抱きしめてあげたら、溺れかけた人が救助者にすがり付いてもろともに溺れてしまうように、共に破滅してしまうだけだとは思いますが。イシュトヴァーンの黄色い嘴は、『俺を本当に愛してくれているのなら、世界を巻き添えに俺と心中してくれ、そうしたらその時こそはあんたが本当に俺を愛してくれていたのだと信じよう(でもそのときには二人とももう死んでるけど)』と言っている気がするので。
 でも、他の、普通の人ならダメでも、もしかして、あれだけでっかいグインなら、しがみつかれながらも、一緒に沈んでしまうことなく、その逞しい腕で、力づくでイシュトを暗い淵から引き上げることが出来るかもしれないような気がしてしまうんです。
 なんたってグインなんだから……。
 それなのに、グインはその力を出し惜しみしてるみたいに見えて、「しょせんグインにとってイシュトはそこまで親身になる理由もない相手でしかないのかな。グインってば冷たいよ……(T-T)」みたいな……。

 誰でもいいから抱きしめてあげてよ、イシュトヴァーンを……。親を求めてぴいぴい鳴いてる黄色い嘴が痛々しいじゃないですか。
 でも、あそこまで荒んじゃってたら、もう手遅れですよね……。地表がこちんこちんに固まっちゃってるから、水も染み込めないですよね。
 まあ、ストーリー展開上、イシュトヴァーンは、『誰かの愛で救われるにはもはや手遅れ』じゃなきゃ困るわけですが(^_^;)

 『イシュトヴァーンを抱きしめて赦す』という役目は、最終的にはあのミロク教徒の女の子が受け持つんですかねえ……。おそらくはイシュトヴァーンの破滅のきわに。
 私、イシュトヴァーンは特に好きなキャラというわけじゃないんですが(嘴の黄色い男はご免だ!)、彼にも、死に際にくらいは救われて欲しいものです。

 ……ああ、語っちゃいましたよ……(^^ゞ
 さて、次はいよいよ100巻だ! もう買ってあるんですけど(100巻目の表紙はやっぱりグイン\(^o^)/ やっぱりここはグインじゃなきゃね!)、図書館から借りた本を先に読むので積読中。

☆その他、メモ。『風の王国2』読了、『風と暁の娘』『キーリ4』読み途中


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