『手袋』

 閃光が閃く。
 鋭い剣さばきで次々とモンスターが倒れていく。
 長い大地の色の髪に、がっしりした体格、慣れた手つきで長剣を軽々と扱っている所からも彼が腕の立つ剣士である事が分かる。
 共に剣を振るっているのは背が高く、あまり戦いには適していないひょろっとした体格で、戦い方も2本の短剣で素早さを生かしたヒットアンドウェイのスタイルだ。
 もう一人、背の小さな女の子がフレイルを振るっている。しかし、まだ他の二人に比べ戦い慣れをしていないのだろう。見るからに危なっかしい。
 当然、モンスターも狙うなら弱い相手を狙うわけで、そうしても戦い慣れをしていないその少女の所に集まってくる。
「シャル!下がってろ!」
 状況を見かねて、少女を庇うように剣士の青年が前に立つ。
 ザクッ!
 突然割り込んだので、モンスターの攻撃が容赦なく彼を襲う。痛みに少し顔をしかめた。
 だが、青年はその攻撃にひるむことなく剣を振るい、モンスターをなぎ倒す。
 少女は言われるままに後ろに下がり、フレイルを必死で振りながらモンスターの接近を防いだ。
 彼女が必死で身を護っているうちに二人の若者はその辺一帯のモンスターを倒していった。
 こういう時、彼女は自分の力の無さを実感する。
 だが、彼女にしか出来ない事があった。それが彼女の支えでもあった。

「ありがとう、シャルロット」
 怪我の手当てをしてもらい、背の高い青年は人懐っこい笑顔でお礼を言う。
 気さくな感じの彼は人当たりもよく、彼女にとっても話しやすい存在だった。
「どういたしましてでち、ホークアイしゃん」
 シャルロットは嬉しそうににっこり笑う。
 回復魔法は彼女の十八番だった。
 こればかりは光の司祭の孫娘である彼女にしか出来ない能力だった。他の二人では手も足も出ない。
 シャルロットはもう一人の青年のほうに向き直る。
「ヒールライト!」
 光が青年を包む。
 その光は優しく青年の傷を癒していった。
「……ありがとな」
 こっちの方の青年は魔法嫌いで未だに回復魔法をかけてもらうことに抵抗があるらしい。
 一応、納得はしているらしいのだが…出来る限り魔法には頼りたくないようだった。
 しかし、回復魔法だけでも受け入れてくれるようになっただけでも進歩したのでシャルロットも気にしない事にした。
「さっきはありがとでち」
「……ああ、別にかまわねえよ。気にするな」
 先ほどのお礼を言うシャルロットにデュランはひらひらと手を振ってみせる。
 その手にはめられた手袋を見てシャルロットは驚く。
 手袋はもう本当に使い古されていてくたくたでボロボロになっていた。
 何故今まで気がつかなかったのかというくらいだった。
「その手袋……ボロでち」
 思わずシャルロットの口をついてでたその言葉にデュランは明らかに機嫌の悪い顔をする。
「……良いんだよ!別にこれで不自由してねえんだから」
 そう言い放つとスタスタと先をたって歩き出した。
 その後姿を見るだけでも機嫌の悪さが伺える。
「……だって、ボロはボロでち……」
 直接怒られたわけではないのだが、デュランの怒り方にシャルロットはバツの悪そうな顔をして不満げにそう漏らす。
「気にするなって。そのうち機嫌も直るだろうからさ」
 ホークアイが笑ってシャルロットの頭を軽くなで、励ましてくれる。そんな彼にシャルロットはにっこりと頷いてみせた。
 だが、機嫌悪そうに先を行くデュランを見て、考えるような仕草をし、急に笑顔になった。なにやら思いついたらしい。
 元気になったシャルロットはデュランの後をぴょこぴょことついていったのだった。


 商業都市バイゼル。
 賑やかな商人の街だが、夜になるとブラックマーケットという妖しげな店が開かれる事でも有名である。
 だが、昼間となると話は別で、賑やかで明るく活気のある街だった。
「……じゃあ、3人部屋でお願いします」
 バイゼルにある宿屋の受付でホークアイはとれた部屋の支払いを済ませる。
「はい、じゃあ、これが部屋のキー」
 彼が宿屋のおかみさんから鍵を受け取った時、宿の入り口から不満げな声が聞こえてきた。
「〜〜〜なんで俺が全部の荷物を運ばなきゃならないんだよ!」
 その声を聞いてホークアイが入り口に顔を出す。
「一番力あるんだから、いいだろ。そのくらい」
「自分の分くらいは持ってけ!!」
 涼しい顔で言うホークアイに3人分の荷物を背負ったデュランは怒りを露にする。
 街につくとホークアイはデュランに荷物を預けてさっさと宿屋探しに行ってしまうので荷物運びはデュランの担当になってしまっていた。
 毎回毎回、荷物を運ばされるデュランはたまったものではない。しかもホークアイの荷物は何が入っているのかやたらと重たいのだ。
 ……どう見ても力などなさそうなこの男が何故こんな荷物を持っているのか。かなり謎だった。
 怒るデュランをかるく笑顔でかわしてホークアイはきょろきょろと周りを見渡す。何かを探しているらしい。
「あれ?シャルロットは一緒じゃないのか?」
 ホークアイの言葉にデュランはきょとんんとした顔をする。
「シャルロット?お前と一緒じゃなかったのか?」
 二人の間に沈黙が訪れる。
「……あいつ!よりによってここで消えるか?!
 ここには奴隷商人とかだって来てるんだぞ?!」
 デュランは真っ青な顔をして宿屋から飛び出す。
 フォルセナ出身のデュランはこの街の便利さも知っているが恐ろしさも知っていた。
 シャルロットは15歳だといっても見た目は明らかに小さな子供だ。心配するのは当然だろう。
「ど、奴隷商人って……待てよ、デュラン!!」
 置いていかれたホークアイもデュランの言葉に驚き、慌てて宿を飛び出す。
「お客さん?!荷物どうするんだい?!」
 その様子を遠くから見ていた宿屋のおかみさんが荷物を入り口に放置したまま飛び出していく客に驚いて外に出る。
 しかし、もう二人の姿は何処にも無かった。

「手袋?……手袋ねえ」
「そうでち。剣とか使っても大丈夫なのが欲しいんでち」
 防具屋の主人のいるカウンターに必死で背伸びをしながらシャルロットは話していた。
「お嬢ちゃんが使うのかい?」
「違うでち。剣士の人にあげるんでち。男物じゃないと駄目なんでちよ」
「そうだねえ……」
 シャルロットの注文を聞きながら主人は並べている商品の端のほうにある棚から何種類かの箱を持ってくる。
「剣士が使うならこのへんかね」
 シャルロットの目の前にいくつかの手袋が並べられる。
 皮製で種類の違うものや、布製のもの、絹でできたものもあった。
 だが、シャルロットにはどれが良いのか分からない。
「どれが一番丈夫なんでち?」
「そうさねえ、丈夫さなら皮が一番良いだろうね。はめ心地の良さなら絹がいいだろうけどね」
「う〜〜〜ん、難しいでちねえ……」
 シャルロットはデュランがしていた手袋を思い出す。
 ……あげるのだからすぐにはボロボロにされたくない。
 そうなると答えはもう決まっているようなものだ。
「じゃあ、一番丈夫なヤツ下さいでち!」
「はい、ありがとうね。じゃあ、贈り物用につつんであげるよ」
「ありがとうでち♪」
 手袋を綺麗に包んでくれる主人にシャルロットは笑顔でお礼を言った。

「急いで帰らなくっちゃ」
 シャルロットはぱたぱたと道を走っていた。
 防具屋の主人に宿屋までの道を教えてもらったので、探す手間はなくなったが、きっと宿では二人共心配しているに違いない。
 人の多い道を背の低いシャルロットは右往左往しながらせっせと宿屋を目指していた。
 きっとホークアイなら笑顔で許してくれるだろう。
 だけど…プレゼントを買っておいてなんだが、もう一人の方はあまり会いたくなかった。
 怒りっぽい性格だから、散々説教されるのは見えている。
 先にホークアイを味方につけてしまえば怒られてもある程度は彼がかわしてくれるので平気なのだが…先にデュランに出会った場合は味方がいない。
「わ?!」
 前から勢い良く走ってきた人物とぶつかってシャルロットは小さな悲鳴を上げる。
「もう…!何処見て……」
 文句を言おうとシャルロットは顔を上げて言葉に詰まる。
 そこにはシャルロットが一番会いたくない人物が立っていた。
「このバカ!!どこふらついてたんだよ!!」
 周りの人間が驚くくらいの大きな声でデュランはシャルロットを怒鳴りつける。
 その怖さにシャルロットはぎゅっと目をつぶった。
 これは、徹底的に怒られる。そう覚悟をした時だった。
 シャルロットの身体は宙に浮き、デュランに抱きしめられた。
「……無事で良かった」 
 安堵の声がシャルロットの耳元で小さく聞こえた。
 シャルロットはその時、自分がどのくらい心配されていたのかを知った。
 黙って出かけた事を後悔した。
 うまく言葉がでなかったけれど…なんとかこういう事は出来た。
「……ごめんなさい」

「……で、どこに行ってたんだ?」
 人通りの多い道で、はぐれないようにデュランにシャルロットは背負われて宿屋へ向かっていた。
「えっと……その、どうしても欲しいものがあったんでち」
 シャルロットは一瞬、正直に話しそうになったが慌てて誤魔化す。
 別に今ここで渡してしまっても良いのだが…それを言い訳にするのは何となくためらわれた。
「……買い物って……お前、金どうしたんだよ?」
 お金は全てホークアイが管理している。一番しっかりした人に渡そうということでそうなったのだ。
 デュランの疑問はもっともである。
 だが、シャルロットはこともなげに答えた。
「シャルロットの法衣を売ったんでち。結構、高く買ってくれたんでちよ」
「法衣って…お前、そんなん売っていいのかよ?!」
 シャルロットの言葉に驚いて思わずデュランは後ろを振り返る。
 シャルロットの法衣は、誰が見ても高価そのものの絹製のものだ。それを売るとは考え難い。
 だが、シャルロットは不思議そうな顔をした。
「だって、おうちに帰ったらいっぱいあるんでちよ?一個くらい平気でち」
 その言葉にデュランはがくーっと頭をうなだれる。その反応にシャルロットはさらに不思議な顔をする。
「どうしたんでち?」
「……いや、お前がいいとこのお嬢だってことを忘れてただけだ……」
 デュランは改めて自分との感覚の違いを思い知らされたような気がして疲れた顔をした。
 どうも金銭感覚の違う相手はやる事が分からない。
「……でも、シャル、特にバイゼルでははぐれないようにしてくれよ。
 ここは奴隷商人だっているんだからな。攫われたってしらねえぞ?」
 デュランは気を取り直して注意を促す。
「……う、ごめんでち」
 シャルロットは謝るが、デュランの言葉に表情が青くなる。
「ええええええ?!ど…奴隷商人でちか?!
 ……危なかったでち」
「そういう事。だから勝手に行動するなよ?」
 驚くシャルロットに、デュランはねんを押すようにもう一度言った。
 シャルロットはこくんと頷く。自分がとても心配されていた事を改めて知った気がした。
「ふっふ〜ん、な〜るほど。デュランしゃんはシャルロットの事が心配で心配で仕方なかったんでちね」
 ちょっと茶化すようにいうシャルロットの言葉にデュランは真っ赤になる。図星だったらしい。
「この…!生意気言ってると置いてくぞ!」
 からかわれたのがしゃくに障ったのか、デュランはシャルロットを放ろうとする。
 下ろされそうになってシャルロットは慌てた。ここで置いていかれてはたまらない。
「ひ〜!!ごめんでち〜!!!!置いてっちゃ嫌〜〜〜〜〜!!!!!!!」
 賑やかな街中でシャルロットの悲鳴が響いたのだった。

「あ、良かった。見つかったんだな」
 宿屋の前では反対側の道から丁度ホークアイが帰ってきたところだった。
 デュランに背負われたシャルロットを見て、安堵の顔をする。
「ホークアイしゃんもごめんでち〜」
 デュランの背中から下りながらシャルロットはすまなさそうに謝った。
 シャルロットはホークアイの所へ向かおうとして、くるっとデュランの方に振り返った。
「これ、あげるでち」
 そう言って、先ほど買った包みをデュランに渡す。
 何だか分からないままデュランは可愛らしく包まれたその包みを受け取った。
 中身は何かと聞こうとしたときにはシャルロットはもうすでにホークアイのところへ行ってしまっていた。
「奴隷商人に捕まってたらどうしようかと思ったよ」
「うにゃ〜、心配かけてごめんでち〜」
 安心したのかにこにことホークアイはシャルロットの頭をくしゃくしゃと撫でてちょっと手荒い歓迎をしていた。それにシャルロットはきゃーきゃー言っている。
 デュランはもう一度、包みを見つめる。
 そっと、包みを開いた。
 中には、真新しい皮製の手袋。
 デュランは昼間のやりとりを思い出す。
 ……コレを買うためにいなくなったのか。
 デュランは向こうでホークアイに振り回されているシャルロットを見つめ、嬉しそうに優しく微笑んだ。


「どうしたんだよ、それ。いつの間に買ったんだ?」
 翌朝、ホークアイはデュランの手袋が新しいものに変わっていることに気が付いた。
「内緒」
 デュランはそう言うとにやっと笑って荷物を持って宿屋からでていく。
 機嫌が良いのが良く分かった。
「……なんで、あんなにご機嫌なんだろうね?」
 ホークアイは首をかしげる。
 機嫌がいいのはシャルロットも同じだった。
 今朝はデュランを見てからやけにウキウキしている。
 ……昨日、何かあったのかな?
 そう思うが、さしあたって心当たりも無く、なんとなく仲間はずれにされたような気もしなくはない。
「まあ、いいや。シャル、ちょっとおいで」
 とりあえず、気を取り直してホークアイはシャルロットを手招きする。
 呼ばれてぴょこぴょことシャルロットが近寄ってきた。
 ホークアイはやってきたシャルロットの帽子をひょいっと取る。
「な、なにするんでちか?!」
 ホークアイの行動にシャルロットは怒った顔をする。大事なお気に入りの帽子なのだ。
 だが、彼はニコニコとして荷物から何かを取り出した。
 そして、彼女の髪を軽くとり、結んだ。
 青いビロードのリボンがシャルロットの金髪に良く映える。
 ホークアイに鏡を見せられてシャルロットは笑顔になる。
「わ〜!すっごく可愛いでち!」
「気に入った?それならあげるよ」
 シャルロットの反応が嬉しいらしく、ホークアイはにこにこと笑った。
「本当?ありがとでち!
 ……でもどうしたんでちか?」
「あ〜、昨日シャルロット探している時にたまたま見つけたんだ。
 ジェシカがそういうの好きでさ、良く買ってやったりしてたからつい目に入っちゃって。
 これならシャルロットにも似合うかなって思ってさ。たまにはリボンもいいだろ?」
「うん、ありがとうでち〜!」
 シャルロットは嬉しそうにくるくる回る。
「何してんだよ、二人共行くぞ〜!」
 先に行っていたデュランが連れのあまりの遅さに戻ってきた。
 シャルロットは今貰ったばかりのリボンを見せようとちょこちょこ寄って行く。
 だが、目の前に黙って感想を待っている少女に、彼は彼女の変化に気がつかなかった。
「どうしたんだ?突っ立って……」
 全然気が付く様子が無い。
 見かねてホークアイが助け舟を出そうとした時、待っている方が我慢できなくなったらしい。
「……デュランしゃんの……すっとこどっこい〜!!!!!」
「どわ〜!!!!なんだなんだ〜〜〜〜?!」
 シャルロットのハリセン攻撃が炸裂する。
 何が何だか分かっていないデュランは訳が分からないまま逃げるが執拗にシャルロットに追いかけられている。
 その様子を見て、ホークアイはやれやれとため息をついた。
 こうして賑やかな朝がまた始まったのだった。


 おしまい★


 って訳でネットでは初のデュラン&シャル話です〜v
 基本的にこの二人はこんな感じが良いのですよ♪こう仲の良い感じでケンカとかもしてっていう…vv
 …でもこれ…とりあえずデュラン&シャルですよね(笑)。とてもカップルものだとは言い難いですよねえ…。
 で、どんな感じでしょうか?
 反応がちょっと楽しみのような不安なような(^^;)。宜しかったらご感想とかいただけると嬉しいです♪
 なんだか今回の話はMYデュシャルのイメージかかなりだせたのでちょっと嬉しいです♪
 お付き合いいただきありがとうございましたv


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