§4  不運の大雨 (バールベック)

3日目は7時ごろ起床です。ホテルのリビングへ行くと、その家族のおじいちゃんらしき人がパジャマ姿のままで私の朝食を作ってくれていました。食事しながら窓の外を見てみると……うわっ、なんとが降っているではないですか。まいったなぁ。今日は予定では、世界遺産であるローマ帝国の遺跡、バールベックを見に行く予定だったんだけどなぁ。しょうがないから今日もトリポリに1日滞在して、明日雨がやむことに期待しようかと思ったのですが、どうやらホテルの人いわく、天気予報では明日もあさっても雨になるとのこと。うーむ、それだったらここに滞在し続けても埒があかないですね。なので、今日トリポリを発ってバールベックに向かうことにします。

しかしまぁ、よくよく考えたら雨が降るのも当然なんですよね。レバノンにやってくるまで気づかなかったんですが、この国って他の中東諸国と気候が異なるのだそうです。地中海性気候なんですってよ。夏に少雨、冬に多雨というヤツです。つまり私は見事に多雨の時期にノコノコと来てしまったというわけです。ハハハ、完ペキに旅の季節を見誤りましたな。

朝食後、8時ごろにチェックアウトです。外に出てみると、昨日とはうって変わって雨がザァザァと降っており、おまけに雷まで鳴ってます。雨具がなかったので、たまたまホテル近くの路上で営業していた傘屋さんで傘を購入し、トール広場のタクシースタンドへ向かいます。

さて、バールベックのあるベカー高原にこれから向かうのですが、ルートとしては、一旦ベイルートに戻って、そこからバールベック行きの別の交通機関を利用することになります。本来なら、トリポリからベカー高原へ向かうのならば、南のベイルートではなく、東に位置するカデーシャ渓谷やレバノン杉で有名なレバノン山脈を通っていく方が近いのですが、どうやら調べたところによると、冬季の間はレバノン山脈からベカー高原までの道路が閉鎖されてしまうらしいのです。山道であるため、積雪があったときに危険だからという理由だそうです。またそれ以前に、仮に積雪がなくて道路が閉鎖されていなかったとしても、この区間をタクシーで通ると交通費が40ドルもかかってしまうとのことなので、あきらめることにしました。

それで、ベイルートに戻る手段として、今回は長距離バスを利用することにしました。やっぱり個人旅行で来たのなら、いろんな交通機関を試してみた方が面白いですからね。時計塔の近くにバスのチケット売り場があったのでそこでチケットを購入し、目の前に停まっているバスに乗車です。さすが庶民の交通機関、85kmもの距離なのに料金がたった1ドルってのはいいですね。

私が乗ったバスは観光バスくらいの結構大きな型のものでした。20分後に出発です。行きとは違い、道路が渋滞していたので、2時間ほどかかってベイルート市内に入ります。レバノンのバスの場合、停留所というのは存在しないようで、市内に入ってからは、降車する旨を適当なタイミングで運転手さんに伝えれば、どこでも降ろしてくれるんだそうです。へぇー、意外と便がいいですね。でも私の場合、途中で降りても意味がないので終点のチャールズ・ヘロウという所まで乗車です。

さて、ここからは乗り換えです。バールベック行きの長距離タクシーに乗るためには、ここチャールズ・ヘロウではなく、コーラと呼ばれるタクシースタンドまで行かなくてはなりません。いま、目の前にタクシーらしき乗用車がたくさん停まってますが、全てのタクシーがコーラに行ってくれるとは限らないので、いちいち自分で運転手に尋ねて探さなくてはならないのです。

どういうことかと言うと、実はレバノンでは、2種類のタクシーが存在するのです。一つは、日本にも存在するプライベートタクシーです。一人だけで乗ることができ、乗客の行きたいところに行ってくれます。そしてもう一つは、セルビスタクシーと呼ばれる乗合タクシーです。これは行く方向が決められており、もし目的地が反対方向だと乗車を断わられます。その代わり、料金はプライベートタクシーの5分の1から10分の1の安さ(ベイルート市内の移動だったら1000ポンド)で済むので、庶民の足としてはこちらが多く利用されています。

それで、当然ながら安く移動したいので、セルビスタクシーを探すわけですが、どのタクシーがプライベートでどのタクシーがセルビスなのかは一見分かりません。ドライバーの中には、その日の気分でプライベートにしたり、セルビスにしたりする人もいるようなので、そのつどドライバーに尋ねる必要があるのです。

目の前に停まっているタクシーの運転手達に尋ねてみますが、どうやらみんなコーラには行ってくれないようです。「うーむ、参ったなぁ、どこにあるんだコーラ行きは?」と困惑していると、後ろから軍人の格好をした同年代くらいのお兄さんが「どこへ行くの?」と声をかけてきました。私が「コーラに行きたいんだ」と答えると、「こっちだよ」と私をコーラ行きのタクシーがたくさん集まっている場所まで連れて行ってくれました。おお、なんていい人だ。

1台のセルビスの前でそのお兄さんは立ち止まります。「これがコーラ行きだよ、僕もそこに行くつもりだから一緒に乗ろう」。そんなわけで、そのお兄さんも乗車です。あと2人分くらい乗れそうだということで、まだ出発はせずに、そのセルビスの運転手は客引きを始めます。なるほど、確かに満員の状態で出発した方が効率がいいですからね。しばらくして、コーラ行きの客が集まったので出発です。

意外と目的地は近いようで、コーラには数分で着きました。セルビスもバスと同様に、降車したい旨を運転手さんに伝えればどこでも降りれます。私とそのお兄さんはタクシースタンド前で降車しました。料金の支払いは、車を降りるときに行うのですが、このとき、私が細かいお金を持ってないことに気付いてあたふたしてたら、「OK、OK」とその兄ちゃんが運賃をおごってくれました。おお、ホントになんていい人だ。そして車を降りるとさらにそのお兄さんは声をかけてきます。「コーラからどこへ行くの?」。私が「かなり遠いんだ。バールベックだ。」と返すと、「バールベック!? ……分かった、こっちだよ」と言って、また私をバールベック行きのセルビスのところまで連れて行ってくれました。うわぁ、重ね重ねありがとうっ!

これまでのセルビスは乗用車が多かったですが、遠距離のセルビスの場合は、どうやら1BOXの車になるようです。バールベック行きの1BOXセルビスが見つかったので、お兄さんに十分にお礼を言い、お別れをして乗車です。どうもお世話になりました。

十分に客が集まり始めたので出発です。高原なので、ベイルートを抜けたあたりからはずっと上り坂になっていきます。やはり車窓がこれまでとは違って荒れ地ばかりの光景になっていきます。2時間弱走ると、向こうの方からデカイ遺跡が目に飛び込んできました。どうやらバールベックに到着したようです。おお、すごい。外から見てもすごいスケールの大きい遺跡ですな。

降車したらすぐにホテル探しです。今回もロンリープラネットに載ってた1泊6ドルの安宿に決定です。シーズンオフなので客は私一人だけのようでした。

荷物置いたら、さっそくバールベック遺跡に行ってみることにします。残念ながらまだ雨は止んでませんでしたが、それでも行くことにします。そりゃあ行くさ。なんてったって、この遺跡を見ることこそが今回の旅のメインなんですから。


バールベック遺跡の入口

傘を差しながら入場です(入場料12000ポンド)。…おーっ、これはなかなかすばらしい遺跡群です! 何がすごいかってのはうまく説明できないんですけど、神殿や支柱、その他の壁の彫刻などが、破損が少なくてきれいなままで残っており、なおかつスケールがでかくていいですね。遺跡群自体はそれほど広くないですけど、全体的に興味深い遺跡だと思いましたね(遺跡の詳細は次節参照)。

不運なことに、遺跡の半分くらいを回ったあたりから、急に雨脚が強くなってきました。そしてまた雷が鳴り始めてしまいましたよ。風も強めなので、カメラを構えているとずぶ濡れになってしまいそうです。「なにくそ、せっかく日本からはるばるやって来たんだぞ、負けてたまるかっての。それに入口で12000ポンドも払ってんだぞ。絶対写真も撮ってやる!」…ってな感じでがんばってみたのですが、ホントにシャレにならないくらいにだんだん強く降ってきます。雨水が靴の中に入ってしまって、もう靴下びしょ濡れです。そろそろズボンもやばいです。おまけに顔も冷たいです。「ぎゃーっ、こりゃかなわん」ということで即刻退却であります。あーもうツイてない。…仕方ない、バールベック遺跡へはまた明日行くことにしますわ。


バールベックの街並み
(天候のせいか閑散としている)

ホテルへ帰るついでにバールベックの街をぶらついてみます。一応観光地ではあるのですが、世界的に有名な遺跡というほどではないために街自体も観光ズレしておらず、非常にこじんまりとした穏やかな街並みでした。今日は大雨が降っているせいか、外に出ている人も少なくて、やや寂しい印象も受けました。スークも一応あるのですが、早めに店じまいするところが多かったです。

私も今日のところは、早めにホテルに帰って滞在することにします。うーむ、下半身ヤバイです。ずぶ濡れで寒いです。このとき後悔したのが、今夜ばかりはさすがに中級以上のホテルに泊まった方がよかったってことですな。ベカー高原でのこの時期の夜はかなり冷えるようで、当然エアコンなんてのが存在しないこの6ドルのホテルだと結構キツイです。部屋中ヒンヤリとしていて、屋内にいながらも息が白いという状況です。それに風呂も、共同で使うシャワーだけしかないので、すぐに湯冷めしてしまいました。ひゃ〜、昨日のトリポリのホテルとはえらい違いだ。

あまりにも寒いので、オーナーの人から毛布を1枚余分に借りて今日は就寝です。ズボンと靴が濡れたままなんだけど、明日までにちゃんと乾いてくれるのかしら…?


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