イルファーラン物語☆創作裏話

第15回 『ユーリオン絡みボツネタ放出』の巻
(第三章読了後推奨)

 『イルファーラン物語』は、完結原稿を推敲しながらアップしています。
 推敲といっても全体の構成が変わるような大きなものではなく、たいていは、誤字脱字のチェックに毛が生えた程度のささいな微調整ですが、何箇所かは、サイト公開に当たってワン・エピソードをごそっとまるごと削った部分があります。
 第三章にも、そういう箇所が二箇所ありました。
 そのうち一箇所は、『第三場おまけ』という変則的な形で公開した、ユーリオンとファルシーンの過去話です。
 もう一ヵ所は、第六場。里菜がリューリたちと食事をする場面で、食事時の雑談の内容として書かれていたユーリオン絡みのエピソードを一つ丸ごと削りました。
 いずれも、本編とはあまり関係のない、あまりにも脱線的な内容だったので……。

 というわけで、第三章で丸々削ったエピソードは、両方、ユーリオンがらみのものです。
 それだけ、ユーリオンというキャラには、ストーリー展開上の必要を超えてでしゃばっており、不必要なエピソードが多いのです。

 なんでかというと、ユーリオンは私の萌え要素を体現したキャラだから(^^ゞ
 この『創作裏話』の第一回に書いたとおり、私、何を思ったか、メインのヒーローに、わざわざ自分の好みじゃないタイプ(体育会系筋肉男)を据えてしまったんです。
 でも、せっかく自分のお話を書くのに自分の好みのタイプの男性を出せないのはつまらないから、よ〜し、せめて脇役に自分の趣味炸裂のキャラを出してみよう!
 ……というところから生まれたのが、ユーリオンなのです(^^ゞ

 どこが私の趣味炸裂かというと、まず、年上キャラであること。現在の私の実年齢を省みると、いつのまにか年下になっちゃってたけど(^_^;)、初稿を書いてた当時にはうんと年上だったし、それに、自分の実年齢とは関係なく根本的に『年上属性』っぽいキャラなのです。
 そして、知的で穏やかな学者タイプであること。

 顔が美形だったり体格が華奢なのは、特に私の趣味というわけでもなく、単なる『オマケ』です。 私は顔や体型にはあまりこだわりがないので、アルファードが非美形でデカイからキャラのバラエティを考えて小柄な美形にしてみるか……程度で決めたのです。 あと、せっかく西洋風異世界ファンタジーなのにそういえば青い目の人がいないから、1人くらい青い目にしてみるか、とか。

 キザだったりミーハーだったり、実はけっこうちゃっかりしてたりタヌキおやじだったりするのは私の趣味とは関係なく、彼が勝手に獲得した独自の個性です。

 そんな経緯で、ユーリオンは、果たす役割としてはちょい役なのに妙にでしゃばってて、不必要なまでに描きこまれていて、推敲時にいろいろ削られる羽目になってしまったのです。

 その、削ったものが惜しいので、第六場から削除したエピソードを、裏話としてここで紹介します。
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『第三章第六場より、ボツネタ・食堂での里菜とリューリ、ティーオたちの会話』

 定食を取り終えて席に着くと、ティーオが、里菜に笑いかけた。
「リーナ、あなたが<長老>を叱り飛ばしたって話、研究所でも治療院でも、大評判ですよ」
 里菜は真っ赤になって頭を抱えた。
「別に、叱り飛ばしたわけじゃ……」
 これを聞いて、リューリも思い出し笑いを始めた。
「そうそう、こないだも、あなた、リオン様と広場ですれ違った時、むこうが挨拶したのを完全に無視したそうじゃない。リオン様、けっこう気にしてるみたいよ。あなたもやるわねえ。あたしも見習ってみようかしら。少しはリオン様に気にしてもらえるもの」
 里菜は、何度かリューリと一緒にユーリオンに食事を奢ってもらっていたが、このあいだユーリオンと喧嘩して、それ以来、彼と一切口をきいていないのだ。これは、喧嘩と言っても、里菜が一方的にユーリオンを罵り倒したのである。
 この街で、里菜は、『あちら』にいたころにはほとんど実感することもなかった社会の矛盾や汚濁、理不尽を、いやと言うほど肌で感じてきた。魔物退治などという夜の世界の汚れ仕事をしていると、この街の暗部のありさまを、たとえ表面的にでも、いやおうなしにある程度は見聞きしてしまうのだ。
 特に、里菜がこれだけは許せないと思ったのは、キャテルニーカと同じような年頃や、あるいはもっと幼い子供たちで、学校に行けずに、物乞いや、さらに痛ましいことには売春などをしているものが相当いることだった。たまたま自分たちと巡り合わなければキャテルニーカだってああいう境遇に落ちていたかもしれないのだと思うと、里菜はぞっとする。そんなことは世の中に絶対にあってはいけないことだと思う。
 そういう子供たちの多くは、北部からの避難民の子供たちで、つまりは<賢人会議>が大量の避難民に対して何の対策も取らないからこういうことが起きるのだと、里菜は思っている。何しろ<賢人会議>が避難民にしてやっていることといえば、一切れのパンと薄いスープを配ることだけなのだ。
 それで里菜は、ある日、いつものように食事を奢ってくれたユーリオンに彼女たちの救済を涙ながらに訴え、仮にも<長老>である彼の責任を厳しく追及したのだった。
 ところが、彼はそれを、のらりくらりと言い逃れ、里菜の提案をことごとく夢物語としてあしらったのだ。少なくとも、里菜には、そうとしか聞こえなかった。
 さらにショックだったのは、当然自分の味方をしてくれると思っていたアルファードの冷たい態度だった。アルファードは、こう言ったのだ。
「リーナ、今は陳情の時間じゃない。公務時間外なんだ。そんな話はよせ」
 里菜はそれでよけいにむきになってユーリオンに詰め寄った。
 しまいにユーリオンは、辟易して、こう言った。
「リーナ君、私がそれを知らないと思っていたのかね。私だって、ずっと心を痛めてはいるんだ。なんとかできるものなら、してやりたいさ。しかしね、これは、まあ、公の場では思っていても言っちゃいけないことなんだが、物事には優先順位があるからね。今は非常事態なんだ。はっきり言って、限られた予算と人手を、そういう、大勢の命や生活にかかわらないところに回すわけにはいかないんだ。君の意見はいつでもとても斬新で刺激的だが、君の言うようなことを実際に全部国がやっていたら、たちまち財政は破綻して、私は火あぶりだ」
「リオン様は、何を言ってもそればっかり! 予算とか、暴動とか、火あぶりとか……。結局、自分が火あぶりになるのが怖くて逃げてるだけなんだわ。弱虫! 卑怯者! どうせ偉い人なんて保身のことしか考えないのね」
「……そうまで言われると、さすがに辛いね」と、ユーリオンは厳しい顔つきになった。
「リーナ君。もし、私一人が火あぶりになれば、あの子たちや、今、この国でもっと辛い目にあっている子供たち全部がたちまち救われるというのなら、私は喜んで火あぶりになるよ。だが、そうじゃないだろう」
「知らない、そんなこと! とにかく何とかしてあげてよ! どうしてまだ、孤児院が出来ないの? ずっと前に、作るって言ったくせに、まだ工事も始めてないじゃないの」
「いいかい、リーナ君、それは、建物を建てるだけなら、半年あれば着工くらい出来るだろう。だがあいにくと私は独裁者ではないのでね。工事の命令を出す前に、まずみんなで相談して意見をまとめ、市民の理解を取りつけ、計画を練り、予算を捻り出してもらわなければならないんだよ」
「じゃあ、今、のろくさと相談とかしてるわけ? してないんでしょ」
「確かに、まだ、数人の<賢人>と個人的に話しただけだ。何しろ今は、もっとさしせまった問題があるからね。魔物のこと、治安のこと、避難民のこと……」
「だからその、避難民のために、孤児院やなんかがいるんでしょ!」
 こうしてユーリオンを際限なく罵倒する里菜を、アルファードが引きずるようにして彼から引き離し、その日の会食は気まずく終った。
 帰り道、里菜はまだ気持が収まらず、ユーリオンに対する不満をリューリにぶつけ続けた。知らんぷりのアルファードでは話にならないと思ったのだ。
「リオン様って、絶対ずるいわ。許せない!」といきまく里菜に、リューリはひとこと、
「あなた、青いわね」と軽く言っただけだった。
 それまで、里菜がユーリオンを責めているあいだもほとんどずっと黙っていたアルファードが、突然口を挟んだ。
「リーナ。<長老>だって、普通の人間だ。神じゃない。今の<賢人会議>には、本当にたいした力はないんだ。彼は君に、普通は言わないような本音を語ってくれたんだぞ。彼だって辛いのさ。わかってやれ」
「わかりたくないもん! アルファードのバカ!」
 そう言って、里菜は、ひとりでずんずん帰ってきてしまった。後ろでアルファードとリューリが、めずらしく顔を見合わせて肩をすくめていた。
 一方、ユーリオンは、あれからいつまでも怒っている里菜にかなり閉口したらしく、
「リューリといい、リーナ君といい、きっとあの手の女の子は私には鬼門なんだ。いや、最初は、リーナ君はリューリとは違っておとなしそうな子だと思っていたんだが、いやいや、女の子はやっかいだ。リューリみたいにやたらとなつかれすぎるのも迷惑だが、ああまで嫌いまくられるのも、ちょっと悲しいものがあるね。まったく、ああいう難しい年ごろの娘さんにはできるだけ関わりあわないのが身のためらしい」などと、さんざんぼやいていたという話だ。
 実はユーリオンは、里菜に言われたことが結構こたえているのである。里菜は、彼の痛いところをぐさりと突いてしまったのだ。
 里菜から見ると、彼はただの保身的な事無かれ主義者にしか見えないのだが、彼には彼なりの、政治家としての夢も理想もあって、それはまさに、この国から初級学校にいけない子供をなくすことだったのである。初級学校は一応、国中の子供が行くのが建前なのだが、子供を学校に通わせる余裕を保証するような福祉制度が全くない国で教育制度だけ整っていても絵に描いた餅で、実際には家の事情などで学校に通えない子供も多く、彼はまだ<長老>になる以前、教育担当の<賢人>だったころから、そのことで心を痛めていたのである。
 が、近頃ではそんな理想も、決して捨てたり忘れたりしたわけではないが、日常の雑務や、魔物の跳梁という大問題の前で、すみっこに追いやられがちだった。そんな彼にとって、里菜に、彼が実はずっと気にかけながらも何もしてやれずにいた避難民の子供たちのことをなじられるのは、かなり辛いことだったのだ。
 もっとも、ユーリオンが里菜に嫌われたのを気にしている理由はそれだけではなく、もっと俗なものもあった。彼は実は、常に若い娘たちから素敵だと思われ続けていたいという気持ちが人一倍強いのである。それは別に何の下心もない万年青年の無邪気な願望で、ただ単に、独身なので気が若いだけなのだが、リューリのことも口で言うほど迷惑には思っていず、実はまんざらでもなかったりする。そういう彼だから、若い娘から十束ひとからげの『卑怯な大人』として見なされるのは、結構、ショックなのである。
 ともあれ里菜は、これで、魔物退治だけでなく、『長老を怒鳴りつけた娘』としても勇名を馳せることになった。


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 以上、ボツネタ終わりです。ストーリー展開と全く関係のない脱線エピソードです……(^_^;)
 このエピソードの削除を受けて、第五章でも一部削除をしました。ついでにそれも公開。

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『第五章第一場より、ボツネタ・北の荒野から帰還した里菜とユーリオンの執務室での会話』

「リーナ君、その……。これは女神様にではなく、ただの女の子の君に聞くんだが……。以前、私は君に、孤児院のことでひどく叱られたろう。今でも怒ってるかね?」
 心配そうに尋ねるユーリオンに、里菜は、
「いいえ」と、微笑んだ。
 里菜はもう、この、学者あがりの気弱な政治家に対する反感を、すっかり忘れていた。今なら、誰でも何でも許してあげられるような気がした。少なくとも彼は、悪い人間ではないのだ。むしろ、『長老』などという役職にあるには正直過ぎる人間なのだろう。
「ありがとう。ほっとしたよ。私は、君に言われたことを、これで結構、気にしていたんだよ。私だってこれでいいと思っていたわけじゃないんだ。ただ、私だって一生懸命やっていたんだ。それは分かってくれるね。こうして、魔王が倒された以上、後は私は、この国に残された傷跡をなんとか埋めていくために、この身を捧げるつもりだよ。命だって捧げていいんだが、私が死んだって、<長老>を辞めたって、何の役にも立ちはしない。私は生きてこの国のために働きたいと思っている。そうすると、まあ、これからもいろいろ面倒な雑事はあるし、君から見ると私はただ保身に窮々としているだけのように見える場合もあるかもしれない。でも、そうじゃないんだ。権力に執着するわけじゃないし、権力者だけが国のために何かを出来るわけでもないんだが、それでも、<長老>の座にあってこそできる仕事というのは、たくさんあるからね。だから、私が君から見て、ずるいように見えることがあっても、どうか許して、私の仕事を、その……、長い目で暖かく見守ってくれないか。少なくとも、孤児院は絶対、近いうちに実現させるから」
「……リオン様。近いうちって、何十年後?」
「えっ……」
「うそ、うそ、冗談です。からかってみただけ……」
 里菜はまた笑いだし、ユーリオンは苦り切った。
「まったく、君たちは、こんな大仕事をかたずけてきて、いきなりこんなふうにひょこっと目の前に現われたと思ったら、ふたりして私をからかって面白がってばかりいる……。だいたい、困るんだよ、こんな気軽な帰りかたをされちゃあ」

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 以上、ボツネタその2、終わりです。
 せっかく書いたものを削るのって、すごく辛い作業です。でも、第三章第三場の時に、ふと思い立って、削った分を『オマケ』としてアップしてみたら、ぐっと気が楽になったので、不要なものを本編から心置きなく削るために、後でこうして裏話にアップすることにしてみました。もし読む人がほとんどいなくても、とりあえず公開したということで自己満足できるから。こういう場がなければ、要らないと分かっているものも、もったいなくてなかなか削れないです……。

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