月刊カノープス通信
2004年8月号

 目次 

・季節の便り
・今月の勘違い
・近況報告『衝突事故』
・読書録
(『キターブ・アルサール』シリーズ、『血族の物語』、『家守奇譚』他)

お知らせ:今月から『月刊カノープス通信』は毎月20日更新になりました。
次回、9月号のアップは9月20日の予定です。




 季節の便り

 今年の夏は暑い暑いと言われていて、実際、暑いことは暑いんですが、夏も終わりかけた今、私の体感としては、むしろ、今年の夏は涼しかったような気がするんですが……(あくまで私の家のあるこの付近一帯についてですけど)。
 たしかに七月はすごく暑かったですが、その分、八月に入ってから、普段ならまだ暑さの盛りという時に、早くも残暑という雰囲気になったからかもしれません。
 特に、この辺では、八月に入って日中は暑くても朝晩は涼しいことが、普段の八月に比べて多かったような気がします。雨が少なくて湿度が低かったせいでしょうか?

 うちはクーラーがないので、一晩中、寝室の窓を開けっ放しにして寝ますが、いつもなら、二階の寝室は、、夜の早い時間だといくらなんでも我慢できないくらい暑くて、深夜になって暑さが和らぐのを待ってからでないと寝られないのです。
 が、今年は、八月に入って以来、そういう、我慢できないほど暑い夜がほとんどなく、日中がかなり暑かった日でも、夜の十時ごろには寝室が十分涼しくなっていて、日によっては、窓を開けておくと寒いから閉めて寝ることも多く、窓を開けて寝た時も、明け方、寒くなって目が覚め、窓を閉めたり。
 それどころか、極端に寒がりな私は、半袖では寒くて長袖のパジャマを出して寝たり、毛布を掛けて寝た夜も多いです。いくら寒がりでも、普段、真夏にそんなことは滅多にないんですが……。

 日中は、空調のある屋内の職場で働いているので、いくら暑くてもあまり関係なく(……といっても、空調があるから涼しいというわけではなく、鉄板や大型冷蔵庫の発する熱で外気温に関係なくどっちみち暑いから!)、夜さえ涼しければ『今年は涼しい』という気がするらしいです。
 でも、きっと東京は夜も暑かったんでしょうね。




 今月の勘違い

  毎度おなじみ、あいかわらずの勘違い集です。

★夫がテレビの音楽番組を見ていると、
「それでは、ラベルの『田端の女王ナントカカントカ』です」というナレーションが聞こえたので、びっくりして字幕を見たら、『田端』ではなく、『パゴダの女王レドロネット』でした。ラベルが『田端の女王』という曲を作曲してたらびっくりですよね!

★動物園で不思議な模様の亀を見ました。その亀についての会話です。
 私「紐で作ったような亀だったよね!」
 夫「えっ、シマリス食ったような亀?」

★スーパーで白菜を買って来たら、最近では珍しい『斑(ふ)』入りの白菜でした。昔は白菜の軸の部分に黒っぽい斑(ふ)が入っているのは当たり前でしたが、最近は見栄えの悪さが嫌われてか、斑が入っていない白菜が主流になっているような気がします。その時の夫と私の会話。
 私「珍しく斑のある白菜だったよ」
 夫「えっ、ルノアール白菜? なに、それ?」

★テレビを見ていると、化粧品か何かののコマーシャルで『野生のアミノ酸が……』と言っていました。
なんだろうと思ったら、どうやら薬用アミノ酸の聞き違いだったらしいです。

★夫が友達にメールを打った時のこと。『今日は涼しいね』と書くつもりで『すずしいね』を変換したら、なんと『珠洲市伊根』と変換されたそうです。調べてみたら、『珠洲市』は能登半島の、『伊根』は京都の地名なのですね。関係ないですが、地名を調べた時に珠洲市のホームページを見つけ、珠洲市にはゴジラの形をした『ゴジラ岩』があるということを知ったりして(HPに写真が載ってた!)、面白かったです。

★小学4年生の息子が玄関で宅急便を受け取り、
ななじゅうへーの○○さんからだって!」と言って夫のところに持ってきました。
夫は、
(『70へぇ』ってなんだろう、『トリビアの泉』と関係あるのか?)と不思議に思いつつ荷物を受け取って差出人を見ると、『函館市七重浜』の○○さんからの荷物だったのでした。
 どうやら、『浜』を『兵』と見間違えたらしいです。




 近況報告『衝突事故!』

 日記でちょっと書きましたが、7月下旬に、車で衝突事故を起こしてしまいました。
 出勤途中、押しボタン式信号のあるT字路(こちらが幹線道路)を青信号で直進していたら、対向車が急に右折してきて、ブレーキをかけるも間に合わず、相手の横っ腹に追突。
 追突した瞬間、かなりの衝撃があり、エアバッグが膨らんで、パネルのあたりから白い煙が出て車内に充満しました。

 後から考えたら、この煙は、エアバッグが膨らむ際に出るものだったらしいのですが、その時はそんなこと分からないから、びっくりして、
(何だか知らないけど煙が出てるから、下手すると車が爆発して炎上するんじゃないか)と、慌ててドアを開け(その段階で信号が青から黄色に変わるのを目撃)、シートベルトを外して、助手席においてあった貴重品入りのバッグだけ引っつかんで(車が炎上して、バッグに入ってる大事なものも燃えちゃうと嫌だと思って……)、とりあえず車外に脱出し、急いでその場を離れました。

 が、どうやら車が炎上することはなく、煙はすぐにおさまったようで、赤に変わっていた信号が再び青になると、私の車が邪魔で走り出せない両車線の車の運転手さんたちが数人降りてきて、車を路肩に押してきてくれたので、とりあえず深々と頭を下げてお礼を言いました。

 押してきてもらった車を改めて見ると、私の車はバンパーが外れて、前のほう、ぐちゃぐちゃです。タイヤのカバーも思いっきり歪んで、車体の下から何か液も漏れてます(後で分かった所では、ミッションオイルだったらしいです)。

 自分の方も、左手首がひりひり痛み出しました。見ると赤くなってて、やけどらしい。たぶん、さっきの煙が当たったんでしょう。軽症とはいえ、とりあえず冷やさなきゃ!
 そうだ、バッグの中にペットボトルの紅茶がある! ……私は、毎日、仕事に行くときに、昼食の時に飲むための紅茶を家で淹れて冷やし、ペットボトルで持参しているのです。
 ところが、はっと気づくと、なんと、たまたまその日に限って、そういえば、朝、お茶を淹れてる時間が無くて、持っていなかった! なんてこったい!

 でも、幸いなことに、事故現場は私の良く知っている場所で、すぐそこに、良く利用する公民館が見えていました。公民館まで行けば、水道があります。
 そこで、相手の人(若い男性でした)に警察に連絡してくれたか確認してから(私は携帯を持っていないので)、
「やけどしたので、ちょっと、あそこの公民館に水道を借りに行ってきます。すぐ戻って来ます」と言い残し(たぶん、もっと慌てた言い方で、でしたが……)、相手の人が「救急車呼びましょうか?」というのを「救急車はいいけど、とにかく冷やしたいから」と辞退して、公民館まで走り出しました。

 ところが、これが、いつもは車だからすぐ近くだと思っていたけど、歩いてみると、すぐそこに見えてるのに、けっこう遠い!  日ごろの運動不足が祟ってます(^_^;)
 それでもなんとか走って公民館にたどり着き、とりあえず外の野球グラウンドの水のみ場の水で手首を冷やしました。
 あの時間、公民館はもう開いていて、中の水道も使えたはずですが、グラウンドのほうが近かったので。

 そうしてしばらく冷やしていましたが、いつまでもそこにいるわけにはいきません。事故の当事者が、警察が来たときにその場に居ないのはまずいでしょう。
 そこで、タオルハンカチを水に浸して絞り、患部に巻いて、現場に戻りました。

 というわけで、急いで現場に戻りましたが、警察はまだ来ていません。
 相手の方に頼んで停止表示機材を出してもらい、携帯を借りて職場と保険屋さんに電話した後、濡れハンカチ一枚ではやけどの処置が心許ないので、相手の方が保険屋さんに電話している間に、近くに一軒だけあった民家で氷か何かをもらえないかと頼みにいってみましたが、お留守の模様。

 しかたなくまた現場に戻ってくると、近所のおばさん(というかおばあさん)が様子を見に出てきていたので、これは助かったと、事情を話し、氷をもらえないかと頼んで見ました。
「いいけど、普通の氷しかないよ」(←アイスノンや氷嚢などではないということか?)というので、
「普通のでいいです、これ(ハンカチ)にくるんで使いますから」というと、
「じゃあ、それに入れてきてやるよ」というので、反射的に「おねがいします」とハンカチを渡してしまったのが大失敗。
 えっちらおっちらと家に向かうおばさんの後姿を見送っているうちに、真夏の炎天下(朝からかんかん照りのものすごく暑い日だった!)の熱気にさらされた手首が、たちまち熱を持ってじんじんして来ます。
 濡れたハンカチは、もう冷たくは無かったとはいえ、けっこう、気化熱でやけどを冷やしてくれていたのですね。

 ハンカチを持ったおばさんは、のんびり(たぶん本人は急いでいるつもり)、よたよたと歩いていく!
 家はすぐ近所らしいけど、近所といっても数十メートルはありそう。ぽっちゃり体型のおばさんの、歩みは遅い! お願い、早く戻ってきて〜!
 「あの〜、ご近所の方ですか? すみませんが、やけどをして、冷やしたいので、家に氷があれば分けてもらえませんか?」なんて、冷静に、笑みを浮かべて頼むんじゃなかった!
 もっと緊迫した様子で頼めば、おばさんはきっと、家まで走ってくれたのに! 失敗した〜! ……まあ、あの人の場合、歩いても走ってもあまり速度が変わらなかったかもしれませんが(^_^;)

 おばさんを待っているうちにやけどがだんだん痛くなります。困った。
 いえ、別にどうしても我慢できないほどの痛みではありませんが、やけどの痛みは、我慢しちゃいけないでしょう。跡が残ったり痛みが長引いたりしないためには、とにかく、なるべく早く冷やし始め、痛みが引くまで十分に冷やし続けるのが鉄則かと。
 あ、そうだ、事故相手の人がペットボトルの飲み物か何か持ってるかも?

 聞いてみたら、相手の人は、運良く紙パックのカフェオレを持っており、
「冷えてないですけど……」と言いながら、快く譲ってくれました。
 しかも、コンビニに行って何か飲み物を買ってきましょうかとまで、親切に申し出てくれたのですが(火の気がないのにやけどと言われてもぴんと来なかったのか、私が飲み物を飲みたがっていると勘違いしてたらしい?)、買いに行くといっても、相手の車も動かないはず。最寄のコンビニまで歩いていくより、おばさんが帰ってくるほうがずっと早いでしょう。いや、それ以前に、そろそろ警察が来るでしょう。

 本当は、殺菌作用のあるお茶とかウーロン茶のほうが良かったんだけど、ぬるいカフェオレだって無いよりはマシです。ちょっとべたべたするかもしれないけど……(^_^;) とにかく今すぐ手に入ることが最善。
 そんなわけで、側溝の格子蓋の上にしゃがんで、パックのカフェオレをストローの穴から少しづつ、たらたらと手首に垂らしているうちに、おばさんが戻ってきました。
 なんと、ビニール袋にいっぱい氷を入れてきてくれた! なんて気の利く人でしょう! おばさん、ありがとう! でも、ビニール袋に入れてくるなら最初からハンカチはいらなかったんじゃ……?(^_^;)
 結局、この時の氷は、その後、病院で治療を受けるまで、それどころか、帰りのバスの中でまで、ずっと役立ってくれ、本当にありがたかったです。

 そして、そうしているうちに、事故から30分以上たって、ようやく、派出所のおまわりさん到着。
 結局、救急車を呼んでもらうことになり、救急車を待ちながらおまわりさんの携帯を借りてレッカー業者に連絡などしているうちに所轄署の交通課の人が到着。
 簡単に状況を説明した後、車から貴重品を降ろさせてもらって、後でここに電話するようにと、連絡先の書かれた『出頭通知』なる紙切れを手渡され、私は病院に。
 その後、レッカー業者が来るまで、派出所のおまわりさんが車のそばについていてくれたらしいです。携帯も借りたし、お世話になりましたm(__)m

 さて、救急車に乗った時には、なんだかんだで、事故発生後、一時間ほど経っていました。救急車が到着したとたん、それまで自力で走り回って応急手当に奔走(文字通り……)していた私は、いきなり怪我人扱いに(^_^;)
 手首のやけど以外はなんともないのに、首を固定されてストレッチャーに寝かされ、ずっと血圧を測られながら病院に着くと、『歩けます』と言っても耳を貸されず、ストレッチャーごと降車。普通、自力で歩ける人は救急車なんか乗らないことになっていますから、救急車に乗ったら自動的に、一律に、そういう扱いになるんでしょう。珍しい体験でしたが、高所恐怖症なので、寝たまま高いところから降ろされるのは怖かったです……(^_^;)

 そして、そのまま、救急入口を入ったスペースにストレッチャーごと寝かされ、診察を待つことに。
 ー目で軽症と分かるためか、しばらく、そこに一人で放っておかれましたが、おばさんからもらった氷は溶けてなくなりかけているし、手首にはカフェオレをかけたままだから汚いしで、とにかく手を洗いたいし、冷やしたい。
 見れば、室内に、掃除用具などを洗うような流し台があったので、勝手に起きだして、そこで手首を冷やさせてもらっていました。

 そのうち看護婦さんが戻ってきて、
「じゃあ、とりあえずレントゲンを……」というので、
「えっ? でも、やけどなんですけど……」というと、
「はっ? やけど?」と、意外そう。
 だから、やけどなんだってば。さっきから、ずっと、みんなにそう言ってるのに……(^_^;)

 事故の現場では相手の方にもおまわりさんにもそう訴え、救急車の中で、救急隊員の方にも状況を説明していたのですが、とにかく交通事故だし、しかも別に出火はしてなかったから、やけどといっても、みんな、あまり本気にしてくれておらず、患部が手首というのは伝わっていたけれど、捻挫か何かだと思われていたらしいのです(^_^;)
 そりゃそうですよね、火の気がないのに私が一人で火傷だ火傷だと言い張っていても、事故にあったばかりで動転しているんだろうとしか思われてなかったんでしょう。

 が、看護婦さんに赤くなった手首を見せ、指示に応えて手首や指が普通に動かせることを見せると、やっと分かってもらえて、やけどの治療を受けることができました。軟膏を塗ってもらって、実際の患部は手首の数センチ四方なのに、軟膏の上に張ったガーゼを抑えるために、手の甲か肘まで包帯でぐるぐる巻きの、なんだか大げさな姿に……(^_^;)

 後にして思えば、あのやけどは、エアバッグが膨らむときに何かの加減で負った熱傷と思われます。あの白い煙が高温だったのか、薬品か付着したのか、あるいは、袋が膨らむときに手首に当たって、その摩擦熱か……。
 いずれにしても、幸い軽度だったし、すぐに冷やしたのも良かったのでしょう、半月ほどで、焦げた表皮が日焼けのように剥がれ落ちて、痕を残さずに治りました。
 こんな軽い熱傷なんかで救急車なんかに乗って申し訳ないですが、なにしろ交通事故なので、たとえ外傷が無くても、とにかくその場ですぐに医者にかかっておくことが大事かと……。

 その後、大変だったのは、救急車で運ばれた病院から帰ってくる足が無くて、バスを一時間半近く待った挙句、バス停から家まで真昼の炎天下を30〜40分歩いたこと。朝の8時半に事故ったのに、家に帰り着いたのは午後1時でした。
 その晩から体のあちこちが痛みだしましたが、首や胸が痛かったのは事故のせいだろうけど(特に胸は、シートベルトによる打撲だったらしい)、足腰が痛かったのは、この、炎天下の帰路と、事故直後に公民館まで走って往復したせいでしょう(^_^;)

 その後、警察に出頭したり、保険屋さんやレッカー業者と電話連絡したり、廃車の手続きに行ったり、代わりに借りてきた車のエンジンが出先でかからなくなってJAFを呼んだり、なんだかんだで、しばらくは何かとわさわさして、大騒ぎの一ヶ月でした。まだ保険関係の手続きなど、面倒が残ってて、もう、事故はこりごりです!




 読書録

『キターブ・アルサール』シリーズ(『赫い沙原』『蒼い湖水』『皓い道途』) 浅香祥 角川ビーンズ文庫

 なんとなく、ごく普通の王道的な少女向けファンタジー、それもRPG系のライト・ファンタジーじゃなく、本格派の架空歴史ロマンなんかが読みたい気分だなと思って、たまたま図書館の棚に並んでいた中から選んできたものです。
 そういうのは他にもいくらでもあるけど、これにしてみたのは、前からどれか一冊は読んでみようと思っていた未読作家さんの本だったのと、きれいなイラストと、舞台が中近東風らしいところが目を惹いたから。私にとって、『エキゾチックといえば中近東』なのです。

 で、読んでみたら、なるべく普通そうなものをという希望通り、とても正統的な作品でした。
 重厚寄りで格調高い、甘さ控えめでかっちりした印象の架空歴史ファンタジー。

 ……が、う〜ん、私には、いまひとつ物足りなかったです。わざわざそういうレーベルのものを選んでおいて不満を言うのは何ですが、やっぱり、文体・キャラ・その他全体的に若い人向けで……(^_^;) いやほんと、わざとそういうのを選んだんだから、あたりまえなんですが。

 あと、単に若向け(笑)すぎるというだけじゃなく、私にとっては、どこがどうというのじゃないけど全体的になんとなく地味というか、『これ』という突出したものがなく、いまひとつ印象が薄い感じがあったんです(あくまで『私にとっては』ですが)。

 でも、私が、特に最初の二巻で感じていた微妙な地味さ、華やぎの乏しさの原因は、たぶん、主要登場人物が男ばかりで女性キャラや恋愛要素が乏しかったからもあるのではないかと(三巻目で恋愛要素も入ってきますが)。
 ですので、男同士の非常に強い絆や熱い触れ合いに格別のロマンを感じることのできる方は(あと、私にはあいにくその趣味はないのですが、美青年が傷だらけになったり拷問されたり奴隷にされたりする姿にひとしおの感興を覚える方も……(^_^;))、この作品を、もっと楽しめるのではないかと。



『蛇の石 秘密の谷』 バーリー・ドハティ 新潮社

 しまった。前に読んだことがある本だった……。改題再版なのは分かっていたんですけど、改題前のタイトルにも覚えがなかったので借りてみたんです。そしたら、中身を読んだら思い出しました。
 でも、かなり忘れていたので、もう一度読みました。やっぱりいい話でした〜。
 養子として暮らしている十五歳の少年が、生みの母を探す旅に出る話です。蛇の石(アンモナイトの化石)というアイテムと、少年の一人称の間に交互に挿入される生みの母の一人称の文章、ほんの数十年前なのにすごく昔のように見える閉鎖的で旧弊な『谷』の雰囲気がいいです。


『家守奇譚』 梨木香歩 新潮社

 ちょっと昔の日本の、河童や化け狐の存在が当たり前のこととして受け入れられている世界を舞台として、古い日本家屋に管理人として住み込んでいる駆け出しの貧乏作家が出会うちょっと不思議な出来事の数々を季節の移り変わりと共に淡々と描いた、レトロ・タッチの幻想譚です。そこはかとなく漂う可笑し味がいいです。

 『りかさん』や『裏庭』の梨木香歩さんの本ということで、なんとなく主人公は若い女性だと信じ込んで読み始めたら、一人称の文体がやけにじじくさくて、それでも『文章人格おじいさん』な若い女性が主人公だと思っていたら、年齢不詳の、たぶんまだ若いんだけどじじ臭い性格の男性が主人公でした(^_^;)
 でも、ほら、文章人格がおじさん・おじいさんな女性って、いるじゃないですか。例えば、このあいだ東京新聞に女優の斉藤由貴さんがコラムを連載してたんですが、私、最初、誰が書いているのかを見ないで読み始めたら、途中まで、てっきり誰か年配の男性の文章かと思ってましたよ(^_^;)
 そういう、『おじいさん』な精神を内面に隠し持った若い女性のお話かと……(^^ゞ

 文体がじじくさいのは、主人公がじじくさい性格の男性(実年齢は不明だけどまだ若いらしい)であるからだけでなく、時代が、はっきりいつとは書いていないけれど少なくとも戦前であるからのようです(日本近代史に詳しければ大体の年代は推定できるのでしょうが、恥ずかしながら私には『明治以降で戦前』程度にしか分かりません(^^ゞ)
 文体が、時代の雰囲気や主人公の性格を彷彿とさせるのです。

 この作家さん、私の周囲の本好きさんの間ではずいぶん評判が良いような気がするのですが、実は、私は、これまで、いまひとつ、ぴんと来なかったんですよね。特に、『りかさん』や『からくりからくさ』の、非常に女性らしい世界には、どことなくなじみきれないものを感じていました。
 でも、この『家守奇譚』は、とても好きかもしれません。個人的には梨木作品の中で一番好きかも。じじ臭さとレトロな趣としみじみとした俳味が性に合って、落ち着く〜! 和む〜! 癒される〜!
 ……なんか、すごくじじむさい趣味かも?(^^ゞ

 犬や河童、小鬼、人を化かす狐やタヌキやかわうそ、掛け軸の中の湖からボートに乗って出てくる水死した親友の幽霊、住職、隣の奥さんなどの脇役がそれぞれ良い味出してます。
 特に犬! 犬がいい!

 ところで、ラスト近くで持ち上がった主人公の見合い話は、結局、どうなったんでしょう……?
 私は、てっきり、その見合い相手というのが実はかの『ダァリヤの君』で……みたいな都合のよい展開を期待したのですが……(^^ゞ


『血族の物語 上・下』 ピーター・ディッキンソン ポプラ社

 太古のアフリカの、人類の祖先のお話で、とても面白かったです。
 ほとんど滅ぼされた一族の生き残りの子供たちが、子供だけで新天地を求めて旅立ち、過酷な自然との戦いや、肌の色や習慣の違う他部族との出会いと別れ、大人たちとの再会など、様々な経験を経つつ成長していきます。
 人食いライオンとの戦いや火山の噴火、他部族との戦争などの冒険にも事欠かず、かなりの長編ながら飽きることなく、はらはらどきどきしながら楽しめます。

 が、なんといっても面白いのは、随所で描写される原始人の生活ぶり。
 食べ物と言えば虫とか蛇とか葉っぱとか草の実とか生肉という原始人の生活が彼らの主観に寄り添って丁寧に描かれるのが面白く、最初はゲッと思っても読んでいるうちにだんだん馴染んで、芋虫や鳥のヒナ(もちろん生の)を食べるシーンがあってもぜんぜん違和感なく、それは栄養たっぷりのご馳走なんだと思えたり、トカゲや蛇の干物を手に入れれば良い携帯食料が手に入ってよかったねと思えたりするようになってきます。

 子供たちの冒険と交互に語られる昔話もいいです。

 ところで、作者の名前をどこかで見たことがあると思ったら、『魔術師マーリンの夢』の人でした。へぇ〜。


『暗き神の鎖 前編』 須賀しのぶ コバルト文庫

 <ネタバレ注意!> 未読の方でネタバレを気にする方は、この先、下にスクロールしないでそのままお戻りください。今月の『月刊カノープス通信』はこの記事で終わりですので。
↓以下、ネタバレ感想。


 そうかあ、あの、即位式でサラを見たという伏線は、ここに繋がるんだったのか。……う〜ん、兄上も男だったのね……(あたりまえか(^_^;))

 私、サラって、そういえば最初から、あまり好きじゃなかったんですよね。いえ、別に、特に何か気に入らない点があったわけじゃないんですが、その、『気にらない点がない』ところが気に入らなかったんですよ(^^ゞ
 よ〜し、私はグラーシカを応援するぞ! グラーシカ、かわいいじゃないですか。

 ああいう、『絶世の美貌と剛毅な精神に男勝りの剣の腕まで併せ持つ、高潔で凛々しく誇り高い男装の美女』なんてキャラを、『かわいく』見せられるって、すごいですよね。『素敵』とか『カッコいい』とか『憧れちゃう』とかならともかく、ああいう属性がこれでもかというほど揃ったキャラを、ちゃんとそれらしく描きながら、なおかつ、『可愛らしい』とか『いじらしい』と感じさせるって、すごいワザかと……。

 お兄ちゃんは、いろいろ大変なことになりそうだけど、自業自得ですね。う〜んと悩んで苦しんで見せてくれるのを期待! 愛人と本妻の板ばさみで白髪が生えるほど悩むお兄ちゃん……萌えだ〜!(←私って鬼?)

 バルアンは……やっぱり私にはどこがいいのかわからない! だってどう見てもスケベオヤジじゃん! カリエの趣味って謎だ……。
 そして、ミセスになったカリエ。お産のシーンには笑った〜(^O^)
 カリエには、こんな、物分りのいい大人とか立派な後宮の女あるじなんかになって欲しくなかったのに……と思いつつ、でもこのままで終わるわけないぞ……とも思っていましたが、やっぱり、あれで終わるカリエじゃないですね! というか、この話はそれで済むような話じゃないですね! 相変わらず過酷だ……。


★その他、読書メモ:『シャーリアの魔女 夢の灯りがささやくとき(上)』、『百鬼夜翔 真夜中の道化師』、『SFバカ本・リモコン変化』『同・彗星パニック』読了。グイン・サーガ近刊4冊分くらい(先月より増えてる……(^_^;))積読中。



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