イルファーラン物語☆創作裏話

第13回 『アルファード・名前の由来』の巻
(本編未読OK)

 うちの感想掲示板は、無料レンタルなので広告が入るのですが、最近、その広告に、ADS by googleというシステムが導入されました。
 これは、その掲示板の書き込みに使われている言葉を収集することで、どんなことが話題になっている掲示板なのかの見当をつけ、そこの訪問者が興味を持ちそうなジャンルの広告を出すというシステムらしいです。
 そうしたら、出てきた広告が……『アルファード無料査定』『アルファード ユーザー評価』『アルファード中古販売』『アルファード高値買取』等々……(^_^;)
 もちろん、うちの羊飼い氏をどこかで売り買いしているわけではありません(あたりまえ!)。全部、自動車の話です。

 そうなんです、うちの主人公の名前はト○タの車と同じなんです……(^_^;)
 でも、うちのアルファードのほうがトヨ○の車よりずっと前から(10年以上前に『イルファーラン物語』の初稿に着手した当時から)アルファードという名前だったんですよ〜(T-T)
 第一章を連載している途中でトヨ○から『アルファード』が発売された時は、(ええ〜っ!)と思いましたよ。

 そして、この名前は、元をただせば、さらにその10年以上前、私が小学校高学年か中学生くらいの頃に空想していた(『書いていた』、ではなく、『空想していた』なのがお恥ずかしい(笑))別の物語のキャラの名前だったのです。

 その、別の物語というのは、燕が主人公の動物モノでした。
 子供の頃、私は、動物モノのお話が大好きで(今でも好きですが)、『シートン動物記』などを愛読しており、たぶん、そんな雰囲気の物語を空想していたと思います。
 で、『アルファード』というのは、重要な脇役で、群れの前リーダーである老いたる雄燕の名前でした。
 主人公は若き現リーダーの『レグルス』で、他に、アルファードの娘で主人公の恋人である『ジェンマ』、レグルスのライバルの雄燕(名前忘れた)などのキャラがいた……ような気がしますが、何しろ空想していただけのお話なので、キャラもストーリーも、今ではもう、ほとんど覚えていません。
 何にしても子供の空想物語ですから、このお話は、今後も絶対に作品として日の目を見ることはないでしょう。

 というわけで、十数年後に、今度は空想するだけじゃなく本当に小説を書こうと思い立ったとき、昔空想したお話のキャラの名前を、主人公の名前に転用したのです。
 内容はほとんど忘れているお話ですが、『アルファード』という名前はとても気に入っており、お蔵入りさせたままにしておくのが惜しかったので。
 (ついでに、元は主役の名前だった『レグルス』は、立場を入れ替えて、アルファードの養い親の名前『レグル老』に生かされました)

 ちなみに、『アルファード』というのは(『レグルス』と『ジェンマ』もですが)、実在の星の名前です。トヨ○の車とは一切関係ありません(笑)。
 『アルファード』は、海蛇座のα星で、本によっては『アルファルド』と表記されていることもあります。

 『イルファーラン物語』の中でも、『アルファードというのは星の名前で『一つ星』『孤独な星』という意味である』ということになっていますが、実在の『アルファード』星の名前も、小説中でと同じく、『一つ星』という意味であり、これはアラビア語だそうです。
(ちなみに、アルファードという言葉をアラビア文字で書くと、下の図のようになるそうです。大学でアラビア語を学んだというゆめのみなとさん@夢の湊が書いてくださいました!)





 この星が『一つ星』と呼ばれているのは、『イルファーラン物語』中での設定と同じく、他にあまり星の無い空域にぽつんとひとつ寂しげに光っているためらしいです。

 また、アルファード星には、『コル・ヒドレ』という別名もあり、これは、『ヒドラの心臓』という意味です。
 海蛇座の『海蛇』というのは、実在の生物であるウミヘビのことではなく、ギリシャ神話でヘラクレスに退治される怪物『ヒドラ』であり、『ヒドラ』というのは、『沼蛇』と訳されることもありますが、要するに、竜の一種です。
 ですから、アルファードと言う名前は、ドラゴンとゆかりが深い名前なのです。

 作中で、アルファードは、ドラゴンを退治するのに心臓を貫きますが、私が彼をそのように描くことになったきっかけは、『コル・ヒドレ』(『ヒドラ=竜の心臓』)と関連する名前を付けたためなのです。
 アルファードというキャラは、『アルファード』という名前を得たことで、『ドラゴンと縁の深いものであるがゆえにドラゴン退治を宿命付けられた英雄』という二面性と葛藤を内包し、物語中の役割の上で必要な以上の象徴性と個性を持ってしまったのです。

 『イルファーラン物語』は、当初、里菜の成長の物語として構想され、アルファードは、その中で里菜の恋の相手役として、コンビを組んで戦う相棒として、また、『死』や『異界』や『非現実』『夢』『非物質』を象徴する魔王に対して『生』や『現世』『現実』『日常』『物質』を象徴する人物として設定され、あくまで『里菜にとってどういう存在か』ということだけが問題の脇キャラのはずでした。
(アルファードが非常に堅固な肉体性を誇示しているのには、裏話第一話で述べた『戦力上のバランス』という理由の他にも、魔王の対極に位置する『現世』・『物質』を象徴するキャラだからというのもあるのです)

 アルファードがどんな性格であり、どんな過去を持つかなどは、キャラを立てるために必要ではあっても、物語の本筋とは関係のないことのはずでした。ただ、肉体的な存在感と力を誇る存在であり、里菜にとって好ましい男性であり、割れ鍋に綴じ蓋の唯一無二の相棒でありさえすればよく、性格的には、『いい人』である以上の個性は必要ないはずだったのです。(つまり、『肉体派のお人よし』でOK……(^_^;))

 そのアルファードが、『アルファード』と言う名前をつけられたことでドラゴン退治をする宿命を負いました。
 良く考えてみれば、アルファードがアルファードと言う名前でなければ『イルファーラン物語』にドラゴンが出てくる必要は無く、悪役は魔王だけで十分だったのです。
 そして、『彼はなぜドラゴンと戦う必要があるのか、彼にとってのドラゴンとは何か』と考えるうちに、彼は、里菜には設定されていない『過去』と『葛藤』を得、そのために、『イルファーラン物語』は、『里菜の成長の物語』であるのと同程度、あるいは、下手をするとそれ以上に『アルファードの成長物語』にもなり、『里菜が主役でアルファードはその相手役』ではなく『里菜とアルファードの二人が主役』の物語になったのです。

 キャラに相応しい名前を付けたのではなく、付けた名前に相応しいキャラが出来たというのは、われながらちょっと面白い成り立ちだなと思います。

 まあ、『イルファーラン物語』が『主に里菜の』ではなく『主にアルファードの』成長物語になったのは、里菜よりアルファードのほうが人格的に問題が多く、より成長の必要性が大きかったというせいもありますが……。

 里菜は里菜で未熟者ですが、彼女の場合、それはただ単にまだ幼いだけで、今取り付かれている漠然とした厭世感さえ取り除かれれば今後順当に成長してゆくであろう柔軟な健やかさを持っていますが、アルファードの場合、途中で人格の外側に硬い殻が出来てしまって、その内側は未熟なまま、いびつな形で成長が止ってしまっているので、彼の成長のためには外側から力を加えてその硬い殻を破る手伝いをしてやる必要があるのです。そうすることで、彼は初めて、殻を破って生まれ変われるのです。

 そういうわけで、これから連載する第四章は、里菜と魔王の決着の物語であると同時に、『アルファードの孵化の物語』――ひよっこ・アルファードがもがき苦しみながら硬い卵の殻を突き破って新しく生まれ出る物語です。

 そういえば、ファンタジーの世界で、成長に過酷な通過儀礼が必要なのはたいがい男の子であり、少女たちは、苦闘する少年たちを尻目に、もっと自然に、滑らかな上昇曲線を描いていつのまにか成長しているものであることが多いような気がします。

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追記:この裏話をアップした後、相互リンク先A-METALtelewayのアカガネヒロ様から掲示板でアラビア語の『アルファード』に関する情報を頂きました!
ゆめのさん同様、学生時代にアラビア語を学んだというアカガネさんがアラビア語-英語の辞書で調べたところ、『アラビア語のファラダ(=ファルドの語根)という言葉のもともとの意味はto be single、be aloneとあり、ここから派生した語句にone part、one half、one of a pair』とあるそうです。
『one half、one of a pair』……つまり、『片割れ』『一対の片方』。
里菜とアルファードは二人で一対、アルファードはその片割れ……そう考えると、ますます彼にぴったりの名前なんですね。なんてロマンチックな偶然でしょう!
ちなみに、出典となった辞書は下記のものだそうです。

THE HANS WEHR DICTIONARY OF MODERN WRITTEN ARABIC
Edited by J M.Cowan
Spoken Language Services

アカガネさん、ありがとうございました! (1月22日追記)


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