岩井不巡 スポーツコラム
スタジアムで会いましょう

  一生懸命ってなに

 一生懸命とはなんだろう。

 試合はこうちゃくしていた。
 後半35分、2対2の同点である。

 湿度は87%。
 気温はゆうに30度をこえている。

 エースは疲労困憊し、たびあるごとに腰をおり、両手をひざのうえにかけていた。
 両肩は呼吸で大きく上下動をくりかえす。
 動きは完全に鈍っていた。

 選手交代である。
 チームはディフェンスをもう一枚ふやした。

 相手チームのコーナーキック。ピンチだ。
 大きなカーブをえがいてボールは飛んだ。
 まるでスローモーションを見るような錯覚におちた。
 ネットが揺れた。
 落胆のため息。
 決定的な1点を許してしまった。

 すると、それまで動きの鈍かったエースが、自陣ゴールに入れられたボールを持ってセンターサークルへといそぐ。
 エースの動きはもどっているではないか。

 どういうことだ。
 なぜだ、あれほど疲れていたはずなのに。
 なぜその動きを同点になってからも続けられなかったのか。
 負けるとやばいからなのだろう。
 かれのあたまから、疲れは一気に吹っ飛んでしまったようである。
 さっきまでは、疲れたふりをしていた、ということなのか。

 同点で安心し、逆転されて動ずる。
 この構図は、なにかがおろそかにされているからなのか。
 なにかが欠けているからなのか。
 なにかが抜けているからなのか。
 なにかが間違っているからなのか。

 一生懸命とは、なにをさしていうのだろうか。
 なぁ、巻誠一郎くんよ。(9.25.03)




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