カノープス通信

  2002年12月号-1

  ──今月の詩──
   『失楽園 ―(1)―』

胸の奥で ただ一度だけ
かすかな 悲鳴に似た音をたてて 扉がきしみ
楽園の門は 私の背後で 永遠に閉ざされた

それは 何千何万年もの昔 生まれる前の記憶なのか
それとも つい三日前のできごとだったのか
それすらも 今は思い出せない 遠い痛み
誰も知らない ひそやかな
私の 失楽園
(ああ いかなる罪がこのような罰に値しようか)

たぶん ひとはみな 一人づつ 
こうして 楽園を失い続けてきたのだ
すべてのにんげんたちが 歴史の限り 繰り返す 
決して分かち合えない ひとつの 喪失


それから長いこと 地上を旅して

今 腕の中 おまえが眠る
過ぎた夏の 草の匂いがする
小さな やわらかな いのちが眠る
夢の底深く息づく 遠い日の歓喜の歌を
静かに たゆみなく 奏でながら

猫よ
冬枯れの街角で 
ある日 出会った
おまえは 楽園のかけら

木枯しの路地の暗がりを
ふいに横切る

遠い夏のひか

私は 知っている

おまえの目の中に
失われた楽園の
黄金の輝きが

今も ひっそりと
宿っていることを――

(イラストの転載はご遠慮ください)





解説

 この詩とイラストは、1999年の冬コミに向けて発行した夫婦合作の手作り詩画集『楽園のかけら』からの再録です。
 その本、一冊一冊手作業で製本した、いわゆるコピー本で、製本に手間がかかるので小部数しか作らなかったために即日完売してしまい、しかも、うっかり自分の保存用を取り分けておくのを忘れて全部売り切ってしまったので本人たちの手元にも既に現物がないという(^_^;)、本当に幻の本なのです(……と思っていたら、先日、どこからともなく一冊だけ出てきて、思わぬ再会を喜びましたが)。
 あの本に使った夫のイラストの原画はほとんど既に売ってしまって手元になく、しかも、最近の絵はパソコンにデータが取りこんであるけれど昔の絵はそれもしていなかったので、あの本は既に増刷不可能なのですが、この絵は、たまたまポストカードの形で残っていたので、こうしてパソコンに取り込んで、一ページだけ復元が叶いました(レイアウトは違いますが……)。


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