『やきもち』 「ねえねえ、ジェシカちゃ〜ん。一緒に、お茶でも飲まない?」 聞こえてきた声にホークアイの耳がぴくっと動く。 声のした方向に頭をぐるりと向ける。 ここ最近、よく見る光景だ。 ナバール兵の一人、ピエールだ。この所、ジェシカにしつこく付きまとっている。 「え、ええと……今日はこれから用事があるので」 「そっか〜。じゃあ、今度は絶対な!」 ジェシカは済まなさそうに断ると、ピエールは気にしないという顔をして彼女に次の約束をさりげなく要求している。 ジェシカがいなくなるのを見計らうと、ホークアイはピエールの背後に近づいた。 「ジェシカに近寄るな〜」 低くて呪われそうなその声に、ピエールは冷や汗をかきながら、後ろを振り返る。今にも殴りかかってきそうなホークアイにピエールは身構えた。 「でた!ジェシカちゃんの背後霊!」 「誰が背後霊だー!」 わなわなとホークアイは拳を振るわせた。 ホークアイがナバールに戻ってきてから、ジェシカがやたらとナンパされているのを見かけるようになった。 元々、ジェシカは人気があった。しかし、イーグルの存在がそれに牽制をかけていた。 今、イーグルはいない。そしてジェシカはフレイム・カーンの跡取り娘だ。余計に拍車がかかっていた。 そんな訳で、ホークアイがイーグルの代わりに目を光らせているし、色々工作もしているので減ってはきている。 きているのだが……。 このピエールは特別だった。何度妨害をしてもへこたれないで、それでもしつこくジェシカに言い寄っていた。 最初のうちは戸惑っていたジェシカも、だんだん慣れてきたのか、一緒に遊びに行く事はなくても、談笑するようになってきた。 ……つまり、ホークアイにとっては目の上のコブな訳である。 機嫌が悪いホークアイに、ピエールは肩をすくめてみせる。 「あのさー、俺、前から言いたかったんだけどさ」 「なんだ」 無愛想なホークアイに、ピエールはやれやれと肩をすくませる。 「お前さ、ジェシカちゃんに近寄るヤツ、片っ端から排除しようとしてるみたいだけどさ、そんな事したって俺も他のヤツも諦めねーぜ?」 「うるさい」 一言だって口をききたくないといった顔をしているなあ、とホークアイを見ながらピエールは思った。 この、邪魔する事しか愛情表現の分からない男に何と言ってやるか。ちょっと考える仕草をした後、ピエールは笑った。 「お前さ、バカだろ」 「誰がバカだ、バカだ!」 「バカだからバカって言ってんだろ?」 ピエールはくってかかるホークアイに、再びやれやれと肩をすくめた。 「お前さ、そういう事ばっかして、ジェシカちゃんに構ってやってないんじゃないの?どっかに遊びに行くとかさ〜」 そう言われて、今まで怒りで燃えていたホークアイはピクッと反応する。 言われてみれば確かにそうなのだ。 寄って来る男どもを追い払う事ばかりに夢中になっていて、彼女にあまり構ってやっていなかった気がする。 「うん、そうだな。忠告ありがたく聞いておくよ」 ホークアイはピエールの肩をぽんと叩くと、去っていった。おそらくジェシカの元に向かうのだろう。 本当にバカだなとピエールは思う。本当に他の男たちを追い払いたいなら、彼女の傍に勝ち目の無い男がいることだ。その男になれば良いのだ。 「やきもちやきなんだろうな。 ま、俺も俺でまだ負けてやる気はねーけどさ」 そう呟いて、自分のおせっかいに苦笑するのだった。 「ジェシカ!」 ホークアイはさっき彼女が去っていった方向へと走って、見つけ、声をかけた。ジェシカが少し驚いた顔をしてホークアイを見る。 「どうしたの?ホークアイ、何かあった?」 どうやらジェシカにとってはホークアイが声をかけるのは何かがあった時らしい。先程のピエールの言葉を思い出してホークアイはうなだれた。 大切な女の子だ。誰よりも大切に思っている。それが、ちゃんと伝わっていない事に気が付いた。 ……思っているだけじゃ伝わらない事もあるのだ。 ホークアイはにっこり笑った。 「明日、どこか息抜きに遊びに行こう。少しくらいなら大丈夫だろう?」 「え、ええ。私は大丈夫だけど、ホークアイは良いの?」 ジェシカはまだ戸惑ったままだ。そんな彼女に心配ないと、肩に手を置いた。 「大丈夫。だから一緒に行こう?」 ホークアイのその言葉に、ジェシカは幸せそうに微笑んだ。 その次の日、ホークアイとジェシカが仲良く街に出かけていく様子が見られたという。 そしてピエールはというと…… 「あんの野郎、人が親切にしてやったのに……ぶっころしてやる」 朝起きると、全身が痺れて動けなくなっていたのだった。 犯人は勿論、言うまでも無い。 終わり。 『シューティグスター』の後日談的なお話。 ホークアイってヤキモチ妬きっぽそうだな〜って思って。 目障りな相手には毒を盛るのです(笑)。 |