掌編集 <子供の領分>
だあれもしらない ふたごのたまご  星の猫ルシーダ


 朝ごはんのとき、玉子を割ったら、ふたごだった。
 白身の真ん中に、黄身が二つ。

「やったぁ! ぼくのたまご、ふたごだ!」

『ぱんぱかぱ〜ん!』とラッパが鳴って、お祝いのお祭りが始まった。
 日本中の学校と、世界中の学校がお休みになって、世界中の会社もお休みになって、アメリカ人のメリーさんや中国人のマーさんや、そのほか、世界中の人がお祭りにやってきた。
 フランクフルトとワタアメと、たこ焼きとヤキソバとかき氷とアイスクリーム屋さんが出て、それが全部タダで、世界中の大人や子供がいろんなものを食べて、金魚すくいや射的や輪投げをして一緒に遊んだり、世界中のいろんな音楽をやったり、踊りを踊ったりした。
 コイズミ・ソーリがお祝いのエンゼツをして、ブッシュ大統領や、そのほか、いろんな国の大統領や、エジプトとアフリカの王様も来て、ぼくに挨拶をした。
 イチローと松井とボブ・サップと中田とベッカムとカーンと、山ちゃんとダンディとカバちゃんとみのもんたも来て、仮面ライダーの人とデカレンジャーの人も来て、ぼくと握手をした。
 ベッカムは、英語で、
「やあ、君がふたごの玉子を割ったんだって! すごいね!」と言ったよ。

 その後、もっともっと、世界中のいろんな人が、次々にぼくのそばにやってきて、お祝いを言った。インドの人とかブラジルの人とかイギリスの人とかアテネの人とか、とにかく世界中の、ものすごくたくさんの人が来た。大人も子供も、男の人も女の人も。

 でも、そんなにたくさんの、世界中の人が来たのに、ぼくが一番会いたかった人は、来なかった。
 世界中の会社がお休みになったのに、どうしてお父さんは来てくれないんだろう。
 ずっと前に、お母さんが、ぼくがいい子にしてればお父さんが帰ってくるって言ったから、ぼくはそれから、ずっといい子にしてるのに。
 お母さんは最近夜遅くまでお仕事するようになって、朝、ぼくが学校に行くときには、まだ起きてないから、ぼくは一人で玉子ご飯を作って食べて、遅刻しないように学校へ行っているし、ジャーの中のご飯で作った玉子ご飯は、前にいつもお母さんが炊き立てのご飯で作ってくれてた玉子ごはんみたいにふわっと泡立ってなくて、あんまり美味しくないけど文句なんか言わないし、お母さんは疲れてるから、ゴミの日はぼくがゴミも出してるし、ずっと前に、一回だけ、ぼくはずっといい子にしてるのにどうしてお父さんはまだ帰ってこないのって言ったら、お母さんは怒って、その後で悲しそうな顔をしたから、それからはもう、一度も、そのことも言わないで我慢してるのに。
 なのにどうして、お父さんは、帰って来ないんだろう。

 ぼくは涙が出ないうちに大急ぎで玉子ご飯をかき込んで、歯を磨いて、ランドセルをしょって、お母さんを起こさないように小さな声で「行って来ます」と言って家を出た。

(『ふたごのたまご』・完 →次へ

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