カノープス通信
2001年8月号-1

      ── 今月の詩──
     『かなかなの鳴く径』


  かなかなの鳴く この径で
  いくたび 目を伏せ すれ違う
  かなかな もっと鳴け もっと鳴け
  あのひとに 私の鼓動が聞こえぬように

  カンナの花咲く この径で
  白いハンカチ わざと落とした
  カンナよ 赤く咲け 赤く咲け
  あのひとが 気づいて足を止めるように

  空のひかりが 胸で散り
  うつむくうなじに 陽が翳る

  かなかな 高く鳴け 
  あのひとが ほんとは気づかず行くように
  カンナよ もっと咲け
  世界中 私の恋に気づかぬように!

    一瞬の プ−ルと原っぱ 薫らせて
    麦わら帽子 駆け抜けた――

  かなかな鳴いて 夏は往き
  誰にも知られず 恋は過ぎ

  かなかなの鳴く この径で
    かって 私は 少女だった

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