<『イルファーラン物語』第三章第三場・オマケ〜『知りたい、知りたい!』の続き〜〜>

「それがね、本当に、どうってことないの。<賢人>同士の恋だなんて、何かすごいドラマがありそうに思うじゃない? それがもう、バカバカしくて……。どうしてあんな非凡な二人に、こんなつまらない、ありふれたことが起こってしまうのかって思うくらい。若くて恋をしている時は、きっと誰だってバカみたいなのね……。あのシーン様でさえ。
 あのね、あの二人は、上級学校の同級生だったのよ。で、付き合ってたんだけど、はっきり恋人っていうんじゃなくて、なんか、友達か恋人かはっきりしないような関係だったんだって。二人が好き合っているっていうのはみんな知っていたから、そのうち婚約でもするんだろうと思ってたのに、全然そうならなかったんだって。きっと、リオン様が悪いのよね。リオン様も若いころはバカだったのよ。
 ところがシーン様はもっとバカで、学校を出るまぎわに、親に勧められた縁談を承知しちゃったんだって。もちろん、リオン様が好きだったのによ。もしかすると、縁談があるって言えばリオン様が止めてくれると思ったんじゃないかしら。ところがリオン様に、おめでとう、とか言われちゃって、ひっこみがつかなくなって、そのまんま、卒業してすぐに結婚しちゃったんだって。
 リオン様は婚礼の宴会に招待されて、その時もみんなと一緒になってお祝いを言ったんですってよ。すっごい、バカ。これはあたしが想像したんだけど、シーン様はもしかしたら結婚式の当日までリオン様が止めてくれるかと思ってて、それでわざわざ彼を招待したんじゃないかしら? リオン様がそれやってたら、すっごいロマンティックだったと思わない? でも、そうしなかったのよねえ」
「なんか、ありそうでなさそうな、バカな話ねえ。ありがちな話みたいな気がするけど、実際にそこまでバカやっちゃう人たちって、あんまりいないんじゃない? 『引っ込みがつかない』で結婚されちゃったお婿さんも、かわいそうね」
「でも、夫婦仲はそれなりによかったみたいよ。友達みたいな感じだったって。でも、あんまり丈夫な人じゃなくて、結婚して三年くらいで病気で死んじゃったんだって。まだ、子供もいなかったの。で、シーン様が未亡人になった時、まだ独身だったリオン様は、もちろんすっとんで行って元気づけたんだけど、ただそれだけで、その後もプロポーズしたりとか、しなかったんだって。やりなおすチャンスだったかもしれないのにね。
 そんなわけで、それきり今でも、友達のまんま。だから、きっともう、ずっとこのままだと思うんだけど、ほら、焼けぼっくいに火が……っていうじゃない。あーあ、あたしの恋も楽じゃないのよ」
「ねえ、でも、あなた、そんな自分が生れる前の話、どうして知ってるの?」
「あら、構内で働く人は、みんな知ってるわよ。有名な話だもん。<賢人の塔>の職員には上級学校でリオン様たちと一緒だった人もいるし、あの二人は学生の頃から優秀で、有名人だったから、二人の恋の行方は、構内のみんなに注目されてたのよ。まあ、ここまで細かく知ってる人は少ないかも知れないけどね。
 あたしがここまで詳しいのは、ゼールおじいちゃまに聞いたからよ。彼、いい人だけど、口が軽いんだもん。彼、二人の恩師なのよ。当時、上級学校の先生だったの。で、いろいろ相談に乗ったりしてたみたいよ。あと、あたしの年上の友達の中には、ふたりの同級生だった人もいるしね。あたし、情報通なんだから。何でも聞いて!」
 こうして二人の恋する乙女は、真冬の路上で果てしなくおしゃべりに興じ続けた。

……というわけで、本編のストーリー展開上、全く必要の無い無駄話でした(^^ゞ

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この作品の著作権は著者 冬木洋子に帰属しています。

掲載サイト:カノープス通信
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