★サイト一周年記念企画★
 イルファーラン観光ツアー
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 はじめに 

これは、サイト一周年記念の、お遊び企画です。
キリ番ゲッター様とイラスト寄贈者様をイルファーランにご招待して
不定期・回数未定で書き下ろし連載しています。

★企画の詳細はこちら
★参加者の紹介は第一回 の本文中にあります★

<第四回・リンゴ園にて>

 食後の休憩の後、また一時間以上かけて山を下った一行は、村はずれにさしかかった。
 道が良くなったので、姫様と田島も籠から下りて一緒に歩いている。
「さあて、みんな、そろそろ疲れて、またおなかがすいたころじゃないか? 喉も渇いたろう。このへんで、もう一度休憩して、ちょっとしたおやつを食うとしようぜ」
 ロ−イの言葉に、みんな賛同の声を上げた。
「でも、ロ−イ、おやつなんて持ってきてないんじゃない?」と里菜。
「ふふん、任せとけ。俺に、ちょっと計画があるんだよ。ほら、そこを見てみな、あそこ、ジグじいさんのリンゴ園なんだよ。というわけで、ここでお客さんたちにリンゴ狩りをしていただこうってわけさ。どう、なかなかしゃれた計画だろ?」
「へえ−、リンゴ狩り? 楽しそう! でも、ひとんちのリンゴをとっていいの?」
「ん、ああ、まあな。あそこのは、いいんだよ。俺、ガキの時から、毎年、必ず、あのリンゴ園のリンゴをごちそうになってるの。あそこのリンゴが村で一番うまいんだ。じいさんが丹誠込めてるから。ほら、ついた。もうそろそろリンゴも終わりなんだけど、まだ一区画だけ、遅生りのリンゴが残ってるぜ。俺、ちゃんと下見しておいたから。ほら、あのへん。な、まだリンゴ、残ってるだろ?」
 ロ−イが得意げに指さす方を見ると、青空の下、真っ赤なリンゴが葉っぱから見え隠れして、みんなを誘うようにつややかに輝いている。
「うわあ、ほんと、リンゴがなってる。きれい! かわいい! おいしそう!」
「さあ、みんな、リンゴ狩り、始め−! ほら、みんな、急いだ、急いだ。早いもの勝ちだぜ! ああ、悪いけど、ここでは食わないで、もぐだけにしてよ。食うのは後でな。そうそう、リンゴの木に傷をつけたり、枝を折ったりしないように気を付けるんだぞ。また来年、おいしいリンゴがなるように、リンゴの木は大切にな」
「は〜い!」
 みんな、ロ−イに続いて低い生け垣の切れ目からリンゴ園に入り込み、楽しそうにリンゴに木に駆け寄った。
 『あちら』の世界のリンゴ園と違って、木をそれほど低く仕立てていないので、リンゴは、ものによってはけっこう高い位置に実っている。
 みんな、わいわいと騒ぎながら、思い思いに手近の枝に手を伸ばした。
 藤村が、伸ばした手の先にちょっと先にある、ひときわ赤いリンゴを取ろうと、一生懸命に背伸びしている。
「おっ、シュウちゃん、ちょっとごめんよ。ほら!」
 ロ−イがつと藤村の背後に回り、子供を高い高いするように、両脇を支えてひょいと持ち上げてやった。
「きゃあ!」
「ほら、これで届くだろ」
「あ、取れた! ありがとう!」
「どういたしまして。あ、あんたは大丈夫?」
 ロ−イは、姫様の背が低かったことを思い出して振り向いてみたが、姫様は、どこから持ってきたのか、涼しい顔で高枝切り鋏を伸ばしていた。姫様がうっかり落としたリンゴは、ヤギのメリ−がありがたくいただいている。
 ラキアは、ナイフを投げて見事にリンゴを落としていた。むろん、ナイフで切ったのは枝に繋がる軸の部分で、リンゴには傷ひとつ付けずに、落ちてきたところを左手で受け止めている。何とも鮮やかなその妙技に、みんな思わず拍手をした。
 後のものも、すでに自力でリンゴをゲットしたり、ライディンに取ってもらったりしたようだ。
「ねえ、ロ−イ、あたしにも取ってよ、ほら、あそこのあれ!」
「おお、そうそう、一番ちびっちゃいリ−ナちゃんのことを忘れてたぜ。あの赤いのな。ほら!」
 ロ−イが里菜と自分の分のリンゴをもいだ、その時。
「こら〜っ! そこ、何やってるんだ! ここはうちのリンゴ園だぞ!」
 リンゴ園の主ジグじいさんが、頭から湯気を立て、腕を振り回し、足を踏み鳴らして叫んでいる!
「お、やっぱり、またロ−イだな! 今日は仲間も一緒か? 見慣れん顔ぶれだが、どこの村の不良どもだ? そろいもそろって珍妙ななりをしやがって。そこで待ってろ、今日という今日は取っ捕まえてリンゴの木に一晩縛りつけてやるッ!」
 脅すように鋤を振り上げ、老人とは思えない身のこなしで猛然と駆けてくる、怒り狂ったジグじいさん!
 老いたりといえども農作業で鍛え上げたその体躯、袖をまくりあげた腕には縄のような筋肉が盛り上がっている。これは手強そうだ!
「うわ、やべ! みんな、逃げろ−! リンゴを落とすんじゃないぞ!」
「きゃ〜!!」
「わ〜!」
 みんなは、わけもわからずロ−イに続いて逃げ出した。
 着物姿の姫様も、意外な速さでとっとと走っている。
「あ、たいへん! 田島さんが転んだ!」
 里菜の悲鳴にロ−イが振り返ると、ミュ−ル履きだった田島が転倒し、その背後に、鋤を振り上げたジグ老人が迫っていた!
「危ないっ!」
 田島を助けようと、猛然と突進するロ−イ。が、距離があって、間に合わない!
「きゃ〜!!」
 絹を裂くような田島の悲鳴が、のどかなリンゴ園の空気をつんざく。
 田島、絶対絶命!
 その時、
「メエェ〜〜!!」という勇ましいいななきと主に、メリ−が飛び出して、ジグ老人に体当たりした!
「うわッ! 何だ何だ、この畜生!」
 体制を崩して、おっとっと、と、たたらを踏むジグ老人。
 その隙に、ロ−イが横っ飛びに二人の間に割って入り、田島を荷物のように肩に引っ担いで、すたこらと逃げ出した。
「ロ−イ、がんばって〜!」
「早く、早く!!」
「田島さん、大丈夫〜!?」
 このハプニングの間に生け垣の向こうまで逃げおおせた仲間たちが、生け垣越しに声援を送る。
 大人一人を担いでいることなどまったく感じさせないロ−イの逃げ足の早さに、さすがのジグじいさんも追跡をあきらめ、肩で息をして立ち止まり、鋤を振り回しながら怒鳴った。
「こら〜、ロ−イ、この悪ガキがぁッ! 次こそ捕まえてやるからな、覚えとけェ!」
 田島を降ろしたロ−イが、楽しそうに叫び返した。
「アッハッハぁ、今年のリンゴの季節は、もう終わりだよ。追いかけっこは、また来年のお楽しみな。じいさん、それまでせいぜい身体を鍛えて、俺との追いかけっこに備えておきなよ!」
「くっそう! 来年こそ、捕まえてやるぞ!! よくも毎年毎年、うちのリンゴを盗み続けやがって……」
 ジグじいさんは、悔しそうにブツブツ言いながら戻っていった。
 この程度で戻っていったところを見ると、それほど本気で捕まえる気はなかったのかもしれない。
「ちょっと、ロ−イ、これ、どういうこと!」
 里菜が怖い顔で詰め寄った。
「どうって、こういうことだよ、な。楽しかったろ? スリル満点!」
「楽しくないわよ! これって、犯罪じゃない。皆さんに犯罪に手を染めさせてしまったなんて、皆さんを悪の道に引き込んで犯罪者にしてしまっただなんて、あたし、作者さんに顔向けできないわ!」
「犯罪者って……、リ−ナちゃん、それ、大げさだよ。あんたの世界のことわざにもあるっていってたろ? リンゴ泥棒は泥棒じゃないって」
「違うわ、それは花盗人よ。リンゴ泥棒は立派な泥棒よ!」
「いや、でもさ、俺はガキの時分から毎年あそこのリンゴを失敬してるんだけど、あの追いかけっこは、俺とじいさんの毎年のお楽しみなのさ。しかも、あれ、じいさんの健康維持のために役立ってるんだぜ。じいさん、俺とのおっかけっこに勝つために、毎年、ムキになって身体鍛え続けてるから、あの齢になっても、あんなに元気なのさ。俺とじいさんは好敵手同士ってわけ」
「そりゃあ、たしかに、おじいさん、とってもお達者そうだったけど……」
「な。今日だって、じいさん、いろいろ喚いてたけど、そんなに本気じゃなかったんだぜ。だって、鋤は振り回したけど、火の玉は投げなかっただろ?」
「うん、そういえばそうね……」
「だろ? 俺がリンゴ泥棒をやめたら、じいさん、人生に刺激がなくなって、たちまち惚けちまわぁ。俺は、じいさんの健康長寿にご奉仕してやってるんだよ。じいさんの家族に感謝してもらってもいいくらいだ。いや、感謝されてるに違いない! 俺は、古なじみのあのじいさんに元気で長生きしてもらいたいからこそ、毎年、リンゴ泥棒をやってるのさ!」
「そうなんだ……。やさしいのね」
「おうさ」
「でも、おじいさん、たしかに元気そうだったけど、血圧、高そうよ。あんまり興奮して血圧上がりすぎるといけないから、ほどほどにしてあげてね」
「あっはっはぁ! わかった、わかった、ほどほどにね……。あはは、こりゃ、いいや……」
「なに、なに? 何でそんなに笑ってるの?」
「いや、なに、あんたがあんまり素直なもんで、楽しくてさ」
「え? 何、それ。どこが? どうして?」
「あはは、いいんだよ、わからなくていいんだ。気にしない、気にしない。こういうとこがあんたの良いところさ!」
 ロ−イが、訳がわからずきょとんとしている里菜の頭をぐしぐしと撫でた。
「やだ! やめてよ。髪の毛がぼさぼさになっちゃう!」
 里菜は頭を押さえて逃げ出した。
「あはは。リ−ナちゃんって、からかうと、ほんと、面白いよな! さあ、みんな、そのへんに座ってリンゴを食おうぜ。みんな、リンゴの正しい食い方、知ってるか? こうやってなあ、服でキュッキュッと擦って、まずは美しい色つやを鑑賞し、それから、思いっきり大きな口を開けて、がぶっと……、あ〜だめだめ、みんな口が小せえよ! もっと大口開けろ! あれ? コウキちゃん、リンゴ、落としちゃったの?」
 田島は、転んだ時にリンゴを落としてしまったらしい。
「そっかぁ。じゃあ、俺と半分こしよう! ほら」と言いながら、ロ−イは、両手に『ふんっ』と力を込めて自分のリンゴをバクっとまっ二つに割った。
「うわぁ、馬鹿力……。すごい握力!」
 里菜が目を丸くして呆れて呟いたが、みんな同じことを思ったようだ。
「はい、コウキちゃん。仲良く半分づつ。ジグじいさんちのリンゴは、マジ、うまいぜ! なんたって、じいさんが丹精込めてるからさ。あのじいさん、短気で頑固で怒りっぽいが、リンゴ作りにかけちゃ村一番さ」
 ロ−イは田島にリンゴの半分を渡し、残った半分にかぶりついた。
「くぅう〜、うめぇ! しみるぜ……。やっぱさあ、リンゴは、こうやって苦労して手に入れてこそ美味いよなぁ。ほぅら、思いっきり走ったから、心臓バクバク、喉はカラカラだろ? このスリルを味わった後で食うリンゴが、最高なんだよ! おなじジグじいさんのリンゴでも、金で買ったんじゃ、この美味しさは味わえないぜ。自分の身体を動かして手に入れたものにこそ価値があるってもんだよ。なあ?」
 ロ−イが村一番と認めるだけあって、ジグじいさんのリンゴは、確かにおいしかった。ややクリ−ム色がかった緻密な果肉に歯を立てると、かぐわしい果汁が純白の泡になってしゅわっと歯を包み込み、乾いた喉を潤す。香り高く、酸味の効いた、懐かしい味わいのリンゴである。
 しばらく、みんな無言で、あちらでもこちらでも、しゃくしゃくというかすかな音だけが続いた。
 秋の空気に、ほのかなリンゴの香りがたちこめる。
 ロ−イが割ったリンゴを食べ終えた田島は、芯をメリ−にやった。
「メリ−ちゃん、さっきはありがとうね!」
「メエエエ〜」
 得意そうに鳴いたメリ−は、
『どういたしまして。あたしのお乳を飲んだ子は、みんなあたしの子よ。我が子を見捨てて逃げたりするものですか!』とでも言っているかのようだった。

――まだまだ続く(^_^;)――


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掲載サイト:カノープス通信
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