キューピット・フェアリー
「よお、マリー」
買い物を済ませ、工房へ帰ろうと職人通りを歩いていて、
マルローネはなじみの人物から声を掛けられた。
「あ、ルーウェン。どうしたの？」
「今からそっちに行く所だったんだ。ちょうど良かったよ」
「何か頼みごと？」
いつものことを尋ねると、苦笑いしながら彼はうなずいた。
「アルテナの水が四つ欲しいんだ。また冒険に出るからさ」
「分かったわ。今在庫あったはずだから取りに来る？」
「ああ」
と、言うわけでマルローネはルーウェンと二人で工房に戻る。
「ただいま〜！」
「お姉ちゃん、お帰りなさ〜い！」
出迎えてくれたのは、今長老の頼みで面倒を見ている妖精のポプル。
「あれ？ ルーウェンお兄ちゃんも一緒なんだ」
「よお。ちょっと頼みごとがあってな」
そう二人が話しているうちに、マルローネがアルテナの水を四つ、抱えて戻って来る。
「はい、ルーウェン」
「ありがとう、マリー。これ代金な」
チャリチャリと、ルーウェンは銀貨を彼女に渡す。
「あんまり無理しないでね」
「分かってるって。じゃな！」
ピッ、と片目を瞑ってルーウェンは工房を出て行く。
それをいつまでも見送るマルローネに、ポプルは聞いた。
「ねえ、お姉ちゃん。お姉ちゃんってルーウェンお兄ちゃんのこと好きなの？」
「！！！」
いきなりの言葉にボンッ、と顔が赤くなるマルローネ。
「ちょ、ちょっと！ なんでいきなりそんなこと！」
「だってさ、お姉ちゃんってお兄ちゃんと仲がいいから」
「ま、まあ…卒業試験のよしみもあるし…仲はいいけど…」
憮然としながらマルローネは否定するが、赤い顔は隠せない。
もう隠してもしょうがないかなと思ったマルローネは打ち明けた。
「…ここだけの話…好きよ」
「やっぱり！」
「でも、あたしの片想いよ。ルーウェンは、夢があるから。
その夢を邪魔しちゃいけないわ」
「えー」
ポプルは頬を膨らませる。
大好きな「お姉ちゃん」が、想いを叶えられないのは嫌だと思った。
ポプルは「お兄ちゃん」も好きである。
二人が幸せになってくれれば良いなと思った。
「分かった！」
「へ？」
大きな声を出したポプルに、マルローネははてと首を傾げる。
するととんでもないことをこの妖精は言った。
「お姉ちゃんとお兄ちゃんを幸せにする！」
「ちょっと…ポプル？」
「そうと決まれば行動！ お姉ちゃん、出かけてくるね！！」
「あ、ポプル！？」
マルローネが止めるのも聞かずに、ポプルは工房を出て行った。
「お兄ちゃん！」
「？ ポプルじゃないか。どうしたんだ？」
飛翔亭を訪れたポプルに、ルーウェンは首を傾げる。
「マリーのお使いか？」
「違うよ、お兄ちゃんに聞きたいことがあるんだ！」
「は？」
さらに首を傾げる。
「ちょっと来て！」
「あ、おい！」
ブーツを引っ張るポプルに、ルーウェンは仕方なくついて行った。
来た場所は広場であった。
「お兄ちゃん」
「なんだよ」
神妙な面むちの妖精に本当に何なのだろうと思う。
だが、次の言葉は本当に予想外だった。
「――お兄ちゃん、マリーお姉ちゃんのこと好き？」
沈黙と硬直。
しばし、ルーウェンは動けなかった。
「ねえ、どうなの！？」
「…ち、ちょっと待てよ。なんでそんなこと聞くんだ！？」
ようやく我に返ったルーウェンが逆に尋ねる。
真剣な顔でポプルはこれに答える。
「大切な問題なんだよ！ 僕はお兄ちゃんも、お姉ちゃんも好きだもん！
だから二人には、幸せになってもらいたいんだよ！！」
「……」
大声で臆面もなく言うポプルには、呆気にとられる。
しかも、恋愛事だ。
どう、応えるべきか。
この小さな妖精（年齢はかなり上）が、必死な顔をしている。
それには…。
「分かった分かった。俺がマリーのことをどう想っているか話せばいいんだろう？」
「うん！」
「内緒にしておいてくれよ」
「うん！」
うなずいた妖精を認めて、ルーウェンは小声だが、はっきりと言った。
「…俺は、マリーが好きだ」
「！！！」
衝撃の言葉に、ポプルは驚きの顔を見せた。そしてすぐに言葉を紡いだ。
「じゃあ、どうしてお姉ちゃんに好きって言わないの？」
「そりゃ…マリーには、夢があるから。
立派な錬金術師になりたいって夢を、邪魔しちゃいけないだろ？」
「でもそんなの僕イヤだよ！」
ポプルは釈然としなかった。
どうして好きなのに言わないんだろうと。
好きなら好きだとはっきりと伝えて、幸せでいたいと思うのが普通だろうと考えている。
素直な性格の彼らしかった。
「だから、僕頑張る！」
「は？ 何を」
「お兄ちゃんがお姉ちゃんに「好き」って言えるようにする！」
「は！？」
突拍子もない台詞に、目が点になった。
「だからお兄ちゃん！ しばらくの辛抱だからね！！」
「おい、ポプル…？ 余計なお世話だって…」
ルーウェンの抗議の声も聞こえていない。
自分が縁結びの天使になろうと、ポプルは必死に闘志を燃やしていた。
キンッ！ カシィン！
「やあっ！」
「せいっ！」
剣戟の音が妖精の木広場に響く。
半月に一度、ルーウェンはポプルに剣術を教えていた。
身長が圧倒的に違うので多少手加減しながらになっているが。
やがて、ルーウェンの一撃が、ポプルの剣を弾き飛ばした。
「今日は、終わりだな」
「う〜〜〜〜」
恨めしそうに彼を見るポプル。
「でも、剣術は上達してきてるからさ。大丈夫だって」
ポン、としゃがんでから軽く頭を叩いた。
「良かったじゃない、ポプル。頑張ればルーウェンに勝てるかもよ？」
「ちょっと待ってくれよ、マリー。妖精に負けるのだけは勘弁してくれよ」
マルローネの台詞に苦笑するルーウェン。ポプルはへへ、と笑った。
「…あら？ ずいぶん空が暗いわね…」
ふと空を見上げたマルローネはどんよりと雲がかかっているのを見た。
これでは雨になりそうだ。
「こりゃ雨降りそうだな…」
ルーウェンも同じことを考えていたらしく、呟いた。
傘は誰も持っていない。
これは早めに解散すべきかと思った刹那――。
ポタッ。ポタッ。
予想よりも早く、雨が降り出してきた。
「やばいな、本当に降って来やがったな。傘もないし、そこで雨宿りするか？」
ルーウェンが指したのは、妖精の木。
うんとうなずくと３人はそこで雨宿りをすることにした。
雨は激しくなり、一向に止む気配はない。
ふと、ポプルは思った。
これは、絶好のチャンスと。
思うと行動は早かった。
「お兄ちゃん、お姉ちゃん！ 僕が急いで傘を取りに行って来るよ！」
「えっ、ポプル！？」
言うが早いか、ポプルは傘を取りに走っていってしまった。
二人が取り残される。
「全く、ポプルの奴…」
はあ、とため息をつくルーウェン。
「もう。あの子が風邪引いたらどうするのよねぇ」
マルローネの言葉はまるで母親だ。
見た目にはあんなに小さい子供を一人前にと育てているのだから、
そうなってしまうのも仕方ないのかもしれない。
……ザアァァァ……。
雨の音が激しくなる。
一向にポプルは来ない。それもそのはずで突然の状況を利用した作戦なのだから。
それをルーウェンは分かっていた。
この二人きりと言う状況。
どうにかしたいなと思う気持ち、チャンスだと思う気持ちがせめぎあう。
沈黙ばかりが過ぎて、思いは募っていく。
「…ねえ、ルーウェン」
ふと――マルローネが声を掛けた。
驚きつつも彼は返した。
「どうしたんだ？」
「いつ――またザールブルグを出るの？」
突然の問いだった。
確かに、一度離れたとはいえ今はまた両親を探すために、ここに留まっている。
また旅に出ることもあるだろう。
でもそれがいつかは答えられない。だから素直に彼は言った。
「いや、分からない。情報次第だな…」
「…そっか」
聞いたマルローネはあっさりしていた。前の別れで、いつか離れる事を思い知ったからだろうか。
しかし彼女は言った。
「ルーウェン。だったらまたここにいる間はいろいろ手伝ってよ。
…あの子の成長を見守って欲しいし…あたしも、一緒にいたいから」
「…マリー」
一緒にいたい。
自分も同じ思いだ。同じでいてくれたことは、嬉しかった。
「俺もだ。また離れなきゃいけないだろうけど…それまでは俺、またあんたたちの手伝いをするよ。
あいつと、マリーを見守っていたい」
それはマルローネの顔を赤くさせた。
驚きと照れで、あたふたする。
「ちょ、ちょ、ルーウェン…」
「いいじゃないか。俺…マリーと出来るだけいたいんだ。
前にザールブルグにいた時がかけがえの無い時だったのはマリーのおかげなんだからさ」
「…あたしも、あの卒業試験はかけがえの無い時間だったな」
いろいろな事のあった五年間。親友を失う危機もあり、出会いもあり、別れもあり。
一番別れが辛かったのは、あの時で…。
「ルーウェンが、気がつけば一番手伝ってくれたよね。
一番傍に…いてくれたよね」
「…そう…かもな」
「離れるまで、一緒にいてくれる？」
断る理由なぞ無い。
「ああ。マリーと、一緒にいるよ」
おもむろに手をつなぐ二人。
その温もりは何よりも温かかった。
ポプルが傘を持ってこっそり様子を見る。
「うん。お兄ちゃんとお姉ちゃん、うまくいったね！」
幸せそうな二人に満足して、木の下へと傘を片手に駆けていく。
妖精は天使と同一視される事がある。
本当に、縁結びの天使に彼はなったのだった。
月奈さんのサイトでキリ番を踏んで書いていただきましたｖ
本当はウィルレベ好き〜で知り合ったのですが……なんとサイトにはルーマリが！！
私、ルーマリ大好きなんですよ！！活動したいくらいなんですって！！
月奈さんのコメント見て、ＧＢ版マリアトまで買ってしまいましたもの（笑）。
そのＧＢ版が良いんですわ〜、ルーマリストには幸せな一品で！！
なので、ＧＢ版のルーマリ小説をお願いしてしまいましたｖ
素敵なルーマリ小説ありがとうございましたｖｖ
……私もルーマリ小説書こうかしらと思っております。月奈さんの影響受けて。