『イルファーラン物語』パロディ番外編
|
||
あたし、里菜。十七歳。 今、片想い中なの☆ 相手はね、五つ年上のアルファード。 強くて優しくて逞しくて、とっても頼もしいのよv |
イラスト:千夜蝶様 禁無断転載 |
|
アルファードって、ヘンな名前でしょ? 実はね、アルファードは、異世界の人なの。ドラゴン退治の勇者様なのよ♪ そう、あたし、今、異世界に来てるの。 ある日、突然、なぜか異世界に飛ばされちゃって、気を失って倒れていたところをアルファードに拾われて、それ以来、アルファードの家に置いてもらってるの。 大好きな人と毎日一緒にいられて、とっても幸せv でもね、アルファードって、とってもかっこいいのに、ちょっと変わってるのよね……。 何が変わってるって……。とにかくね、ものすご〜く真面目なの! ……それって、別にちっともヘンじゃないと思うでしょ? ところが、アルファードのは、ヘンなのよ! 普通じゃないの。 ちょっとズレてるっていうか、浮いてるっていうか、ピンボケっていうか……。 まあ、とにかく、ちょっと聞いてね☆ ☆ あたしが一番最初にアルファードのことを変わってるなあと思ったのは、最初にアルファードと話をしたとき。 アルファードに拾われた時、あたしはまだ半分意識を失ったまま、アルファードに家まで運ばれて、そのまま眠り込んじゃったの。 で、次の日、眼を覚まして、はじめてアルファードとまともに向かい合って、お互いに自己紹介をしたのよ。 そのときに、あたしが、この世界に来て初めて言った言葉は、 「あのう……、奥さんは?」 これって、ヘンよね。自分でもわかってる。 普通は、「ここはどこ? あなたは誰」とか訊くものよね。 あたしも、そのつもりだったのよ。 だけど、いざ口を開いたら、ああ言っちゃったの。恥ずかしい! だって、 あたしがアルファードの家に運び込まれた時、あたしの顔を拭いたりして世話してくれた、可愛い女の人がいたのよ。 そのときは、あたし、まだ半分眠ったままだったんだけど、薄目を開けて、女の人が居るのを見て、もしかしてここんちの奥さんなのかなあと思って。 でも、起き出していったら、その部屋にはアルファードしかいなくて。 で、アルファードの顔を見たとたん、あの質問が口から出ちゃったの。 そうしたら、アルファード、しばらくぽかんとした後で、大真面目に答えたのよ。 「いや、そんなものはいない。俺はまだ独身だ」って! その答え、実は、嬉しかったわ。 ここだけの話、ちょっと「ラッキー♪」って思った。これ、内緒よ。 でも、でもね。 眼を覚ましたとたん、「奥さんは?」なんて訊いちゃうあたしもあたしだけど、いきなりそんなこと言われて、一瞬絶句したのに、その後で、そんなとんちんかんな質問に、バカ正直に額面どおりに答えてくれたアルファードも、ちょっと変わってると思う。 そのとき、はじめて思ったの。 (もしかして、この人、かっこいいけど、ちょっと変わってるかも……?)って。 でも、ほんというと、あたしが本気でアルファードに恋に落ちたのは、あの瞬間だったのかも。 だってね、あたしにトンチンカンな質問をされて一瞬絶句したときのアルファードの顔がね、妙にかわいかったのよv 口を半開きにしてぽかんとした、悪いけどちょっと間の抜けた顔が……。 なんていうか、ほら、母性本能をくすぐるっていうか? 半分開いた口からちらっと覗く白い歯が意外と小粒て、やけに行儀よく並んでるのが、どことなくあどけなく見えて。 (この人、身体でかいけど、落ち着いてそうに見えるけど、顔もとっても男らしくて、ぜんぜん『かわいい』ってタイプじゃないんだけど、でも、もしかして、ちょっとかわいいかも……)って思って。 そのとき、あたし。 突然、胸がズキンッてしたの。 ハートに矢が刺さる音が聞こえたような気がしたわ。 こんな気持ち、生まれて初めてよ☆ ☆ それからというもの、あたし、アルファードに夢中。 アルファードの優しさや頼もしさはもちろんのこと、アルファードの、あんまり真面目すぎてちょっとズレちゃってるようなとこが愛しくて。 例えばね、あたしが、この村の人は太鼓を叩いて歌ったり踊ったりするかって訊いたときのこと。 なんでアルファードにそんなこと尋ねちゃったかというと、あたしが、村の司祭だっていう女の子から、女神様だとか言われたせいなんだけど。 なんか、それ聞いたとたん、モスラに出てくるインファント島の人たちみたいなのがあたしの周りで太鼓を叩いて踊り狂う図っていうのが頭に浮かんじゃったものだから。 だからって、いきなり何も前置き無しであの質問は、我ながら唐突だったと思うわ。 だから、「何でそんなヘンなこと聞くんだ」って、聞き返されるかと思った。 ところが、アルファードは、どんなヘンなこと聞いても、不思議そうな顔しながら、ちゃんと答えてくれるのよ。 聞かれたとこには、それがどんなに意味不明の質問でも、必ず律儀に、大真面目に答えてくれるの。 こんなふうに。 「いや。この辺では踊りの伴奏に太鼓を使うことは少ないな。……リーナ、君は歌舞音曲に格別な関心があるのか?」 ……『歌舞音曲』って……。 アルファードって、やっぱりちょっと変わってる……? でもね、そんなところが愛しいのv ☆ それから、そうそう、あんなこともあったっけ。 あの、ドラゴン退治のあとの宴会のときのこと。 アルファードがね、山の牧場で、羊を攫いに来たドラゴンを、たった一人で退治したの。すごいでしょう? で、そのとき、あたし、アルファードに隠れていろって言われたのに考え無しに飛び出していって、アルファードを危ない目にあわせちゃったの。後で知ったんだけど、あたしもアルファードも、危うく死ぬところだったらしいわ。 それで、その後、アルファードに叱られたの。もうちょっとでぶたれるところだった。もちろん、ショックだったわ。元はといえば、あたしが悪いんだけど。 で、お互い、なんとなく気まずくなって……。 でも、その夜、ドラゴン退治を祝う宴会が開かれて、そのとき、アルファードが、わざわざあたしのところへ来て、向こうから先に謝ってくれたの。 とても嬉しかったv でもね、ちょっと、思っても見なかったようなことについて謝られたの……。 アルファードはね、最初にドラゴンが上空に現れたとき、あたしに、「バカ、早く逃げろ」って言ったっていうのよ。 でね、「バカなどと言ってすまなかった」だなんて、大真面目に謝るの。 あたし、そんなこと、ぜんぜん気にしてなかった――てゆうか、覚えてなかったんだけど。 それを、そんな非常事態に言ったとっさの一言を覚えていて、ずっと気にしていて、真剣に謝ってくれる。 「君は、訓練された自警団員ではないのだから、即座に指示に従えなかったからと言って、君を責めるのは間違っている」なんて言って。 嬉しかったけど……ちょっとズレてると思ったわ。 でも、そんな律儀さも好きよv ☆ それから、そういえば、あの時も、ちょっとヘンだったなあ。 あたしが、怖い夢を見た翌朝。 そう、あの宴会の後、あたし、怖い夢を見たの。 で、よく朝、二人で宴会の後片付けをしていたのね。 アルファードはお皿を洗っていて、あたしは雑巾がけ。 あたしが見た怖い夢は、死神にどこかに連れて行かれそうになる夢だったの。 目が覚めてからも、その余韻が消えなくて、なんだか、一瞬、夢の中の世界のほうが本物で、昼間の生活の方が幻なんじゃないか、みたいな気がして、ちょっと心細くて。 でも、雑巾がけをしているうちに、ああ、やっぱりこれは現実なんだなあと思えたのよ。 で、そう思ったら、すごく嬉しくて。 アルファードと一緒にお掃除なんかしてる、こんな毎日が現実なんだということが、無性に嬉しくて。 だから、思わず、アルファードに言ったの。 「ねえ、アルファード、生きているってすてきね!」って。 そりゃあ、いきなりそんなこと言われたら、普通、返事に困るわよね。 突然そんなこと言ったあたしもヘンよ。 でも、そのあとで、もののはずみで「こんなふうに雑巾がけをしたりなんかも、死んだら出来ないのよって」って言っちゃったからって、ちょっと不思議そうに眉をひそめながらまじまじとあたしを見て、「……君は、そんなに雑巾がけが好きなのか?」なんて尋ねてきたアルファードも、やっぱり、ちょっとヘン。 もちろん、ぜんぜん冗談なんかじゃなく、おもいっきり大真面目なんだもの。 でもね、そんなところが、またいいのv ☆ それから、そうそう、あの時よ、あの時。 アルファードの家に、タナティエル教団って言う怪しい宗教団体の人たちが、あたしを訪ねてきたのよ。 で、なんか、あたしのこと、タナートとかいう神様の花嫁だとか、わけわかんないこと言い出して。 タナートって、あの、夢の中であたしを攫おうとした死神よ。そのときは、『魔王』って名乗ってたけど。 呼び名なんてどうでもいいけど、とんでもないヤツなのよ。 何千年も生きてる超年寄りで、しかも死神で悪魔だっていうだけでもとんでもないのに、自己チューで強引で、なんかちょっと思い込み激しくて危ない感じ? だって、何千年もあたしを待ってただなんてわけわかんないこと言い張って、勝手に人のこと自分のものだとか決め付けて、自分の勝手な思い入れを一方的にこっちに押し付けてこようとするのよ。 はっきり言って、アブない勘違い野郎でしょ? ストーカーぽくない? で、ちょっと電波入ってるっていうか、どう考えても、頭、おかしそう。 ほら、いるでしょ? 自分だけの独りよがりな妄想の世界に入っちゃってて何言っても通じない……みたいな、ちょっとイッちゃってるタイプ。 しかも、その上、ロリコンでヘンタイなのよ! ほんとよ。だって、赤ん坊と結婚したいなんて言ったんだから! ね? 絶対、ヘンタイでしょ? あたし、嫌よ! そんな、アブない電波系のロリコン・ヘンタイ・ストーカーじじいと結婚するなんて。 だって、あたりまえでしょ? 普通、誰だって、嫌でしょ? だから、そいつらに、はっきり言ってやったの。 「あたしは嫌よ! あんな、ロリコンの、人さらいの、ばか笑いの死神じじいのお嫁さんになるなんて!」って。 ……そしたら、アルファードに叱られたの。 そんな、『じじい』なんていう無作法な言葉を使っちゃいけないって。 そりゃそうかもしれないけど。たしかに、あんまりお上品な言葉遣いじゃなかったけど。 でも、でもね。 ぜんぜんそんな場合じゃなかったのよ。そんな、言葉遣いのことでお説教してるような、平和な状況じゃなかったんだってば。 あのおじいさんたち、言葉遣いは丁寧だったけど、すごく強引で、しつこく食い下がってきて気味悪かったし、アルファードが抜き身の剣を突きつけて脅してもぜんぜん引き下がらないで、わけわかんない勝手なことばかり言うし。 あたし、本当は、怖かったのよ。だからよけい、きつい言い方しちゃったの。 だって、怖いじゃない? あんな、見るからに怪しい黒装束の一団が、あたしは向こうのこと知らないのになぜかあたしのことを知っていて、何でか知らないけどあたしを探して、あちこち聞き回って探り回って、とうとうあたしを見つけ出して押しかけてきて、家に入れてくれるまでここから動かないとか言って家の前に居座ろうとするんだから。 どう考えても、無気味でしょ? 怖いでしょ? 怪しいでしょ? 異常事態でしょ? 事態は、すごい、緊迫してたのよ。緊迫感いっぱいの場面だったのよ。 それなのに、アルファードってば……。 アルファードって、やっぱり、ちょっとズレてる。 ……でもね、そんなところが、やっぱり好きよv ☆ そして、そして、アルファードのヘンの極めつけは、あの、タナティエル教団事件の後の、あの提案ね。 黒装束の一団を追い返した後、そのことについていろいろ話している途中で、唐突に、あたしの手をがっしと握って。 「リーナ。一緒に軍隊に入らないか?」って。 そりゃもう真剣なまなざしで、じっとあたしの目を見つめて。まるで愛の告白とかするみたいに。 あたし、本気でドキドキしたんだから! それなのに、それなのに、言ったのは、あのセリフ……。 さすがにあれには、本気でびっくりしたわ。思いっきり不意打ちだったもん。 でも、アルファードは、ずっと前から本気でそのことを考えてたんだって。 そんなこと、一言だって言わなかったのに。ちらっとほのめかしもしなかったのに。 アルファードって、時々、何考えてるのかわかんない! でもね、びっくりしたけど、あたし、断れなかったのよ。 ヘンでしょ? なんであたしが軍隊なんかに……。 普通なら、ぜんぜん考えられない、絶対ありえないことだと思う。 あたしだって、元の世界では高校二年生。 そろそろ進路について考える時期だったのよ。 まあ、ちょっとそういう精神状態じゃなかったから、まだあまり具体的に考えてなかったけど。 そりゃあね、考えてみれば、突然異世界に来ちゃったって段階で、もう、進路希望も人生設計もあったもんじゃないんだけど、でも、いくらなんでも軍隊だなんて、もしかして、世界で一番あたしに向かない、似合わない職業じゃない? だって、あたし、身体弱いし。何もないところでつまずいて転ぶくらい運動神経悪いし。 だけど、片想い中のカレに力強く手を握られて、熱いまなざしで見つめられて、熱心に頼み込まれたら、何も断れないわよね? 頭、クラクラしちゃうでしょ? 『もう、どーにでもして〜』って、思っちゃうでしょ? もしかして、アルファードは、それがわかってて、わざとあんなことしたのかも。 あんなふうに、手を取って見つめたりしたら、あたしは何も断れないって、知っててわざとやったのかも。 だとしたら、ちょっと、ずるいと思う。 でも、しかたないよね。 好きになっちゃった方が負けよね。 『惚れた弱み』っていうの? というわけで、あたし、本当に軍隊に入ることになっちゃったのよ……。まだ信じらんないけど。 あたし、こんなことで職業決めちゃっていいの……? あたしの人生って、いったい……? でも、いいわ。アルファードと一緒なら。 アルファードが一緒なら、何も怖くない。アルファードと一緒なら、どこへでも行く。アルファードがいるところが、あたしの居場所。 今はまだ、ぜんぜん子ども扱いされちゃってるから微妙に片想いなんだけど、嫌われてはいないんだから、とにかく一緒にいさえすれば、これから両想いになるチャンスもあるかもしれないしね♪ 軍隊でも、両想い目指して頑張っちゃお! そうよ、一緒にいれば、これからも、あの、かわいい間抜け顔を見られるしv アルファードって、見ようによっては、けっこうコワモテなのよね。普段は、表情が穏やかだから、あまりそう思わないんだけど、たまに怒った時の顔とかは、本気で、足が震えるほど怖いの。 その、たまに見せるすごく怖い顔とか、普段の落ち着き払った顔とかと、意表をつかれてぽかんとしたときの無防備な表情の、落差がいいのv 普段から見るからに「可愛い〜!」ってタイプじゃない、男らしくて強そうで大人っぽくて落ち着いたような人が何かの拍子でうっかり覗かせちゃう思いがけない可愛さっていうのに、グッと来るのよ……vv それにね、これは最近気がついたんだけど、アルファードにあんなぽかんとした顔をさせられるのは、もしかすると、あたしだけなんじゃないかと思うの。 それって、つまりあたしがそれだけいつもトンチンカンなことを言ったりしたりしてるってことで、威張るようなことじゃないんだけど……。 でも、世界中であたしひとりだけが、あの、誰もが一目置いている村の英雄<ドラゴン退治のアルファード>に――実は武術大会のチャンピオンで国民的スターだったりするらしいアルファードに、一瞬だけでもあんな間の抜けた顔をさせられるのよ? それって、なんか、嬉しくない? アルファードのあんな表情を、あたしだけが独占できてるんだ、みたいな気持ち。 そう思うとね、胸がきゅんとするの☆ アルファードは強い。アルファードは頭がいい。アルファードは何でも知ってて何でも出来る。アルファードはドラゴン退治の勇者様。アルファードはみんなに尊敬される立派な人。アルファードは、とっても真面目。 ……でも、やっぱり、時々、ちょっとヘン。 なんだか、ちょっと、ズレている。 もしかして、あたしの彼は変わりもの? でも、いいの。 だって、好きなんだもん☆ ……終…… |
→『イルファーラン物語』目次ぺージへ →『イルファーラン物語』本編序章へ →掲示板へ →トップページへ |
このページの壁紙はsakura pop さんのフリー素材です。
『りなのはつこいダイアリィ』の文字はすすとごんぺいとうさん配布のフリーフォントです