イルファーラン物語☆創作裏話

第3回 『アルファードを彼氏にすると……?/他』の巻
(第一章第八場読了後推奨だけど特にネタバレではないです)


1 あの剣でドラゴンには勝てないと思う……(^_^;)

 今回、『イルファーラン物語』初めての戦闘シーンです。
 戦闘シーンの最中に長い設定説明が入るのが嫌で、元々このシーンにあったドラゴン退治についての説明を無理やり前のシーンに突っ込んでおいたのに(おかげで第七場は説明だらけになってしまったのに)、別のシーンから武器についての長い説明が引っ越してきて、やっぱり戦闘シーンに延々と説明が割り込んでしまいました(^_^;)
 なんで剣の形なんかを延々と説明せずにはいられなかったかと言うと、たぶん、私が理屈っぽいからです(^_^;)
 というのは、私自身、あれでドラゴンに勝てるとは、どうしても思えないのです。
 そんなこと、気にしなければいいんですけど……。そもそも、時代劇やファンタジーで、同じ剣で何人も続けて人を斬ったり、硬そうなものをすぱっと一刀両断したりという、あれが、私には、どうにも納得いかないのです。その人が超能力者とか改造人間とかで、剣も特殊な素材で出来てるとか何か魔法がかかってるならともかく、普通の人に普通の剣でそんなことができるわけが無いと思ってしまうのです。

 で、アルファードは、普通の人です。何の特殊能力も無い。ただ、ちょっと逞しくて運動神経が良いというだけ──頑張って身体を鍛え、努力して強くなっただけの普通の人で、決して超人ではありません。まあ、ケイン・コスギが超人的なくらいには超人的かもしれませんが(^_^;)、その程度です。
 持ってる剣も、そこらで買った、何の特別な力も秘めていない、ただの普通の剣です。


 それをいうなら、ドラゴンだって、この世界ではただの大きい動物なので(とりあえず今のところは……?)、ドラゴン退治と言っても、虎退治とか、熊を巴投げにしたとか(ちょっと前に、そういう武勇伝で有名になったおじいさんがいましたよね(^o^)、その程度のノリなんですが、やっぱり、熊や虎レベルの大型動物に、飛び道具を持たない人間が一人で太刀打ちするのは、相当難しいでしょう。
 いくら通常の人間の範囲内で身体能力の高い男性であったとしても、人間というのは、もともと、非常に動きが鈍く脆弱で無防備な生き物ですから。


 ……と、そんなふうに、自分が疑問を持ってしまったら、もうダメです。自分に納得できないことを読者に納得させられるわけが無いと思えて、ついつい理屈を書きつらねてしまう。

 こんなことなら、最初から、アルファードに大きな剣を持たせて置けばよかったのですね。そのほうが絵的にカッコいいし。
 それなのに、なぜ彼が小さな剣を持っているかというと、カッコよさより、ドラゴン退治の時に彼がどういう戦い方をするか、そのためにはどういう剣が適しているかという実用的なところから理屈で考えた結果、ああなってしまったのです。
 ところが、ヘンなところにこだわる作者にチャチな剣しか持たせてもらえなかったばかりに、彼は後々まで武器の調達に苦労するはめになります。今となっては後悔してます。
 武器にはけちけちしないで、気前良く、二刀流にでもしてやればよかったかな?
 でも、そうすると、一本は背中にしょって、一本は腰に挿して……なんて、普段の保管場所まで気になって、やっぱり理屈が邪魔して困ります。

 ほんとは、私、戦闘シーンでは理屈やリアリティよりカッコよさ、イメージを優先したいんですけどね……。
 それに、せっかくファンタジーを書くなら、現実には出来ないようなこともやらせてみたい。
 ファンタジーなんだから、現実世界では出来ないはずのことが出来てもいいじゃないですか。ヒーローがウソみたいに強くてもいいじゃないですか。どうせ絵空事なんだから。それを知ってて楽しむものなんだから。そこがファンタジーを読んだり書いたりする楽しみじゃないですか。
 でも、なぜか、私には、どうしてもそれが出来ません(T_T)

 あ〜あ、イメージ重視の映像的な戦闘シーンが書いてみたいのになあ……。自分の身長ほどもある巨大な剣を軽々と振り回してドラゴンの首を一刀両断、返す刀で尻尾をばっさり……みたいな、うそっぽいけど痛快な活劇を。
 なのに、私が書いた『あれ』じゃあ、ところどころ妙にリアルで気持ち悪い上に、カタルシスありませんよね(ーー;)



2 女の子より犬が優先♪ ……(^_^;)

 ここまで読んでくださった方はたぶんもうお気づきのように、アルファードは、たいそう犬が好きです。
 犬に限らず動物全般が好きなのですが、特に、自分で育て、自分で手塩にかけて訓練したミュシカへの思い入れには並々ならぬものがあって、彼はミュシカを、たぶん、自分の命より大切に思っているはずです。
 今回、アルファードは、里菜を守るために自分の命を投げ出そうとしましたが、ミュシカを守るためでも、彼は、同じことをするのです。
 それは、彼にとっては自分の命が非常に軽いものでしかないということでもありますが、とにかく、それだけミュシカを本気で大事にしているのは確かです。

 最初、ミュシカというキャラを出したのには、たいした意味はありませんでした。
 アルファードが羊飼いであると言う設定が生まれたとき、『羊飼いなら、当然、牧羊犬を飼っているだろう』と思いつき、、ほんのマスコット程度のつもりで設定したキャラなのです。
 が、書いているうちに、アルファードは私が思っていた以上に犬好きであるらしいということが判明してきて……。
 最初から、『この人は、犬を飼っていたら、性格上、その犬をとても良くしつけているだろうし、また、とても可愛がり、大事にしているだろう』と思ってはいたのですが、ここまで徹底した犬好きだったとは、私にとっても思わぬ発見でした(^^ゞ 彼の犬好きは、その後、物語終盤で大きな設定をひとつ変えてしまったほどです。

 そして、私の中で『アルファード=超犬好き:真の天職は犬のトレーナー又はブリーダー』というイメージが決定的になったのが、この、ドラゴン退治のシーンを書いたときでした。
 だって、ドラゴン退治のあと、アルファードは、まず一番最初にミュシカを誉めるじゃないですか。

 1 自分が命に関わる怪我をしている
 2 好きな女の子が怯えて震えている
 3 良いことをした犬が誉めてもらいにきた

 ……と、この場合、1と2の優先順位は人によって違うでしょうが、普通、3は最後でしょう。
 少なくとも、私だったら、間違いなく1→2→3です。
 ところが、アルファードの場合は、完全に逆なのですね。

 1 良いことをしたミュシカを誉める
 2 言う事を聞かなかった里菜を叱る
 3 自分の身体の心配をする

 ……と、こういう優先順位だったのです。彼にとっては、どれを優先しようかと悩むまでもなく、ああするのが当たり前の行動だったのです。
 これは、私が計算づくでそのように行動させたのではなく、アルファードが、勝手にそう動いたのです。だって、この物語は別に『正しい犬の飼い方について』の物語などではなくて、アルファードが犬の良き飼い主であるかどうかなんて、物語全体の中では、どうでもいいことなんですから。

 『犬が良いことをした時はその場ですかさず誉める!』というのは、犬のしつけの鉄則ですが、普通、そんなことは、自分の命や惚れた女の子には優先しません(……よね?)。
 ところが、アルファードの場合は、この鉄則を、自分の命より、惚れた女の子より優先する。
 これはもう、犬にとっては理想の飼い主でしょう。こんなに尊敬できる、信頼に足るご主人はいないでしょう。彼とミュシカの間に強い絆が生まれるのは当然です。

 というわけで、ストーリー展開上は何の必然性も無いのに、アルファードは、犬好きです。
 (この先、ちょっと反転にしておきます。ネタバレというのとは違うとは思いますが、キャラの心理・人間関係を語りあかしすぎかと思うので……。

 彼は、あまり表には出さないし、あまり自覚もしていませんが(そして私も最初は知りませんでしたが)、もともと、非常に情愛の深いたちなのです。自分が世話し、保護し、愛情を注いでやる相手を常に必要とするタイプです。そういうわけで、病気のおじいさんにはそりゃもう心を込めて尽くしてきたし、自分の犬はとことん可愛がるし、自分では勝手に本当の弟・妹のように思いなしているヴィーレやローイのことも、本気で大事に思っています。
 もちろん、里菜のことも、掌中の球のように思って(はっきり言って自分の所有物だと信じ込んでます^_^;)、それはそれは大事にしています。


 といっても、今のところ、彼は、里菜のことを、恋愛の対象ではなく自分が守り育てるべき対象としてしか認めていないのですが、実はそういう対象こそが、まさに彼の求めていたものだったのです。
 彼は、自分では気づいていないけれど、そうやって何かを守り育てるのが好きなのです。
 だからこそ、『自分に守られてくれる』対象として、彼は里菜を既に絶対に手放せないと感じるほど強く必要としてしまっており、見知らぬ世界で何の生活力も持たず、自分を守ってくれる相手を切実に必要としている里菜との間でうまく需要と供給が一致して、一種の共依存関係が成り立ってしまっているのです。

 里菜は、まさにその無力さゆえに、アルファードにとって、なくてはならぬ存在になり得たのです。そのことを薄々知っている里菜は、無力で無能であり続けることを自ら選ぼうとしています。ローイは、それを見抜いていて、里菜とアルファードの関係に疑問を呈しているのです。ただのやきもちだけではないのです。
 もちろん、やきもちもあるし、そこには、アルファードに対する微妙な対抗意識も潜んでいるのですが……。


 ……というわけで、反転終わりまして、犬好きの話に戻ります。
 彼は、ただ愛情深く動物好きだというだけでなく、性格的に、犬の訓練には非常に向いていると思われます。相手の信頼を得るためのやせ我慢のしどころ、ハッタリの利かせ方まで本能的に会得している生まれついてのリーダー・タイプで、常に冷静で揺るぎなく首尾一貫しており、誠実で公正無私、根気があって辛抱強くて自制心に富み、穏和でありながら鉄壁の威厳を備え、しかも愛情細やか。安心してついていける理想のリーダーです。まさに、犬に信頼されるタイプといえましょう(^^)
 それに、まず第一に身体が大きく力が強く運動神経が良いというだけで、既にかなり有利でしょうしね。

 そんな彼は、この国で、牧羊犬の訓練の第一人者としても有名であり、ブリーダー業にも手を染めたことがあったりするのです(^^ゞ ちなみに、これは裏設定ではなく、後でちゃんと本編中で語られるはず(本筋に関係ないからと削られなければ……)の事柄です。


3 アルファードを彼氏にすると……?
(ネタバレではないけれど、キャラの深層を語りすぎなので、知りたくない人は読まないで下さい(^_^;)

 ところで、アルファードは、守り育てるのが好きというわりに、子供は苦手です。でも、それは、子供と言う存在自体が嫌いなわけではなく、子供特有の距離感の無い人付き合いが苦手なだけなのです。
 大人なら、たいていの場合、それなりに距離を保った、心に服を着た付き合い方を、ある程度は心得ているものですが、子供は、心を剥き出したままで、いきなりまっすぐぶつかって来る──本音の人付き合いの苦手な『建前の人』である彼には、それが脅威なのです。

 が、子供との付き合い方が苦手なだけで、子供そのものが嫌いなわけではないので、もし自分の子供が出来たら、彼は、きっと、大変良いお父さんになると思われます。
 ただ、子供が男の子なら理想の父親になれるけど、女の子だったら、年頃になると心配のあまり『門限は6時だ! 言い訳は一切聞かん!』みたいな問答無用の暴君パパになる可能性も……(^_^;)

 また、そんなアルファードを彼氏にすると、甘い言葉は聞けないかわり、それはそれは大切に、箸より重いものは持たせないというほど大切にしてもらえます。それはもう、過保護なくらいに……。
 そして、何か事あれば、身体を張って、命をかけてでも、力いっぱい、あなた(?)を守ってくれます。
 そうやって、あらゆる危険や困難から守ってくれる代わりに、自分以外のすべての男からも、きっちりがっちり守ってくれてしまうので、浮気など出来ようもありませんが、むこうも絶対に浮気なんかしません。
 そもそも、他の女に少しでも心を動かすことさえない──というか他の女なんか全く目にも入らないと言う、ひたすらあなた一筋の、この上もなく誠実な恋人となるでしょう。

 というのは、彼はもともと女性にはさほど興味が無く、犬の方が好きなので、たまたま『自分のもの』と思い定めた特定の恋人以外の女性までいちいち構ってみるなどという面倒で無意味なことに貴重な時間と労力を少しでも割く気は、さらさら無いのです。

 また、彼は、自分の相手に、特別な美質を、あまり求めません。常にきれいにして女性としての魅力的を磨き続けていないと飽きられるとか、知的な会話が出来ないと相手にしてもらえないとか、料理がヘタだと文句を言われるとか、そういうことは一切無く、ただ、あなたがありのままのあなたであるだけで、無条件にすべてを許し、愛してくれるので、楽と言えば楽です。

 というのも、彼はただ、その相手が『自分のもの』であるということに意義を感じているだけだからです。その相手の個人的な資質には、実はあまり興味が無い。
 だから、彼には、実は、女性の好みというものが、建前上だけでなく本当に、あまり無いのです。こういうのはダメ、という消去法的な好みは、かなりはっきりしていますが、ではどういうのがいいのかというと、そういう積極的なコダワリは、ほとんどありません。
 強いて趣味を言えば、里菜みたいな清楚でおとなしそうでか弱くて庇護欲をそそるタイプが好きらしいですが、要はとにかく、ただ、おとなしく『自分のもの』であり続け、自分に支配され、自分に守られてくれる相手なら、たいがい誰でもいいのです。

 でも、だからと言って目移りすることは無く、たまたまめぐり合って『これ』と思い定めた、そのただ一人を、一生涯、徹底的に囲い込んで独占し続けようとする習性があり、付き合いが長くなると飽きるとか、歳をとって容色が衰えたからと言って心変わりするようなことは絶対に無いので、夫にするには良いでしょう。
 酒もタバコもやらず、身体頑健で、夜遊びもギャンブルもせずにひたすら真面目に良く働くし、器用でマメなので、状況によっては、家事一切を一手に引き受けてくれる可能性も大です(^^) 楽が出来ますよ〜!

 ただ、彼の度を越した過保護や誠実を束縛と感じ始めて別れ話を切り出したりすると、無言で豹変されて怖い思いをする可能性もあるので要注意です……って、なんか占いの本みたいですね(^_^;)


 しかし、せっかく本編で、やっと少しは物語のヒーローらしくカッコいいところを見せられた彼を、ここでまた、こんなふうに日常性の地べたに引っ張りおろしちゃって良いんでしょうか、私……(^_^;)


4 この世界にはライオンはいません

 作中、ローイが里菜のことを雌ライオンに例えますが、実は、この世界には、ライオンはいません。
 もとは本文中で説明してあったんですが、別に重要な設定ではないので削ってしまったので、ここでちょっと紹介しておきます。

 実は、この世界には、熱帯が無いのです。温帯から亜寒帯にかけてだけが世界のすべて。本当は熱帯地方もあるのかもしれませんが、ここの住民が『世界』として認識しているのは、その星の上のごく限られた一部の地域だけなのです。そしてそこには、ライオンも豹も象もキリンも生息していません。

 だから、ここの人たちがライオンの話をするとき、その『ライオン』は、伝説上の動物なのです。江戸時代の人にとっての獅子とか麒麟のようなです。厳密に言うと、彼らの頭の中にある『ライオン』像は、この世界にいる実在のライオンとは、微妙に違ったりします。
 なぜ存在しないはずのライオンや豹が伝説になっているのかは、謎です(^_^;) この世界で、誰も見たことが無いはずの竜のことがほとんど世界中で語られているようなものだと思ってください。

 里菜がこの世界の子供たちに、自分はライオンや豹を見たことがあると話したら非常に感心されたと言うエピソードもあったのですが、ボツになりました。ストーリー展開には全く関係ない設定なので……(^_^;)

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