[長野県]

「国設軽井沢野鳥の森」の敷地内
軽井沢といえば、オシャレな店が軒を連ねる旧軽井沢エリアで、ショッピングや食事を興じることに注目を浴びることが多い。しかしながら、やはりもともとは避暑地としての歴史がある場所である。緑を多く感じる場所に滞在してみたい。そんなことから初めての軽井沢滞在では、敢えて比較的緑の多い、中軽井沢を宿泊場所に選んでみた。

中軽井沢には「国設軽井沢野鳥の森」という森林エリアがある。自由に散策できる遊歩道が整備されているようなので、滞在中の天気の良い時に歩いてみた。…が、遊歩道の入り口にさっそく「ツキノワグマ生息地域」の看板が出ていて、のっけから怖気づく。遊歩道を歩く場合は熊除けの鈴を持つように看板は指示していたが、当然そんなのは持ってなかったので、宿泊しているホテルの部屋の鍵をチャラチャラ鳴らしながら歩いた。熊に遭遇するのではないかという不安を持ちながらではあったが、遊歩道の散策は涼しくて空気もよく、あざやかな緑の木々も見ることができて快適だった。3kmという距離で上り下りの激しい箇所はあったが、疲れることなく楽しめた。

散策の後、その森を管理している担当の方と話す機会があったのだが、「あなた達が歩いているところを、熊は絶対茂みに隠れて見てましたよ」とのことだった。もともと熊は臆病でおとなしい性格であることから、通常人前には現れず、茂みの奥から人間を監視しているらしい。不意に遭遇してしまった場合に、威嚇のために人間を襲うのである。だから、人間がいることをあらかじめ示すために音を出す必要がある。しゃべったり、歌を歌ったりするのは効果がなく、鈴などの高い音でないと熊が認識できず、意味がないそうだ。ホテルの鍵をチャラチャラ鳴らして歩いたのは正解だった。

石の教会

別の日に「石の教会・内村鑑三記念堂」に赴く。日本人のキリスト教思想家である内村鑑三が、教会の本来あるべき姿を説き、それに共鳴したアメリカ人建築家ケンドリッグ・ケロッグが、彼への顕彰の意味で建築したものだそうだ。正直言うと、内村鑑三という人物には私は全く知識がなかったのだが、彼の教会に対する苦言は、なるほどと思わせてくれる。

「教会があってはならないということではない。ただ、教会が組織や制度となったとき、それはすでに本当の教会ではない。祈りたいという人が自由に集う場所。温かな休息所である、家庭のような場所。たとえ不完全であっても、教会とは本来そんな場所ではなかっただろうか。」

ケロッグは、その言葉を表現すべき手段が、ここ軽井沢の土や緑にあると感じたのだろう。確かに静かな自然の中に佇むこの教会で、光が差し込む祭壇の前にしばらく座っていれば、心の休息は十分できそうだ。

【2010年6月記録】

JAUNT TOP     HOME