石の中の永遠

博物館に行ったら
冷たい大理石の柱に そっとてのひらをあててよ
何万年の昔に死んだ紡錐虫 (フズリナ) たちの夢が
海の底の眠りから 甦るように

それは 選ばれなかった故に真理である ひとつの仮説
来なかったが故に永遠である 未来の化石

いつも 生きられなかった生こそが 完全を孕み
光も届かぬ海の底
見果てぬ夢の淡いオ−ロラに彩られて
冷たいモニュメントを形成する

ねえ 少しだけ 足を止めてよ
大きなてのひらで やさしく温めてよ
それら 石の中の永遠が 
あなたの手の中で もしも甦るなら
そのとき街は 海の底となり
シグナルは翼あるさかなとなって
赤く青く明滅しながら ビルの間に戯れ
海流に髪をなびかせて 私たちは微笑み交わし
私たちの愛は 選び取らなかった現在(いま) を生きる

 ――けれど 世界は立ち止まらず
    系統樹に沿って ふたりは進み
    博物館を出て にぎわう街に黙り込む
    言葉も届かぬ胸の底
    化石が重く沈み込む

ねえ 一度だけ 戻ろうよ
そうして
水底の 青い標 (しるべ) の光を指して
海の上に 音もなく 飛行機が墜ちる夜には
私をそっと 抱きしめてよ
何万年の昔に 私の中で死んだ
  愛が甦るように!
 


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