『喧嘩』 「こら、シャル!なに乗っかろうとしてんだ!!」 シャルロットがデュランの荷物にくっついて、そのまま登ろうとしていることに気がついた。 目的は単純明快である。デュランの上に乗っかって運んでもらうつもりなのだ。 「おーまーえーなー!歩け、自分の足で!!」 「シャルロット、もう、くたくたでち!レディに優しくするのが騎士しゃんなんでちよ!」 シャルロットはえへんと胸をはる。 その態度にデュランは呆れるやら腹が立つやら、複雑な気持ちになるが、だんだん怒りの方が高くなってきた。 「お前なあ!少しは我慢することを覚えろ!ちゃんと歩け!!!」 「シャルロットはかわいいかわいい女の子なんでち。こういう時は下僕しゃんが、気をきかせるものなんでち!」 「誰が下僕だ、チビのくせに!」 「むきー!!シャルロットはチビじゃないでち!!立派なレディでち!!」 デュランとシャルロットの喧嘩をホークアイは、やれやれという顔で見ていた。 この二人の、こういうやりとりは、ホークアイが仲間に入った時から展開されていた。 些細な事で喧嘩して。大した事でもないのに喧嘩して。 喧嘩しているのかじゃれあっているのか、そのどちらともいえるその関係は、どんなに喧嘩してもしばらくすれば、仲の良い状態に戻るのだ。 だからホークアイは見守ることにした。 喧嘩というより、じゃれあっているだけなのだ。二人とも、本当に怒っている訳ではないのだから。 その中の良い関係がホークアイには懐かしくもあり、悲しくもあった。 イーグルとジェシカを思い出すからだ。 でも、何があってもジェシカを取り戻す。それだけは深く心の中に刻んでいる。 「いいでちか!シャルロットは、と〜ってもかわいいレディなんでち!」 「だから、レディなんかじゃねーだろ、お前!!」 喧嘩が終わりに向かっているようだ。最近になってホークアイもその法則が分かってきた。 そろそろ、シャルロットがぷいっとふくれてデュランを無視する頃だ。 いつもなら、シャルロットの所に行くのだけれど、ホークアイはこの喧嘩の原因の一端に気が付いていた。 それはデュランの態度である。 まあ、いつもシャルロットと喧嘩している時点で、レベルは知れているのだけれど。 多分、言わないと気がつかないだろう。 ホークアイは喧嘩別れした二人のデュランとシャルロットを見てから、デュランの方に向かった。 「デュラン」 「……なんだよ、ホークアイ。お前も俺に謝れっていうのか?」 凄い迫力のある目でデュランはホークアイを見る。どうやら、相当怒っているようだ。 たじたじとしながら、ホークアイはデュランに話しかける。 「あのさ、俺、気がついたんだけど」 「は?なんだ、それ」 全く意味の分からない顔でデュランがホークアイをにらみつける。 「あ、あのさ、シャルロットのことなんだけど」 「はあ?俺と喧嘩したばかりだぜ?あんな奴、放っておけばいいんだ」 なんとなく、デュランの怒りが増幅していっている感じだ。 落ち着け、俺。大事な事なんだから、ちゃんと話さないと。 ホークアイは心に言い聞かせて、言葉を噤む。 「あ、あのさ、シャルロットってさ、お前の喧嘩の時、『かわいいシャルロット』って言うだろ?」 「……ああ、言うな。どこが可愛らしいんだか」 ふてくされた顔でデュランはそう答える。それにホークアイは微笑む。これなら話が早そうだ。 「あのさ、シャルロットはさ、お前に『かわいい』って思って欲しいんだと思うんだ」 「は?意味が分からねえんだけど」 ホークアイの言葉にデュランはぽかんとなる。想像をしていた範囲を超えていた。 「あのさ、シャルロットは、自分なりにレディになりたいんだと思う。 シャルロットとしてはレディになるために頑張っているんだと思うんだ。 だから、お前にも『かわいい』って思って欲しいんだよ」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 ホークアイの言葉にデュランは考えるようなしぐさをする。 「……まあ、……その……可愛らしいところも……あるような、ないような……」 「……っとに、お前もシャルロットも素直じゃないんだから」 呆れた顔をしてホークアイはかぶりを振った。 「……お前は、俺にどうしろっていうんだ?」 「だから、言ってやりなよ、『かわいい』って」 「……そんな事、言えるか!!」 真っ赤になってデュランはそう叫ぶ。 そんなデュランにひょうひょうとしてホークアイは笑って返す。 「俺は言えるよ、簡単な事じゃない」 「ど、どこが簡単なんだよ……!」 「こういうことだよ」 ホークアイはひらひらと手を振って、ついてくるようにくるようにデュランを促す。 デュランはよく分からず、その後をついていく。そして、その先にはふてくされたシャルロットがいた。 ホークアイはにこにことシャルロットの傍に座って笑った。 「な、なんでち。ホークアイしゃん」 ふくれた顔でシャルロットはそう返す。ごきげんななめのようだ。 そんなことも構わずにホークアイは笑った。 「俺、シャルロットが『かわいい』と思うよ」 「え?」 いきなりの言葉にシャルロットはびっくりした顔をした。予想外の言葉だったからだ。 だが、シャルロットは虚勢をはる。 「ホ、ホークアイしゃん、い、今頃気付いたんでちか」 「うん。そうだね。なあ、デュラン、お前も『かわいい』って思うよな?」 それは突然降って来た言葉だった。 言葉を投げかけられた方もびっくりしているし、シャルロットの方もびっくりした。ホークアイだけがにこにこ笑っていた。 「な、そう思うだろう?」 ホークアイは笑いながらそう繰り返す。シャルロットも、驚いた顔でデュランを見ている。 デュランは、言葉に詰まり、上手く言えそうになかった。仕方がないので、恥ずかしいながらも首を縦に振る。 その仕草にびっくりしたのはシャルロットだった。 デュランが『かわいい』という言葉を肯定してくれた。それは、驚きでもあり、凄く嬉しかった。 「ありがとでち、デュランしゃん。 シャルロット、とっても嬉しいでち」 そして、今まで見た事のないような『かわいい』顔でシャルロットは笑った。 くすりとホークアイは笑う。デュランは凄く嬉しそうな顔で笑うシャルロットを見て照れているようだった。 さて、この喧嘩はおしまいかな?ったく、てがかかるんだから、この二人は。 「さあ、行きましょうかね。二人ともいいかい?」 ホークアイは立ち上がると、二人に旅の進行を促す。それに二人は頷いたのだった。 ************************************************************** 久しぶりの更新で、サイトでは滅多に置いてないデュラシャル短編です。 書きつつ、漫画の方が良かったかなーと思ったり。でも、書いていてとても楽しかったですv |