★二万ヒット記念企画★
 イルファーラン物語  おまけ


 はじめに 

これは、『イルファーラン物語』第一章冒頭の未使用の別バージョンです。
つまり、ただのボツネタ公開です……(^^ゞ

我ながら、本作の冒頭部分は、あまりにもテンポが遅く、動きが無くて、キャッチーじゃなさすぎ、
また、あれではヒーローのアルファードが、
いくら『本当は強い』と書かれていてもただのイジイジ男にしか見えなくてかわいそうなので、
なんとか動きをつけて読者の興味を引くことと、
アルファードを最初からかっこいい人として印象付けてあげることを目標に
無い知恵を絞って試作した改良版です。
試作したけど結局使わなかった、この改良版を、二万ヒットを記念して公開してみることにしました。
記念企画としてはショボ過ぎですね(^^ゞ

でも、とりあえずアルファードは現行バージョンよりはカッコいいとこを見せてるし、
ここで描いた集団でのドラゴン退治の場面は本編では結局、出てこないし、
また、この作品、すでに一年以上連載しているので、最初の方をもう忘れている方も多いと思いますので、
よかったら、基本設定のおさらいをかねて、見てやってくださいませ。

☆ 初公開!(^_^; ) ☆
<『イルファーラン物語』第一章冒頭部分・別バージョン>

 エレオドラ山の上に、虹が出ている。まもなく薄れて消えそうな、夕方の虹である。
 エレオドラ山には、よく虹がかかる。特に、秋の村祭りが行なわれる今頃の季節に、虹が多い。イルゼールの村はエレオドラ山の西麓にあるので、虹は、午後から夕方にかけて、山の上の東の空に見えるのだ。こんなふうに山頂付近の空にかかる虹を、村では、『女神の橋』と呼んでいる。
 その、儚い掛け橋を、断ち切るように横切って、不吉な銀の輝きが空を翔けてくる。
 長い首、長い尾、大きな銀の翼を持つ、禍々しい、その姿。
 ――ドラゴンだ。
 山を背にして、ドラゴンは、見る見る高度を下げながら、村に近付いてくる。刈り入れの済んだばかりの麦畑に、低く滑空するドラゴンの影が落ちる。
 地面を滑るその影を追いかけて疾走する、奇妙な騎馬の一団がある。
 異形の一団である。
 手に手に槍や剣を差しあげ、ドラを打ちならし、奇声を上げて馬を駆る乗り手たちは、みな、人の形をしているが、ドラゴンと同じ銀の鱗に覆われているのだ。
 しかし、銀の鱗に覆われた頭部をよく見ると、それが騎手たちの本当の肌ではなく、目のまわりだけを残して顔全体を覆う被り物であることが分かる。身体のほうも同様で、よく見ると、武骨な造りの防具である。
 雑多な武器を手にした彼らは、このイルゼール村の自警団で、いでたちは異様で恐ろしげだが、中身のほうはみな、実はごく普通の村の青年たち――中には若い娘も混じっている――なのだ。だいたいが、いささか短気で粗野ではあるが、気のいい、純朴な若者たちである。
 ドラゴンが、巨大な翼を風に震わせて弧を描き、進路を変えると、彼らの間から叫び声が上がる。
「まずい! ジグじいさんの畑のほうに行っちまうぞ。あそこはたしかまだ、刈り入れが終わっていないはずだ」
「そりゃあ大変だ。この秋の収穫がパアだ、なんてことになったら、あのじいさん、きっと、首くくっちまうぜ!」
 イルシエル山脈を越えて、世界の果てのその向こうから人里に飛来するドラゴンは、このあたりの村では最も警戒される、危険な害獣である。家畜を襲い、時には人間の赤ん坊までさらうばかりか、着地に開けた場所を必要とするので、しばしば畑も荒らす。また、ドラゴンの炎は不浄な火であり、その火で焼かれた畑では、およそ十年は一切の作物が育たなくなるというのも、ドラゴンが恐れられる理由の一つだ。
 彼らはほとんどが農家の息子だから、畑地を守るためには全力を挙げる。
「着地を妨害しろ! 北の牧場《まきば》 に誘導する!」
 栗毛の馬で群れの先頭を駆ける、一きわ目立つ逞しい体躯の若者が、よく響く声で、鋭く指示を飛ばした。
 人望厚い最強の自警団長、近隣にその名をとどろかす村の英雄、『ドラゴン退治のアルファード』だ。
 顔を覆う防具からそこだけ覗く目は、静かな力を奥深く潜めた、大地の暗褐色。
 指揮を執ることに慣れたものの自信と落ち着きを備えた声音は、誰でも一言のもとに従えずには置かないような逆らい難い力に溢れているが、しかし、決して居丈高だったり扇動的だったりするわけではなく、むしろ穏やかでさえあり、同時に、どこか醒めた響きを持っている。猛り立つ若者たちの先頭で、彼だけは、戦いの興奮とは無縁の場所に身を置いているかのようだ。
 幾多のドラゴンをその手で仕留め、一昨年には、国の都イルベッザで開かれる武術大会で剣技のチャンピオンにまでなって村の誇りと讃えらているこの勇者の、常の生業 《なりわい》は、羊飼いである。
 全幅の信頼を置く団長の指示に従い、若者たちは、ますます激しくドラを打ちならし、ありったけの蛮声を張り上げながら、いっせいにドラゴンに追いすがり、槍の穂先を突き上げ、矢を射かけ、ドラゴンを威嚇する。
 うるさい妨害に怒ったドラゴンは、しかたなくまた上昇したものの、その間際に、上空から地上に向かって炎を吐きかけた。
 が、その時には自警団員たちは、ぱっと周囲に散って炎を避けていた。
 実際にドラゴンを見たことのない都人などは、ドラゴンは始終ぼうぼうと火を吹いているものだと思っているが、そんなことはない。火を吐くのにはそれなりの準備動作が必要で、注意深く動きを追っていれば必ずその前兆が見て取れるし、一度火を吐いたら次までには、しばらく間があく。だから、落ち着いてドラゴンの動きを見極め、素早く行動しさえすれば、こんなふうにドラゴンの炎を避けることも出来るのだが、知識としてそのことを知っているのと、実際にそれが出来るのとは話が別だ。これも、アルファードの、地道で、かつ無理無駄のない合理的な訓練のたまものである。武勇で知られる彼だが、その真価は、むしろ、指導者としての資質にあると言っていい。
 やがて自警団は、アルファードの作戦通り、ドラゴンを、北の牧場《まきば》 の上空に誘導することに成功した。
 牧場《まきば》の外れで馬の背から身軽にひらりと飛び降りた、いやにひょろひょろと背の高い若者が、天に向かってぎりぎりと弓を引き絞る。
 痩せて引き締まった、立木のような姿のこの若者は、ローイことエルドローイ。村一番の色男を自称する陽気でお道化たお調子者だが、近隣に名の聞こえた名射手でもある。
 いきいきと輝く明るい茶色の瞳が、すっと細められ、鋭い光を帯びる。愛敬者の彼が弓を引く一瞬にだけ見せる、狩人のまなざしだ。
 ローイの弓から、びゅん、と解き放たれた矢は、ドラゴンの片方の翼を見事に破った。
 バランスを失ったドラゴンは、半ば地面が露出した草地の上に、もんどりうって、どすんと着地する。
「やった!」
「いいぞ、ローイ!」
 わっと歓声を上げながら、他の団員たちも、てんでに馬から飛び降りた。
「なんだ、小せえ、小せえ! 楽勝だ! さっさと片付けようぜ」
 調子に乗ってこう叫んだ若者に、アルファードの鋭い叱声が飛ぶ。
「ナーク! 甘く見るな。死ぬぞ」
 のたうちまわって体勢を立て直そうとするドラゴンの高くもたげられた頭部に向けて、ローイの矢が射かけられ、その無表情な金色の目の片方を射抜いた。ドラゴンの赤い口から身の毛のよだつような不吉な叫びが奔る。
「攻撃!」
 アルファードの一声を合図に、槍や剣、斧や棍棒による攻撃が始まった。ドラゴンの銀の巨体が、見る見るうちに、赤黒い血でまだらに染まっていく。
(それにしても、この季節にドラゴンとは……)
 先頭に立って猛然と戦うアルファードの脳裏を、そんな思いが、ちら、と、掠めた。

 昨夜、村の、女神の司祭が死んだ。
 司祭の死は、村人たちにとって、かなり衝撃的な出来事だった。彼女はすでに老齢だったが、昨日の夕方まではいたって元気そうだったし、なんといっても、女神を祀る祭りのさなかに、その祭りを司るべき女神の司祭が、原因不明の急死を遂げたのだ。
 そのために、秋分の日の今日行なわれる予定だった祭りの儀式は中止された。
 村の秋祭りは、秋分の前夜とその当日の二日間に渡って行なわれる。一日目は、村の広場にかがり火を焚いての夜宴だ。『女神のお迎え』と称して、一年の労働を慰労するべく陽気などんちゃん騒ぎが繰り広げられ、元気のよい若者たちなどは、徹夜で酒を呑み、歌い、踊り、笑いさざめき、あるいは恋をする。そして、例年なら、その翌朝、気持も新たに、女神を讃える厳かな儀式を執り行ない、その後は『女神の見送り』と称して、もう一度、宴を催す。今度は山の牧場 《まきば》に酒やごちそうを運び上げ、村中総出で秋の一日を野に遊ぶのだ。
 女神の司祭が死んだのは、その、祭りの一日目、『女神のお迎え』の宴のさなかであったらしい。らしい、というのは、誰もその死に立ち会ったものがいないからだ。
 その夜、司祭は、夜更けに宴会の賑いの中から立ち去った。高齢の彼女が徹夜の宴会に最後までつきあわないのは別に不思議なことではないから、誰もそれを気にしなかった。そして翌朝、彼女を起こしに家人が部屋を訪れた時には、司祭は、自室に設けた祭壇の前で、祈りの姿勢のまま、すでに冷たくなっていたという。
 司祭の後継ぎは彼女の幼い孫娘だったが、本当にまだ、ほんの子供で、とても正式な祭りの儀式を執行できるとは思えなかった。儀式は中止され、司祭の野辺送りの葬列が、祭りの行列に取って代わった。
 祭りは中止になったが、昼からの宴会のために用意されたごちそうは、無駄にはならなかった。村では、葬式の時も、祭りや結婚式と同様に、賑やかな宴会を催すのだ。祭りのごちそうは、そのまま、送別の宴のごちそうになった。
 その宴会で、祭りでも葬式でも酒さえ呑めればそれでいいとばかりにご機嫌に騒いでいた、不信心で考えなしの若者の一人が、
「祭りが葬式に化けた、か……。こりゃ、まるで、何だか女神様その人の葬式みたいだなあ!」と大声で言って、周囲の大人たちからいっせいに、どこかうろたえたような低い叱声を浴びた。
 調子に乗った若者が不用意に口にしたその言葉は、しかし、それから後、宴会を続ける村人たちの心に、不吉な翳を落し続けた。彼は、深い考えもないまま、村人たちが漠然と抱いていた恐れを的確に言葉にしてしまったのだ。
 ――世界に実りをもたらす豊穣の女神の御魂が衰えている――
 それは、誰もが口に出さずにいた、密かな不安だった。
 ここ数年、この国では、全国的に不作が続いている。それでも、気候がよく地味の肥えたこのエレオドラ地方は、古くからこの国で最も豊かな地方であり、まだ、それほど不作の被害は受けていない。村人たちは、それを、女神エレオドリーナの聖地であるこの地方が、それゆえに女神の厚い御加護を受けているためだと信じている。しかし、その女神の加護厚い聖地の村でさえ、ここ数年、収穫は以前ほどではなくなり、ドラゴンの飛来ばかりが増えているのだ。
 女神の祭りの日に、女神の司祭が死に、祭りが葬式に成り変った。そして、その同じ日に、これまで秋も遅くなって山々が雪に覆われてからしか人里に現われることのなかったドラゴンが、まだ刈り入れの済んでない畑さえある、こんな季節に姿をみせた――。
 こうなれば、いくら不信心で、日頃は司祭の説教など聞こうともしない連中とはいえ、まだアルコールが抜けないままに馬に飛び乗ってきた自警団員たちの心に、さっきの不吉な言葉が影を落さないわけがない。
 胸の底に淀む、そんな不安を消し去ろうとするかのように、若者たちは、ドラゴンを狩る。巨大なドラゴンに群がる彼らの姿は、大鹿を襲う銀色の狼の群れのようだ。槍が、剣が、防具や盾が、秋の午後の光を跳ね返して、ときおりきらりと、オレンジ色に輝く。
 彼らの防具と盾は、彼らが、自分たちが退治したドラゴンの皮で作ったものだ。鱗が堅く、耐火性のあるドラゴンの皮は、ドラゴン退治用の防具には最適の素材なのである。町の武器屋で買おうとすれば目の玉の飛び出るほど高価なドラゴンの皮の防具を全員が装備しているというのは、この自警団がこれまでそれだけ沢山のドラゴンを倒してきた証だ。名高い勇者アルファードに率いられ、見事に統制のとれたイルゼールの自警団は、この付近一帯のドラゴン退治を一手に引受けており、その名を唱えればドラゴンが逃げて行くとまで讃えられているのだ。
 その最強の自警団の、攻撃役、撹乱役の二手に分かれての、よく訓練された組織的な攻撃が、ドラゴンを次第に追い詰めていく。
 その中で、一際目立った活躍を見せるアルファードの逞しい姿は、身体だけでなく顔の半ば以上を覆って中の人間を包み隠してしまう防具のせいで、ひどく不吉な、禍々しい印象を与えた。ドラゴンの鱗に覆われて、彼自身が、一頭の、血塗られたドラゴンに変わってしまったかのように。
 野生の獣のようなしなやかな身のこなしで、アルファードは剣を振るう。
 アルファードの剣は、やや細身で切っ先の鋭い、比較的小振りな剣で、逞しく上背もある彼が持つには貧弱すぎるようにも見えるが、ドラゴン退治の仕留め手にとっては、これが最適の型だ。
 彼は、手に馴染んだ愛用のこの剣で、何頭ものドラゴンを葬りさってきた。堅い鱗に覆われたドラゴンに致命傷を与えるために、彼はその細身の剣をドラゴンの胸元の鱗の継ぎ目に一寸違わぬ正確さで刺し込んで、その心臓を貫くのだ。
「そろそろ片を付ける。援護、頼む」
 自らも激しく攻撃を繰り返しながら指揮官の厳しいまなざしで戦況を見極め、アルファードが落ち着いた声で告げると、団員たちが即座に応える。
「おう!」
「よしきた!」
 集団攻撃で弱らせたドラゴンにとどめを刺す仕留め手の仕事は、華々しいが、ドラゴンの正面に飛び込んでの至近距離からの突きであるから、むろん、非常な危険を伴う。よほどの腕と勇気、それに、息のあった仲間たちの的確な援護が必要だ。
 団員たちは、素早く集合してドラゴンの背後に回り込み、一斉攻撃を加え始めた。
 その攻撃に、ドラゴンが、苦悶の叫びとともに身を反らして前足を上げ、振りあげた首を捻って振り向いた瞬間、アルファードが、ドラゴンの真正面におどり出た。
 ぶつかるようにドラゴンの身体の下に飛び込んだアルファードの剣は、ドラゴンの胸元に深々と突き刺さり、その心臓を、過たず、貫いていた。
 断末魔の叫びとともに、ドラゴンの巨体が崩れ落ちる。
 息を詰めていた団員たちが、いっせいに、勝利の叫びを上げた。
 アルファードは膝を付いてドラゴンの絶命を確認すると、静かに銀の顔覆いを外した。
 陽に灼けた、穏やかな顔が現われて、彼をドラゴンのように見せていた猛々しさ、禍々しさが、ふっと影を潜めた。
 素顔の彼は、もの静かな、醒めた気配を纏った若者だった。
「やったわね、アルファード! これでまた記録更新ね!」
「さすが、我等がチャンピオンだ!」
 団員たちが、うっとおしい顔覆いを脱ぎ捨てて歓声を上げながら、ドラゴンの屍を回ってアルファードに駆け寄ってくる。
 彼らに向けるアルファードのまなざしは暖かかったが、たった今、ドラゴンを倒したというのに、彼の生真面目そうに引き締まった顔は、まったく平静で、その表情に高揚感や勝利感は現われていなかった。静かな暗褐色の瞳に浮ぶのは、むしろ、むなしさの色であり、薄めの唇の端にかすかに漂うものは、そこはかとない自嘲と焦燥の翳りであり、逞しく力強くはあってもあくまでも静かなそのたたずまいは、どこか禁欲的で思索的な趣を漂わせ、戦士というより、修行僧か世捨人を思わせるのだった。
 対称的に高揚し、勝利に酔った団員たちは、口々に今の戦いを話しあい、自分の手柄を声高に自慢し、アルファードを讃え、互いに肩を叩きあって、屈託なくはしゃぐ。
 アルファードは、自らも戦いながらどうやって見ていたものか、それぞれの団員たちの働きぶりを暖かく誉め、あるいは穏やかで的確な注意を与えてやりながら、再び地面に膝をついて、淡々としたしぐさでドラゴンの胸から剣を引き抜くと地面に横たえ、短い祈りを唱えた。
 若者たちも、一瞬だけ神妙な顔つきになって、小声で唱和する。
 アルファードは、跪いたまま剣を拾い上げ、足元の草で血を拭った。
 その頭上に、若者の一人が、無邪気な賛辞を投げかけた。
「まったくもって、あんたはすげえや。やっぱり俺たちとは違うよな。なんたって、女神の御子だもんな」
 その時、アルファードの穏やかな暗褐色の瞳がわずかに翳ったことに、気付いたものはいなかった。
(もしも俺が女神の息子だというのなら――)
 うつむいて剣を鞘に収めながら、アルファードは、苦い気持ちで考える。
(どうやら俺は、母親に愛されなかった息子であるらしい。女神が俺を愛してくれていたなら、どうして、他のすべての人間に魔法の力を与えながら、息子である俺にだけ、それを与えてくれないなどということがあるだろうか。誰でも持っているはずの魔法の力さえ与えられぬまま、俺は、捨て犬のように、この世に放り出されたのだ……)


<解説>

 この物語の本編を最初から読んで下さった方は既にご存じのとおり、この物語の現行バージョンは、出だしのテンポが大変遅いです。しかも、動きがありません。
 まず神話やら小難しげな引用文で始まるというだけでヤバイのに、やっと本編が始まったと思ったら、ヒ−ロ−は、ただ、犬を連れて歩いてるだけ。歩きながら、延々とぐだぐだ悩んでるだけ。 
 そんなウジウジ男、普通は嫌でしょう。
 しかも、文章がクドイ!!

 これでは、ほとんどの人が、冒頭だけで読む気を無くすはずです。
 実際、最初の読者である夫は、アルファ−ドがあまりにもイジイジしてるので、『こんな優柔不断で暗い男が主人公なのは嫌だ』と文句を言いました(……はい、ごもっともです^_^;)

 言い訳すると、この作品は、私にとって、ほぼ処女作に近いのです(中学・高校時代にちらっと童話などを書きかけてみたことはありましたが、そのころの創作体験は、ほとんど物の数に入らないと思うので)。
 で、創作技法など何も知らず、何の工夫もなく、いきあたりばったりに、いきなり時間の流れどおりの順番で書き始めてしまったら、自然と、ああなってしまったのです。

 でも、作品を書いているうちに、しだいに、ものの書き方というのが少しは解ってきます。プロの方の作品を読むにも、それまではただ読者の目線でしか見なかったものを書き手の視点で見るようになり、そういう視点で数を読んでいるうちに、(そうか、娯楽小説というものは、こういう風に読者を掴むために技巧を凝らして工夫すべきものだったのか! ぼんやり読んでるときは気づいてなかった!)などと、目からうろこが落ちてきます。

 で、さすがにこの冒頭はまずいと思い、こういう場合は冒頭に短くキャッチ−で動きのある戦闘シ−ンなどをプロロ−グとして持ってくるのが定石であろうと考え、その通りに実行してみたのが、この、ドラゴン退治で始まる改良版です。

  このシーン自体は、私としてはけっこう好きだし、『アルファードをかっこよく見えるように紹介する』と『動きのあるシーンで読者の目を引く』という二大目標はそれなりに実現できたように思うのですが、せっかくの改良版も、結局、後のシーンとの調整がつかずに、そのままお蔵入りとなっていました。
 で、今回、凝った記念企画を準備できなかったので、苦し紛れに(^_^;)、この、諦めきれないボツネタを公開してみました。
 ご自身も創作をしている方の中には、他人の試行錯誤の軌跡をそれなりに興味深いと思う人もいる……といいなと(^_^;)思います。
 でも、アルファード、ここでもやっぱりイジイジしてますね(^^ゞ


『イルファーラン物語』目次ページ
トップぺージ

この作品の著作権は著者 冬木洋子に帰属しています。

掲載サイト:カノープス通信
http://www17.plala.or.jp/canopustusin/index.htm