『シューティングスター』

灼熱の砂漠にある王城、ナバール。ホークアイの母国だ。
そんなホークアイは機嫌が悪そうに、三人を見ていた。
一人は幼馴染の空色の髪の少女。そんな彼女に楽しそうに話しているのは茶髪の青年と金の髪の小さな少女。どちらも懇意にしている相手である。だが、ホークアイはぴりぴりしてその様子を見ていた。
「それでな、その幽霊船でホークアイが幽霊になっちゃってさ」
「それでシャルロットちゃん達が助けたんでち!」
 盛り上がって話しているのはデュランとシャルロット、そして幼馴染のジェシカ。とても楽しそうに盛り上がっているので輪に加わりたいとも思うのだが、話の内容が、全部自分の失敗談とか、こんなことしたんだよ〜、とか、触れられたくない話ばかりなので、遠巻きに見るしか出来なかった。
 ああ、あいつらの口を塞いでしまいたい!そんなことを思ったりもする。
 だが、ジェシカが楽しそうに微笑んでいるのは嬉しかった。イーグルの一件以来、彼女は泣いてばかりいたけれど、今はこうして笑えるほどに心が溶けてき始めたのだから。
 けれど、そろそろデュラン達のホークアイ失敗談を止めなくては。これ以上喋らしたら何を言うのか分からない。
「はいはい、お客様達、今日はおしゃべりで過ごすつもりか?ゆっくりとナバールに遊びに来たって言ってなかったか?」
 ホークアイの言葉にシャルロットとデュランは瞳を合わせて肩をすくませた。
 何故、ナバールに彼らがいるのか。それはつい最近の事である。
 デュランが有休を使いシャルロットを拾ってナバールをまだよく見ていないと遊びに来たのだ。
 久々に会えてホークアイも嬉しかったのだが、色々な側面で、ちゃかされるような事ばかり言われるので、だんだん腹立たしく思えてきた。
「んじゃあ、ホークアイのお薦めの場所はどこなんだ?」
 そろそろ怒ってくる頃だと感じたデュランは、話の方向をうまく変える。それにつられてシャルロットも彼の傍に寄ってきて長い髪の先をきゅっと握った。
「ホークアイしゃん、シャルロットは景色の良い所に行きたいでち」
 二人の論点が変わったので、ホークアイは内心、安堵の息をついた。これ以上はばらしてもらいたくはない。
「お薦めの場所ねえ。それに景色の良いトコロだろ?どこがいいかな〜?」
 腕を組んで考えているホークアイにジェシカが助け舟を出す。
「そろそろ流星の季節ですよ。夜、城の屋上で見ませんか?良く見えるように、ねっころがっちゃいますけど」
「流星って、流れ星のコトでちか?」
 シャルロットは青い瞳をくるくるさせて、ジェシカを見上げる。それに対してジェシカはシャルロットの頭を優しく撫でた。
「ええ、今の季節は流れ星が沢山現れるんです。ナバールはこの通り、明かりの少ない国ですから星はどこの国にも負けない美しさだと思いますよ」
「そうだな。流星も良いな。そろそろ日も暮れてくるし、なんか適当に食べ物とか用意してればちょうどいいかもな」
 ジェシカの言葉にホークアイは賛同して頷く。
「必要なのは……まず寝るための布団だろ?それと上掛けとで見る環境は整うよな」
「そうね、残りはなにか食べ物や飲み物用意しましょうか」
 ナバール人が何やら細かく打ち合わせをしている様子をデュランとシャルロットは加わることができずにいた。だが、聞こえてくる言葉はどうやら楽しめるものらしい。
「じゃあ、準備といこうか。デュラン、こっちは力仕事だから手伝ってくれよ」
「ああ、構わないよ」
 ホークアイはデュランを指名して手招く。それに対してデュランは腰を上げると、ホークアイに導かれてどこかへと消えていった。
「ホークアイしゃんとデュランしゃんは何をするんでちか?」
 シャルロットが不思議そうな顔でジェシカを見上げる。そんな彼女に、ジェシカはにっこりと微笑んだ。
「ホークアイとデュランさんは布団とか重たいものを運んでくれるの。私達は食べるものとか飲み物を用意するのよ。手伝ってくれる?」
「なんか、パーティみたいでち!」
 ジェシカの言葉に、にこにことシャルロットも笑って返す。お菓子を用意して、飲み物を用意して……さらにメインイベントの流れ星の観賞も出来る。それは体験した事の無い魔法のようなお話。それが出来るのだからシャルロットは思わずはしゃいでしまう。
「シャルロット、お土産にクッキーとか持ってきたでち!」
 シャルロットははしゃぎながら、自分の荷物に駆け寄ると、鞄の中をあさり、目的の包みを見つけるとジェシカに笑顔を向けながら手を振った。
「ありがとう、シャルロットちゃん」
「他はなにをすればいいんでちか?」
「そうね、あそこにあるティーカップ、4つ、持てるかしら」
 シャルロットは、てくてくてくと歩いていってカチャカチャと音を鳴らす。
「うん、大丈夫みたいでち。じゃあ、これを屋上に運んでいくでち」
 四つのカップが入ったトレーを持って、とことことシャルロットは屋上を目指した。それを見てジェシカは微笑むと、その他に必要なものを、ひとつひとつ用意していった。

 一方の布団運び隊はずるずると布団を引き出していた。デュランのほうはちゃっちゃと行動しているが、ホークアイは必死といった感じだった。
「なんで、星を見るのに布団が必要なんだ?」
 不思議そうに、デュランは布団の中にうずもれているホークアイに声をかけた。
「ああ、ここは砂漠だからな。昼と夜との温度差が酷いんだ。布団なり、コートなり着ないと寒さでまいっちゃうんだよ」
「……ああ、なるほど」
 デュランは当然この地を知っているわけではないので、ホークアイの言葉に納得したように頷いた。そういえば、以前そんな話をしていたなと思い出す。
「あ、そうだ。聞きたいことあったんだよ」
「ん?なんだ?」
 デュランの言葉に、ホークアイが応える。
「お前、今、何してるんだ?俺、お前とジェシカさんがくっついているんだと思ったけど、何か違うみたいだし……」
 デュランの言葉にホークアイはひきつったような、または怪しげな笑みのような顔でデュランを見た。その姿にデュランは慌てる。触れてはならないものだったらしい。
「害虫駆除だ」
 思いのほか、簡単にホークアイは答える。
「害虫?なんだよそれ」
 ホークアイの顔が真剣になり、デュランを見つめた。
「害虫ってのは、ナバールの後継者になったジェシカの周りに寄ってくる男どもだよ!」
 ホークアイは引きつった顔をして、布団をどんどん階段の下へと持って移動する。
「もともと人気あったんだけどさ、イーグルがいたからジェシカは変な男に出会わずに済んだんだ。今は俺が防波堤ってやつ」
「……つまり、自分の方はいっこうに進展してないってことか?」
「ま、簡単に言えばそんな感じだな」
 デュランの言葉にホークアイは怒りを抑えながら布団を蹴っ飛ばす。
 ……ホークアイはあまり感情を表に出すタイプではないので、こういった暴挙に出るのは珍しかった。それほど腹立たしい事なのだろう。
「そっちはどうなんだよ。お前ら二人とも離れてるんだろ?」
「あ〜、なんと言うかその……今までどおりだな」
 そう言いながらデュランは布団を背負って階段を昇る。ホークアイがその後を続いたが、力持ちのデュランとは体格からして違うので、追いつくのに精一杯だった。
「時々、シャルが遊びに来て妹のウェンディと遊んだり、一緒にメシ食ったり。そんな感じ」
「……人のことが言えた義理か?」
「う〜ん、まあ、確かに」
 お互いため息をつくと、二人は布団を屋上まで運んでいった。
 屋上に着くとジェシカとシャルロットはもう来ていた。
「デュランしゃ〜ん、こっちこっちでち!あのね、景色が凄い綺麗でち!」
「そうか〜?」
 こっちこっちと飛びながら手を振ってはしゃぐシャルロットに、デュランがのこのことついていった。
「ほら、地平線に空の赤が砂に反射して凄く綺麗でち!」
 そう言って、シャルロットははしゃぐ。その傍でデュランが風に髪をなびかせながら、楽しそうなシャルロットを見ていた。その事にシャルロットが気がつく。
「デュランしゃん、あっちでち!」
 そう言われて、デュランも景色に目をやった。
「確かに綺麗だな。こんな夕暮れ、フォルセナにはないな」
「ウェンデルにも無いでち。夜の星空もきっと素敵でち!」
 ホークアイやジェシカには見慣れた景色でも、彼らには美しく見えるらしい。そんな二人をホークアイとジェシカは笑顔で眺めていた。

 夜が迫ってきて、周囲の気温が冷えてくる。温かい飲み物を、とジェシカが気を利かせて持ってくる。それで身体を温めながら、夜へと空は変わっていく。
ぽつぽつと星が見えてくる。それにシャルロットは目をくるくるとさせて、楽しそうに空を見上げていた。
「仰向けに寝た方が空は良く見えるよ」
 ホークアイの言葉に皆は頷いて仰向けになった。そして、広がった夜空に息を呑む。他国のシャルロットとデュランだけでなく、ホークアイやジェシカも改めてこのナバールの夜空を誇らしく思った。
「……こんなに星が出てるんだな」
「お星様を見てるだけでも凄く綺麗でち!」
 布団で寒さをしのぎながら、夜空を見ている。星空だけでも、もう十分といった気がする。
「星座も見てみる?ここに星見表があるから、探してみたら?」
 ジェシカがシャルロットに声をかける。シャルロットは星見表を受け取って、それと空をかわるがわる見た。
「すご〜い、ほとんどの星が見えるでち!」
 シャルロットは興奮して傍にいるデュランをたたく。
「ほらほら、凄いでち!」
 そんなシャルロットにデュランは目をやろうとして星空に流れる一すじの光が流れていった。
「あ、流れ星だ」
「な、流れ星でちか!シャ、シャルロットも見たいでち!」
「大丈夫、まだまだ流れるって」
 ホークアイがシャルロットに声をかける。その言葉にシャルロットは目をくるくるさせて夜空に目をこらす。
「あ、み、見えたでち!流れ星しゃん、流れたでち!」
 流れ星に興奮してシャルロットが声をあげる。
「まだまだ流れるよ」
 喜ぶシャルロットにホークアイは優しくそう言った。
「流れ星が流れている間にお願い事をすると叶うそうよ」
 ジェシカが微笑んだ。小さい頃から教わったおまじないだ。
「本当でちか?シャルロット、頑張るでち!」
「そこまで力を入れる願い事は何だよ」
「デュランしゃんには内緒でち」
 おまじないで盛り上がっている。そんな様子を見て、ホークアイとジェシカは視線を合わせて微笑んだ。デュランとシャルロットの様子は、まるで幼い頃の自分達のようだった。
「ジェシカは何か願い事をするのか?」
 ホークアイの言葉にジェシカは微笑む。
「ふふ、内緒よ」
 いたずらっぽい笑顔に小さな頃の自分達を思い出す。もうイーグルはいなくなってしまったけれど、きっと彼も今の自分達を空から見ているのだろう。ずっと見守っているだろう。
「……なんか、昔に戻ったみたいだ」
「そうね、本当にそんな気分ね。嬉しいわ」
 向こうではデュランとシャルロットがなんだかんだ言いながら、じゃれていた。きっと自分達の願いが何なのか知ろうとしているのだろう。
「俺も久しぶりに願い事しようかな」
 ホークアイはごろっとすると空を眺めた。
 ……ジェシカが幸せであるように、そしてデュランとシャルロットが幸せであるように。
 空の上によぎる光にそう願いをかけたのだった。



こちらも同人誌にしようとしていた品でございます。もう一つのはラブ度高かったんですが、こちらではさっぱり……。
まあ、らしくていいかなと。

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