[千葉県]

樋橋(ジャージャー橋)
中国の江南地方にある水郷古鎮へ行って以来、水郷の街が好きになった。水路に架かる趣のある橋、その下をゆっくりとくぐる小舟、古い家々が軒を連ねる静かな町並み……それは、普段せわしなく活動している自分にとって、気分を落ち着かせてくれる場所の一つである。そんな光景を見れる場所が利根川下流域にもあることを知り、東京に滞在していた頃に訪れたことがある。
都内から総武本線を経由して成田線へ。成田市からさらに東に進んだ佐原という街に、その水郷はある。

小野川を中心に栄えた佐原は、江戸時代、川を搬入経路にして河岸問屋や醸造所といった商業でにぎわった歴史を持ち、今でも商都としての歴史的景観を残している。まさに私が望んでいた通りの光景だ。

駅のパンフレットに記されていたルートに従って、街を散策してみる。街の中心は「忠敬橋」。忠敬とは、日本地図作成で有名な伊能忠敬のことで、彼は佐原の出身である。橋の近くには、伊能忠敬記念館があり、彼の歴史を詳細に知ることができる。水郷という特異な地域に囲まれて育ったことが影響して、もしかして地理に明るくなったのか?…なんてテキトーなことを想像してみる。また、訪問した当時は震災による修復中の状態で見学はできなかったが、忠敬の旧宅も現存する。

忠敬橋から南へ歩くと、もう一つの有名な橋「樋橋」がある。通称「ジャージャー橋」と呼ばれており、小さな木の橋の中央部から、水が滝のようにジャージャーと流れ落ちる光景を見ることができる。かつて川から田んぼへ農業用水を送っていた樋(とい)の名残である。樋橋近くには観光客向けの乗船場があり、小野川の遊覧が楽しめる。

川沿いに建ち並ぶ家々も立派で見応えがある。150年以上前に建造されたものもあるらしい。さらにその中には、江戸の創業以来、現在でも同じ建物内で商いをしている店もある。そのうちの雑貨問屋では、竹細工やイグサの製品が売られているなど、建物の雰囲気と相まってレトロ感が満載。見ているだけでも楽しい。

三菱館・大正時代の建造物も現存する
佐原では年に2回、夏の祇園祭と秋の大祭が催され、山車の巡行が行われる。街の東にある山車会館では、その際に使用されている山車が展示されている。山車は私の地元の祭でも使われるため、個人的に馴染み深い。ただ人型ではなく、鷹や鯉などの動物をモチーフにしたものがあるのは珍しかった。
普段穏やかな水郷でも、この日ばかりは熱気が溢れるという。水郷で山車の曲曳きとは何ともミスマッチな感はあるが、その荒々しさは、江戸を意識していたことの表れとも言える。「江戸まさり」と呼ばれるにふさわしい場所の一要素であると感じた。
【2013年5月記録】

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