月刊カノープス通信
2004年10月号

 目次 

・季節の便り
・今月の勘違い
・近況報告『三年一日』
・読書録
(『シャーリアの魔女第二部』『白い果実』他)


お知らせ:『月刊カノープス通信』は8月から毎月20日更新になりました。
次回、11月号のアップは11月20日の予定です。



 季節の便り『窓からむかご』

 台所の窓の外側の格子に、いつのまにか、ヤマイモの蔓が絡んでいました。
 面白いので、草取りの時もわざと取らずにいたら、秋になって、『むかご』が生りました!
 台所の窓を開けて手を伸ばせばむかごが採れるなんて、なんてラッキー!
 嬉しくて楽しいので、しばらくそのまま生らせて鑑賞していましたが、今日、窓を開けて収穫しました。
 片方の掌に乗る程度の量ですが、塩を振って電子レンジでチンして、美味しく頂きました。

 ところで、地上にヤマイモの蔓があるということは、地面の下にはヤマイモが生っているということですよね。掘れば、採れるんですよね!
 さすがにそちらは実際に収穫するのは難しいと思いますが、庭の地下にヤマイモが育っていると思うと、なんだか楽しいです。
 そういえば、前にガスの検針に来たおじさんが、その辺に絡んでいる蔓を見て、たまたま居合わせた夫に向かって『お宅にはいいヤマイモがありますね〜、いや〜いいですね〜』と、さんざんうらやましがって帰っていったそうですが。

 しかし、あの窓の格子には、数年前までは蔓バラを絡ませてあったんですよね……。それが、今じゃ、ヤマイモ……。フェンスの薔薇もゴーヤに覆われてしまったし、だんだん、『花より団子』度が上がっていくような……?(^_^;)



 今月の勘違い

  毎度おなじみ、あいかわらずの勘違い集です。

★夫「あっ、画鋲が落ちてた!」
  私「え〜、どこ、画鋲?」
  夫「えっ、冷凍庫・画鋲? 冷凍庫になんか、ないよ」

★ペットボトル入りのアイスコーヒーのパッケージに『エチオピア シモダ地区の豆』と書いてありました。一瞬、どうしてエチオピアに下田地区があるんだろうと思って、良く見たら、シダモ地区の見間違いでした。

★子供たちが見ているテレビの子供向けバラエティ番組で紹介していた、視聴者からのお便り。
『私はキンニクシツのコーナーが大好きです。もっと毎回やって欲しいです』。
 ……『筋肉質のコーナー』って、何? そういえば体操コーナーがあったけど、あれのこと? そういえば、ショッキングピンクの体操服姿の体操のお兄さんが、毎回、『筋肉、可愛いv』みたいなタワケた合言葉を言っていたしなあ……と、そこまで考えてから、ふと気づいたら、たぶん『心理テストのコーナー』だったんですね(^_^;)



 読書録

『シャーリアの魔女第二部 夢の灯りのささやく時(上・下)』  ハヤカワ文庫

 長い長いプロローグという感触だった第一部から、第二部に入って、俄然、話が良く動き出しました。
 ばらばらに生きてきた4人の仲間のうち、第一部で巡り合えたメガン以外の残りの二人も徐々に集まりつつあるようだし。
 というわけで、話自体は面白いんだけどいまいち入り込みにくて読みづらかった第一部よりは、だいぶ集中しやすくなったような。

 この本、とっても面白い話なのに、なぜか微妙に読みにくいのには、直訳調の翻訳のせいもあるような気がします。別にこの本が特にすごく悪いというわけではなく、翻訳もの全般によくあることなのですが。
 言っては申し訳ないんですが、翻訳家の方は、あくまで翻訳家であって文学者とか作家ではないことが多い(作家で翻訳家の人もいるけど)ので、英語(なり他の外国語なり)には堪能でも、必ずしも日本語にも堪能とは限らないじゃないですか。本当に失礼で申し訳ないんですが……。
 ああ、すべての英米ファンタジーを井辻朱美さんが訳してくれれば、あるいは、この下で紹介している『白い果実』みたいに二度手間をかけた贅沢な訳し方をしてくれたら、すご〜く幸せなのに! ……なんて、井辻朱美さんが何百人もいないと無理ですね(^_^;)
 誰か井辻朱美さんを百人分クローン培養してください(笑)

 あと、もう一つ、私がこのお話にいまいち没入し難いのは、人間ドラマに共感しにくく、恋愛ものとして感情移入しきれないせいもあるかもしれません。
 別に、そこに描かれている人間関係の在り方に好感が持てないとか、ヒロインや相手役や恋愛のシチュエーションが趣味でないとかいう、好みや価値観の問題ではなく、ただ、単純に、登場人物の感情の動きが、うまく読み取れないのです。

 これは、このお話に限らず、海外作品の場合、たいていそうなのですが、会話の機微や感情の動き方が、いまいち理解できないことがままあるのです。
 例えば、『彼女がこう言ったので彼は笑った』と書いてある時に、彼女のその言葉に彼がなぜ笑いという反応を起こすのか、その笑いが心からの笑いなのか、あるいは苦笑いや冷笑なのか、いまいち状況が分からなくて釈然としないという場合もあるし、さらに、彼が笑った理由を、ちゃんと『彼女がこう言ったので、彼は愉快な気分になってほがらかに笑った』とはっきり書いてあってさえも、彼がなぜそれで愉快な気分になるのかという因果関係が、感覚的にいまいちぴんと来なかったり。
 それは、翻訳のせいと、文化の差異による感覚の違いの両方のせいなのではないかと思います。

 というわけで、このお話に出てくる人たちの心の動きも、私にはいまひとつ読みきれず、それもあって、ヒロインと自分との一体感が持ちにくく、どっぷり感情移入した読み方が出来ないため、物語への没入が難しいようなのです。ちょっと惜しいです。これでヒロインの恋愛に一緒にときめければ、ぐんと熱中度が上がったと思うのですが……。

 とはいえ、とにかく、お話自体は面白いです。
 海辺の洞窟とか、森の小屋とか、魔女の里の遺跡とか、ホログラム(?)が浮かぶ星井戸とか、非常に魅力的な要素も多く、ストーリーも波乱万丈。

 そして、なんと言っても私にとってこの物語の一番の魅力は、二つの太陽に照らされた異星の光景です。空を渡る二つの太陽の動きや、二つの太陽の金と青との光に照らし出された地上の光景が鮮明に描写され、物語に魅力的な彩りを添えています。それがなければ、ただのありふれた中世ヨーロッパ風世界が、二つの太陽に照らされることで、がぜん幻想的な美しさを獲得して、私をわくわくさせてくれるのです。


『白い果実』  ジェフリー・フォード 国書刊行会

 世界幻想小説大賞受賞のアメリカのSFです。三部作の第一作目。

 この本のすごいところは、豪華な訳!
 なんと、翻訳家の方が訳した日本語を、さらに、硬質華麗な文体のSF作家・山尾悠子さんが自分の文体に移し変えるという、贅沢な二度手間をかけた一冊なのです。
 元の翻訳の方も、高名な金原瑞人さんとそのお弟子さんの共訳。そこに、さらに、『幻の』がつきそうな寡作の作家、山尾悠子。
 たまたま金原さんと山尾さんが知己だったから持ち上がったらしいこの企画を実行した国書刊行会はすごい出版社だ……。普通、一冊の本にそこまでの手間はかけられませんよね。
 私は完全に山尾悠子の名前で釣られました。山尾文体のファンなんで、とにかく山尾さんの文章が読みたくて。

 前にも書いたと思いますが、山尾悠子さんの文体は私の憧れなのです。内容を越えたところで文章だけで酔える稀有な作家さんなのです。
 きっと、この人は、『朝起きて、顔を洗って歯を磨いて、ご飯を食べて会社に行ったら途中で犬のう○こを踏んで臭かった』とか『仕事は毎日つまんないし、課長はイヤミでムカツクし、係長はぜんぜん使えなくて迷惑だし、隣の席の山田は髪型がキモいし、社員食堂のご飯はまずいし、こんな会社、もう嫌だ……』とか、そういうことを書いても、内容とは関わり無く文章だけで私をうっとり酔わせてくれるに違いない!

 というわけで、ただ『山尾悠子の文章が読みたい』というだけで読んだ作品ですが(原著者の方、ゴメンナサイ)、内容的にも面白かったです。一応SFということになっていますが(らしい)、『幻想小説』のほうがぴったりきます。いや、むしろ、あの、イメージのオモチャ箱をひっくり返したような過剰さには『奇書』という言葉が似つかわしい気も。
 ストーリーについては、三部作の第一作目ということで、まだなんとも言えませんが、視覚に訴える奇想の連続で、金原瑞人さんが、『この作品には山尾悠子の文体が欲しい』と思ったというのも頷ける、たしかにそういう系統のお話です。そういうのが好きじゃない人には『なんじゃこりゃ???』だけど、好きな人は好き、みたいな(^_^;) 

 個人的には、前半は陰惨で暴力的でヒステリックなのにちょっと飽き気味でしたが、後半、話に動きが出てきて、がぜん面白くなり、特に、憂愁を含んだ硫黄採掘場のパートが好きでした。物憂い南の島の古いホテルのバーでピアノを弾くお猿のバーテンダーがラブリー!

 文章の方は、やはり自分の作品で無いからか山尾節全開という濃い感じではなく、比較的プレーンな文体でしたが(本当にそうなのかどうか良くわからないけど個人的にはそんな印象を受けた)、それでも、言葉の流れが美しく、独特の言い回しに雰囲気があって、気持ちよく浸れました。


『流血女神伝 昏き神の鎖(中)』  須賀しのぶ コバルト文庫

 ネタバレ注意です。反転はしませんので、未読の方でネタバレを気にする方は、ここから下、読まずに引き返してください。今月の『月刊カノープス通信』はこの感想で最後ですので……。




 というわけで、以下↓、超ネタバレ感想。

 愛妾と娘に骨抜きのドミトリアス……。
 ああもう、お兄ちゃんってば、しっかりして! おしりぺんぺんしてあげたい! ……と思っていたら、私のかわりにパパ上様がお出ましになって、ぐーで殴ってくださいましたね(^_^;)
 なんか、お兄ちゃん、ビンタしたりされたりするシーンが多いような……?
 ビンタの似合う男、ドミトリアス(笑)。

 でも、1歳の娘にメロメロになってても、実は彼は思った以上に重要人物だったようで……。
 最初は本当にその場限りの端役だと思っていたのが実は意外と重要なキャラだった……とは思っていたんですが、更に更に、思った以上の重要キャラらしい。
 ということは、今後、このまま平和に家族サービスなどしてはいられなくなる可能性大ですね。そうでなくても彼がこのままほのぼのとパパちゃんをやってるうちに話が終わるとは思えない……。

 そして、ついに物語は激動の時にさしかかったようで。
 いえ、今までもカリエの運命は激動し続けていましたが、今度はついに世界そのものに関わる、物語の核心にさしかかりつつある感じで、みんな続々と運命の地ザカールに集結しはじめましたね。
 ラクリゼにサルベーンにエド、トルハーン、もしかするとミュカ……。
 今まで声や気配だけの見えない脅威だった黒幕(?)・現クナムもついに生身で登場だし。
 当然、バルアンもこのまま放置状態では終わりませんよね?
 さあ、お兄ちゃんも一人でうかうかしてる場合じゃないぞ!
 まさかそのまま蚊帳の外で家庭問題に悩んでいる間に話が終わるなんてことは無いよね!? あったら怒る!(笑)

 サルベーンといえば、地下牢以降のシーン(ラクリゼとの会話とかエドとの逃避行とか)を読んでいて、初めてサルベーンをもしかして魅力的かもしれないと感じましたよ。今までは本編外伝通してぜんぜん受け付けなかったんだけど、なかなか愉快な面もあるのね。

 そして、エド。最後の最後にカリエの隣にいるのに相応しいのは、結局、彼なんじゃないかという気もします。最初に出会った相手だし。サルにはラクリゼが、お兄ちゃんにはグラーシカ他一名がいるし(ていうか、そもそも『お兄ちゃん』だし……)、ミュカは『お友達』だし(哀れ……)。

 まあ、エドじゃないにしても、誰かバルアン以外の他の人ですね。バルアンとよりを戻して大団円、は、わたし的には却下です!
 やっぱバルアンなんか踏み台でしょ、通過点でしょ。カリエの本命、運命の相手は、あいつじゃないでしょ。ていうか、そうあってもらいたい。ただ単に、バルアンは私の好みじゃないからというだけの理由ですが……(^^ゞ

 というわけで、下巻が楽しみ!


★その他、『リューンノールの庭』読了、感想は書く暇なかったから来月。『グインサーガ外伝 初恋』『ICO 霧の城』『偽悪天使』読み途中。



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