その4.

「ね〜、ルーウェン。どうしたら良いかな?」
「ウィズが反抗期なんだって?」
 心底心配した顔をしているマルローネにルーウェンも戸惑いを覚える。
 マルローネは飛び切り明るく元気な少女だ。
その彼女が意気消沈としてしまうと周りの空気も暗くなった。
「調合もね、アイテム図鑑見せてもね、採取させようと思っても、
全然反応無くて……やる気が落ちちゃったのかな。あたしの教育が間違ってたのかなあ」
 マルローネは完全にまいっているようだった。
 普段明るいウィズが好奇心を失ってしまったのだ。
 その意気消沈がマルローネにも伝染しているらしい。
 ルーウェンはマルローネの頭をぽんぽんと叩く。
「大丈夫だって。ウィズは根性あるし。今度の採取で一緒に行くから、それとなく聞いてみてもいいよ」
 ルーウェンの提案にマルローネは目を輝かせた。
「本当?!ありがと〜!助かる〜!」
「あんまり過度な期待は無しな」
 あまりにも期待いっぱいの顔をされ、ルーウェンは苦笑した。


 ウィズとの待ち合わせ、外門で合ってたはずだけど。
 ルーウェンはそう思いながら待っていると、ウィズが大きな籠をひきずってやってきた。
 何度見ても思うが、重たそうだ。
「今日はどこまで行くんだ?」
「へーベル湖まで。宜しくね」
 二人はへーベル湖までの道のりを楽しく過ごした。
ここのモンスターは大した事がない。だから、安心して進む事ができる。
「なあ、ウィズ。お前調子悪いのか?」
「調子?なんで?」
 明るい顔で返されたので、ルーウェンは次の言葉に詰まる。
「いや、なんか元気ないって聞いたからさ」
「マリーお姉ちゃんに?」
「ん、まあ、そんなとこ」
 ウィズは何を言うか考えているようだった。ぼーっとした表情からは、
何を考えているのかはよく分からない。
「……ルーウェンはお姉ちゃんがお店持つ前からの知り合いなんだよね?」
「正確に言うと同じ時期に始めた、かな」
「……お姉ちゃん、調合の失敗とかも一杯したんだよね?
 僕だけじゃないよね。それに僕一人が悪い訳じゃないよね?」
「ウィズが何を言いたいのかは分かったけど……マリーは失敗しても、
諦めずにそれに何度も挑戦していた。だから、今の彼女の技術力があるんだ」
 マルローネに対するルーウェンの思いいれも深いんだなとウィズは思う。
「僕、今、何やってるのか分かんなくなっちゃって。
 だからマリーお姉ちゃんに当たったりしたかもしれない。
 でもそれは僕がこの先、何になりたいのか、それが見えてないだけかもね」
 そう言ってウィズはため息をついた。ルーウェンを見上げる。ルーウェンは優しい顔をしていた。
 その顔を見ているとウィズは新たなる発見に気がついた。
「ルーウェン、マリーお姉ちゃんのこと好き?」
 子供相手のその言葉に、ルーウェンは特に顔色を変えず、答えた。
「ああ、好きだよ。ザールブルグに住んでしまうのは、暮らしやすさだけじゃないくて、
マリーがいるからかな、と思う。
「そのくらい大きいの?」
「分かんない、でもザールブルグ=マリーってイメージがあるんだ」
 ルーウェンはウィズの頭をぐりぐり撫でる。
「お前こそどうなんだよ。マリーの事、好きなんだろ?」
「ぼ、僕は……いま、ちょっと分かんない」
「好きかどうか?」
「うん」
 これは結構壁が深いなとルーウェンは思った。
何がウィズの心を固めてしまったのだろうか。
「調合するの嫌いになったのか?」
「うん」
「依頼受けても嬉しくないか?」
「うん」
「じゃあ、この間、俺に作ってくれたアルテナの水も適当か?」
 この言葉にはウィズが激しく反応した。
 ウィズはルーウェンのマントをひっぱり、それは違うと首を振った。
「僕、一生懸命作った!ルーウェンに喜んで欲しかったから!」
「……じゃあ、他の調合ではそれは無いのか?
ウィズが頑張ってる事、みんな認めてくれない?」
「……分かんない。でも、なんかちょっとルーウェンのお陰でなんか分かった気がする」
 ウィズはゆっくりと頷く。色々考えてみる。マルローネとウィズの関係を思い返していた。
 でも多分、きっとお姉ちゃんとルーウェンほど強く繋がってないのは確かだ。
それが、悔しくもあり、羨ましくもあった。
 それが彼等の絆なのだろう。
 いつかそんな絆を作れるだろうか。
 そんな事をウィズは思った。


「あ〜。ルーウェンありがとー」
 飛翔亭で声をかけられて、ルーウェンは慌てて振り返る。マルローネだった。
「なんかよく分かんないけど、ウィズ、元気になったの。ありがと、ルーウェン」
「そっか、良かったな。大事にしなきゃ駄目だぞ?」
「うん、分かってます。ありがとね、ルーウェン」
 そういうとマルローネとルーウェンはにっこりと笑いあった。

終。


ゲームでウィズが反抗期に入るんですが、その時のルーウェン側から書いてみたかったのですが
ルーウェンはマリーの事が好きなんだな、と、それだけは間違いない話になりました……。

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