[奈良県]

奈良町の町屋
奈良に来たのは小学校の修学旅行以来だ。京都には何度も足を運ぶけれど、同じ世界遺産の寺社仏閣が並ぶ奈良には1回しか行ったことがない…という人は多いのではないだろうか。かくいう私もそうだった。およそ20年ぶりの奈良観光である。

有名な観光名所である東大寺や法隆寺に足を運んでみたが、「こんなんだったっけ?」と、もはや当時の記憶はなかった。参道に鹿がたむろしていた光景もあまりよく憶えていない。まあそれはそれで、逆にその観光地を新鮮に感じられるから別にいいのだが。ただ少なくとも確実に言えるのは、寺社仏閣の観光は、小学生のときにするよりも、大人になったときにした方がずっといいということだ。


東大寺

法隆寺
奈良市内の地図を眺めていて、気になる場所を見つけた。奈良町(ならまち)という、昔ながらの町屋が軒を連ねるエリアがあるそうなので行ってみることにした。近鉄奈良駅を起点にして、傍の東向通の商店街を南に下っていく。続く餅飯殿(もちいどの)通をさらに南に歩いていけば、格子戸や虫籠窓の光景が目に入ってきた。まさしく京都で見るような町屋の光景が、ここ奈良にもあった。

奈良町でも、町屋の家の造りを利用した喫茶店や、おしゃれな雑貨屋が並んでいる。町屋カフェなんて京都の二番煎じだと思う人も中にはいるのかもしれないが、京都よりはずっとこちらの方が雰囲気が落ち着いている気がする。

 
奈良町の町屋でよく見かけたのが、軒先に吊るされた赤と白の布を丸めたカタマリである。これは一体何だろうかと、町屋エリア内にある奈良町資料館で調べてみると、「身代わり猿」というぬいぐるみらしい。奈良町を含めたこの一帯は庚申信仰が浸透しており、これは庚申さんのお使いの申を型どったお守りで、魔除けを意味し、家の中に災難が入ってこないように吊るしているのである。災いを代わりに受けてくれることから、身代わり猿と呼ばれているそうだ。
身代わり猿
庚申信仰は教祖も経典もない、いわゆる土着的な宗教だそうで、日本人の多くにとってはほとんど馴染みのない宗教だ。中国から入ってきた仏教や道教が入り混じって出来たものであり、異国から文化がたくさん入ってくるようになる飛鳥・奈良時代に形成された、この土地ならではの風習と言えるだろう。それを垣間見ることが出来たのは貴重な体験だった。

このような街が奈良市内にあるとは知らなかった。修学旅行では絶対訪れなかった場所である。むしろこの歳にならないと、こんな所を歩いたって興味深いとは感じないだろう。町屋に限らず、修学旅行だけで終わってしまっている人にとっては、奈良は新しい発見ができるところかもしれない。

【2009年9月記録】

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