『ウィズのザールブルグ日記』


その3.

 いつも通り、カゴ一杯の材料をウィズがご機嫌で持って帰って来る。
当然のようにお付のルーウェンが運ばされていた。
 ウィズは直ぐにマルローネに成果を報告に行く。
「いっぱいとったよ〜!」
「うん、頑張ったね、偉い!」
 マルローネがウィズの頭をぐりぐりと撫でる。それをきゃーきゃー言ってウィズは喜んで跳ね回った。
「あのさ、二人に頼みごとしようかと思ってるんだけど」
 ルーウェンがじゃれている二人に、本題に戻れるよう軌道修正をした。
「シグザール金貨って知ってる?」
「ええ、知ってるけど」
「え?何それ知らない〜」
 急に金貨の話になったのでマルローネは驚いた。
「滅多に見つからないんだけどさ、昔のお金が落ちてることがあるんだ」
「へえ、おもしろーい」
 マルローネは何でルーウェンが金貨の話をしたのか分からなかった。
 が、次の瞬間、何を作ろうとしているのかが分かった。
「ルーウェン、あんた身代わり金貨が欲しいんじゃないの?」
 マルローネの的確な指摘を受けルーウェンは言葉に窮す。
「うん、まあ、そんな感じ。金貨がないと、他で頼んでもなあ、作ってもらえないし、
材料集めの時に見つかったら美味しいのかな〜と」
「……マリーさんに頼む気は無いの?」
 ちょっと腹立たしげにマルローネは見やる。それを見て、ルーウェンがびっくりした。
「マリー、作ってくれる余裕あるのか?仕事たてこんでるんだぞ?!」
 ルーウェンの言葉にマリーは微笑んでしまった。頼まないのは自分が忙しいせい、だからなのだと。
「作ってあげても良いけど、あたしも金貨のストック、持ってないんだ」
 やっぱり材料が無いらしい。
 ルーウェンはウィズに視線を移す。
「なあ、良かったら、メディアの森に行く時は俺を誘ってもらってもいいかい?」
 ルーウェンの頼みごと、などウィズには珍しい限りだった。
 それにウィズはルーウェンが一緒なら負けないと思っていた。
「うん、一緒に行こう!金貨みつけよう!」
「……じゃあ、あたしも行こうかな。ルーウェンの金貨探しの旅。今、手空いてるし」
「お姉ちゃんも来るの?」
 ウィズはマルローネの言葉にはしゃいでいる。マルローネも行く気満々だ。
 思っていたより凄い話になっちゃったな、とルーウェンは思う。
 昔はマルローネも材料を取りに行くのは当たり前だったけれど、今のマルローネは調合の仕事の方がメインだ。
材料も雑貨屋でかなり揃うので、ザールブルグからは最近出ていなかった。
 しかし、火の玉マリーが見れるなんて久しぶりだ。
 メディアの森のモンスターは、ちょっと危険なのだが、マルローネが居るなら大丈夫だろう。
「じゃあ、明日、出発で良いのかな?」
 ルーウェンは一応、確認をとる。
「うん、明日。工房で待ってるからね」

 翌朝、マルローネ達はすっかり旅支度を整えていた。マルローネは特にはりきっている。
最近、材料探しに行ってないからだろう。
「ウィズ、よく見てなさい、お姉ちゃんの戦い方」
「うん、分かった」
 マルローネの力の篭った腕を見て、ウィズにもマルローネが強い事に気がつかされる。
「さあ、行きましょう」
 先頭きって、外門の扉をマルローネが押し開く。マルローネにとって久々の冒険だった。
「うわ〜。わくわくする〜!」
 うきうきはしゃいでいるマルローネ、そんな彼女につられるように踊ってるウィズ。
ルーウェンとしては敵には会いたくないのだが、いざ戦闘になったとしてもマリーの魔力で一掃だろうと思うと、
今回の護衛は楽だといえる。
 実際問題、マルローネは途方も無く魔力がみなぎっているらしく、
出てくる敵出てくる敵マルローネの必殺技で倒されてしまうのだ。
 ウィズは彼女が火の玉マリーと呼ばれていたことを思い出し、それを重ねた。
……なんて似合っているんだろう。
鬼神みたいに強いのに、普段は工房に閉じこもって調合やらなにやらやっていて、そのギャップに驚いた。
 マリーお姉ちゃんは冒険者の方が似合うんじゃ……ウィズはこっそりそう思った。
 ルーウェンを見ると苦笑している。マルローネの実力を知っているからだろうか。
「昔から、あんな感じだよ」
 ウィズの頭をぽんと叩き。ルーウェンがそう言う。
 ウィズは調合の面でお姉ちゃんの右に出るものは無い。と思ってきていたのだが、戦闘でも無敵である。
「……僕、とんでもない人に預けられたのかも?」
 ウィズがそう零す。その言葉にルーウェンは苦笑した。確かに大変な人に預けられたのは間違いない。
「でも、僕も強くならなきゃ」
「そうだな。護身術くらいならつけた方が良いと思うよ」
 そんな雑談の後、隣で一人で繰り広げられていた戦闘が終了したようだ。
「……二人とも何でお喋りしてるのよっ」
 マルローネは不機嫌そうにそう言った。だが、男二人組は肩をすくめる。
「だって、マリーが強すぎて手がでないんだけど」
「あら、あたしはかよわい女の子よ?」
 その言葉に、どこらへんがかよわいのだろうと思う二人だった。
 マルローネ自身は、かよわいと思っているのだろうけれど。
 自分はかよわいと言っているのに、納得してくれない男二人を見て、
マルローネは、荷物袋から何やら取り出している。
「ウィズ、こっちにいらっしゃい」
「はぁい、お姉ちゃん」
 ウィズはぴょこぴょことマルローネの傍に寄っていく。
マルローネは何かをざらざらっとウィズの手の中に入れる。
「はい、ウィズ」
「お、お姉ちゃん、これって……」
 ルーウェンは何を手渡したのか、察知した。爆弾だ、絶対爆弾を渡している!
「さあ、それを投げて思いっきり暴れまわるのよ!」
 ……やっぱり爆弾のようだ。ウィズはその言葉にこっくりと頷く。
 ルーウェンは、魔力暴走娘と爆弾妖精を連れて歩くのかと思うと、なんだか頭が痛かった。

 マルローネの魔法とウィズの爆弾攻撃で、メディアの森には楽に辿り着く事が出来た。
 錬金術師より冒険者の方が似合ってるのではないかとルーウェンは思った。
 しかし、フラムやクラフトを楽しそうにぽんぽん投げて笑っているウィズを見て
……マリー二号を見ている思いだった。
「よし、メディアの森ね。じゃあ、あたしとウィズはいつもの調合材料探すから、
ルーウェンは金貨探していいわよ」
 メディアの森到着後、マルローネがそう提案して、ルーウェンは本来の目的を思い出した。
久しぶりに見たマルローネの暴れっぷりに、忘れてしまっていた。
 とは言っても、なかなか落ちてないんだよな、とルーウェンは二人の傍をうろうろとしてみる。
「ルーウェン、手伝うよ」
 ウィズがちょこちょこやってきて、ルーウェンの傍で、ちょろちょろ探してくれている。
「いいのか、ウィズ?」
 ルーウェンは、採取を止めて手伝ってくれるウィズにそう尋ねる。ウィズはそれに苦笑した。
「お姉ちゃん、久しぶりの採取だからさ、我も忘れて採りまくってるんだよね〜」
 なんとなく想像がついてルーウェンは苦笑した。
「ねえ、金貨ってどのくらいの大きさなの?」
 そう問われて、ルーウェンは自分の財布を探り、一つの硬貨を取り出した。
「大体このくらいかな」
「わ、小さいね。ちゃんと探さなきゃ」
「うん、よろしくな」
 二人は顔を見合わせると、にっこりと笑った。

「あ〜!見つけたっ!」
 茂みの中からウィズが嬉しそうに飛び出てきて、ルーウェンに駆け寄った。
ウィズは目をきらきらさせて硬貨をルーウェンに手渡した。それは風雨にさらされてくもってはいたが、
ずっしりとした重みがあり、目的のシグザール金貨であることが分かった。
「ありがとう、ウィズ。助かったよ」
 ルーウェンの笑顔にウィズも嬉しそうに笑う。ウィズはルーウェンの笑顔が好きだった。
それが自分の発見でもたらされたと思うと嬉しくて仕方なかった。
 二人でキャンプに戻ると、マルローネはもう帰ってきていた。
「おっそ〜い、二人共っ」
 マルローネが不満げにそう言った。その様子だとしばらく待っていたらしい。
「でも、ルーウェン、感謝しなさいよね」
「へ?」
 いきなり恩を売られてルーウェンは、目が点になる。
そんなルーウェンにマルローネはきらりと光るものを見せた。
 それはシグザール金貨。
「あ!お姉ちゃんも見つけたの?僕も見つけちゃった〜!」
「あら、ウィズも見つけたんだ」
 そう言うとマルローネはくすくすと意地悪く笑う。
「一番欲しかった本人は見つからなかったんだ〜」
「わ、悪かったな!」
 やっぱり、こういう採取は錬金術師の方が優れているのかもしれない。
「まあ、良いわ。後は工房に帰って、調合してあげる。
 いつもルーウェンにはウィズがお世話になってるから、お礼は良いわよ」
 マルローネの発言にルーウェンが慌てる。
「だって、マリー、仕事沢山抱えてるんだろ?マリーが作ってくれるなら嬉しいけど、無理はさせたくないよ」
 ルーウェンの言葉にマルローネはにっこりと笑った。
「それに護身用に持っとくなら、あたしがルーウェンの作ってあげたいから」
 真面目な顔でマルローネはそう言った。
 きっとそのつもりで、今回の冒険にも出たのだろう。
 ルーウェンは大事に思ってもらっている事を感じた。
「さて、今日はマリーさん特製シチューよ。手伝ってね」
 マルローネはそう言って笑った。その笑顔にルーウェンとウィズも笑顔になったのだった。


 メディナの森から戻って数日後、マルローネは身代わり金貨の作製を行った。……じつは二枚分。
「よお、マリー。そろそろ出来たって話聞いてきたんだけど……」
 ルーウェンが明るくそう言う。それに対して、マルローネは真剣な顔でルーウェンを見た。
「あのね、これを渡す前に約束して欲しいの」
「う……うん」
 マルローネの真剣な表情にルーウェンは押される。
「いい、これ持ってるからって無茶は絶対しちゃだめ。お守り程度くらいに考えてね」
 無茶しがちなルーウェンに送る言葉はそれだった。
 いざという時は、マリーの思いを乗せて金貨が効果を発揮するのだ。
「ああ、分かった。これの世話にならないように気をつける」
「うん、約束よ」
 ルーウェンは、この身代わり金貨に沢山のマルローネの思いが膨れ上がっているのを知った。
 失くしちゃ、いけないな。
 そう思って、ルーウェンはマルローネに頭を下げる。
 精一杯、感謝の気持ちを込めて。
「ありがとな、マリー。じゃあ、俺、そろそろ行くけど……ウィズは?」
「まだ眠ってる。疲れちゃったみたい」
 そうか、とルーウェンは呟いて、何かを考えているようだった。
「んじゃあ、またの機会にするわ。ウィズに宜しく〜!」
 そう言ってルーウェンは工房から出て行った。
「……あれえ、お姉ちゃん、誰か来たの〜?」
 眠そうな目をこすりながら、ウィズが奥からふらふらと歩いて出てきた。
「あ、今、ルーウェンが来てたの」
「ええ?!ルーウェン、来てたの?!」
 心底残念そうにしているウィズにマルローネは彼の手の中に硬貨を握らせた。
「え?これ、この間の金貨と違うよ?」
 不思議そうなウィズにマルローネはにっこりと笑った。
「ルーウェンとお揃い。身代わり金貨よ」
 マルローネは遠くを見るような視線で話し始める。
「本当はね、ルーウェンの依頼、断るつもりだったの。ルーウェンが無茶しないか、それが心配で……。
だけどあたしの作ったものをお守りとして持ってくれてるならいいかな、って思ったんだ。
 ウィズのもそうよ。それ、お守りだからね?」
 マルローネはいつになく真剣だった。その言葉にウィズはこっくりと頷く。
「じゃあ、ルーウェンと僕が無事だったら、安心?」
「うん、安心だよ、心から」
「マリーお姉ちゃんはルーウェンのこと好きなんだ?」
 その妖精の何気ない言葉に、マルローネはうかつなことに赤面してしまった。
でも、それはまだ友達の延長上で、それ以上でもない。そんな関係なのだ、自分とルーウェンは。
「うん、好きよ。これからどうしたいのかは分からないけど」
「そっか。なんかよく分かんないけど、お姉ちゃんとルーウェンが仲いいと僕も嬉しいよ」
 そしてマルローネとウィズ、二人で笑いあったのだった。


終。



今度こそルーマリだ!!っていうかこの辺が限界かもしれない……;
一応、ルーマリっぽい話になりました。
クライスと比べてルーウェンでないと起こらない事は、調合ですね。
ルーウェンはマリーに頼まないと作ってもらえないので、必然的に持つ事になります。
クライスは自分で作れちゃうからね。調合品の贈り物とかは無いと思う。(あげてもマリーが材料と勘違いしそうだ)
なんかその辺が、ルーウェン好きーとしては嬉しい所なのです。

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