§8  郊外の遺跡 (マハバリープラム)

インド滞在9日目。寝台列車は朝6時にチェンナイ到着。下車後はすぐにホテルにチェックインです。

今日も、養生のために1日休もうと思ってたのですが……「やっぱりできるだけ多くの街を歩いておかないともったいないよ、インド滞在もあと2日しかないんだし」、という意見が出たので、その結果、チェンナイ郊外の街へ観光に出かけることにしました。

その街へ行くにはバスしか交通手段が無いらしいので、3人はチェンナイ中央駅の近くにあるブロードウェイ・バススタンドへ向かいます。そのバススタンドには数十台のバスが停車しており、その周りにバスを待つ人、客相手に小さな店を開いて商売している人、また広い道路を空き地代わりとして遊んでいる子供達でいっぱいでした。まるで1つの市場がそこにあるかのような賑わいを見せていました。

ちなみにバスでの国内移動は今回が始めてなのですが、そのせいか、一体どのバスが目的地のバスなのか、最初は効率よく見つけられませんでした。日本のバスと同様、車体の正面に終点の地名が表記されているのですが、これが当然ながらインドの文字だからさっぱり読めないのです。…で、10分くらい探し、ようやく発見して出発です。

向かう場所は、チェンナイ以南60kmのところにあるマハバリープラムです。ここは先日のカニャークマリと同様、海に面している街です。ベンガル湾を望むリゾート地らしいのですが、一方で遺跡の村としても有名で、学術的に重要なところとされているのです。世界遺産に登録された遺跡もあるらしいですよ。で、ガイドブックを読んで見ると、そこまではバスで2時間弱かかるそうです。「えっ、何で60kmしかないのに2時間もかかるの?」と疑問に思ってたのですが…バスが出発してすぐに分かりました。チェンナイの交通渋滞はあまりにもヒドイ…。

ところで、バスという小高い場所に座って改めて気付いたのですが、この街の空気の汚れ方と言ったらハンパじゃないですね。どこを走っても排気ガスだらけ。小高い場所にいるから余計にニオイがきついです。呼吸するだけでもしんどいですよ。ひょっとすると、頭がボーっとしてたり咳が出ていたりといった症状が続いていたのは、このせいなのかもしれませんな。

1時間くらい走っていると渋滞が解消されていき、それと同時に空気もまともになってきました。どうやら都市部を抜けたようですね。バスの運転手も「待ってました」とばかりに、車の少ない道をスピード上げて飛ばしまくります。…でもオイオイ、ちょっと飛ばしすぎなんじゃねぇか? カーブをそんなスピードで曲がるんじゃない。(←車が一瞬浮いたような感覚がしたのは私だけですか?)

それからさらに1時間ほどしてマハバリープラムに到着です。バスを降りて街並みを見たときの第一印象としては、静寂に包まれていてのどかな村だなぁといった感じですかね。それで、まずは海岸のある方向へ歩いてみることにします。

しばらくして1つの寺院が見えてきました。波打ち際に建てられたという海岸寺院です。これはヒンズー教の寺院で7世紀ごろの建立だそうです。波や風に長年さらされてきたせいか、侵食が激しく起こっていて、見かけはやや脆くなっています。ちなみにこの寺院は世界遺産に登録されており、遺産を守ろうということで、寺院の周りには防風林らしき柵が設けられていました。今までいろんな寺院を見てきましたが、このような砂浜にポツンと建てられているのもなかなか趣があっていい気がしますね。


砂浜にポツンと建つ海岸寺院

ぜひこの寺院の近くに行ってみようと思ったのですが、入口の看板を見てビックリです。…何ッ!? 入場料が10ドルだって!? 「そりゃ高すぎるぞオイ!」「インド人が10ルピーなのに何で外国人は10ドルなんだ?」「それぞれの通貨単位の価値分かってんのかヨ!」と、3人が揃って文句をぶちまけます。そんなわけで入場するのはあきらめ、とりあえず遠くから写真だけを撮ることだけにとどまってしまうのでした。…ちぇっ。

ちなみにこの海岸でも、子供達が親と一緒に水遊びをしていました。私もまた砂浜で寝転んだり、海水に浸かって暑さを凌いだりしてました。いいねぇ、清々しくて。


海は結構きれいでしたよ (遠くに映ってるのが私)

もちろんながら、マハバリープラムの遺跡はこの寺院だけではありません。今度は海岸とは反対の方向へぶらぶらと歩いてみます。こちらは小高い岩山が多く並んでいて、そこには多くの遺跡が残されています。いっぱいありすぎてどれが何の遺跡やら混乱するくらいです。最も印象的で興味深かったのをここで挙げますと、まずその小山に登る前に現れる壮大な彫刻ですね。それはアルジュナの苦行と呼ばれる壁画なのですが、これが幅29m、高さ13mという世界最大級のスケールで造られているのです。この絵は「ガンガーの降臨」という別名も持っているそうで、どうやらガンガーがこの世に降りてきた時の物語を参考にして造られているらしいです。なるほど、神様の乗り物であるが描かれているのが分かりますね。


アルジュナの苦行

もう一つ興味深かったのが、アルジュナの苦行よりも少し北に歩いたところに突如現れる摩訶不思議な巨大岩です。何が不思議かというと、その置いてある場所なんですよ。丸い形の岩なのにも関わらず、小高い山の傾斜の部分にそれが置かれているのです。普通は下まで転がっちゃうだろ!…と思うのですが、なぜか坂の途中でピタッと静止しています。この岩はずいぶん昔からこの傾斜部分にとどまっているらしく、かつて王朝時代にこの岩を象で引っ張って除去しようとしたそうなのですが、それでもビクともしなかったみたいです。そしてそのままこの岩はずっとこの場所に放置されて、今ではクリシュナのバターボールと呼ばれるようになり、マハバリープラムで一番人気のある観光名所となっているんだそうです。クリシュナというのは、ヒンズー教の神様のうちの一人の名前で、まさにこれは神の仕業ということからこの名がついたようですね。

しかし、ホントに不思議だなぁコレ。地面と接している面積も小さくて、固定させてるような施工も一切していないのに、何で転がらないんですかね? もはや地元の人たちは転がることを全く恐れておらず、普通に岩の陰で休んじゃってました。…それでまあ、やっぱりこういうのを見ると、岩を押してみたくなっちゃうもので、試しに3人で、岩に蹴り入れて衝撃を与えるなどをしてみました。当然動くはずもなかったんですけど…。


クリシュナのバターボール

この後も、ココナッツジュースを飲みながらいろいろな遺跡を見て回り、だいたい計3時間くらい観光してました。そして2時ごろ、そろそろ戻ろうということになり、マハバリープラムを後にします。「なかなかいい所だったなー」と惜しみながらバスに乗り込み、また2時間ほどかけてチェンナイに到着です。

チェンナイに戻った後は、それぞれが自由に行動です。今朝とったホテルがアンナ・サライ通りの近辺に位置していたので、また初日と同様、3人ともがスペンサー・プラザなどでショッピングに興じてました。ちなみに私、そろそろおみやげを手に入れようということで、ダージリンティーやセイロンティーのティーバッグなどを買いましたよ。(←すげぇ安上がりですが)

ちょっと高級なレストランに行ってみようということで、夕食は大きなホテル内の店でとることになりました。ここでは、ラム肉のカレー煮込みとドーサを注文です。ドーサは、この旅で初めて出てくる食べ物ですが、これも実はインドの主食の一つであり、米粉で作ったクレープくらいの薄さをしたパンのことを示します。店によっては、中に具をはさんで出すという、本当にクレープみたいにして売る所もあります。今回のこの店がそうで、香辛料をふんだんに使って煮込んだ野菜がはさんでありました。生地のドーサのベストな焦げ具合も含めて、とてもおいしかったですね。

インド滞在10日目。時間が経つのはホントに早いですねぇ、とうとう本日がインド旅行の最終日となってしまいましたよ。…とは言っても、特に観光などはせず、みんなはまたチェンナイ市内で買い物を続けたり、ホテルのテレビで映画を見まくったりしてました。A君も体調が回復したみたいで長時間ずっと外出です。本屋で大量に買い込みをしたらしく、かなりゴキゲンでした。私も食べ歩きなどして最後のインドの日を楽しんでみたのでした。

夜9時ごろ、そろそろフライトの時間になったので、ホテルでタクシーを呼んでもらってチェンナイ国際空港へ直行です。……これでとうとう、10日間のインドの旅は終わりを迎えるわけですが、振り返ってみると、なんともすごく濃密な内容でしたね。インドは喧騒、病気、貧困の3拍子が揃う国と言われてますが、それらを全て体験することが出来ましたよ(←やや皮肉)。今回の旅での一番の感想は、日本の常識が尽く覆されるところが実に面白かったということです。それは一方では、前述したように、インドの人たちが考え直す必要があるのではないかという問題でもありましたが、そのもう一方では、「私の方が勉強になっちゃうなー」なんていうものでもありました。例えば、単に道端ですれ違うときだけでも何気なく「ハロー」と声をかけてくれたり、どこの馬の骨か分からないような私に対しても笑顔を絶やさずに会話をしてくれたりします。まぁこういうのって性格の問題もあるのでしょうけど、少なくとも私は見習うべきかなぁと思いましたね。

また、太陽に向かって祈ったり、体を使って祈ったりするなどという行動は、私には到底考えられないことでした。正直、これらのことについては、今でも十分には私の中では受け入れられておらず、ただ単に不思議な(神聖な)光景だということしか感じられていません。でももっとこの国を探索すれば、いずれはその真意が理解できるようになるのでしょう。それを考えると、また将来、インドに来てみたいなぁと思いますね。でもどうせ行くなら今度は、聖地であるヴァラナシやチベット圏のラダックなど、北インドの街が候補かなー…。

かなり道が混んでいたので、30分ほど遅れて空港に到着です。深夜のフライトでマレーシアへ向かい、到着地のクアラルンプールでストップオーバーによる滞在をし、無事日本に帰国しました。

インド旅行記。これにて完。


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