[長野県]

9つの外湯巡りが楽しめる
自分にとって素敵な温泉街とは何だろうか? 浴衣姿で下駄を履いて街を散策できること、外湯を見つければ飛び入りして体を温められること、お土産屋を見つけたならそこで温泉まんじゅうを買って頬張りながらぶらつくこと、そして何よりもなるべく混んでおらず、ゆったりとした時間と空間を満喫できること…きっとそれらは即ち、昔ながらの温泉街の雰囲気を楽しめる場なのだろう。

今でもそんな温泉街はあるのだろうかと思い、調べて見つけたうちのひとつがこの渋温泉だった。長野駅から長野電鉄で終点の湯田中駅へ。さらにそこから車で5分ほど東に行くと、石畳の細い道で形成された温泉街が見えてくる。そういえば長野市内で拾ったタクシーの運転手も、この近辺では渋温泉が一番いいなぁと言っていたっけか。


石畳の路地
渋は歴史が古く、温泉が発見されたのは奈良時代だという。それから現在に至るまで、40を超える新しい温泉脈が発見され、村では共同浴場(外湯)の場として大切に利用されてきた。かの戦国武将、武田信玄にも隠し湯として使われた歴史があるらしい。

温泉旅館にチェックインすると、鍵の付いた大きな手形をもらえる。外湯巡りをするための通行手形である。渋温泉には9つの外湯があるが、利用者を地元の人と旅館利用客に限定するため、外湯の入り口には鍵が掛けられており、この手形を使って開ける。9つ全てを巡れば満願成就に繋がるとされているが、とは言え、さすがに1日で9つを回ると逆に疲れてしまいそうなので、今回は3箇所程度にとどめておいた。どの外湯も源泉から直接引いていて加水してないため、かなり熱い。しかしこの熱さを楽しめることこそが、全国の温泉好きを惹きつける理由だろう。


「千と千尋の神隠し」の油屋のモデルとなった旅館
浴衣姿でカランコロンと下駄を鳴らしながら温泉街を闊歩する。まさに望んでいた温泉街そのものだ。「みそまんじゅう」ののぼりが出ているお店からは、まんじゅうを蒸す湯気がモクモクと立ち上がっている。その隣には、直接引いた温泉で茹でた温泉タマゴが売られている。遊技場では、家族連れが射的を楽しんでいる。細い路地に入るとギャラリーがあり、繊細な折り紙の作品が観光客の心を癒している。無料の卓球場なんてのもあって、カップルがラリーをしてはしゃいでいる。そうして汗を流したなら、また外湯に出向いて身体を洗う…。

派手さはない。それ以上のものはない。しかし今の日常を生きる人は、きっとこんな時間や空間を求めているに違いない。

夜になると、白熱電球の街灯が温泉街をセピア色に染め、幻想的な光景を演出する。その中を浴衣姿の外湯の客がカランコロンと…。ここを訪れた観光客が、家に帰りたくなくなるというのも分かる気がした。

【2010年3月記録】

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