リストマーク特集「数学系・観戦スケートファン」


「人間は数字が好き」


人は理解しやすいものが,好きなものです。意味不明なものは嫌いです。
世の中の出来事をより単純明快化して理解するために,よく使用される手段は,何でも数字(数値)化して理解するという方法です。
ギリシャの昔に(インドの昔に?)発明された「数字」(数)というものを,人類は心から愛していて,世の中のいろいろな出来事を,数字(数値)に置き換えて理解しようとしているように思われます。
私たちは 数でものを考えるのが感性に合っているのかもしれません。

スポーツの数字(数値)化

だから,スポーツの技術の差も,数字に置き換えられます。
例えば,プロ野球などでは,一年かけて最終的にどこのチームが一番多く勝利したかを決めるのかが究極の目的なのですが,さらにそれに,各試合の点数や順位,さらには経過を数字化したものが重要になります。
また,選手個人も,投手や打者ごとにいろいろな成績が算定され,すべては数字に置き換えて理解されます。

世の中のことを,数値で理解すると,分かりやすいのです。

ジャンプの回転数

長野オリンピックの前には,4回転ジャンプについての特別番組が,作られました。
スケートの見所(みどころ)を説明するのに,「ジャンプの回転数」という,きわめて単純明快なテーマを切り口に説明すれば,スケートの知識が無い素人(しろうと)受けもばっちりです。
なぜなら,3と4の違いは誰でも知っているし,4は3より1つ多いということはまったく説明が不要だからです。
数字におきかえると理解しやすい,という特性をうまく利用した例ですね。

こんなにも人類が大好きな「数字(数)」ですから,我々はこの数字という恋人に対して誠実に付き合おうという態度を示します。

正確さを求められる

それは数字の本性でもあるのですが,我々は,数字を使う際,できるだけ正確に接しなければならないと考えています。
なぜ,トリプルアクセルのことを,三回転半ジャンプというのでしょう?
この「半」というところに,私たち人類の数字に対する几帳面さがあると思いませんか?
0.5回転多い,とはっきりと示されるほどの,重要な違いが存在することを,我々はアクセルジャンプと他のジャンプの違いとして理解するのです。

「数学を愛する人々」


このように,我々の生活に欠かせぬ,愛しき「数字(数)」の世界ですが,この「数字(数)」の世界に,のめり込んでいる人々がいます。
これが「数学系」の人々であり,そのスケートファン版が,「数学系スケートファン」なのです。

私が学生の頃,クラスに「数学の鬼」がいました。
彼は数学の成績が学年でトップでした。
学校の数学の世界では,得意な者にとっては,それは能力です。
難問を解くのが趣味で,定期試験の時,満点を取るのはあたりまえで,いかに早く試験の解答を終わらせて,颯爽と教室を一番に出て行くかというレースの,数学の部のチャンプでした。

数学はスポーツである

数学は楽しい趣味なのです。

数学がどれくらいできるかは,一種,スポーツの技術レベルにも似ています。
難しい式が解けるという能力は,難しい「4回転ジャンプ」が跳べるのと同じような,他人にはできないことができる技術の力であり,それは快感です。

事実,「数学オリンピック」という名の世界選手権があるくらいです。

世界選手権級ではないけれど,技術がある数学ファンは,普段どんな試合で自分の腕を示せばいいのでしょうか?
数学ファンたちは,それぞれに自分の腕を磨きそれを示す舞台を見つけ出して,その道場で毎日ささやかな満足に浸っているのでしょう(例:マージャン,ギャンブル,経済活動)。

スケートにおける数学

スケートの世界に,実は数学系の活躍の場があるのです。
それは,試合の場での点数の出し方です。
現在のスケートの点数の計算方法は「ワン・バイ・ワン」方式と,呼ばれるものです。
ここで,それの具体的な説明はいたしません。
ほとんどブラックボックスといってもよいです。
難解な,算定方法です。
しかし,きちんと決められた計算式があり,個々のジャッジが出した点数から,複雑な式を経て,必ずひとつの答えが出される(ただ一通りの順位が決定される)ことには間違いありません。

点数計算は数学系スケートファンの舞台だ

数学系スケートファンなら,当然これに注目します。
テレビで出てくる,あの順位はどうやって,決めるのだろう?
疑問をもちます。インターネットで質問したり,本を探してきて研究します。
何とかその算定式を調べることができたなら,実際の試合で,自分で計算して結果を出してみたくなります。
パソコンを使えば,かなり複雑な計算でもできますから,会場のアナウンスより早く計算を終えるかもしれません。
それは,快感です。
数学系の血が騒ぎます。
複雑な計算を,やってのけるのは快感なのです。
気持ちよくジャンプを決めたのと,同じ快感なのです。

数学系スケートファンを見つけるかも

もしあなたが,スケートの試合を見に行く機会があったなら,会場に重装備の観客の姿を見つけるかもしれません。
選手の演技が終わり,ジャッジの判定が出て会場にアナウンスされるとき,その観客の指先は,ひざの上に乗せたパソコンのキーボードを,忙しく叩いているでしょう。


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