今日は、ぼくのおとうさんが、ぼくたちのセレタに来る。 
 昨日、おかあさんのところに言付け鳥が来たんだ。言付け鳥は葉っぱを一枚くわえていて、それは沼の回りにしか生えない草の葉っぱだった。だから、沼の端のセレタに住んでるぼくのおとうさんからの言付けだってわかった。
 葉っぱの端っこに二つ切れ目が入れてあって、それは、『明日行くよ』っていう印。
 おかあさんは小鳥にお礼の草の実を上げて、『待ってます』って印のお花を返事に持ってってもらったよ。

 それからはもう、ぼくもおかあさんも、嬉しくて嬉しくて大騒ぎさ。
 おかあさんは恋の季節の最初の朝の女の子みたいにそわそわして、おとうさんに食べさせるお菓子を焼き始めた。もちろん、おとうさんの分だけじゃなくセレタのみんなで一緒に食べる分も焼くから、おばさんたちや姉さんたちが大勢炊事場に集まって、みんなでわいわいおしゃべりしながら山のようにお菓子や料理を作ってる。
 でも、おとうさんにあげる分は、おかあさんが全部一人で形を作って、一番上手に出来たのを他の人たちのとは別に大事に取り分けてるんだよ。ぼく、見たんだ。
 おばさんたちが、そんなおかあさんをからかってたよ。

 おかあさんたちが料理をしている間に、おじさんたち、兄さんたちは、はりきって狩りに行った。
「いっぱい獲物を取ってきてね」って見送りに出たおかあさんに、
「もちろんさ! 愛しい妹の大事な背の君が訪ねてくるのに狩りの獲物でもてなせないなんて言ったら俺たちの名折れだ!」って叫んで、背高のっぽのレッキおじさんがおかあさんの頭のてっぺんに口づけして、みんなで手を振りながら出かけていった。
 ぼくも早くおじさんたちと狩りに行けるようになりたいな。

 ぼくはセレタ中を走りまわって、きょうだいたちみんなに、明日ぼくのおとうさんが来るんだって言いふらして回った。
 きょうだいたちもみんな大喜びだ。
 だって、誰かのおとうさんが訪ねて来る日のセレタは、いつだって楽しいお祭り騒ぎだもの。
 おとうさんたちはみんな素敵なおみやげを持ってきてくれて、珍しい食べ物が分けてもらえることもあるし、セレタではおとうさんたちをごちそうでもてなすから、みんなも一緒にごちそうが食べられるし、よそのセレタの珍しい話も聞ける。みんなでご馳走を食べながら、おしゃべりしたり歌ったり踊ったり、それは楽しいんだ!

 だからぼくも、誰のおとうさんが来る日でも嬉しいけど、でも、やっぱり、ぼくのおとうさんが来る日は特別に嬉しい。
 ぼくのおとうさんは、強くて狩りが上手くて首筋に立派な狼毛があって、すごくカッコいいんだ!
 おとうさんが自分で狩った立派な獲物を持ってきてくれるのが、ぼくはすごく得意で、いつもみんなに自慢してる。

 でも、妹のリアの前では、ぼくはその自慢はしないようにしているんだ。
 リアは、ぼくとおかあさんが同じな妹なんだけど、リアのおとうさんは足が悪くて狩りが出来ないんだって。だから、おかあさんのところに訪ねてくる時も、自分で狩った獲物は持ってこられないんだ。
 でも、リアのおとうさんは手先が器用で、いろんな便利な道具やきれいな細工物を作れるし、優しくて親切で、女の人たちが炊事場で使う道具をいろいろ作ってあげたり、女の人たちの仕事を気軽に手伝ったりするから、自分のセレタの女の人たちにとても好かれていて、だからリアのおとうさんがうちのセレタを訪ねると言えば、女の人たちがみんなして、自分たちが作ったお菓子や織物をどんどん持たせてくれるんだって。だから、リアのおとうさんも、狩りは出来なくても、素敵な贈り物を山ほど持ってくることが出来る。うちのセレタの女の人たちはみんな、リアのおとうさんが来るのを、特別楽しみにしているんだ。だって、狩りの獲物は一緒に食べたらなくなってしまうけど、リアのおとうさんが作ってきてくれた便利な道具は、みんなでずっと使えるものね。
 ぼくもリアのおとうさんが好きだよ。優しいし、冗談が好きで話がおもしろいし、目の前で素敵な玩具を作ってくれたりするもの。
 おかあさんももちろん、リアのおとうさんが大好きだ。ぼくのおとうさんが来た時は一緒に飛び跳ね踊りを踊ったりするおかあさんも、リアのおとうさんが来たときは、静かにそばに座って、じっと手を握って微笑みあったりしてる。ぼくは笑いながら飛び跳ねて踊ってるおかあさんも好きだけど、たまには静かに座って優しく微笑んでいるおかあさんを見るのも好きだよ。

 だから、リアの前では、ぼくのおとうさんが狩りが上手いっていう自慢はしないけど、でも、ぼくはやっぱり、狩りが得意なぼくのおとうさんは男らしくて誰よりもカッコいいと思う。ぼくもいつか、おとうさんみたいになりたいんだ。

 おとうさんの姿をうっとりと思い描きながら、おかあさんたちがお料理しているところを見物してたら、おばさんに、ちょっと行ってオッテの木の実をもらってきてちょうだいって頼まれた。
 ぼくはセレタのはずれのオッテおじさんの木まで駆けて行って、よく熟した実を枝から分けてもらった。
 それから、オッテおじさんが人の姿だった頃にいつもしていたみたいに、オッテおじさんの木の幹に抱きついて、お礼を言った。
 ぼくたちはみんな、ふとっちょのオッテおじさんの、腕が回りきらないほど大きなぽよぽよのお腹に抱きつくのが大好きだったんだ。温かくて柔らかくて気持ちがいいんだもの。
 木になったオッテおじさんの幹は硬くて、人だった頃のおじさんのお腹みたいにぽよぽよじゃないけど、なんだか少し温かいみたいな気がした。頭の上から、大好きなおじさんの「いっぱいお食べ」っていう優しい声が聞こえたような気がした。

 人だった頃、オッテおじさんは食いしん坊で、ふとっちょだったから木登りや狩りは苦手だったけど、森からおいしい木の実や果物を探してくるのが、すごく上手だった。森のどこかから、誰も見つけたことがないほど立派な果物や珍しい木の実を、どうやってだか、うまく見つけてくるんだ。みんな、誰にも真似の出来ないオッテだけの才能ねって褒めていた。オッテはおいしいものの成る木たちに特別に愛されているのねって。
 そんなオッテおじさんは、去年の秋に死んだ後、今まで誰も見たことがない種類の、今まで一度も食べたことがないほどおいしい実がなる、不思議な果物の木になった。
 みんな、その、新しい種類の果物を、『オッテの実』と呼んでいる。うちのセレタにしかない、特別の果物。甘くて酸っぱくて、みずみずしい果汁がたっぷりで、ものすごく、ものすごくおいしいんだ!
 だから、セレタにお客さんが来た時には、必ず食べさせてあげるんだ。夕焼けが消えたすぐ後の空みたいな不思議な青紫色の、とても綺麗でずっしり重い大きな実なんだよ。

 普通の木は、芽が出てから大きく育つまでにとても時間がかかるけど、人が死んだ後になった木は、芽を出した後、その人が人の姿で生きた年月の分までは、すぐにぐんぐん大きくなって、それから後は普通の木と同じようにゆっくり大きくなる。
 だから、オッテおじさんの木も、芽を出してからほんの数日で人の背丈より高く伸びたけど、その後、その年の秋のうちにもうたくさんの実を鈴なりつけたのには、みんな驚いた。
 オッテは食いしん坊だから何でもすぐに食べたがったわよねって、みんな笑った。お料理がまだ出来てないのに横から手を出そうとして叱られたりしてたわねって。だから、こんなに早く実を成らせたのねって。
 オッテおじさんは、ぼくたちに、なるべく早くおいしい実を食べさせてくれたかったんだね。
 おじさんは、食いしん坊だったけど、自分が見つけてきた特別おいしい果物を、一人で食べたりは絶対にしなかったよ。いつも、みんなにどんどん分けてくれた。特に、ぼくたち子供には気前よく分けてくれた。自分がおいしいものを食べるのが好きなだけじゃなく、自分が見つけてきたおいしいものをみんなが喜んで食べるのを見るのが好きだったんだ。見つけた果物が少なくて全員に分けられないと、とても残念がったっけ。
 きっと、だからオッテおじさんの木は、すごくいっぱい実が成るんだね。しかも夏から秋の間じゅう、取っても取っても次々と実るんだね。ちゃんとみんながいっぱい食べられるように。

 ぼくも、死んだ後は、オッテの実のなる木になりたいな。
 そして、みんなにおいしい実を、どんどん食べさせてあげるんだ。
 妹のリアや弟のリトや、きっとこれからも生まれてくる小さなセレタの弟たち妹たちみんなに。それから、その妹たちが大きくなって産む子供たちや、そのまた子供たちみんなにも。

 誰かが死んで木になる時は、たいてい、みんながよく知ってる、セレタの回りにいっぱい生えてるような種類の木になる。男の人ならゼガーとか、女の人ならエーレンカとかレッカとかになる人が多い。
 尻尾が取れる前の赤ちゃんだったら、必ず『赤ちゃんの木』になる。
 『赤ちゃんの木』は、育ちきってもよちよち歩きの子の背丈くらいまでしかならない小さな木で、顔を近づけてよくよく見ないと形が分からないほど小さな小さなあぶくみたいな白い花と、まるで赤ちゃんの尻尾みたいな、細長くてもこもこした可愛い金茶色の穂を、春から秋までいつも両方つけている。一年目の若い枝の先は柔らかな産毛の生えた薄皮で覆われていて、秋の終りに剥がれ落ちたその薄皮は、赤ちゃんの夜泣きによく効く薬になるんだ。
 小さいままで死んだ姉さんや兄さんたちが夢の中で妹たち弟たちをあやしてくれているんだって、一緒に遊んでくれているんだって、だから赤ちゃんたちが怖い夢を見て泣かなくなるんだって、おかあさんたちは言う。
 夜泣きをしない年になっても、セレタの小さい子たちは、『赤ちゃんの木』の樹皮を入れた小袋をお守りにして身につけるんだ。小さな姉さんたち、兄さんたちが、妹たち弟たちを守ってくれるように。それから、走り回って遊ぶことがないまま木になってしまった赤ちゃんたちが、人の姿の妹や弟と一緒に、セレタの中を走りまわって楽しく遊べるように。

 そんなふうに、死んだ人がどんな木になるかは、だいたいわかっているんだけど、でも、ときどきは、みんなが思っていたのとは違う木や、ちょっと珍しい種類の木になる人もいるし、オッテおじさんみたいに誰も見たことのない新しい種類の木になる人もいる。

 ぼくが生まれる前のことだけれど、オッテおじさんの前にも、ルシルおばさんという人が、誰も見たことのない木になったんだって。お料理が得意で大好きな女の人で、特に、自分で新しいお菓子を考えて作るのが大好きだったんだって。その人は、誰も見たことのない、ほっそりとした綺麗な木になったんだけど、その木の樹皮はとても良い匂いがして、乾かした樹皮を細かく砕いてお菓子に入れてみると、甘い香りと少しぴりっとした風味がついて、すごくおいしかったんだ。
 こうして、うちのセレタにしかない新しいお菓子が生まれたんだよ。そのおばさんが生きていたら、きっと自分が作りたかったに違いないような、とびきりおいしいお菓子が。
 みんな、その木を『ルシルの木』、樹皮で香りをつけたお菓子を『ルシルおばさんのお菓子』って呼んでいる。うちのセレタの自慢のお菓子だ。
 それからあと、お菓子を食べるのや作るのが大好きな女の人たちが、何人もルシルの木になった。それまで、誰も知らない木だったのに。
 今ではルシルの樹皮がセレタの中だけじゃ使いきれないほどいっぱい取れるから、おとうさんたちがよそのセレタに行く時におみやげに持っていくこともできるし、<平地の民>との交易で、お菓子作りに使う穀物と取りかえっこもしてるんだ。ぼくたちは穀物を作らないからね。

 そんなわけで、一度誰かがなったことがある木は、その時には初めて見た木でも、後から別の人もなるようになる。
 だから、ぼくも、今まで誰も知らない木だったオッテの木に、なれるんじゃないかな。ずっとなりたいって思っていれば。

 今回、ぼくのおとうさんのためにも、もちろんルシルおばさんのお菓子を用意したよ。うちのセレタを訪ねてくれた人には、かならずこれを食べさせなくちゃ!
 ぼくたちは普段は木の実の粉や草の根の粉を食べていて、穀物はあまり食べないけど、特別なごちそうを作る時には、穀物を使うんだ。

 オッテの実を籠に盛って、ルシルおばさんのお菓子を焼いて、おじさんたちが仕留めてきた狩りの獲物も料理して、すっかり準備が出来た頃、おとうさんがやってきた。
 おかあさんは髪に花を飾って、おとうさんのところまで駆けていって飛びついたよ。おとうさんが母屋まで歩いてくるのが待ちきれなかったんだ。おとうさんは、いっぱい持ってきたおみやげはセレタの外れで行きあったおじさんたちにもう渡してあったけど、おかあさんにあげる花束だけはまだ手に持っていたから、慌てて花束を投げ捨てておかあさんを受け止めた。傍にいたレッキおじさんが飛んできた花束を空中で受け止めて笑っていたよ。
 ぼくも待ちきれなくて、おとうさんに駆け寄った。おとうさんはおかあさんを抱きしめた後、笑いながらぼくを抱き上げて肩に載せてくれた。
 おとうさんからのおみやげを高々と掲げたおじさんたち、受け取り直した花束を抱えたおかあさんと一緒に、おとうさんの肩に乗って意気揚々と母屋に戻る。
 どうだ、ぼくのおとうさんはカッコいいだろう! それに、すごいだろう、素晴らしい贈り物をこんなにたくさん持ってきてくれたんだよ! ああ、ぼくのおとうさんは最高だ、森一番だ!

 それからみんなでおとうさんと一緒にごちそうを食べて、大人の人たちは木イチゴのお酒を飲んで、みんなで楽しく過ごしたんだ。おとうさんからもらった花を溢れるほどたくさん髪に飾ったおかあさんは、ずっととびきり楽しそうに笑ってて、明るく輝く花ざかりのマリリカの木のようだった。ああ、ぼくのおかあさんは、なんてきれいなんだろう。ぜったいに森一番の美人だぞ!

 いっしょにご飯を食べたりおしゃべりしてる間、おかあさんは、まるでよちよち歩きの赤ちゃんがおかあさんにまとわりつくみたいに、ずっとおとうさんにぴったりくっついて、幸せそうだった。
 ごちそうの後には、おとうさんとおかあさんが一緒に飛び跳ね踊りを踊った。息を切らして笑いながら、向い合って飛び跳ねたり、抱きあってはまた離れたり。
 みんな笑いながら、一緒に踊る。ぼくも妹のリアと向き合って一緒に踊ったよ。
 おとうさんがおかあさんを抱えあげてぐるぐる回れば、おかあさんの髪から花がこぼれる。おかあさんは踊りながら声を上げて笑う。笑い声が、髪からこぼれる花びらみたいに、周りじゅうにはじけ散る。
 ほっぺたを薔薇色に火照らせ、瞳をきらきら輝かせて踊るおかあさんがあんまりきれいだったから、戻ってきたおかあさんに、おばさんたちが言っていた。
「まあ、リリったら、まるで恋の季節の女の子のようだわ。もしかすると、もう一度、恋の季節が来るんじゃない?」
「そうよ、もう一度、アリンと恋の季節を迎えるんじゃない?」
「同じ人と二回恋の季節を迎えることは、そんなに珍しいことじゃないしね」
「そんなわけないわ!」と、おかあさんが笑う。「私はもう三度も恋の季節を迎えたし、子供たちは三人とも元気に育っているんだもの、私には恋の季節はもう来ないわよ!」
 おばさんたちはおかあさんの肩に肩をぶつけたり、おかあさんの腕を指でつついたりしながら、くすくす笑いあう。
「あら、わからないわよ。恋の季節を五回迎えた人だっているんだから。ねえ?」

 ほんとかな、おかあさんに、また恋の季節が来るのかな?
 そうなったら嬉しいな。だって、そうしたら、ぼくにまた弟か妹が生まれるんだもの!




 おとうさんの住む沼の背のセレタは遠いから、おとうさんはうちのセレタに一晩泊まっていくことになった。
 ぼくはおとうさんを、木の上の自分の寝小屋に泊めてあげた。
 自分で作った自分の小屋におとうさんを泊めてあげられて、ぼくはすごく得意だった。
 だって、去年の夏の小屋は、作るときに兄さんたちに少し手伝ってもらったけど、今年の小屋は全部自分一人で作ったんだもの。その小屋におとうさんを泊めてあげられるなんて、とっても嬉しい!
 おとうさんはぼくの小屋を、いっぱい褒めてくれたよ。
 そうしてぼくは、おとうさんの隣で寝たんだ。この部屋を作るのにどんなにがんばったかとか、もうすぐおじさんたちに狩りに連れて行ってもらえることとか、おとうさんみたいに狩りのうまい男になりたいと思ってるってこととか、もう弓矢の練習をしているってこととか、今日食べたお菓子のこととか、おかあさんがどんなにきれいかってこととか、いっぱいいっぱいおしゃべりしながら。すごく楽しかった。

 それなのに、朝起きたら、おとうさんは隣にいなかった。
 沼の端のセレタは遠いから、早起きしてもう帰っちゃったのかな。ぼくも寝坊しないで、もっと早く起きればよかった。でも、ゆうべはおとうさんと一緒なのが嬉しくて嬉しくて、遅くまでおしゃべりしていて、なかなか寝られなかったんだもの。
 そんなふうに、ちょっと残念に思いながら縄を伝い降りて朝ごはんを食べに母屋に行ったら、おかあさんもいなくて、おばさんたちがぼくに笑って教えてくれたんだ。
「おかあさんはね、今朝早く、おとうさんと一緒に森へ行ったわ」
「おかあさんとおとうさんは、今朝、ふたり同時に恋の季節を迎えたの」
「こんなことは滅多にない、特別素敵なことなのよ。ふたり別々に自分のセレタを発って恋人の泉まで行くんじゃなくて、おなじセレタから手を取り合って恋人の泉に向かうなんて!」
「ほんとにねえ。なんて運がいいのかしら。なんて素敵な偶然かしら」

 びっくりしすぎて声も出ないぼくに、おばさんたちが優しく言った。
「そんなわけで、おかあさんはしばらくいないけど、あなたはもう大きいもの、さびしくないわよね」
「それに、おかあさんは、今回はたぶん早めに帰ってくるわよ。だって、リアやリトがまだ小さいもの」
「おかあさんが帰ってくる時には、あなたに弟か妹が増えているのよ。楽しみね」

 やったあ! ぼくに、おとうさんが同じ弟か妹ができるんだ!
 おとうさんが違う妹のリアや弟のリトも大好きだし、普段はいっしょくたに弟とか妹とか呼んでいる、おかあさんの違う小さい子たちもみんな可愛いけど、おとうさんとおかあさんが両方同じな弟や妹がいる子なんて滅多にいないから、なんだかすごく特別な感じ。そんな特別な弟か妹を持つなんて、想像しただけで得意な気分になってくる。嬉しい気分になってくる。
 ぼくはその子を、うんと可愛がるよ。
 弟かな、妹かな。
 弟だったら、どんぐりの独楽を作ってあげよう。妹だったら、毎日髪に飾る花を摘んできてあげよう。そして毎日いっしょに遊んであげよう。おいしい木の実を見つけたら必ず分けてあげよう。ああ、新しい赤ちゃんが来る日が、とっても楽しみだ!



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この作品の著作権は著者冬木洋子(メールはこちらから)に帰属しています。
掲載サイト:カノープス通信
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