イルファーラン物語☆創作裏話

第2回 『第一章第五場について・ローイの歌とティーティのお祈り』の巻

今回は、裏話というより、ただの『第五場のあとがき』みたいなものですが……

1 『イルファーラン物語』の原点?

 第一章第五場、ローイ登場編、いかがでしたでしょうか。
 このへん、今までの『イルファーラン』と、ちょっと色合い違うと思いませんでした?
 今まで、特に第二場あたりまでは、もうちょっと重厚な、わりとお堅い雰囲気だったのが、ここへ来て一挙に崩れたと思うんですけど。ローイが出てきたせいだけじゃなく(^_^;)
 実は、これが、もともとの『イルファーラン物語』のノリなんです。この物語、最初は、こういう、現状よりやや軽いノリのものになる予定だったのが、書いているうちに、いつのまにかだんだん重い方向へ傾いていって、最終的に、第一章冒頭のお堅さに行き着いたのです。だから、この部分こそ、ある意味、『イルファーラン物語』の原点なのです。

 実は、この、ローイの初登場シーンは、『イルファーラン物語』の中で一番最初に書かれた部分です。
 序章や、本編部分冒頭より先に、そこだけ既に詳細に思い浮かんでいたこのシーンの会話だけをメモのような形で書き残した──、それが、私が書いた『イルファーラン物語』の最初の一枚目でした。
 どこからどういう風に話を始めるか、話の先ゆきの細かい部分がどうなるか、そういうのが決まる前に、ここの、ローイと里菜の会話だけ、もう、ほとんどこのままの形で、すっかり出来上がっていたのです。
 そして、他の場面は、後でかなり手が入りましたが、この場面だけは、ほとんど初稿のまま──いえ、
初稿どころか、それ以前の、イメージ・メモのまんまなのです。
 それに対して、第一章第一場、ニ場あたりは、後から、かなり手が入っています。最終的に、わりと格調高めなお堅い作風に落ち着いてから、その作風で、かなり書き直してるのです。
 冒頭部分の作風だと、例えば、登場人物は『ラッキー!』とか、『超〜〜』とか、言わなさそうでしょ? て言うか、言ったらヘンですよね。で、ベッドは『寝台』、ドアは『扉』ですよね。もちろん『ナンパ』なんかしないし、『デート』もしない。歌を歌うなら『ラブソング』じゃなくて『恋歌』でしょう。
 でも、構想初期のノリだと、もっとライトな、ヤングアダルト向けエンタ系寄りの出来上がりを想定してたから、新語・俗語・流行語OK、カタカナ英語OK、『何でもあり』です。背伸びして格調高い文章を書いてやろうなんて野望は、全然、ありません。むしろ、普段の自分の感覚以上にくだけた方向を狙うのが当然と思い込んでました。
 だから、そこだけ最初のノリのまんまのこの部分は、前のほうの雰囲気から、ちょっと浮いてしまったのでした。(実は、自分で思ってるほどは、差が無いのかもしれないけど(^_^;)

 そんなわけで、今となっては、第五場冒頭の、ローイの歌うヘンな歌なんて、すごく浮いてますよね。この物語の世界に、全然そぐわなくないですか? 違和感、あるでしょ。
 で、削ろうかとも思ったんですけど、やっぱりやめました。なぜ、やめたかというと、それは私が大雑把でいいかげんな性格だからで〜す!(開き直り^_^;)
 作品の全体の完成度とか、全体の雰囲気の統一とか、そんなことより、趣味の書き手としての自分のその時々の楽しみを優先してしまうという、いいかげんで自分に甘いテキトーな姿勢の表れなのです(^^ゞ
 本当に小説の道に精進するつもりなら、そんなことじゃいけないのは重々わかっていながらも、「趣味なんだから、自分が楽しきゃ良いじゃない」と居直ってる、確信犯です。

 ちなみに、もう一箇所、冒頭からちゃんと作品を書き始める前に創作メモの形でほぼ書き上げてしまっていたシーンが、あります。で、それもやっぱり、里菜とローイの会話のシーン。ネタバレになるので、今の時点では、どういう会話かは申し上げられませんが。その、二箇所だけが、物語全体がまだ茫洋としているうちから、くっきりと見えていて、その部分に繋がるように、お話の前後を整備していったのです。その後も、アルファードや里菜が、まだ茫洋と霞んだ白黒の画像のまま自分の中でキャラとして動き出さないうちから、ローイだけは、一人さっさと鮮やかに色づいて、やけに生き生きと勝手に動き始め、ずいぶんと物語の展開を引っ張ってくれました。
 考えてみれば、ローイこそが、実は、主演二人を差し置いて、この作品の成立過程における一番の功労者なのかもしれません。彼こそ、『イルファーラン物語』の出発点、原点なのかも(^_^;)

2 ローイのヘンな歌の出典

 この歌の歌詞を見て、 メロディが頭の中で鳴った方、あなたは、ズバリ、すご〜く年寄りです! おそらく70歳以上とお見受けします……なんて、ウソです(^^)
 確かに古い歌なのですが、昔の歌を知ってるから年寄りとは限らないですね(^^)
 ナツメロ番組で見たとか、おじいちゃんが酔っ払うと歌ってたとか、戦前の風俗を扱ったテレビドラマの中でレトロなラジオから流れていたとか──。私も、たぶん、何かそんなような状況で、この歌を部分的にうろ覚えしたんだと思います。

 というわけで、この歌、実在の古い流行歌なんです(厳密に言うと、本当は著作権許諾が必要なのかも)。私は知らなかったのですが、知人が、エノケンの歌だろうと教えてくれました。『エノケン』っていうと昭和初期ってことでしょうかね?
 ところで、お若い読者様方、『モボ』って、知ってます? モボ=『モダン・ボーイ』、つまり『ナウなヤング(^_^;)』のことです。昭和初期頃の流行語だと思います。

 私も、この歌、全部ちゃんと知ってるわけじゃく、冒頭の、この部分しか知りません。でも、たしか、赤いシャツを着てるとか帽子を被ってるとかいう歌詞があったと思います。今度実家に帰ったら、父に、この歌の続きを知っているか聞いてみようかな。
 (ちなみに、この間、実家に帰ってびっくりしたんですが、なんと、還暦過ぎた私の父が、『イルファーラン物語』を読んでくれてるんだそうです(・・;) パソコンは使えないので、HPから弟にプリントアウトしてもらって、連載の続きを楽しみにしてるんだとか……(大汗! エロいお話じゃなくてよかった(^_^;)) で、ホゴ紙の裏に感想を書いたものを「投稿」といって手渡してくれました。ちゃんと『冬木様』宛てになっていて、学生時代の学籍番号からとったという自分のHN(^^)も添えてありました)

 ……と、話がそれました。
 そういうわけで、この歌、実在の日本の歌なんですが、だからといって、『イルファーラン』では実はかつて日本語が使われていたとか、ローイが<マレビト>として戦前日本を訪れたことがあるとか、そういう裏設定があるわけではありません。
 本当は、ローイは、あそこでエノケンの歌を歌ったわけではないのです。ローイは、ただ、イルファーランの言語で、あんなノリの、あんな内容の自作の歌を歌ったというだけで、それを私が日本語に翻訳するにあたって、あの歌に置き換えただけだと思ってください。諺の書き換えみたいなものです。
(この間、新聞に「ブッシュ大統領が『私の目の黒いうちは……』と語った」と書いてあって、「あんたの目は元々黒くないだろうよ」と笑いましたが、あれは、本当に『目の黒いうち』と言ったわけじゃなく、同じような意味合いの英語の諺を引用したわけですよね。それと同じです(^^)

3 ティーティのお祈りの出典

 こっちは、お気づきの方も多いと思いますが、そうです、祝詞(ノリト)です。耳で聞いて覚えたものなので、正確にはちょっと違うかもしれませんが。
 でも、もちろん、これも、ローイの歌と同じで、別に、『古代イルファーランでは日本語の古語が使われていた』というわけではありません。ティーティは、古代エレオドラ語で、ああいう意味のお祈りを唱えたのです。それを私が、日本の古語に置き換えて翻訳したのです。
 これも、どうしようかと思ったんです。ローイの歌はただ『浮いてる』だけですが、こっちのほうは、結構マジで誤解を招くんじゃないかと……。

 この裏話を読む前に、あの祝詞を見て、「そうか、イルファーランは実は古代日本から枝分かれした世界なのか?」とか深読みしちゃった方、いません? もし、いらっしゃいましたら、よろしければ、お手数ですが、お知らせ下さい。一人でもそういう方がいるということは、やっぱり誤解を招くのだということで、書き換えます。

 実は、一度は、書き換えてみたんです。
 とにかく、別にあのとおりの言葉じゃなくても、なにやら意味不明の言葉を言ったということがわかりさえすればいいのですから。
 ティーティのお祈りのセリフを丸ごと削って、『意味不明の言葉を唱えた』だけで済ませてみたり、『**〜〜;*・☆〜』みたいな、無意味な記号を連ねてみたり。
 でも、やっぱりなんとなくぴったりこなくて、元に戻してしまいました。

 なんであそこで祝詞を使ったかというと、ただ単に、好きだからです。私の趣味です。
 私、学生時代に、結婚式場の巫女さんのバイトをしてたことがあるんですが、その時、毎回祝詞を聞いてて、耳で聞く言葉の韻律の美しさに感銘を受けまして……。
 ああいう、装飾的な言い回しって、好きなんです。枕詞を積み重ねてイメージを広げ、少しずつ意味をずらしていくテクニックとか、大きくうねるような連綿たる韻律の連なりとか、純粋に言語として美しいなあと思って。謡曲とか、漢詩とかも、そうなんですが。
 『風の音の遠き神代の昔……』なんて言い回し、美しいでしょ? ロマンティックでしょ? ファンタジーの世界ですよね。(耳で聞き覚えただけの言葉なので、本当は違うことをいっているのかもしれませんが)

 式場で契約してる神主さんは二人いたんだけど、同じ種類の祝詞でも、枕詞の選択が違うなどの微妙な言い回しの差があって、この部分はこの人のほうが好みだけど、ここはあっちの方が好きだなとか、厳かな結婚式の最中に一見神妙に頭を下げて祝詞を聞きながら聞き比べを楽しんでた、不謹慎なバイト巫女でした。
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