カノープス通信 2001年10月号-1

   ──今月の詩──
   『光あるうちに』


「光あるうちに光の中を走れ」
アクセルを踏み込んで 戯れに呟く
あなたの横顔

山路の夜は 谷間から生まれて
しだいに 山肌を這い上がり
私たちの背後に 迫ろうとしている

暮れやすい 秋の夕方
忍び寄る冷たい闇に追われるように
私たちは 急ぐ

そう 光あるうちに 私たちは急ごう
冬が来る前に この恋を
やがて最後に消え残る山頂の輝きに似た
金色の木の葉のように
日記のしおりに変えてしまいたいから
秋の最後の輝きが
儚く消えてゆく前に――

  私が あの娘のことを知っていると
  あなたはまだ 気づいていない
  楽しかった ありがとう
  いつものように微笑んで
  「またね」と言って別れたけれど

  私の 胸の奥底の
  陽の差し込まない引き出しの中に
  後は封をして出すだけの白い封筒が
  今も ひっそりと 置かれている

  さよならの手紙を 
  あした ポストに入れる時
  今日の想い出を
  光のひとひらを
  金色の押し葉のように 封筒に忍ばせるから

   ──泣かないでくださいね



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