『再会の詩』


 飛翔亭の扉をいつものとおりマルローネは勢いよく開け、中に飛び込む。
 どんっと何かにぶつかって彼女は思いっきり当たったおでこをさすりなが
ら、ぶつかった何かを見上げて固まった。
「おっと、ごめんよ。
 って、またマリーか」
 そう言って笑ったのは……一年前、両親を探すといってザールブルグを離
れた、ルーウェンだった。
「よお、久しぶり。元気にしてたか?」
 にこにこ笑いながらルーウェンは手を振った。マルローネは言葉がすぐに
でてこない。そして、次に出てきた言葉は……
「ちょっとルーウェン、いつ帰って来たのよ?!
 っていうかこっちに来るよりあたしのところに挨拶に来なさいよ!」
「今日、着いたばかりだよ。腹減ってたし、飛翔亭に挨拶がてら行こうかな
と思って」
 凄い剣幕でまくしたてたマルローネに、ルーウェンはたじたじとしながら
そう答えた。それに、とルーウェンは続ける。
「それにマリーにはいつも飛翔亭で会うからさ」
 ルーウェンとの出会いは飛翔亭だった。そして、別れを告げられたのも飛
翔亭だった。彼との出会いも別れもいつも飛翔亭なのである。
「ついでに言うけど、マリーの足元にぺったりひっついてる妖精はなんなん
だ?」
 マルローネの足元に隠れていた妖精が、自分の事を聞かれてルーウェンの
前に出た。
「僕、ウィズ。今、マリーお姉ちゃんの所で錬金術を教えて貰ってるの」
「へえ?マリーに教わってるのか?……大丈夫なのか?」
 ルーウェンがからかうような口調でそう言って笑った。それに、マルロー
ネは慌ててルーウェンに人差し指をつきつけた。
「大丈夫に決まってるでしょ!ルーウェンは知らないかもしれないけど、あ
たし、ちゃんとアカデミー、卒業したんだから!」
「賢者の石も出来てたもんな。おめでとう。すぐに祝えなくてごめんな」
 ルーウェンの旅立ちはマルローネの試験の最後の一年の時だった。言って
から気がついたが、ルーウェンは自分が卒業した事も知らないのだ。
「じゃあ、これから祝ってもらおうかしら」
「そうだな、再会とマリーの卒業を祝って、一杯やるか」
「やったね、決まり!」
 思いのほか、すんなり提案が通ったのでマルローネは拍子抜けしたが、ル
ーウェンの笑顔が見れたので、とりあえずそれで良し、とする事にした。
 そんな二人を妖精のウィズは不思議そうに眺めていた。

「それで?ザールブルグにいつまでいるの?」
 アルコールが入り上気した顔でマルローネは、いつの間にかウィズと仲良
くなっているルーウェンに尋ねる。
「いや、まだ決めてない。当分はいるつもりだよ」
「ルーウェンって何やってるの?」
 ひょこっと顔を出してウィズが顔を出して聞いた。そんなウィズの頭をわ
しゃわしゃ撫でながら、ルーウェンは笑った。
「俺も冒険者の一人さ。護衛したり色んな場所を旅したり、色々ね」
「じゃあ、僕の冒険の時、ルーウェンに一緒に行って貰おうかな」
「ウィズも冒険するのか?」
「うん、錬金術の材料採取に」
「そっか、マリーと同じなんだな。いいよ、今度行く時は一緒に行ってやる
よ」
「やったあ、約束ね!」
 何やら、あっさりと護衛の仕事まで頼めたようである。大体の人は妖精の
護衛、というのは二の足を踏むのだがルーウェンはそういうのが無いようだ。
 ウィズは話すのを一旦止めて、目の前の卵料理に手をつける。その仕草が
料理をこぼしそうで、マルローネは注意する。
「ほら、ウィズ、こぼさないの」
「はぁい、お姉ちゃん」
 そんなマルローネとウィズのやりとりを見ていてルーウェンがくすくす笑
う。
「なんか親子みたいだな、マリーとウィズ」
「親子?やだなあ、みんなそう言うのよ。あたし、まだ結婚もしてないのに」
 ルーウェンの言葉にマリーは頬をふくらます。ウィズと居れば誰でも保護
者になりそうな気はするのだが。
「いいじゃないか、母親になる前の練習だと思えば」
「そんな練習いりませんよーだ」
 べーっと舌を出して、マルローネはむくれてみせる。
 年下のクセに生意気なのは相変わらずだ。
 そんなマルローネを見てルーウェンは笑っている。懐かしい、久しぶりの
やり取りだった。


「あ〜、食べた、食べた。おごりだと思うと余計美味しかった〜」
 工房に戻ってから、マルローネはウィズとのんびりくつろいでいた。
「お姉ちゃんとルーウェン、仲良いの?」
 ウィズにそう聞かれて、マルローネは笑った。
「うん、長いよ〜。あたしが工房始めた初心者だった時、やっぱり冒険者の
初心者だったルーウェンに会ったの。お互い初心者同士で、色んな所におっ
かなびっくりで行ったわ。
 魔王倒したり、竜倒したり、面白かったわよ」
「……お姉ちゃん達……すごいね」
 魔王倒したり〜のくだりを聞いてウィズが顔を青くする。
「あら、ウィズも倒すかもしれないわよ?」
「……それは、考えておくよ」
 笑顔のマルローネにウィズは自分が魔王と戦っている姿を想像してさらに
青くなった。
 一方のマルローネは、アルコールが入って上気した顔で、ぼんやりとして
いた。
「そっか〜、ルーウェン帰って来たんだ〜……」
「お姉ちゃん、嬉しいんだ?」
 ウィズの言葉にマルローネは照れたように笑った。
「うん、嬉しい。ルーウェンって戦友みたいなもんでさ、いつも一緒だった
から……寂しかったんだー。
 ……そっか、また一緒に居られるんだー……」
 そう言ってからマルローネは反応しなくなった。
「お姉ちゃん?」
 ウィズが覗き込むと、マルローネはすやすやと眠っている。
「もう、お姉ちゃんてばー……」
 ウィズはずるずると毛布をひっぱってきて被せた。
「さあ、僕も寝ようっと」
 そう言うとウィズも寝床についたのだった。

「よお、おはようさん。出かけるんだろ、迎えに来たぞ〜」
 翌朝、ルーウェンは工房のドアに向かって中にいる二人に声をかける。
 だが、一向に反応が無い。
 ルーウェンは扉に手をかけると、がちゃりと開いた。
「無用心だな……」
 そのまま中を覗くと、マルローネとウィズが仲良く眠っている姿があった。
「……相変わらず、だなあ」
 ルーウェンはそんな二人に苦笑したのだった。



終。


初めてのルーウェンvマリーのお話です……一応ルーマリなんです。多分。
私の中のルーウェン&マリーはこんなイメージが強いです。
GB版がお気に入りなので、GB版の設定を基にしています。
ルーウェン、体当たりしてきますから、GB版(笑)。多分、ぶつかってを再現したかったのだと思いますが(笑)。
ルーウェンって基本的にぶつかって……のエピソードですもんね。
なんというか続きが書けそうな…というか連載の1話目みたいになってますが(^^;
また挑戦してみたいと思います。はい。