月刊カノープス通信
2004年1月号

 目次

・季節の便り
・今月の勘違い
・近況報告『顔が少年漫画に!』
・近況報告『気がつくとホイールキャップが……』
・読書録
(『扉の書』『帝都夢幻道』他)




 季節の便り

 あけましておめでとうございます。

 個別の年賀メールは出していないので、いつもお世話になっている皆様、遊びに来てくださる皆様、相互リンク先様への新年のご挨拶は、この場でさせていただきます。
 今年もよろしくお願いします。
 (この『月刊カノープス通信』一月号は、事情により暮れのうちにアップしておく可能性が高いので、もしこれを暮れのうちに見ている方がいたら、フライングでごめんなさい^_^;)


 去年の暮れ、息子の学校行事で餅つきがありました。
 つきたてのお餅に大根おろしをつけた『からみ餅』が食べられて幸せv
 『からみ餅』って、大好きなんだけど、なかなか食べるチャンスがないんです。
 あんこのお餅なら普通に売ってるけど、からみ餅は、まず、お店では売ってないし(たま〜に売ってることもあるけど)、地域行事の餅つき大会で作るのはあんこ餅と黄粉餅のことが多いし、黄粉餅は家で市販のお餅を茹でたり焼いたりしたのに黄粉をつけてもおいしいですが、からみ餅は、市販のパック入りのお餅を茹でたのでは、つきたてのお餅で作るのとぜんぜん違うのです。
 家に餅つき器があれば、いつでも作れるんでしょうけど……。

 このへんは農家が多いので、今でも暮れには自分の家で餅をつく家が多いらしく、暮れになると、世間話でけっこう今年は餅つきをどうするといった会話が交わされたりします。
 もっとも、家で餅つきをする家でも、もち米は自家製や親戚近所から分けてもらったものだけど、つくのは杵つきではなく餅つき器で……というケースが多いようですが。

 今ではお餅は、家庭用の餅つき器もずいぶん普及しているらしいし、お正月でなくても、スーパーやコンビニでパックのものが普通に売られていて一年中食べられますが、昔は、お餅は、お正月にしか食べないものでした。
 農家なら自分の家や親戚の家に集まって搗いたりもしたのでしょうが、実家では、お正月のお餅は、近所のお米屋さんに頼んで、暮れに届けてもらっていました(今でもそうしているのかもしれません)。

 お米屋さんで配達してくれるお餅は、切り分けてあるものではなく、板状に伸ばしてビニールで包んだ『のし餅』です。
 それが、届けられたばかりのときは、運がよければまだほかほかして、ふにゃふにゃとやわらかいのです(運が悪い年は、ほとんど固まってから届きますが)。

 届いた『のし餅』は、一日置いて固まってから、父が、大きい包丁で、ビニールで包まれたままのお餅を、ビニールに印刷された線に沿って切り分けます。やわらかすぎても切れないし、完全に硬くなっても大変で、タイミングが難しいため、たいてい時期を逸して、完全に固まってから切るはめになります。
 とても力が要る仕事なので、たぶん、今でも実家で『のし餅』を買っているとしたら、この仕事は、今では父から弟にバトンタッチされていることでしょう。

 でも、その大仕事の前には、特別なお楽しみがあるのです。
 それは、届いたばかりでまだやわらかいお餅の端をちょっとだけ切りとって大根おろしで食べること。

 これは、年に一度、暮れのその日にしか出来ない、特別な贅沢です。正月に実家に帰ったのでは、もうダメ。暮れのうちに帰ってないと、『のし餅』が届く日に居合わせられません。ちょうどその日に居合わせないと、からみ餅は食べられないのです。
 最期に実家で『のし餅』の到着に居合わせることが出来たのは、冬休みで帰省していた大学生のときだったかも。
 私にとっては、からみ餅は、幻の実家の味であり、一年に一度しか食べられない季節の味であり、一年中お餅を食べられる今でも、特別な、稀少な食べ物なのです。

 そして、そのお餅が少し固くなってきたころ、もう一度、特別のお楽しみがあります。
 またすみっこをちょっとだけ切り取り、今度は、生(?)のまま、お砂糖をつけて食べます。
 これも、ちょうどよい加減に固まりかけたときにしか出来ない、特別の食べ方です。硬くなりすぎては、もうダメ。いったん硬くなったものを焼いたり茹でたりしたものでは、食感が全く違うのです。

 今でも、こういう、つきたての『のし餅』って、お米屋さんで売っているのでしょうか。
 もし売っているとしても、そんな面倒なものは買わずに、切る必要が無くて日持ちのする『サ○ウの切り餅』みたいなものを買う人が多いでしょうね(うちもそうです……)。




 今月の勘違い

 毎度おなじみ、あいかわらずのとんちんかん会話集です。

★私:健太郎が「マヨネーズかけてパン食べるって言ってね……」
 夫:「えっ? 永六輔でパン食べる?」

★私:「十一時にごはん食べて……」
  夫:「えっ、ドイツ人にごはん食べる?」

★夫:「今度、買い物に行ったらコーヒーのフィルター買ってきて
  私:「えっ? お昼にブタ買って来て?」

★夫:「さっき、椅子から立ち上がった拍子に腰を捻ってさあ……」
 私:「えっ、年寄りになって?」

★夫:「今日、テレビで『トリック』やるよ。しかも、映画バージョン
 息子:「えっ、上が婆さん?」




 近況報告『顔が少年漫画に!』

 この間、朝起きたら、どうやら寝ている間に猫が顔の上を右から左に駆け抜けたらしく、頬に引っ掻き傷が出来ていました。両方の頬の、ほぼ同じ位置に、斜めの傷が……。
 それが、ちょうど頬骨のあたりに線が入って、なんか、少年漫画のキャラみたいな顔なのです。古くは星飛馬か、新しくはうずまきナルトかという感じ(^_^;)
 ほんのちょっとした引っ掻き傷なのですが、私は、先月号に書いたように内出血しやすい体質のためか、ささいな傷もすぐ赤く腫れて、長く痕が残るのです。
 この傷も、しばらくしたら赤くみみず腫れになってきて、結局、一ヶ月近く痕が消えず、お化粧でも隠せなくて、ずっと少年漫画顔で、ちょっと恥ずかしかったです(今も片方は跡が残ってます(T-T))。



 近況報告『気がつくとホイールキャップが……』

 先日、夫が私の車を見て、助手席側の前輪のホイールキャップが無くなっているのに気がつきました! しかも、枠が少し歪んでいるので、どこかにぶつけたのではないかというのです。タイヤも空気が少し抜けているそうなのです。

 言われてびっくり。
 私は、車をぶつけた覚えもないし、ホイールキャップがなくなっていることにも、ぜんぜん気がついていなかったのです。
 だって、助手席側のタイヤなんて、運転席側から乗り降りする時には、見ないじゃないですか!

 いつ、なんで無くなったのか、全く心当たりがなく、しばらく頭を捻った挙句、はっと思い出したのは、その数日前、道路に開いた穴に左前輪を落っことしたこと!

 通勤の途中に、地盤が悪いのか工事が手抜きだったのか、しょっちゅう大穴が開いている道路があるんですよ。嘘みたいだけど、ほんとの話。
 ほんとにしょっちゅう道路が陥没して、ぼこぼこと穴があいてるんです。
 で、しばらくすると工事の人が来て、その穴を、継ぎを当てるみたいに雑に埋めて行くんですが、またしばらくすると、また別の穴が開いているのです。
 しかも、そこは、カーブで坂道なので、穴が開いていても直前まで見えず、みんな続々と穴に落っこちるのです。
 で、ずっと前にも、私は、一度、その穴に落っこちて、タイヤがパンクしたことがあるのですが、そういえば、数日前にも、また穴に落ちていたのです!

 その時は、ただ、軽い衝撃があっただけで、ああまた穴に落ちちゃったよ腹立つなあ……とか思いながらそのまま走り去ったのですが、もし衝撃でホイールキャップが外れたとしたら、その時以外に考えられません。
 そういえば、確かに、ここ数日、普段よりちょっと車ががたがたする気がして、タイヤの空気圧でも落ちてるのかなと、気になっててはいたのです(気にしつつ、普通に乗り回してた……^_^;)。

 でも、いくらなんでも、走行中にホイールキャップが吹っ飛んだのに全く気がつかないなんてこと、あるでしょうか?
 いくら街頭もなければ周囲に建物も何も無い田舎道で夜は真っ暗だからって……。
 でも、やっぱり、あのとき以外には考えられない……。

 その後、夫がその問題の場所(すでに穴は埋められていた)を車で通りかかった折に、もしやホイールキャップが落ちてないかと速度を落として道路脇を見てみたら、なんと、落ちているホイールキャップを発見! 路肩に車を停めて、拾ってみたそうです。
 ところが、そのホイールキャップは、他社の車のものでした!
 あそこで穴に落ちてホイールキャップを吹っ飛ばして、気づかずにそのまま走り去ってしまったのは、私だけではなかったようです……(^_^;) あるんですね、そういう信じられないようなこと。

 で、その後、タイヤの空気は入れましたが、外れたホイールキャップや歪んだ枠は、そのまんまです。
 タイヤは完全にパンクしてしまったわけではないらしく、空気を入れなおしたら、もうそれほど抜けないみたいだし、ホイールキャップは、無くても、見てくれが悪いだけでとりあえず走行に支障はないようなので、そのままにするつもりです。だって、お金ないし……(^_^;) 




 読書録

(注・この読書録は、あくまで私の備忘録・個人的な感想文であって、その本を未読の人にマジメに紹介しようという気は、ほとんどありません(^^ゞ (……たまに、少しだけ、あります)。 ただ、自分の記録のためと、あとは、たまたま同じ本を読んだことのある人と感想を語り合いたくてアップしているものなので、本の内容紹介はほとんど無いことが多く、ものによってはネタバレもバリバリです。あまり問題がありそうな場合は、そのつど警告するか、伏字にしています。)

『扉の書』(安田晶 講談社ホワイトハート)

 また、私好みの読み応えのある国産ファンタジーにめぐり合いました\(^o^)/
 こういう作品って、数は少ないし、あんまり売れないみたいだけど、ちゃんと、ぽつりぽつりと出てくるんですよね。
 しかし、この地味でヘヴィーな作品をホワイトハートで出すとは、講談社はチャレンジャーだ〜! いえ、ホワイトハートって、もともと意外と本格派ですけどね。あの十二国記を世に出したのもホワイトハートだし。

 もともと前評判は聞いて楽しみにしていたこの本ですが、実は、私より前に夫が読もうとして、性に合わなくて読めなかったというので、ますます期待が高まっていたのです。
 他人が気に入らなかったからといって余計に期待するというのも変な話なのですが、経験的に、夫が読めないファンタジーというのは、私の好みのタイプであることが多いのです(^_^;)

 夫と私は、よく図書館で借りた本を交換して読んだりして、読書歴がかなりダブっているのですが、それぞれ一番好みのジャンルは違っていて、夫はミステリー、私はファンタジーなんです。
 夫も、ファンタジーも読むのですが、私の場合、ファンタジーばかり読み続けて飽きること無くファンタジーでありさえすれば大概のものはそれなりに楽しめるのに対して、夫の場合、ファンタジーはメインの読書対象でないので、作風によっては受け付けないものも多いし、あまりファンタジーばかり続けて読むと、すぐに食傷してしまうらしいのです。
 そして、夫が受け付けないファンタジーにもいろんなタイプがありますが、その一つが、『ものすごく、どっぷり、ディープに、骨の髄まで正調本格ファンタジー』なもの――つまり、根っからのファンタジー読みしか好まない(^_^;)ようなタイプであり、それは、つまり、私がものすごく好きなタイプなのです。
 で、この作品の場合、夫が読む前に冒頭をチラッと見ていたので、夫が読めなかったとしたら、理由は『あまりにどっぷり正調ファンタジー過ぎる』ということだろうと見当が付き、『それならきっと自分にとってはすごく面白いものだろう』と、逆に期待が増したのでした。

 そして、その期待は、裏切られませんでした。まさにファンタジー! ずっしり、どっぷりv 堪能しました。
 だって、最初の数ページで、頭の中に、ぱーっと、『本格ファンタジーの国』の風景が、広がるんです。灰色の空、険しい山並み、乾いた荒野、深い森、古い石造りの塔。遠い空の下のどこかには砂漠もあり、見知らぬ異国もあって、肌の色も文化も違う異民族もいる――。
 それはまさに、長年にわたって私の中に蓄積されてきた『西洋風本格ファンタジーの世界』のイメージそのものの光景で、その光景を見ただけで、私は、
(そうそう、ここ、ここ! 私は、ずっと、もう一度ここを訪ねたかったの!)と、第二の故郷のように思われる懐かしい地を再訪出来た幸せにうっとりとし、これから始まるであろう冒険の予感に胸をときめかすことが出来るのです。

 あの冒頭の描写を読んでこういう現象が起こるのは、ファンタジー・マニアの頭の中だけなんでしょうね。そうじゃない人(例えば夫)の多くには、あの冒頭は、すでに退屈であると思われます(^_^;)

 そして、あの文体! あの語り口! 決してすごくうまいというわけではなく、アラも散見されますが、それはさておいて、これぞ本格ファンタジーのための文体じゃないですか! 私の期待する『ファンタジーの国』は、こういう文体でこそ描き出すことができる世界なのです! (でも、ファンタジー・ヲタクじゃない夫にとっては、あの文体も、ただクドイだけだったと思われます(^_^;)

 そして、その、『本格ファンタジーの国』には、老『魔法使い』が居るのです! もちろん、灰色の長衣を着ていて、おじいさんなのです。古い塔に住んで、薬草を干したり、謎めいた書物を紐解いたりしているのです。世を拗ねて隠棲し、人知れず究極の術の探求をしているのです! いいぞいいぞ、これぞ魔法使い!
 魔法使いの生活ぶりも、個性も、使われる魔法も、実にオーソドックスにそれらしいのです。

 そして、力ある魔法使いどうしの魔法対戦。地霊小人に導かれて巡る地下の国……。
 私、魔法使いと地下迷宮が大好きなんですよ〜!

 身体にだけ体温のある布の人形や、キルムスに昔の女の幻を見せる水蜘蛛、鳥使いの男の密かな恋などのエピソード、キルムスが若いエリルにふと抱いてしまうほのかで複雑な想いなどにうっすらと漂う微妙な生々しさも独特の持ち味だと思います。

 でも、ストーリーの方は、ちょっと予想したのと違いました。
(このへんはまだネタバレではないと思うので、文字を隠さずに書いちゃいますね)
 てっきり、魔術師キルムスとエリルが一緒に王道的な冒険の旅に出る話かと思っていたんですが、この二人、一緒に旅立つのではなく、エリルは一人で探索の旅に立ち、キルムスは塔でエリルの帰りを待つのですね。

 そして、物語は、正統的な探索の旅の物語ではあるのですが、もう少しエピックファンタジー的な要素を多く含んだ、もうちょっと明晰で物質的な物語を勝手に予想していたのとは違って、かなり夢幻的な色彩が濃く、薄暗い夢の中の旅、内宇宙への旅といった趣です。
 タイプとしては、『指輪物語』タイプより『銀河鉄道の夜』みたいなタイプのような気がします。昔『課題図書』になった『きらめきのサフィール』が、ちょっと、こんな『薄暗い夢の中の旅』タイプだったかな?

 いずれにしても、旅の物語なのです。
 実際に旅に出るのはエリルだけだけど、塔に残ったキルムスも、エリルとの契約をきっかけに、自らの心の中を旅するはめになるので。

 で、ひと繋がりの物語ではあるんだけど、ちょっと、『扉の書』というアイテムを狂言回しにした連作短編みたいな趣です。鳥使いの男のエピソードとか、かなり独立性が高くて。(そういえば、私が銀河鉄道の夜を連想したのは主にこの鳥使いのエピソードのせいだと思います。)

 年老いたキルムスと傲慢な若い魔法使いとの戦いではっきりと描かれる、老いと若さというテーマが渋いです。
 この、老いと若さというテーマは、その若い魔法使いのエピソードだけでなく、全体を貫くテーマかもしれません。

 ↓この先、具体的ではないけど、ややネタバレにつき、文字を白くします。反転させてお読みください。

 ラストは、ちょっとあっけないというか、ちょっと肩透かしみたいな終わり方をするのですが、考えてみたら、確かに、ああなるしかなかったのかも。

 結局、自らの老いを自覚したキルムスがエリルの若さへの猜疑心を募らせることで破局がくるわけなので、キルムスの老いの自覚と若さへの嫉妬が結末を導いたという点で、やっぱり、これは、ある面、老いと若さの物語だったらしいです。
 基本的に青年のイニシエーションを描くことが多いジャンルであるファンタジーでは、あまり見かけない、かなり渋いテーマの作品だったのかも。
 しかも基本的に若者向けのレーベルであるホワイトハートで、そんなテーマを扱った作品を出すというのは、やっぱりかなりチャレンジャーなことなのでは?


『樹上の揺りかご』 (荻原規子 理論社)

 『勾玉三部作』や『西の善き魔女』で大好きな荻原規子さんの新作、だけどファンタジーじゃないらしい……ということで、長らく後回しにしてきた一冊。
 最終的な感想だけを手っ取り早く言えば、やっぱり、ファンタジーじゃないので、いまいちピンときませんでした……(^_^;)
 いえ、面白かったんですけど。
 ただ、個人的に好みのジャンルじゃないので、それほど夢中にはならなかったというだけで。

 どうやら私は根っからのファンタジー読みで、本が好き・小説が好きというより、とにかく『ファンタジーが』好きなんだと思います。
 とても好きなファンタジーを書いている人の作品でも、他のジャンルのものは、それほど面白いと思わないことが多いです。
 だから、私が夢中にならないからといって、決してその作品のどこかが悪いというわけではありません。どんな優れた作品でも、ファンタジーじゃないと面白くないだけです。単なる嗜好の問題です。

 あと、ぴんとこなかったのは、たぶん、あそこで扱われているジェンダーの話題がぴんとこなかったせいもあると思います。
 女子より男子がずっと多い元男子校に入った女の子の話なので、女子だからと妙に大事にされたり、逆に肝心なところからは疎外されたりして戸惑い、自分が女であることの意味を考えちゃったりしているのですが、それがどうも、私にはぴんと来ない話だったのです。
 話の中枢を占めるらしいその問題がぴんと来なかったせいで、物語全体がぴんと来なかったのかもしれません。

 私が元女子高で男女ぴったり半々の都立高校や、一応共学だけど男子が女子の三分の一くらいしかいない大学で青春時代を過ごしたせいでしょうか、それとも私が女らしくなかったからでしょうか、女だからといって特にちやほやされたことも疎外されたことも、さほど無いような気がするので……(あったけど鈍感だから気にしなかっただけかもしれないけど)。
 男子が女子の三分の一しか居ないと、女子は重いものを持たなくていいとか生徒会長になれないとか、そんなこと言ってられないですもんね。
 そういう、学生時代の環境の差のせいで、ぴんとこなかったんですかね。

 そういえば、『西の善き魔女』でも、ジェンダーの問題がストーリーの根幹に関わって大きな位置を占めていたのですが、その部分はやっぱりぴんと来なかったです。そのせいで、実は、作品そのものにも、面白さとは別のところで微妙な違和感があったのです。
 で、この作品を読んで、
(そうか、『西の善き魔女』の『女王制度』というアイディアは、作者のこういう経歴から生まれたのか)と、妙に納得しました。

 ところで、後で書評や広告を見て知ったところでは、あれは学園ミステリーだったらしいんですが、読んでるときは、ミステリーだということに気づかなかったです(^^ゞ
 だって、誰も推理したり謎解きしたりしてないし、犯人像の予想を裏切るどんでん返しもなかったし……。
 ミステリーというよりは、青春小説だったと思います。
 学園青春ものとして、ちょっとバンカラな気風の残る伝統ある都立校の学園生活の描写は、楽しかったです。

 ちなみに、主人公は、『これは王国の鍵』の主人公の成長した姿らしい……けど、『これは王国の鍵』は私も昔読んだけど主人公像はあまり印象に残ってないので、そのことを知っても、この作品の楽しみ方に、良くも悪くもあまり影響しませんでした。
 でも、昔、異世界に行ったことのあるヒロインが、その後、意識の表面ではそのことを忘れて普通の女子高生をやっている、その姿というのは、異世界落っこちモノ愛好家としては、何か感傷を誘われるものがあります。
 異世界に心の一部を置いてきたような少女が、現実の男の子との恋を見つけて、これからいろんな経験をして、現実を生きていくのですね。がんばれ!


『帝都夢幻道 前・後』 (高瀬美恵 小学館パレット文庫)

 関東大震災直前の大正時代を舞台にした伝奇ファンタジー(著者が言うには『防災ファンタジー』)。退魔モノ?
 目を見張るような傑作ではないけど、軽く読める娯楽読み物として普通に楽しかったです。

 魔物を見る『見魔』、魔物を縛る『縛魔』、魔物を破る『破魔』の3種類の力をそれぞれ持っている三人の若者が政府の秘密組織『怪事研』に所属して帝都を脅かす魔物たちを力を合せて退治するという設定があまりに陳腐なので、よくある『文章で書いたマンガ』『読むOVA』みたいなものかと思って、実は、最初は思わず読むのをやめようとかと思ったんです。
 私はそのテの軽読み物の魅力や存在価値を否定する気はなく、そういうものはそういうものでそれなりに好きなんですが、今、求めているのは、もうちょっと違うものだったので……。

 でも、
(いや、他ならぬ高瀬美恵先生なんだから、どんなにベタな設定でも面白いに違いない!)と思いなおして完読。
 結果から言えば、読んだ甲斐はありました。やっぱり高瀬先生だ!
 お話の価値とか面白さって、『ありふれていないこと』だけではありませんものね。基本設定はありふれていても、細かい味付けで、面白いものは面白いのです。

 この人のお話は、いつも、なんといってもキャラが良いんですよ。あと、私は、この人の細かいギャグのセンスがすごく好きなのです。基本はシリアスなんだけど、細かいところで妙〜に可笑しいものを書く人で、『ちょっとヘン』を書かせたら天下一品なのです。

 今回も、その『ちょっとヘン』が満載で、脇キャラたちがそれぞれ実に魅力的(キャラによっては、出番の多さに比して無駄なほど、もったいないほど魅力的)。
 私のお気に入りは女学生・武部和歌ちゃん。端役なのに個性的!
 あと、雪雀もかわいいし、アイスクリーム好きの魔界の頭目・電光さんも、あっさり倒すには惜しい、いいキャラでした……。
 でも、彼はなんで人間に化けるとき、わざわざ外人になるんだろう?

 他にも、天羽といい和尚といい、面白みのあるキャラだらけで、天羽と渡海と須磨なんか、我が家でよく使う言い回しでは『本が出来る(=同人方面のお嬢さん方のヤオイ・センサーに引っかかりそうだという意味の我が家的慣用句)』な見所満載で、これで終わっちゃもったいない人たちでした。

 ストーリー的にも、最初に思ったよりはスケールの大きい話で(最初は、戦隊ヒーロー物のノリでいろんな魔物を一匹ずつ退治しながら恋愛したり人情話をからめたりメンバーの暗い過去を明かしたりする一話完結タイプかと……)、深みもあり、面白かったのですが、枚数の関係か、後半、ちょっとあっけなくて惜しかったです。せっかくあんなにキャラがいいのに。
 枚数の割りにキャラが立ちすぎ?
 この長さの作品に、こんなにおいしいキャラを、これでもかこれでもかと投入してしまうなんてもったいない気が……なんて思ってしまう私は、貧乏性でしょうか(^_^;)

 あと、最期のカップル成立の、意外なんだか順当なんだかよく分からない組み合わせの微妙さとあっけなさは、『クシアラータの覇王』に通じるものがあるかも(^_^;)
 まあ、とにかく、楽しみました。
 この人は、どうしてこんなに惜しげもなく次から次へとちょっとヘンないいキャラを生み出すんでしょう。
 『ヘン』の天才、『ヘン』の女王かも。




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