[兵庫県]

大谿川
駅の改札を出ると、温泉を使った手洗い場や足湯がすぐに目に飛び込んできた。温泉好きの私としてはこういうのを見るとワクワクしてしまう。京阪地区発の特急でおよそ2時間半走ったところにある、但馬地方の有名な温泉地。柳が揺れる大谿(おおたに)川に石橋が架けられた光景は、これまでも写真などでよく見かけたことがあり、一度訪れてみたいと思っていた場所である。

「ウチの浴場も温泉だけど、それよりもぜひ外湯に行ってみて」
私が宿泊した宿の仲居さんがそう勧めてきた。他の宿泊客もチェックインすると、すぐさま浴衣に着替えて外に出て行った。外湯が人気なのは確かに分かるが、宿の浴場よりも推す言動に思わず笑ってしまった。しかしそれは逆に、この温泉地のメインに十分な自信と誇りを持っていることの表れなのだろう。

そのオススメの外湯は全部で7箇所ある。今回はそのうち4箇所を巡ってみた。どれも立派な建物である。休日とあって混んではいたが、日頃の疲れがとれるくらいに十分な入浴ができた。個人的には「柳湯」や「まんだら湯」のようなこじんまりとした浴場が好きかもしれない。


外湯のひとつ「一の湯」
お風呂の後に街中をぶらついてみた。道の傍らでいくつかの文学碑を見つけることができた。この地には多くの文人たちが足を運んでいる。私にとって思い入れがあるのはやはり志賀直哉だろうか。「城の崎にて」は、電車にはねられて九死に一生を得た作者が、療養のために訪れたこの城崎で、偶然に見かけた蜂やネズミ、イモリなどの動物の生き様を通し、自らの死生観を語っていく作品だ。地名が出てくるからには最初は紀行文なのかと思ったが、全く違った内容で印象深く感じた記憶がある。「一の湯の前の小川ってここのことかぁ」、「作者が滞在していた宿ってここかぁ」などと感慨深く街中を散策できた。
志賀直哉 文学碑
その「一の湯の前の小川」からまんだら湯へ向かう道は、歩くと本当に気持ちのよい、静かな散歩道だった。多くの文人たちは、こういった道をぶらぶら歩きながら、作品の構想を練っていたのだろう。

大師山山頂からの眺望

海産物が豊富
ロープウェイで大師山に上ると、山頂からは温泉街や円山川を一望することができる。円山川の先に見えるのは日本海だそうだ。意外とこの街が海に近くて驚いた。城崎は海の幸の恩恵を受けている場所でもあり、冬は外湯と共に、カニ料理がメインとして据えられるそうだ。私が訪れたときはまだ解禁前の時期であったが、それでもその他の新鮮な魚が宿の食事を飾っていた。確かに…、北陸出身の私に言わせれば、やっぱり魚は日本海のものに限るわな。
【2010年10月記録】

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