ディープインパクトを与えた3冠馬
好スタートがすべての予定をくるわせた。
「予定などありません。予定などひとが勝手につかう言葉です。相手は馬です。いくら聡明な動物とはいえ、そこは4肢をもつ動物にすぎません。」
それが競馬。
「馬が強ければ、なみのレースなら万全の備えさえしていれば、ほぼまちがいません。けれど菊花賞のようなビッグレースには予想だにしなかったことがしばしばおこります。観客の興奮がそのまま鞍上の騎手の手綱に伝わります。馬は敏感ですからパニックを起こします。パニックとはいえひとのものとは違いますからね。」
そのとき鞍上武豊騎手の敵は競争相手ではなく、その馬になった。
「折れ合えばかならず勝てる、とまではいかなくとも、折れ合えさえすれば勝つ可能性は高い、と。そういう確信はあったとおもいます。武豊騎手しか乗ったことはないのですから。その経験豊富な武豊騎手が強いといっているわけですからね。で、いざゲートがあけば、折れ合わないわけですから。はじめてのことですね。」
調子がよすぎた。
「ディープインパクトはパニックを起こさなかったぶん、まえにまえに行きたがったのではないでしょうか。そうとうな興奮状態にあったことは確かだとおもいます。でもそれはほかの馬とておなじこと。ずぶさがレースへの集中を生んだのかもしれませんね。カール・ルイスのスタートではなくてベン・ジョンソンのようなスタートがきまったのも偶然ではないのかもしれません。」
大レースの特異な雰囲気がそれに輪をかける。
「向う正面で折れ合えたって武豊騎手はおっしゃっています。われにかえることができたのかもしれません。」
いよいよレースは佳境を迎える。
「正直なところ、最後の直線になって、まえを走っている馬と10馬身差。これは絶望的な差におもえたのではないでしょうか。やばいぞ、って。ディープインパクトサイドの方々はきっと肝を冷したことだとおもいます。」
強い勝ちかた。
「それはどうでしょう。強さというのは結局、結果でしかありません。強い馬が勝ったし、勝った馬が強いのでしょう。強い馬にかわりはありませんが、勝ちっぷりにはもろさも同居していましたね。ジャパンカップがかれにとっての試金石になります。いまの時点ではシンボリ・ルドルフのほうが強いのではないでしょうか。いまの時点ですけれど。」(10.24.05)
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