§3  何もないけど魅力的 (チャウドック)

車が故障してガソリンスタンドに停車してから、おそらく30分ほど経ったでしょうか。ドライバーさんと修理屋さんはいろいろエンジンを調べてますが、まだはっきりとした原因は分かっていないようです。私とヘウさんはジュースを飲みながら待機してました。「まだ時間かかりそう?」「そうみたいですね」。

修理中の間、ガソリンスタンドの周りをぶらついてみますが、見えるのは悪路と少々のお店だけ。道路の隣にはハウザン(メコン河後江)が並んで流れていますが、炎天下でそんなところに休もうという気力もなく、結局、日陰のあるスタンドの方へ戻ってしまいます。


このような辺鄙なところで足止め

ヘウさんがこんなことを言い出しました。「ツイてないですねー、他人の結婚式を見たのがいけなかったのかなぁ?」。…えっ、どういうこと? 確かに、ホーチミンからここまで来る途中に、何軒かの家で結婚式をやっているのを見かけましたけど…それとこれと何の関係があるの?

「実はベトナムではこんな言い伝えがあるんです。
他人の家の結婚式を目撃すると、自分によくないことが起こる
逆に他人の家の葬式を目撃すると、自分にいいことが起こる

つまり、今日は結婚式をたくさん見ちゃったから、こんなことになっちゃったのかも知れないですね」
ギャハハハ、なんてヒドイ言い伝えなんだ。それって他人に対する単なるねたみじゃねーか。そんな言い伝えがあるってことは、ベトナムって、結構嫉妬深い考え方を持つ文化なのかな?

…さて、車は一向に直りません。ちょっと時間がかかりすぎているので、対策を講じることになりました。その結果、ドライバーさんはしばらくここに残って車の修理の続き、そして私とヘウさんは急遽タクシーを呼んで、それに乗ってチャウドックへ向かうということになりました。

数十分後、やって来たタクシーに2人は乗り込み、再びチャウドックに向けて出発したわけですが、このタクシーでもちょっとしたトラブルがありました。このタクシーの運転手、悪路の上を走ってるにも関わらず、すげぇ運転が荒いんですよ。左側通行なのに堂々と中央を猛スピードで走りまくります。それでそのとき、対向車線からバイクがやって来ました。なのにこの車、全く端に寄ろうとしないのです。オイオイ、危ないんじゃねーの? 端に寄ったほうがいいぞ。……オイッ、何してんだよ! 寄れって! 寄れってば! うわっ……!!
「バキッ」
……ほ〜ら、言わんこっちゃない。見事にバイクと接触事故ですよ。どうすんだアンタ、知らねーゾ。

ところが不思議なのが、明らかに接触してんのに、バイクもタクシーも、お互い知らんふりしてそのまま走り出してしまいました。私が「えっ、放っといていいの?」と聞くと、運ちゃんは「みんなケガしてないから大丈夫」。イヤ、大丈夫ったって……車のサイドミラーが思いっきりブッ壊れてるんですけど?

事故は闇に葬られ、車はそのまま走り続けます。午後5時ごろ、ようやくチャウドックに到着です。予定より2時間押しでした。さっそくホテルにチェックインです。おお、なかなかいいホテルですな。部屋からはメコン河が一望できますよ。しかし私は、そんなことよりも早く街中をぶらついてみたいので、荷物を置いたらすぐに外出です。今日はもうフリーなのですが、ヘウさんが一緒に街中を散策してみないかと誘ってくれました。そこで2人で歩いてみることにします。


ホテルの部屋から見たメコン河

ここチャウドックは、ハウザン流域の街の一つで、カンボジアとの国境の街と言われています。でもだからといって、イミグレーションがあるわけではありません。ただ単に国境に近いからという意味での国境の街です。国境に近いので、ここに住む人種も多彩です。本来、カンボジアの主要民族といわれているクメール人もここでは多く見かけることができます。また、チャム族と呼ばれる少数民族もここで見かけることができるそうです。(…まあ見かけることができると言っても、正直、私には見分けがつかなかったんですけどね)

しばらく歩いて街の中心にあるチャウドック市場にやってきました。ゴミゴミとしていていいですな。市場の本拠とされている建物の中はたいしたことないのですが、建物の周りで構えている路上市場の雰囲気は喧騒に満ちていて最高ですね。やはり河が近いからでしょうか、魚介類やそれを用いて作った食べ物を多く売っていたのが特徴的でした。


チャウドック市場
(夜になると市場前に屋台が出る)

市場の周辺
(他国から仕入れた雑貨を売っている)

魚の干物を売る店


果物のつまみ食いをするヘウ氏

市場を後にしてその他のエリアも歩いてみます。市場の周りから離れれば、そこはすぐに閑静な住宅街です。さらにそこから小さな路地に入っていくと、貧しい人達が住んでいる集落に辿り着きます。こんなところ……外国人一人じゃ来れないな。


市場のすぐ近くだが
ひっそりと静まり返っている


路地裏の光景

それにしてもこの街って、外国人が極端に少ないですね。いちおうこの街は、現地の旅行代理店(シンカフェなど)がツアーで訪問するくらいの有名な街なのですが、それらしき人達はほとんど見かけられません。そのせいで、私のような外国人が歩いていると、現地の人達はみんなこちらを注目してしまいます。やはり、いくらツアーが催行されてるといっても、さすがにこんな所まで来る人は少ないようですね。

1時間ほど歩いて、ホテルに戻ります。しかしここでヘウさんが、ホテル前で開いてる屋台に注目し始めました。「いのうえサン、を食べてみませんか?」と誘われます。ヘウさんいわく、ここで採れる貝は美味しいとのこと。…えっ、貝? 大丈夫かなぁ? 腹とか壊さねーだろうなぁ? と最初はちょっと悩んでいましたが、その屋台から漂うウマそうな匂いに負け、食べてみることに決定です。


これは酒の肴に最高です
だからちゃっかりビールも注文(右上)

ヘウさんが注文したのは、なんだかよく分からない貝が調理されたものでした(←貝の名前聞くの忘れた)。焼き貝をヌックマムベースのタレで味付けしたものだそうです。食べてみるとこれがまた美味しいのですよ。味はアサリに似てます。ライム入りのソルトにつけて食べると一層美味しいです。衛生的にヤバイかもしれないだとか、そんなことはもうどうでもいいですよ

さて貝を堪能した後はヘウさんとお別れ。私は、また夜のチャウドックの街をぶらつくことにします。夜になると、街の光景はがらりと変わります。市場や広場を中心に、食べ物の屋台やビアホイ(屋外の飲み屋)が多く出始めるのです。私はと言えば、夕食は市場近くの路上の店で、揚げた鶏とライスのセット(8000ドン)を食べることに。そしてその後は、市場前で開いていたカフェでジュース飲みながら、現地の人達と一緒にボーッとしてました。

まだ3時間くらいしかぶらついていませんけど、この街、私はかなり気に入りましたね。チャウドックという街は、はっきり言って市場以外は何もありません。いちおう観光名所は存在するのですが、それは市場からは5kmくらい離れていてホテルも少ないため、観光客がぶらつく所というと、結局はチャウドック市場の周りだけということになります。でもそれは逆に言えば、ぶらつくのに非常に適した広さであると言えるでしょう。こじんまりでありながらも、市場を歩けばそれ相応の活気を感じることができます。それでいて都会のようなせわしなさというものは完全に抜けており、逆に穏やかさというものを感じられる気がします。落ち着いた活気とでも言うのでしょうか(←意味分かんねぇか?)。…そう考えると、ここは何もないけど魅力的な街だと思いますよ。


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