『黒龍姫』 時は現代。 時空を渡る時間が切れたという事で、ゆき達の世界に来ていた。 何故か、皆の服も変わっている。 ゆき、都、瞬は元の服なのだろう。 そこでチナミは戸惑っていた。 自分の服でも十分にうろたえたのだが、もっとうろたえた人がいる。 「ん?どうした、チナミ。さっきから私の事を見ている気がするけど」 その人に指摘されて、チナミは慌てる。 「ち、違う!見てない、八雲の服なんて見てない!!」 とっても分かりやすい答えが返って来たな、と都は思う。こうだからからかいたくなってしまうのだが。 それにしても、私の服……か。 (そういえばチナミは初めて会った時に、私の服に文句をつけていたっけ。男みたいな格好だと) そんな事を思い出す。いや、別にあの姿はなりたくてなった訳ではないのだが、都としては都合のいい服ではあった。男に見られるという事は、ゆきに手を出してくる奴等の牽制になる。都が一番ゆきの傍に居やすいからだ。 (ん?となると、チナミは私の服を見てたのか?なんでまた……) チナミは何故か赤くなって慌てている。そんな姿を見ていると、都はどうしてもからかいたくなる。 「なんだ、チナミ。私の姿を見て惚れたのか?」 「だ、だ、だ、誰がお前などに惚れるものか!!た、た、ただ、その……」 予想通りの反応が返って来たのだが、なんだか最後の方はおどおどした口調になる。 「なんだ?私に言いたい事でもあるのか?」 どうもチナミの言いたい事が都には分からない。 大体、今来ている服はよく着る服だし、チナミが何を思っているのかが見当もつかない。 しかし、肝心なチナミはそれ以上の言葉に困っているらしく、続きがいつまで経っても来ない。 「おかしな奴だな。もういい。私はゆきの所に行くから」 とりあえず、チナミからこれ以上の言葉が聞きだせない事は見当がついた。都はとりあえず、いつもの彼女の居場所に行こうとする。 「ま、待て、オレも行く」 置いて行かれると困ると思ったのか、チナミが付いて来る。 だが、まあ、都にとっては特に問題はなかったので、とりあえず、そのままにしておいた。 「おおーい、都、チナミ!こっちだぜー!」 龍馬の声が聞こえてくる。どうやらみんなが集まっているようだ。声の方に駆け寄って行くと、龍馬が手を振っているのが見える。 「……おお、都」 龍馬も都の姿を見て、少しびっくりした顔になった。 なんなんだ、こいつらは。私を見て驚いて。 都が不機嫌になりかけていた所に、龍馬は笑う。 「なんだ、都、見違えたな。そっちの服の方が似合っているじゃないか。黒龍の神子様って感じだぜ」 「はあ?何言ってんだ、坂本」 「つまり、綺麗だって話さ」 にこにこと龍馬がそう言う。そう言われて、都は赤くなった。 「わ、私だって、女なんだからな。自分の服くらいは自分に似合うものを選ぶさ」 そう言って、都は先程のチナミの言動に気がついた。 目の前の龍馬は都を見て綺麗だと言ってくれた。つまり、チナミも何か思う所があったのだろう。 ぐるりと後ろを振り返る。そこにはチナミが警戒態勢を取っていた。 「……チナミ」 「な、なんだ?」 「お前、私に何か言いたいんだろう。服の事で」 「へっ?!い、いや、そ、それは……」 「怒らないから言ってみな」 「十分、怒ってるじゃないか!」 都のドスの効いた声に、チナミは泣きそうになる。 「こら、都。チナミを怯えさせるな」 龍馬が二人の間を制す。龍馬にはチナミが何が言いたかったのか見当がついていたから、怒る都を止めたかったのだ。 そう、都は怒る必要が無いのだから。 「ほら、チナミ。お前もお前だ。ちゃんと言ってやれば良いじゃないか」 「……うっ、で、でも、坂本殿……」 チナミはすがるような声で、龍馬に助けを求める。でも、それには龍馬は応えてやれない。 「都が可哀そうだろ。お前は物事をはっきり言うのが信条のはずだぜ?」 そう言われてしまっては身も蓋も無い。 「あ……う……」 「なんだ、チナミ。はっきりと言え!」 都にもせっつかれてしまう。チナミは観念するしかなかった。 「……八雲っ」 「なんだ、チナミ」 「……そっちの方が似合ってる。お前も女なんだと改めて思った」 「ん?そっち?女?……ああ、もしかして服の事か?」 都の言葉に、チナミは真っ赤になる。 そんな二人を見ていた龍馬は、軽く手を振ってその場から離れていく。 「んじゃ、お邪魔虫は退散するぜ」 「ちょっ……坂本殿!」 味方になってくれそうな人がいなくなって、チナミは余計にあたふたする。それに、都がじっと見ている。 「……まあ、褒めてくれたんだし、いくらかひっかかるが勘弁してやるか」 都がそう言って肩をすくめる。これ以上の追及はしないようだ。 「……な、なんで、その……こっちとオレ達の世界で正反対な服を着てるんだ?」 チナミは思い切って疑問をぶつけてみる。だが、都は困った顔をした。 「いや、あっちの世界の服は私が選んだ訳じゃないしな。まあ、女だとみくびられたくなかったのかもな」 「……トンファーを使う女は普通はいない」 「悪かったな。あれが一番性に合うんだよ。まあ、武器を扱うにはあの恰好が一番無難かもな」 確かに武器を振るうには、向こうの服の方が楽なのは確かだ。そもそも、この服は戦うための服でも無い。 「……お前、こっちではそういう恰好が普通なのか?」 「ああ、これでも私はおしゃれなんでね」 都がそう言って笑う。その言葉は本当なんだろう。 都の本当の姿はこちらの世界にある。 こうやって女性らしい服を着ているのが本当の都なのだ。 なんだかそう思うとチナミはどきどきしてくる。何故、そうなるのかは分からない。だけど、都の事を知れた気がした。 そんなチナミに都は耳をつねる。 「なに、赤くなってるんだ?本当に、私に惚れたか?」 「ち、ち、違う!その手を離せ!」 「はいはい、お子様には私の魅力は分からなくて当然か」 「……子供じゃない」 「じゃあ、何?やっぱり、惚れた?」 「ち、ち、違うって言ってるだろ!」 「その割には、顔が赤いけどな」 「き、きのせいだ!」 そんなやりとりを繰り返す。いつもと同じだ。それが何だか楽しくて都は微笑む。 「そういう事にしてあげる。じゃあ、ゆきの所に行くぞ」 都はそう言うと、走ってゆき達の元に向かう。置いて行かれたチナミは顔を赤くしたままだった。 心臓がどきどきする。 「い、今のは、卑怯だ!」 自分でも分からない感情にどきどきしながら、チナミはそう叫んだのだった。 終 ********************************************* チナミv都単体初です! 龍馬さんは出したかっただけです、はい。 なんか、こんな感じでからかわれながら進展していったらいいなーとか思います。 |