■ニャンウー村

ヤンゴンに降り立った翌日、すぐまた空港へ向かった。ヤンゴンから500kmくらい北にあるバガンに行くためだ。飛行機が朝6時発なので、早朝4時半に起こされる羽目になった。えらくハードなスケジュールだが、短期のツアーだから仕方ない。

カインさんと共に車に乗り、ヤンゴン空港へ。そこから国内線の飛行機に乗り、1時間ほどでバガンに到着。空港前で待っていた車に乗り込み、バガン市内へ向かった。

バガンというのは厳密には街の名前ではなく、かつて11〜13世紀にバガン王国という国が栄えた地域一帯の総称を指す。このエリアはいくつもの街や村で形成されており、王国時代に建てられたパゴダ(仏塔)、および仏教の寺院が各所に点在している。ミャンマーで最も重要な仏教の聖地のひとつであると言ってよい。

車はエリアの北東に位置するニャンウー村へ。この村には大規模な市場があり、まずはそこを散策することになった。今の朝の時間帯が最も活気があるらしい。

ニャンウー村は、バガンエリアでの交易地点とされており、またこのエリア内で大規模な市場というのがここしかないことから、野菜、肉、魚などの食品だけでなく、生活用品などもたくさん売られている。これらの品は中国から入ってくるものが多いそうだ。私の好きなごちゃごちゃとした市場である。やっぱり市場はこんなふうに雑然としてなきゃね。


ニャンウー村の街並み

野菜、肉、魚などを売るのはどの国でもよく見かけるが、仏具がたくさん売られているという点には、信仰の篤いこの国らしさが表れている。他にも、油屋さんが多いというのが印象的だった。ミャンマーの料理は油っこい料理だから、それだけ油の量もたくさん使われる。油を取り扱う店屋がたくさんあるのも納得できる。でもこのあたりで売られている食用油は、コストの都合上、植物油と質の悪い動物油を混ぜて売っている所がほとんどだそうで、あまり健康によくないらしい。……ってことは、私もしばらくの間は、そういった油を使った料理を食べさせられることになるんだろうか…?

■パゴダ巡り

市場を見学した後はパゴダ巡りをした。いろんなパゴダを見に行ったわけだが…でも正直言うと、一度に何箇所も見ると、そのうちどのパゴダも同じに見えてきてしまう。だから印象の薄かったパゴダだと、どんな雰囲気だったかほとんど記憶に残っていないのだ。なので、ここでは記憶に残っている寺院だけ述べることにする。


パゴダ(仏塔)はミャンマー各地で見られる
(写真はシュエズィーゴォンパゴダ)
そのパゴダが観光地として有名かどうかなんてのは、現地の人達にとってはあまり関係がない。あるとするならば外国人向けに土産物を売っている人たちくらいのもので、その他の人々は別の基準で重要度を決めるのが通常である。例えばアローピウィーパゴダというのがそのひとつで、ガイドブックには載っていないが、願い事がよく叶うことで現地では重要視されているパゴダである。アジアの各仏教国のVIPもお忍びでよくここを訪問するらしい。このパゴダに限らず、VIPは願い事が叶うという所ならば、金にものを言わせてどこへでも足を運ぶそうだ。なんともゲンキンなものだ。

アローピウィーパゴダとその内部(壁画が鮮やか)
ニャンウー村とパゴダが密集するオールドバガンの間のエリアは田園が広がっているが、その田園のあちこちでもパゴダを見ることができる。バガンには観光スポットとなり得る大きなものから、村人が個人で建てた小さなものまで、およそ2000ものパゴダが存在する。中には政府が介入して建てたものもある。これには、政府が宗教を重視していることを庶民に示すことにより、彼らからの支持を得るという目的があるそうで、ミャンマーという国ができる以前から存在する政治的な戦略の一つだそうだ。現在のミャンマー軍政もこの戦略を実践しているみたいだが、すでに軍政の悪い面ばかりを見せつけられている庶民からすれば、このような行為はムダな公共事業のように思われている。どこの国もムダな税金の遣い方は一緒である。

観光で訪問したパゴダ(もはや名前を忘れた)

観光の途中で出会った売り子さん
どんな感じでパゴダが点在しているかは、シュエサンドーパゴダをはじめとした、展望場所付きのパゴダから眺めることで確認できる。私もパゴダに上って眺めてみたのだが、バガンの景色はすばらしかった。バガンのパゴダは他の都市とは違い、金箔で装飾されているものが少ない。レンガ剥き出しで作られているものがほとんどであるため、こうやって眺めていると、まるでロールプレイングゲームのフィールドを見ているような印象を受けた。

シュエサンドーパゴダから見たバガンの眺望
■アーナンダ寺院

バガンの遺跡の中で最大の寺院である。何がすごいかと言うと、仏像の大きさだ。高さ9.5メートルの仏像が東西南北の4方向にそれぞれ一体ずつ納められている。カインさんいわく、「このアーナンダ寺院を初めて訪れた人はみな、この寺院のすごさにこんなふうに驚くらしいですよ。『あー、なんだ!?』って」。………。おー、そうかそうか、ダジャレか。分かったぞカイン、おまえ追加減点な。

この寺院でも他の寺院と同様に、寺院には必ず4体の仏像が納められている。仏教において仏様は、すでにこの世に誕生している4柱と、まだ誕生していない1柱の、合計5柱が存在すると言われている。仏教の寺院では、現時点で誕生している4柱を、誕生した順番と「東西南北」に照らし合わせて納められている(つまり最初に生まれた仏様は東へ、4番目に生まれた仏様は北へ納められている)。

ちなみにこの寺院の仏像、スケール以外にも特徴がある。下から眺める角度によって、仏様の顔の表情が異なるのである。仏像から少し離れて見上げた場合、仏様はニッコリとした穏やかな笑顔に見える。しかし、仏様に近づいて真下から見上げた場合、仏様は笑っておらず、真面目な顔立ちに見えるのだ。

かつて、この近辺に住んでいた村人は、村の長を含めて、団体でお祈りに来ることが常だった。この場合仏前では、村の長が前に座って、他の村人達は村の長よりも後ろに座るという習慣があったのだが、この仏様の表情の工夫はその習慣を利用したものである。後ろに座っている村人達に対しては笑顔を振りまく一方、前に座る村の長に対しては、村を率いる身分への叱咤激励の意味を込めて、真面目な顔を見せるように作られている。仏様であっても、こんなふうにユーモアを加えているところに、仏教という宗教の寛容さが伝わってくる。

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