月刊カノープス通信

  2003年7月号-1

  ──今月の詩──
    『7月の窓』

七月の空に向かって窓を開き
今はもういないひとの 大きな白いシャツを干す

今はもういないひとの微かな汗の匂いのする
大きな白いシャツは
七月の風をはらんで翻り
降り注ぐ光の明るさに目を細めて
私は少しだけ涙ぐむ


  昔 金色
(こんじき)の翼を持つ男がいて
  ある日 この窓から 飛び去っていった

  その日から 世界はすっかり色褪せてしまったのだけれど
  七月の空だけは あの日と同じように蒼くて

  そのまぶしさに 私は少しだけ涙ぐむ


七月の光の中で 大きな白いシャツを干す
二度と帰らないひとの汗の匂いのする 大きな白いシャツを干す

翼ある男は 二度と この窓へ帰ってこないと
とうに知っているのだけれど
いつか 私の人生が終わるときには
金色の光を纏ったあのひとが 再び私の傍らに舞い降りて
大きなその翼で 私を包んでく れるのだと
心の底で ほんの少しだけ まだ 信じてる

七月の空の彼方から いつか還ってくる
見えない翼の羽ばたきを

まだ 信じてる



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