第18回 『竜兄ちゃん変人エピソード集』の巻
(終章読了後推奨)
終章から削ったボツ・エピソード集の第二弾として、『竜兄ちゃん』がいかに変人かを語るエピソードの一部をご紹介。 その1 竜兄ちゃんは犬猫をすごくたくさん飼っている。 *****以下、美紀と美紀のボツ会話より引用 「今、竜兄ちゃんが、人が手放そうとしてる犬を片っ端から引き取って来ちゃってるのは、ベスへの罪滅ぼしみたいな気持ちもあるんじゃないかな」 「でも、借家なんでしょ? 借家で、そんなに犬飼えるの?」 「そうなの。犬を飼うために、わざわざ、まわりに人家のない山の中の、だだっ広い庭つきの一軒屋を借りたのよ。ていっても、本当は別に最初からそんなにたくさん飼うつもりだったわけじゃなくて、最初は、知り合いのブリ−ダ−から貰ってきた犬が一匹だけだったんだけど、その後、事情があって飼えなくなった人から犬を引き取ってあげたり、捨て猫拾ってきたりしてるうちに、自然に犬猫が増えちゃったんだって。ほら、職業柄、獣医さんとか愛犬家に知り合いが多いでしょ。で、最初はそういうツテで紹介された犬猫を何度か引き取ったら、あそこなら飼ってくれるらしいっていう口コミが広まっちゃって、ますますあちこちから頼ってこられるようになっちゃったらしいの。で、困ったなとは思ってるんだけど、貰い手が付かなくて宙に浮いてる犬なんか、自分が引き取らないと保健所行きになっちゃうかもって思うと知らんぷりできなくなって、結局、ついつい、泣きつかれる端から引き取っちゃうんだって。あと、捨て犬とか捨て猫とか、見るとほっとけなくて、みんな拾ってきちゃうんだって。最近じゃ、それがご近所で有名になっちゃったもんで、わざわざ竜兄ちゃんちの前にこっそり車で乗りつけて犬猫捨ててく人がいて、困ってるって。そんなふうだから、結局、だだっ広い庭中を犬の運動場にして、犬舎いくつも作って、ハスキーとかレトリバーとか、でかいのを何匹も飼って、家の中は、小型犬や猫がうじゃうじゃ走り回ってるの」 ***** このエピソードは、無駄話であるだけでなく、無理があるのでボツにしました。 竜は貧乏独身一人暮らしで、仕事は決まった休日も無く、依頼主の都合に合わせた出張訓練中心なので営業時間も不規則で帰りが夜遅くなることも多く、家を空けている時間が非常に長いと思われ、また、ペットシッターなどを頼むお金もないと思われるので、そんな状態で大型犬の極端な多頭飼いは明らかに無理があります。この人の場合、動物を飼う以上、絶対に、どんな困難があっても責任持ってきちんと世話するはずで、だからこそ、あきらかにきちんとした飼育が無理な状況であれば、どんな事情があっても、飼える以上の動物は飼わないはず……。というわけで、カット。 2 竜兄ちゃんは、犬猫うじゃうじゃだけでなく、他の動物もいろいろ飼っている。そのために、ついたあだ名が『エゴノキ平のムツゴロ○さん』。 *****以下、美紀と美紀のボツ会話より引用。 「あ、そうだ、あのね、竜兄ちゃんは、タヌキも飼ってるのよ」 「へっ? タヌキ?」 「そう。交通事故にあって怪我してたのを拾ってきて、命は助かったけど足が不自由になっちゃったから野生では生きていけないだろうって、そのまま自分が飼って面倒みてるんだって。そういうのを、絶対、放っとけない人なのよ。そういう、やさしい人なのよォ。あ、そのタヌキ、お手とかお座りとか、芸も出来るのよ。竜兄ちゃんが教えたんだって。すごいでしょ!」 「あのね、ユリ……。確かにやさしい人なんだろうけど……。でも、あたし、悪いけど、そんな、犬猫うじゃうじゃだけでなくタヌキまで飼ってるような、しかもタヌキに芸を教えてるような人とは、赤い糸で結ばれていたくない……」 「どうして? 里菜、動物、好きじゃなかった? タヌキは嫌いなの? けっこう可愛かったわよ?」 「そういう問題じゃなくて……」 「タヌキだけじゃなくて、他にもいろいろ飼ってるのよ。ヤギとかイグアナとか。犬と同じで、ほとんどが貰いものだそうだけど。目新しいペットを飼ったはいいけど大きくなったら持てあましちゃったとか、赤ちゃんが沢山生まれちゃったとか、事情があって手放さないとならなくなったとか、そういうのを頼まれて引き取ってるうちに、いつのまにか種類が増えて動物園みたいになっちゃったんだって。仕事しながら一人で面倒見るにはもう限界だからこれ以上増やしたくないのに、なぜか増えちゃうんで、すごく困ってるって言うんだけど。でも、困ってるいっていうわりに、動物たちの話してる時の竜兄ちゃん、嬉しそうに目細めて笑ってたけどね。そんなだから、今じゃ、近所の人たちに『エゴノキ平の動物王国』って呼ばれてるんだって。あ、『エゴノキ平』っていうのは、竜兄ちゃんの住んでる元別荘地の通称ね。全然平らじゃないのに、なんでかなあ。で、竜兄ちゃんのあだ名は、もちろん、『エゴノキ平のムツゴ○ウさん』。笑えるでしょ!」 「なに、それ、やだ……。サイテ−……」 「えっ、里菜、ムツ○ロウさん、嫌い? なんで? あたし、けっこう好きなんだけど」 「べっ、別にム○ゴロウさんが特に嫌いなわけじゃないけど……」 ***** これも、1と同じ理由でボツになりました。 3 竜兄ちゃん・腕立て伏せ疑惑 *****以下、美紀と美紀のボツ会話より引用。 「竜兄ちゃんって、性格はすごく穏やかな人なんだけど、見た目、ガタイでかくて、筋肉モリモリで、顔も見ようによっちゃけっこうコワモテで、なんていうか、『思うところあって世を捨てて山に籠った孤高の天才格闘家』みたいな、ちょっと気安く近寄れない雰囲気があるのよね。ほんとは全然、そんな人じゃないんだけどね。あ、でも、竜兄ちゃんちの庭の木の枝に、なんか、板っぱがヒモでぶら下げてあったなあ。これはなんだろうって思って、そのまま聞き忘れたけど、もしかすると竜兄ちゃん、毎日あれに飛び蹴りとか入れて修業してたりして。『アチョー!』とか『トリャアー!』とか言って。で、毎日ちょっとずつ、板を高くしてたりして。あはは、似あう似あう、ほんとにやってそう! で、独り暮らしでテレビもなくて、夜なんか何もやることないだろうから、きっと、毎晩、一人でせっせと腕立て伏せとか腹筋とかやってるのよ。絶対、そうよ! うん、それは絶対、ほんとにやってるわよ。だって、でなきゃ、あの筋肉、維持できないでしょうよ」 「……ねえ、ユリ。あたし、そういう、体育会系の男の人は、ちょっと……」 「駄目よ! 食わず嫌いはいけないわ!」 「く、食わず嫌い……」 「そうよ、あんたがそんな、その人がほんとはどんな人かを知りもしないうちに、ただ筋肉がついてるとか腕立て伏せをしてるとかの通り一ぺんの上っ面だけで一方的に『何系』とか決めつけて十把一からげに『趣味じゃない』なんて思いこんできた男の中に、実はあんたと相性ピッタリの人がいたかも知れないじゃないのよ。腕立て伏せをするって聞いただけで、もう、その人のことを知ろうともしないで、いきなりパスしちゃうわけ? 腕立て伏せって、そんなに悪いこと? 腕立て伏せをする男はみんな性格が悪いとか、あんたと相性が悪いとか、そんなことってある? 先入観で間口を狭めちゃ、自分が損よ。要は中身なんだからさ。それぞれの中身をちゃんと見なきゃ。そういうのって、ちゃんと知り合ってみなきゃ、わかんないじゃないの!」 「う……。そりゃあそうだけど……」 「それに、竜兄ちゃんは、里菜が思ってるような『体育会系』というのとは違うと思うな。今は特に何かスポーツしてるわけじゃないらしいし。でも、それなのに今でもああいう体型を保ってるって言うことは、腕立て伏せかどうかはともかく、かなりストイックに自分の身体をメンテナンスしてるはずだとは思うけどね。たぶん、あの人は、ただ、『たるんでる』のが嫌なんじゃないかな。とにかく真面目で、几帳面で、自分を甘やかすのが嫌いそうだから、きっと、自己管理が足りなくて自分の身体がなまるのとか、自堕落して不健康になるのとか、そういうのに我慢ならなくて、だから常に自己鍛錬を怠らずに、体調管理とか、すごくきちんとやってるんじゃないかって思っただけ。健康オタクっていうのとも違うと思うんだけど、何しろ、何事にも手を抜かない人だからさ。炊事洗濯でも帳簿付けでも筋トレでも、みんな同じ顔して、淡々と黙々と順番通りに完璧にこなしてるんだろうなあって感じ。責任感強そうだし、完全主義者だし、自分の身体でも何でも全部、いつもきちんと自分で管理して、自分が納得できるコンディションを整えておかずにはいられないのよ、きっと。自分もちゃんと管理できないような人間が犬に責任を持てるか、とか言ってたし」 「はあ〜、それはとっても立派よねえ。でもねえ……。ねえ、さっきから聞いてると、その人って、聞けば聞くほど、ずいぶん変人みたいじゃない?」 ***** これは、無駄話である上に、大人になってからずっと会っていなかった竜の家に一度遊びに行っただけの美紀が竜の生活や性格についてあまりに知りすぎているのも不自然だと思い、ボツにしました。 このネタ(『夜中に腕立て伏せ』疑惑)があったせいで、第一回キャラ人気投票時の結果発表時に、アルファードとローイが腕立て伏せをするという妙なネタが思い浮かんでしまったのでした。 ちなみに、美紀の話に出てくる『庭に板っぱ』には、ささやかな裏設定もあって、実はこれは以前竜兄ちゃんが猿を飼っていたときの名残りの猿用の遊具だということになっていました。 何かの事情で処分されそうになっていたのを引き取ってきたその猿は、数年前に死んだのだけれど、その後も、庭の板きれは何となく撤去しがたく、愛猿を偲んでそのまま残されている……という設定でした。 というわけで、『竜兄ちゃん=変人』エピソード集でした。 これらのネタの一部は、もしかすると、そのうち執筆予定の後日譚に使い回すかもしれません。 →『イルファーラン物語☆創作裏話』目次へ →トップページへ →『イルファーラン物語』目次ページへ |