世界は混沌を深めていた。
近頃は深く休んだ日も無い。最後にゆっくりと眠ったのはいつの日だろうか。

だけど、この気配はモンスターでも人狩りでも無い。
不思議な魔力のざわつき。小さくて消えそうで、それでも確かにある気配。

隣で眠る仲間達を起こさないようにそっと立ち上がる。
一人で真夜中の外に出るのは危険だとは分かっている。
それでも、この気配の正体を確かめたくて。
暗闇の中、慣れてきた目で辺りを探りながら、宿営地の外に出た。

夜空には満天の星が輝いている。
今夜は月が出ていないから、その輝きは星達の独占場だった。
星の輝きに心を奪われそうになった時、何かが走り寄り肩に飛び乗った。
ニャア。彼女は自分だと鳴いて私に伝える。
私の戦いの相棒である使い魔の猫だった。
彼女も気がついたのだろうか。
この不可思議な気配に。

私は再び、その何かを探すことにする。
いつもとどこか少し違う世界の揺らぎ。感覚。
目で探すのは難しい。この暗闇の中ならなおさら。
私は目を閉じた。

感覚を研ぎ澄ます。
感じる揺らぎ、小さな魔力、だけどそれはあまりに小さくて。

ふいに。
それは降りてきた。私の傍に。
ゆっくりと目を開ける。

目の前にあったのは小さな光。

あまりにも小さな輝き。

思わず息を呑んだ。
その光はただの光では無かった。

「……光の精霊?」

本で読んだことはあったが見たことは無い。
この世界で操れる魔法は5つの属性に基づいた魔法。
使役できる存在には光は存在しない。
しかも今は真夜中。
夜は闇の精霊の支配する時間だった。

迷子なのだろうか。
光の精霊は所在なさそうに私の前をふわふわと飛んだ。
気配に気がついて起き出した私に助けを求めたのかもしれない。

光の迷子。
まるで、今のこの世界を映すかのようなもの。
光が輝けない、この混沌とした戦乱の時代を映すかのよう。

……だけど、私には何も出来なかった。
この小さな光が何をしたいのか、どこに行きたいのか分からなかった。
道しるべは何も無い。
今の私やこの世界を生きている大半の人とそれは同じ。

困っている私の前で小さな光はふいに空へと舞い上がった。

私はその動きにそのまま目を移して息を呑んだ。

先程まで星空が輝いていた空には無数の小さな光が集まり小さな輝きを放っていた。
私の傍に居た迷子の光はその集団に喜ぶかのようにして向かっていき混ざっていった。
光の集団は迷子を見つけ、ふわりと移動を開始した。

その先には聖都がある。
多くの信者を持ち、今も光溢れる聖都が。
そこに向かって光の精霊達は移動していった。
きらきら、きらきら、夜の闇の中を輝いて。

言葉が出なかった。
出会った不思議な光景にどう表現して良いのかわからなくて。
それでも疲れきっていた胸に、力強い輝きが戻ってくるのを感じた。

混沌としたこの戦乱の世界にも光はあるのだ。
そう信じることが出来たから。



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所属しているネットゲームの組織の投稿用に考えた話です。
投稿予定。
暗闇の中にも小さな光があるのだと、そういう話を書いてみたかったのです。