§5 閑散とした世界遺産 | (バールベック、ベイルート) |
4日目は早朝5時に起床です。起床というよりは、やかましい声で無理矢理起こされました。「あーもう何の声だよ、うるせーな」と思ってじっくり聞いてみると、どうやら近くにモスクがあるらしく、このやかましい声の正体はそこから流れるアザーンのようです。…イスラム教徒って、こんな早い時間に礼拝をするんですか。大した方々です。 いやー、しかしながらゆうべは寒かったです。何度途中で目が覚めたことか。後から気付いたんですけど、この部屋、どこからかすきま風が入っているんですよ。安普請だなぁ、さすが6ドルのホテル。ズボンがどうにか乾いていたのが不幸中の幸いです。 さて、今日以降の予定は特に何もありません。なので、どこか適当に他の街に立ち寄りながらベイルートに戻ろうと考えていたのですが、残念ながら今日も朝からザァザァと雨が降っています。雨の降る中、荷物背負ってぶらつくのはちょっと面倒だなぁということで、今日はすぐにベイルートに戻ることにします。やや残念ですけど、当初から訪問予定だったベイルート、トリポリ、バールベックは来れたのでまぁ良しとしましょう。 ただ、バールベックはまだ不満です。昨日、暴風雨と雷の中で観光してたので、十分に見ることができていないんですよね。写真もそれほど撮ってないし…。できれば今日の午前のうちに、チャンスがあればもう一度じっくりと見ておきたいですな。 そう考えていると……な、なんと! バールベックが開場する午前8時半ごろに、うまいこと雨が止み始めて、陽が差し始めたではありませんか。おおっ、これはチャンス! 天が味方してくれたか! 行くなら今しかないぞ! ………というわけで、もう一回バールベック遺跡の方に足を運ぶことにしました。入口でまた料金を支払って入場です。このとき、入場料を回収する管理者が「キミは学生か?」と尋ねてきました。こちらが「ええ、そうです」と答えると、なんと入場料を7000ポンドに負けてくれました。なぜだか分からないけどラッキーでした。 改めて遺跡の見学であります。開場したばかりの時間帯だったので、観光客は私しかおらず、閑散としてました。でもそれが逆に遺跡の「兵どもが夢の跡」みたいな雰囲気を一層引き立てています。やはりすばらしい遺跡ですね。私ったら、バカみたいに30枚も写真を撮っちゃいましたよ。 それではバールベック遺跡について、簡単に紹介しておきます。これは紀元1世紀から3世紀にかけて作られた遺跡です。その時代までは、レバノン、トルコ、シリアなどの地域は、セレウコス朝と呼ばれる王朝の支配下にあったのですが、紀元前63年にローマ軍に敗れてからは、ローマ帝国の属州となりました。このバールベックはそのローマ帝政下で作られた神殿なんだそうです。そう言われれば確かに建物の造りがギリシア神殿っぽいのが分かります。で、ローマ帝国の何の遺跡なのかというと、平たく言えば教会みたいなものです。ローマ帝国の人々が崇拝していた天地の神ジュピター、酒の神バッカス、愛と美の女神ビーナスを奉る神殿がそれぞれ建てられているのだそうです(但しビーナスの神殿はバールベック遺跡の敷地内にはなく、少し離れたところにある)。 まず正面の階段を上っていくと、ヘキサゴナル・コートと呼ばれる六角形の前庭が現れます。さらにそこから歩いていくと、祭壇が置かれた大庭園に到着します。結構破損がひどく、大きな柱がゴロゴロと転がっていますが、これはキリスト教が公式宗教になった紀元312年に、勅命で異教のものを破壊したことがきっかけなのだそうです。うーむ、しかし、破損しているとはいえ、スケールがでかいです。
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ヘキサゴナル・コート (分かりづらいかもしれませんが、六角形になってます)
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大庭園を通り抜けていけば、また幅の大きな階段が現れ、それを上っていくとジュピター神殿に辿り着きます。その名の通り、ジュピターを奉っていた神殿です。現在は神殿らしき建物はほとんど残っていませんが、神殿を支えてたと思われる支柱は6本だけ残っていました。高さから想像するに、相当巨大な神殿だったのでしょうな。
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ジュピター神殿跡に残る6本の支柱 | |
今度は遺跡の南西の方向に足を進めてみます。すると酒の神を奉っていたバッカス神殿に辿り着きます。こちらはすごいです。ジュピター神殿に比べて、ほぼ完全な状態で残っています。
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バッカス神殿外観 | |
神殿の内部に入ってみると、祭壇がありました。またさらに、この神殿内部の壁の彫刻は見とれてしまうくらいに精巧なものになっています。こんな高い場所の彫刻を、一体どうやって成し遂げたのでしょうかね?
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バッカス神殿内部 (彫刻の技術には圧倒されます) | |
結局、私はバールベックでは1時間ほど見学してました。神殿の他にも、アラブ人が侵攻して以降に作られたアラブ要塞跡やモスク跡などがあるということなので、それらもしっかりと見学して9時半ごろバールベックを後にします。…いやあ、大満足ですね。もう一度入場したおいてよかったですよ。中東地域の遺跡というと、旅行者の間では、イランのペルセポリス、シリアのパルミラ、ヨルダンのペトラなどが人気を先行しており、一方のこのバールベックというのは、結構マイナーな遺跡とされていますが、しかしながら個人的には十分見応えがあったように思いますね。ここはおすすめです。 さて、そろそろベイルートの方に戻ることにします。ホテルをチェックアウトしてベイルート行きのセルビスを探します。回を重ねていくうちに、だんだんセルビスをうまく捕まえるコツが分かってきました。わざわざこちらが歩き回って目的地行きのセルビスを探さなくても、セルビススタンドの近くでずっと突っ立っていれば、自然と1BOXが私のところに近づいてきます。そしてドライバーが勝手に目的地を言ってくるので、それが自分の行く方向と一致していれば、勝手にドアを開けて乗ればいいのです。このときも、「ベイルート!」と叫ぶ1BOXドライバーが私の所にやってきたので、すぐさま乗車です。 来た道と同じ道でベイルートに戻ります。2時間後、ハムラ地区に到着です。このあたりからまた雨がひどくなってきました。セルビス降車後は急いでホテル探しです。前回のホテルは高い割に大したことなかったので、別のホテルにしようと思いながらガイドブック眺めていると、男性が声をかけてきました。「ホテルを探しているのか? それじゃ、ウチのホテルに来ないかい?」。…おっと珍しい、レバノンにも客引きがいるんですね。最初は断わろうかと思ったのですが、話をじっくり聞いてみると、どうやら日本のガイドブックにも載っているまともなホテルのようなので、もうそれに決めちゃうことにします。実際泊まってみると、前回のホテルよりも値段が安い上に十分清潔だったので満足でした。この日は終日雨が降っていたため、ショッピング以外はホテルにずっと滞在してました。 レバノン滞在5日目。早くも今日はレバノン滞在最終日です。夜には空港へ向かわなければなりません。早ぇなぁ。やはり、日本から遠く離れた中東を旅行をするのに旅程がたった8日間しかないというのは、さすがに無理があったでしょうか。 おまけにこの日も1日中雨が降っていました。うーん、またもやツイてない…。なので、遠出はせずに、またハムラ地区やダウンタウンなどの近場をショッピングなどしてぶらついていました。こじゃれた喫茶店でカプチーノすすって、レバノンの家庭料理を出すという店でメシを堪能し、ちょっと小腹が空いた時にはまたケバブのサンドイッチをほうばる…などと、飲み食べ歩きを繰り返していました。異国の地に来ても日本と行動が一緒ですな。何しに来てるんだか…。 ちなみにこの日は、Mさんからレバノンのパンを受け取る日でした。ホテルで携帯電話を借り、Mさんに連絡して持ってきてもらうことにします。さすがに今回はスムーズに事が進むだろうと思ってたら…なんと、電話連絡したときに、自分の現在の滞在ホテル名を言うのをうっかり忘れてしまい、Mさんにレバノン到着時と同じホテルだと思い込ませてしまうという、何ともアホなミスをやらかしてしまいました。しかもそのミスに気付いたのは、すでにMさんが私の本当の滞在先を見つけ出し、パンを持って来てくれた時でした。どひゃあ、重ね重ねご迷惑をおかけしてスミマセンっ! ホントに私は大バカです。わざわざ探し出してくれてありがとうございますっ! 「…それにしても、どうやってここが分かったの?」と不思議に思って尋ねてみると、どうやら着信履歴を使ってホテルの電話の方にかけ直したんだそうです。お手数おかけしました…。 さて、時間は流れて午後9時半ごろ。そろそろ帰国便のチェックインの時間なので空港に向かうことにします。どうやって空港まで行こうかなぁと悩んでいたら、ホテルのオーナーが自分の車で空港まで送ってくれるそうです。ああ、ありがたい。またいい人に出会えましたな。途中、ファーストフードに立ち寄り、シナモンシェイクなるものをごちそうになりながら空港へ向かいました。このシェイク、ちょっとクセはありますけどおいしかったです。こんなものまであるんですね。アラブの食文化は深いですなぁ。 空港到着は10時ごろ。オーナーとお別れをして、そのままカウンターにチェックイン、帰国便に搭乗します。…さて、いよいよ旅も終わりです。今回初めて、現地のツアーなどには参加せず、完全に一人で旅をしてみたのですが、やっぱり自由が利いていていいもんですね。ただ私の性格上、逆にダラダラし過ぎてしまうところが難点ではありますが、またいずれはこういうスタイルの旅をやってみたいものです。トラブルなどが多少あって、反省すべき点がありましたが、それを守ればもっと楽しい旅になることでしょう。 できれば、またこの国には来てみたいですね。遺跡などの観光地ももちろんすばらしかったですが、何よりも今回は、レバノン人の人の良さに惹かれました。本当に多くの親切な方々に助けられましたもんね。彼らがいなかったら、私の旅はおそらくここまでうまいこと事が進まなかったでしょう。改めてお礼申し上げます。それで、もし再びレバノンに行くのなら、今度は雨に悩まされない時期を選んで、今回訪問できなかったカデーシャ渓谷やレバノン山脈、あるいは中東情勢が落ち着けば、レバノン南部にも足を運んでみたいです。さらにレバノンだけでなく、その近辺の中東諸国(シリア、ヨルダンなど)へも、陸路による国境越えなどをして行ってみたいものですね。 往路と同じオランダ乗継で日本に向かいます。帰国便もやはり長時間の移動でした。成田到着は翌々日の午前9時でした(←だから長いっての)。途中、東京のレバノン大使館に立ち寄り、スタッフの方にレバノンのパンをお渡しして、無事帰宅です。 レバノン旅行記、これにて完。
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