喪失

世界は すでにひび割れてしまった
少年は すでに知ってしまった

彼の全き王国だった虫かごの中の小宇宙は
ある日 突然 薄汚れたつまらないものに変わり
少年は 目を伏せて
幼い指で 一匹 また一匹と 
昨日まで愛した小さいものたちを屠りながら
もう すでに 追憶と郷愁とを認知するのだった

少年は 気づいてしまった
世界に走る断層の 出口のない迷路に囚われ
(あが)りのないゲ−ム盤の上で 日暮まで遊び続けても
なぞなぞには もう正答(こたえ)がなく
好きだったパズルは 二度と完成せず
永遠に失われた その一片を
満たされることなく 求め 徨うものとなるであろう
自らの 運命に

少年は 目を伏せて
ひとつ またひとつと
色褪せた想い出を潰しながら
幼い指を 苦い体液に染めるのだった

世界は すでにひび割れ
少年は断層に失われた


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このページはLapis Lazuliさんのフリー素材(鏡のイラスト)を使用ています