『HEAL YOU』 それは、下校時の事だった。 「あかね」 名前を呼ばれて、振り返ると、蘭が手を振っていた。 「あ、蘭。どうしたの?」 「うん、ちょっとね。 今度の土曜日、あいてる?」 「今度の土曜日? うん、あいてる。大丈夫だよ? どうしたの?なにかあるの?」 「うん、うち、ちょうど親が出かけることになってね、詩紋くんも誘って、お兄ちゃんと4人で遊ぼうかなって思って声かけたんだ」 蘭は、明るい笑顔で、あかねに笑いかける。 蘭は随分回復していた。 黒龍の神子として出会った彼女はアクラムの操り人形だった。それでも、白龍の神子であるあかねと共鳴していた。 蘭を救えたのは、結局、あかねが白龍を召喚して、京から現代に無事に帰りついた時だった。 蘭は2年も拘束されていて、肉体的にも精神的にも弱っていた。 そんな蘭に、天真はずっとついていた。 どうしていいのかは、天真もあかねも分からなかったけれど、日々触れ合う事で彼女はだんだん笑顔を取り戻した。 今はあかねや天真の一つ下の学年、詩紋と同じクラスにいて、4人で集まる事が多くなった。 あかねは蘭と仲良くなりたかった。 京で何もできなかったけれど共鳴して出会う事が出来た。蘭はあかねに会いに来てくれた。 ……それだけで、あかねは嬉しかった。 だから、今は、こうして二人で並んで下校しながら、お喋り出来る、それは、幸せな事だった。 「うん、遊ぼう!天真くん……蘭の家で遊ぶんだ?」 「この間、面白いボードゲーム買ったの。4人でやればきっと面白いと思うの」 「へえ? なんかボードゲームなんて久しぶりな気がするな。 えへへ、楽しみ」 「うん、楽しみにしてて」 蘭の言葉にあかねは笑う。 蘭が笑う。 あかねは、それが嬉しい。 ……そして、天真も嬉しいはずだ。 彼の傷は癒えたのだろうか。 きっと蘭が笑う度に癒えているはずだ。 ……そう、きっと。 それが、あかねの願いでもあった。 蘭を助けられなかった事は天真にとって大きな傷だった。 ……それに、まだ、何か別のものを彼は抱えているように感じた。 あかねは、なんとなく気付いている。 彼が抱えていたものは蘭だけではなかったことを。 でも、それはもう、関係ないはずだ。 京から帰ってきて、もう、あかねと天真は神子と八葉ではなくなったのだから。 だから……もう、解決したはずなのだ。 あかねは天真の想いを痛いほど知っていたし、それにあかねは応えた。 あかねもまた、天真をどのくらい大切に想っていることに気がついたからだ。 あかねにとって天真は大切な人だ。 それはきっと一生変わらない。 ……天真がいたから頑張れたのだ。天真がいたから、あかねは強くなれたのだ。 「あかね?」 蘭の声が聞こえる。その声で、自分がぼんやりとしていたことに気がついた。 「あ、ごめん。ちょっと、ぼーっとしてた」 「もう、土曜日の事、忘れないでよ? 私、ここから道が違うから。またね」 蘭は微笑むと、あかねとは違う道へと歩いて行った。 天真くんの家か。 きっと4人なら、いつもどおりきっと賑やかで楽しいに違いない。 ……そういえば、天真くんと二人になった事、最近ないな。 あかねは、ふと、その事を思い出す。 ……一応、両想いのはずなんだけどな。 そう思って、あかねはため息をついた。 あかねも天真も戻ってきてから、蘭のことでばたばたしていて、二人の時間とか、あまり考えた事がなかった。 蘭が笑ってくれる事が、あかねにとっても天真にとっても、嬉しい事だったから。 だから、あんまり二人だけの事は少なかったように思う。 ……もしかしたら、京の時の方が一緒にいたかもしれない。 でも、二人きりは……。 そう考えて、あかねは真っ赤になる。 天真を意識したのは、あかねの方が後だった。 天真の好意に気がついて……あかねは、自分の中の天真の大きさに気がついた。 京の時は、傍に天真がいることが、とても大きくて安心できた。 今は……どう振る舞えば良いのだろう? 大丈夫、私は私。変らないのだから。 そう自分に言い聞かせて、あかねは高鳴る胸を抑えた。 考えてみれば、恋人らしいことは、あんまりしていないのかもしれない。 あ、でも。 絶対バイクに乗せないって言ってたのに、乗せてくれたっけ。 ……私、何もしてない気がするな。 またため息がでる。 京の時からそうだ。 何かある時は天真が傍にいてくれた。 天真はいつも、あかねの事を想ってくれた。守ってくれた。 なのに、私、なにもしてない。 「……駄目だな、私。 私、天真くんに何が出来るんだろう」 そう呟いて、自己嫌悪に陥る。 「駄目駄目!こんなことで落ち込んでいたら天真くんに怒られちゃうよ」 天真は一本気だ。何事においても、なんでも真っ直ぐに進んで行く人だ。 だから、惹かれたのだ。 天真のように、真っ直ぐなりたかった。 こんな気持ちじゃ駄目。 きっと、なにかあるはずなのだ。 あかねが天真に出来ることが。 「……うん、大丈夫。大丈夫」 それに、土曜日があるんだし。 あかねはそんな事を考えながら、家路についたのだった。 そして、その土曜日。 天真の家にあかねと詩紋が遊びに行って……それは起きた。 「じゃあね、あかねちゃん、天真先輩」 「お兄ちゃん、あかね、私達、席外すから、たまには二人っきりで、ね?」 詩紋と蘭は、にこやかに、あかねと天真を置いて出て行ってしまったのだ。 「……あいつら、変に気をまわして」 天真が不機嫌そうに呟いてから、頭を抱えている。 あかねはあかねで、どうしたらいいか分からなくて、おたおたしていた。 きょ、京で二人だけの時はこんなにどきどきしなかったのに。 そう思ってから、なんだか、頭がぐらぐらしてしまった。 うつむき、頭を抱えていた天真が、そんなあかねを見て、ため息をついた。 「あのな、そんなに取りみだすな。 別に、とって食う訳じゃねえんだからさ」 「え、ええ?!」 天真の言葉の意味に気がついて、あかねは真っ赤になってしまった。 そうだ。家の中に二人っきりなのだ。 ……二人だけなのだ。 「だーかーらー、とって食うんじゃねえって言ってるだろ」 とびきり不機嫌そうな天真の声に、あかねは我に返る。 「……えっと」 「なんだ、あかね?」 天真の顔色をうかがいながら、あかねは、ぽんと手を叩いた。 「えっと、じゃあ、予定通り、ボードゲームをしようよ!」 「二人でか?」 天真の突っ込みに、あかねはどきっとする。なんだか天真の反応が怖い。 「じゃ、じゃあ、オセロとか」 「オセロ?」 「あ、あとチェスとか!」 「チェス?ルール分かるのかよ、お前」 「ちょ、ちょっとだけなら」 あかねの反応に、天真はこの状況を分かっているのか分かっていないのか、いまいちよく分からない。 まあ、言った通り、とって食うつもりはないのだが。 大体、そういうのは合意の上で、だろ? 天真からすれば、あかねはいまいち、誰が好きなのかが分からない所があった。 実際、八葉という男8人に囲まれていても、あかねはなんというか、特に恋愛感情を抱いているような様子も無く、むしろ天真の方が、あかねを意識する結果になった。 あかねは自分の想いに応えてくれたけれど、本当にそれがどういうことなのか、本当に分かっているのかが、どうも良く分からないのだ。 「んじゃ、簡単な所でオセロにでもするか?」 「あ、うん。そうしよう」 あかねの同意もとれたので、天真はオセロを持ってきてあかねの前に広げた。 「なんか、ただ、勝負するだけじゃ、面白くないな」 「あ、そうだね。罰ゲームとか決める?」 「……二人しかいないのに、罰ゲームってどうなんだ?」 あかねの提案はなんだか4人でいる時と変わらない。 さっき、慌ててたのは気のせいか? 天真はそんな事を思ったが、あかねは基本的に鈍感なので、はっきりとした確信が得られない。 「まあ、なんか適当に話しながらでいいんじゃないか?」 「あ、うん。そうだね。そうしようか」 あかねが頷く。 ぱちり。 学校はどうだ、とか、蘭の話とか、ゆるやかに会話が流れていく。 ぱちり。 「……そういえば、京のみんな、元気かなあ?」 なにげなく、あかねはその言葉を口にする。 最初は何が何だか分からなかったが、今ではあかねにとっても天真にとっても大切な思い出でもある。 「そうだな。あかねが解決したんだから、みんな、また元の生活に戻ってるんだろうな」 ぱちり。 「ん……、そうかな?藤姫とか寂しがってないかな?」 ぱちり。 「あの歳で、しっかりした姫だったからな。今も頑張ってるんじゃないか?」 ぱちり。 「うん。友雅さんもついてるしね」 ぱちり。 「友雅〜?藤姫があんな奴にひっかかるとは思えないけどな」 ぱちり。 「うーん、そうかなあ?お似合いかな、とかも思うんだけど」 ぱちり。 「思うな、思うな」 ぱちり。 「でも、天真くん、いっつも出歩いてたから、京の人達の知り合いっていっぱいいるんじゃないの?」 「ん、ああ、まあな。 俺、意外とどんな所でも適応できるみたいだな」 ぱちり。 「……寂しくない?」 ぱちり。 「……あかねは寂しいのか?」 ぱちり。 「うん、ちょっとだけ。せっかく仲良くなれたのに、残念だなって思って」 ぱちり。 「まあな、確かにそれはそうだけどな」 ぱちり。 「うん。蘭にも出会えたし、私は結構良い思い出、かな」 ぱちり。 「……ああ、まさかあんな所に蘭がいるとはな。あそこじゃいくら探しても見つからない訳だ」 ぱちり。 「……ってことで、ここは全部ひっくり返して、と」 「あ、ああ!いつの間に?!」 盤面が天真の白に変っていく。さっきまでは、確かに良い勝負をしていたはずなのに。 「お前が、別の事に気を取られてるからだよ」 「そ、そんなことないよ!ね、ね、もう一回!」 「駄目。やる気削がれたから」 「え?なんで?」 あかねは不思議そうな顔をする。 そんなあかねに天真は苦笑する。 「……蘭の事、不覚にも忘れていた頃があったからな」 「あ……」 あかねは口をつぐんで、俯く。 そうか、天真の中では蘭の事は、今も大きな傷なのだ。 ……蘭が回復しても、未だなお。 兄弟のいないあかねには分からないその気持ち。 「ご…ごめんなさい」 謝るあかねに天真は苦笑する。 「謝る必要なんてないって。 蘭だけじゃなく、あかねにも何もしてやれなかった。 ……俺が弱かったから」 天真の顔が曇っていく。 「そ、そんなことないよ! 私、天真くんがいるだけで、随分救われたんだよ!」 慌ててフォローするあかねに天真は苦笑する。 「……俺はさ、単純にお前と蘭を守る力が欲しかった。だから、頼久に剣術も教わったし、京の中で、何が出来るか考えてた。 ……だけど、鬼の力ってのは凄いんだな。結局、俺は何にも出来なかったし、あかね一人に任せちまった。 ……本当、情けねえよ」 「そ、そんなことっ」 反論しようとするあかねに、天真は重ねるように、言葉を塞ぐ。 「お前が全部解決したんだよ」 天真の言葉は反論を許さないような言い方で、あかねは何も言えなくなってしまった。 「……俺、龍神の神子だの、八葉だの言われて、意味が分かんなかったけど、あかねがいたから、俺達八葉は戦えたし、あの強い力を持つ鬼とも対峙できた。 ……蘭だって、お前のおかげで救われたんだ。 ……お前がどう思ってるのかは知らないけど、それが現実だ」 天真はそう言って苦笑した。 ……それは、前に見た表情だった。 『自分だけが幸せになっちゃいけない』 そう言った、天真の事を思い出す。 ……今も……今も天真は縛られているのだ。 蘭の事も八葉の事も。 そして、あかねの事も。 あかねは自然に身体が動くのを感じた。 天真の表情はどこか泣いているようにも見えた。 それは、前にも見た顔。 ……そして、その時と同じように、あかねは天真の傍に寄ると、天真を包み込むように抱いた。 それに天真は驚いたようだったが、振り払う事はしなかった。 「……ねえ、天真くん」 囁くようなあかねの言葉は優しく天真を包み込む。 「天真くんは知らないでしょう? どうして私が龍神を呼べたか」 あかねは腕の力を少し強くして、天真を抱きしめる。 「私ね、なんで頑張れたと思う? ……天真くんを護りたかったの。 私の事、いつも支えてくれた天真くんを護りたかったの。 京を護るとか、そういうことじゃなくて、誰よりも天真くんを護りたかった」 そこまで言って、あかねはくすりと笑う。 「だって、私、天真くんの事が好きなんだもの。 使命とか、そんなのじゃなくて、本当に……いつも私を護ってくれる天真くんを、私が護りたかったの」 「な、なにいってんだよ?」 天真の声は驚きが入り混じっていた。 だけど、そんな事は、あかねには関係がない。 「私がね、頑張れたのは……天真くんがいつも傍にいてくれたからなんだよ。 天真くんが、傍にいてくれる。それって、私にとっては、とても大切な事だったんだ」 あかねはそう言って微笑んだ。 「私、天真くんの心の傷……ずっと癒してあげたかった。何か力になりたかったの」 そう言って、あかねは天真に微笑む。 「……だから、天真くんの事、抱きしめてあげたい」 そう言った、あかねの顔は赤くなっていた。天真もその言葉の意味に気がついて赤くなる。 「な、なに言ってんだよ、あかね。 蘭や詩紋の変な気の回しように付き合う必要なんてないんだぜ」 慌てる天真に、あかねは微笑む。 「うん、そうだね。 だけど……私、それしか天真くんの傷を癒す方法が分からないの」 「だ、だからっ、お前が無理してそんな事しなくたっていいんだっ」 天真の方が慌てているのに、あかねはふっと笑った。 天真くん、やっぱり優しいな。 あかねはそう思った。 別に、あかねは元々そういう気を起した訳ではない。 ただ、まだ、傷が癒えない天真を抱きしめたい。それだけだった。 本当はこういう方法は間違っているのかもしれない。 こんな事で、人の傷が癒えたりなんてしないのかもしれない。 ……それでも構わない。 少しでも天真の傷を癒す事が出来るなら、なにをしても構わない。 いつも天真はあかねを支えてくれた。 だから、今度はあかねが天真を支えるのだ。 ……大切な、大切な人だから。 だから……せめて心ごと抱きしめたい。抱きしめてあげたい。 少しでも傷が癒えるように、少しでも悲しい顔をしないように。 ……少しでも、彼が泣いたりしないように。 「……なあ、あかね」 天真は見下ろしているあかねに声をかける。 「なあに、天真くん」 あかねは笑顔でそうかえす。 「……やっぱりさ、逆じゃねえ?」 天真の言葉通りの状況だった。 あかねはベッドの上に天真を押し倒し、上から天真の顔を見てくすくすと笑っている。 「だって、天真くんを抱きしめるのは私なんだもん」 あかねはちょっと小悪魔っぽく笑う。 それを見て、天真はため息をついた。 「……なんか、俺、いつもあかねのペースにのってるみたいだ。 惚れた弱みっていうかなんて言うか」 「ふふ、いいでしょう?たまにはこういうのも」 「たまにもなにもねえ。初めてだろ、俺達」 「うん、そうだね」 天真の言葉にもおくすることなく、あかねはにこにこ笑っている。 完全に頭があがらないことを、天真は改めて実感する。 あかねって、こんなに積極的だっただろうか? いや、そうではない。そんなことはなかった。 なのに今日のあかねはどうなっているんだ? 天真の疑問はつきない。 にこにこ笑っていたあかねだが、少し困った表情に変わる。 「……どうしよう、困ったな」 「どうしようって、どういうことだよ」 天真の言葉に、あかねは苦笑する。 「考えたら、私、そういう知識、無かったから、どうするばいいのか分からなくて」 その言葉に天真も苦笑する。 やっぱり、あかねはあかねだ。 「俺だってよく分かんねえよ。 だから言ったろ、無理すんなって」 「だって〜、私、天真くんのこと、抱きしめたかったんだもん 本当に、本当だよ?」 「分かった、分かった。 ……だったら、さ」 天真はあかねの腕をぐいっと引っ張る。 「わ、きゃあ、な、なに、天真くん?」 「なに、じゃないだろ」 腕を引っ張られて、あかねは天真の上に倒れこむ。それを天真が受け止めた。 「あ、あのね、そうじゃなくて……」 「……だから、とって食わねえって言ったろ?」 赤面するあかねに天真は苦笑する。 天真の両手があかねを抱きしめる。 「別にこれでもいいだろ?」 「……あ、うん。 そうだね、天真くん抱きしめるのには変わらないもんね」 あかねも天真の背に手を伸ばして、そのまま抱きしめる。 お互いの体温を感じて、なんだか優しい気持ちになる。 「……ねえ、天真くん」 「ん?どうした、あかね」 あかねは腕の力をもう少し強くする。 「……天真くんに、私の気持ちが伝わればいいな」 「……なんだよ、それ」 あかねはくすりと笑う。 「私が天真くんのこと、大好きだっていうこと」 あかねの言葉に、天真もふっと笑う。 そして、あかねの髪をそっとなでた。 「……伝わってる。 ありがとな、あかね」 天真は正直な気持ちを伝える。 今なら分かる。あかねの気持ちが。 「ありがとう、天真くん」 二人はしばらくの間、そうして抱きしめあっていた。 互いの体温が伝わり、それが、心を温かくした。 「え?何?進展しなかったの?」 戻って来た蘭が、驚いたように、そう言った。 蘭と詩紋が戻って来た時、あかねと天真は、オセロをして遊んでいたからだ。 「なんの進展だ、なんの」 天真が不機嫌そうにそう言う。 蘭はあかねの傍に寄って、こそっと耳打ちする。 「ねえ、本当に何もなかったの?」 「なにって、なにが?」 とぼけてあかねは答える。 その、とぼけた回答が気に入らないと言わんばかりに、蘭は大きくかぶりをふった。 「せっかく二人っきりにしてあげたのに、お兄ちゃん、何にもしなかったんだ。つまんないの」 蘭の言葉にあかねは視線をそらす。 何かしようとしたのは、私の方なんだよね。 そう思ってあかねは赤くなる。 今、考えるとかなり恥ずかしい。 あかねの顔色を見て、蘭は興味津津といった顔で、あかねにささやく。 「なに?やっぱり、なにかあったの?」 その言葉に、あかねはとぼける。 「ううん、なんにもないよ? 天真くんとゲームしてただけだもん」 「本当に、本当?」 「本当に、本当」 「……もう、なんのために気を使ったと思ってるのよ」 蘭ががっかりした顔をした。 それを見て、あかねは本当の事を言おうかと一瞬思ったが、天真の顔を見て止めた。 天真の顔は明らかに、何も言うな、という顔をしていたからだ。 でも、あかねの中には天真の温かいぬくもりが、まだ残っているようだった。 まだ、あかねにはちゃんと天真の心の傷を癒す事は出来ないのかもしれない。 その方法が分からないのかもしれない。 それでも構わなかった。 今は今。それでいいじゃないか。 きっとその時は、いずれ訪れるのだろう。 そう、きっと、ごく自然に。 そう思ったら、自然に笑ってしまう、あかねだった。 ************************************* 再録になります。 「あかねが天真を抱きしめる」がテーマのお話でした。 年齢制限つけるか凄く悩んだ覚えがあります……。でもこの二人はそんなのはまだまだ先さ!とか思って、こんな形になりました。 基本、この二人って天真→あかねだと思うんですけど、実は遥かは神子→地青龍しか書けない人なので、私が書くと、あかね→天真が出来上がるという不思議。 天あか大好きですvv いずれ、また新規で書きたいです。 |