[静岡県]

独鈷の湯
1月だけあってその日もかなり寒い日だった。本来ならば宿に籠り、ゆっくり温泉に浸かってノンビリするのがいいのだろう。いやいやしかし、やっぱり街を歩くに限る。

竹林の小径から桂橋を通って修禅寺につながる遊歩道も、ぜひ歩いてみたいと思わせてくれる道だった。川の流れる音は、寒さを一層感じさせそうだが、風光明媚な景色がそれを打ち消してくれた。

竹林の小径の中央には、竹で造られた円形のベンチがある。そこに寝転んで空を見上げると、背丈の高い竹のてっぺんが風で揺らめいているのが視界に入り、心地よい気分にさせてくれる。この小径は夜になるとライトアップされ、昼とは違う幻想的な雰囲気を味わうこともできる。


竹林の小径
桂橋のすぐ傍には新井旅館が見える。明治創業の老舗で国の有形文化財として登録されている宿である。芥川龍之介や尾崎紅葉など、名だたる文豪がここで作品を執筆したという。一度こういう由緒ある宿に泊まってみたいとは思うけれども…うーむ、とは言え、なかなか財布の紐は緩まないものだ。

新井旅館
遊歩道は温泉街の中心部につながって終端となり、そこには独鈷の湯がある。独鈷の湯は、修善寺温泉のシンボルとも言われる足湯である。かつては修善寺の温泉街もほかの温泉地のように足湯めぐりが盛んだったという。

温泉街の中心には修禅寺が構える。弘法大師が開基したと伝わる由緒ある寺院だ。特徴的なのは、当初は真言宗として開創されたのだが、鎌倉時代には禅宗である臨済宗に変わり、さらに室町時代には曹洞宗になって現在に至っているという点だ。その影響からか、このお寺で催される行事には、宗派を超えた独特なものが多いそうだ。

修善寺は源氏ゆかりの地でもあり、源範頼と源頼家の墓がある。範頼は、同じ兄弟である頼朝によって修禅寺に幽閉され、後に自害した。頼朝の嫡男である頼家も、同じく北条氏によってこの地に流され、入浴中に暗殺されたという逸話がある。ここは、不遇の死を遂げた武将達が眠る場所でもあるのだ。修善寺は、温泉好きだけでなく、歴史に興味のある人たちにとっても訪れる価値がある場所と言えるだろう。私自身もここに来るまでは、そのような歴史のある場所だとは知らなかったが、ここに来たことで興味を持ち、また訪れてみたいと思わせてくれた。

 
修禅寺
伊豆地方はイチゴの生産も盛んで、帰路の途中でイチゴ狩りを楽しんだ。個人的なこだわりだけど、私はイチゴには練乳を付けない派だ。練乳を付けてしまっては、本当のイチゴの味が分からないからだ。でもこの季節にしては練乳なしでも非常に甘くて驚いた。イチゴのビニールハウスの横には、冬の菜の花が綺麗に並んで咲いていた。
【2012年1月記録】

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