『また会う日まで』 アンジェラは空を仰いでいた。 上空にはフラミーが舞い上がっていく。もう、上にいるはずの二人はもう見えない。 高く高く上っていくフラミーを見ていると太陽の光が眩しくて思わず目を閉じる。 ……目を開けるともうフラミーは遠くの彼方に消えていた。 「……寂しいですか?」 見送りに付き合ってくれたヴィクターが心配そうにアンジェラに声をかける。 その言葉にアンジェラは首を振った。 「寂しくないなんて言ったら嘘よね。短い間だったけど…すごく長い時間、一緒だった気がするもの。 だけどね…永遠に会えなくなる訳じゃないもの。だから平気」 アンジェラの言葉にヴィクターは優しく微笑んで、その髪をそっとなでた。 「ふふ、大人になりましたね。アンジェラ様」 「〜〜!!もう!!子ども扱いするんだから〜!!」 その言葉にアンジェラはぷうと頬をふくらます。その様子にヴィクターは苦笑した。 「はいはい、分かりましたよ。じゃあ、しっかり勉強しましょうか」 「……やっぱりそれなのね」 観念したようにアンジェラはため息をつく。 そしてもう一度空を仰いだ。 青い空、もう二人は見えない。 彼らもこれから自分の国に戻り、これから国の復興に力を尽くしていくのだろう。 昨日までは一緒にいるのが当たり前だった。 でもこれからは違う。 それでも…またいつか会えるだろう。 アンジェラは自分で言った言葉をもう一度繰り返す。 「……永遠に会えなくなる訳じゃないんだもの、ね」 ケヴィンとリース達はアンジェラと別れてからローラントへと向かい、ローラントで盛大な歓迎を受けた。 リースは久々に弟のエリオットとの再会を果たし、城中のものが王女の帰還を喜んでいた。 ケヴィンはお邪魔しては悪いと思い、こっそり帰ろうとしていたのだが見つかってしまい、歓迎の宴の中で一日をすごしてしまった。 そしてその夜。 強力な勧めで、一泊していくことになったケヴィンは宴の席をこっそり抜け出し、ローラントの独特な風に抱かれながら星を見上げていた。 大勢の人の中にいるのは楽しいけれど、ずっといるのは大勢に慣れていないケヴィンにはちょっと窮屈だったのと、やはり自分は違う国の人間なんだということが良く分かって居心地が悪かった。 これ以上、お邪魔しちゃ悪いし明日は早めに帰ることにしよう。 そんな事をケヴィンが考えていた時、後ろから声をかけられた。 「ケヴィン?どうしたの?」 金色の長い髪の少女がにこやかに立っていた。 その姿を見てケヴィンは気まずそうな顔をする。 「……ごめんなさいね、もしかして……気を悪くさせてしまった?」 リースはケヴィンの表情に気が付いて表情を曇らす。 戻ってからは慌しくて、リースはリースで、ケヴィンはケヴィンで取り囲まれてしまってあまりゆっくり話もできなかったし、彼の宿泊も半ば強引に決められてしまったからだ。 「ううん、そうじゃない。オイラ、楽しかったし。 でも、ちょっと風に当たりたかった」 ケヴィンはにっこり笑ってそう答える。その表情には本当に心からそう思っている事がよく分かって、リースを安心させた。 「でも、明日はすぐに帰る。お邪魔しちゃ悪いから」 しかし、その後ににっこりと続けられた言葉にリースはちょっとショックを受けた。 そう、もうお別れなのだ。 もうお別れなのに、ほとんど話すことも出来なかった。 このまま別れるのは嫌だった。 「……ねえ、ケヴィン。明日、少しだけ時間をくれない?」 「……オイラは良いけど……リースは平気なの?」 ケヴィンはリースの言葉にきょとんとした顔をする。 だが、リースはケヴィンの言葉に安心したようににっこりと笑った。 「じゃあ、明日。部屋まで迎えに行くから待っていて」 リースの言葉にケヴィンは良く分からないままこっくりと頷いたのだった。 翌日の早朝、ケヴィンの部屋のドアがコンコンとノックされる。 目覚めの早いケヴィンはその音に慌てて扉を開ける。 その扉の向こうには金色の髪の少女が笑顔で微笑んでいた。 「おはよう、ケヴィン」 「お、おはよう」 にっこりと微笑むリースにケヴィンはちょっと戸惑いながら答える。 ケヴィンが戸惑うのも当然だった。 リースはその手には大きなバスケットを持ち、服装もまるでピクニックへ出かけるかのような格好だったのだ。 だが、そんなケヴィンにお構いなしでリースは彼の腕を引っ張った。 「いきましょう、ケヴィン」 「ど…どこへ?」 リースの行動が分からず、ケヴィンはさらに戸惑う。 そんなケヴィンを見てリースは楽しそうに微笑んだ。 「ふふ、内緒」 ケヴィンは何だか分からないまま、リースに手を引かれ、ローラントの高い山道を歩いていた。 リースはとてもニコニコしていて、きっと何か良い事があるんだろうと思ったけれど、何も分からないのはやっぱり少し不安でオタオタしてしまう。分からない土地を歩く時はいつもこんな感じだ。 「ほら!ケヴィン!見て!」 リースに声をかけられるままにケヴィンはその方向を向く。 そこには…真っ白な絨毯が広がっていた。 絨毯のように咲く、小さな小さな高原の白い花。 「すごい!!すごいすごい!!!!」 目の前の風景にケヴィンは心を奪われる。 以前、ローラントを取り返すときに使った花もこんな風に絨毯のように咲いていたけれど、今回の花はもっと可憐で純粋だった。 真っ白で…澄み切ったような気持ちにさせた。 「丁度ね、今が花時期だって昨日ライザに聞いて…折角ローラントに来てくれたんだから見せたいって思ったの」 「ありがと、リース!オイラ、初めて見た!すごい、嬉しい!」 ケヴィンの嬉しそうな顔にリースも嬉しそうな顔をする。 喜んでもらえて良かった。そう思った。 「そうだ、ケヴィン、お腹すいていない?朝ご飯作ってきたのよ」 「ご飯?そういえばオイラ、お腹ペコペコ」 リースの『朝ご飯』という言葉にケヴィンは目を輝かす。 やっぱり花より団子らしい。 そんなケヴィンをリースは優しい眼差しで見つめると持ってきた大きなバスケットから大きなおにぎりを取り出した。 「はい、ケヴィン。いっぱいあるから沢山食べてね」 「本当?ありがとう、リース」 ケヴィンは大喜びでおにぎりを受け取るとおいしそうに頬張る。 その幸せそうな笑顔にリースは嬉しそうな顔をした。 「おいしい〜♪もう一つちょうだい!」 「ええ、どうぞ。ふふ、美味しそうに食べるから私も食べたくなっちゃった」 あっという間にたいらげたケヴィンにリースはおもわず笑ってしまう。 二人は花畑に腰を下ろし、少し遅めの朝食をとった。 「ほら、ケヴィン。ごはんつぶ、ついているわよ?」 「あ、ありがと」 ケヴィンの頬についたご飯粒をリースはとってやる。何だか母親と息子のようだ。…それにしては息子が大きすぎるが。 「……でも、もうこれからはこうやってご飯を食べられないのよね。 ……寂しいな」 リースは寂しそうな顔をした。 旅をしたのはとても短い間だった。 だけど…昨日まではここにアンジェラもいて、三人で仲良く朝ご飯を食べた。 でも、今日は二人だけだ。 明日は…一人だろう。 当たり前なのだ。本来いるべき所に皆帰るだけなのだ。 リースもケヴィンもアンジェラも国を護っていく者達だ。 ずっと一緒にいられる訳ではないのだ。 「……寂しいけど……でもまた会える。 アンジェラも言ってた。もう二度と会えなくなる訳じゃから『さよなら』は言わないって。 ……オイラもそう思う。 だから……大丈夫」 ケヴィンは精一杯の笑顔でリースに笑ってみせる。 一生懸命、彼なりに励まそうとしているらしい。 その気持ちがすごくリースにも伝わってきて、安心できた。 きっと…アンジェラが言うのなら…ケヴィンが言うのなら…大丈夫だろう。 大丈夫。分かっている。 ……だけど確かなものが欲しかった。 そう思うのは我儘だろうか。 ケヴィンが空を仰ぐ。もう大分日が高くなっていた。 「リース、もう、戻らないと。みんな心配する。 オイラもそろそろ帰らなきゃ」 ケヴィンはそう言って立ち上がる。 リースの胸に痛みが襲った。 また会える。 でも別れは必然なのだ。 そんなリースの不安を知ってか知らずかケヴィンはにっこりと笑った。 「ねえ、リース。今度はオイラのとこに来てよ。 オイラのお気に入りの場所に連れていくから」 その言葉にリースは目を輝かす。 「本当?いいの?」 「う…うん。 その時はアンジェラも誘おう」 「ええ、そうね。そうするわ」 リースの食らいつかんばかりの勢いに押されてケヴィンは戸惑いながら答える。 確かなものが欲しかった。 確かな約束が欲しかった。 ……それは今、手に入った。 安堵の思いがリースを包んだ。 また、会える。 それが確証に変わったから。 ケヴィンが風の太鼓を鳴らす。 しばらくするとフラミーが舞い降りてきた。 ケヴィンはリースににっこり笑うとフラミーに飛び乗った。 リースはそれを見守る。 「リース!これあげる!」 フラミーの上からケヴィンが何かをリースに向かって投げた。 それをリースは受け取る。 それは…風の太鼓。 「リースが寂しかったらいつでも来て!オイラ、いつでも歓迎する! また一緒にご飯食べようね!」 ケヴィンの元気の良い声が聞こえる。 リースは熱いものがこみ上げてくるのが分かった。 フラミーが舞い上がっていく。 リースはそれを見上げて見送った。 また会える。 約束と風の太鼓。 これがあれば安心できる。これからも頑張れる。 空を仰ぐ。 リースはケヴィンが見えなくなるまでずっと空を見つめた。 ……再会を願って。 それから…ケヴィンは想像以上に早いリースの訪問を受ける事になる。 終わり。 『Beast Kingdom』の4万HIT祝いに捧げたお話です。閉鎖になってしまったと思われますので、とりあえず再録してみることにしました。見ての通りの話なんですが。 リースvケヴィンでアンジェラvヴィクター…個人的に至福…vv いつかお別れは来てしまうもので、実質彼らは本来の生活に戻るんですよね。だからそれはきっと寂しい事ではなくて、喜ばしい事だから。だから笑って再会を約束できたら…と思って書いた話です。 でも、このロイヤルパーティ、書いてて楽しいですね〜vvなんか、雰囲気が和やかv |